
先に結論:癒着胎盤(placenta accreta spectrum:PAS)のMRIは「超音波の補助」で、7つの所見を見る
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 何か | 胎盤絨毛が子宮筋層に異常に付着・侵入する病態の総称(accreta/increta/percreta) |
| 主な背景 | 帝王切開の既往、前置胎盤。帝王切開率の上昇とともに増加 |
| 第一の画像検査 | 超音波。MRIは超音波で判断に迷うとき、侵入の範囲・深さを手術前に把握したいときに追加 |
| MRIで見る所見 | SAR-ESUR合意(2020年)の推奨7所見(下表) |
| 確定 | 分娩時の臨床所見と病理所見の組み合わせ(FIGO分類 2019年) |
癒着胎盤(placenta accreta spectrum)とは
胎盤絨毛が脱落膜を越えて子宮筋層に付着・侵入する状態の総称で、現在は「placenta accreta spectrum(PAS) disorders」とまとめて呼ばれます。母体の出血・合併症の大きな原因で、帝王切開率の上昇に伴って増えています(Patel-Lippmann 2023)。
診断の中心は妊娠中期の超音波で、MRIは超音波で判断がつかないときや、重症例で筋層侵入の範囲・位置(topography)を手術前に評価するときに補助的に用いられます(Patel-Lippmann 2023, Jha 2020)。
最終的な診断は、分娩時の臨床所見と病理所見を組み合わせて行います。分娩時の臨床分類として国際産婦人科連合(FIGO)が2019年に分類を示しています(Jauniaux 2019)。
FIGO分類(2019年):分娩時の臨床診断
| Grade | 病態 | おもな特徴 |
|---|---|---|
| Grade 1 | 異常付着(adherent:placenta creta) | 胎盤が自然に剥がれず、筋層への侵入を示す膨隆などの肉眼所見に乏しい |
| Grade 2 | 異常侵入(increta) | 胎盤床の子宮表面の膨隆・色調変化があるが、漿膜を越える胎盤組織はない |
| Grade 3 | 異常侵入(percreta) | 漿膜を越える。3a:子宮漿膜まで、3b:膀胱へ侵入、3c:広間膜・腟壁・骨盤側壁など他の骨盤臓器へ侵入 |
この分類は、付着型(adherent)と侵入型(invasive)を分けて記録をそろえ、疫学データの精度を上げることを目的としています(Jauniaux 2019)。病理側の分類と報告の推奨も専門家パネルから示されています(Hecht 2020)。
MRIでどう見えるか:SAR-ESUR合意の推奨7所見
米国腹部放射線学会(SAR)と欧州泌尿生殖器放射線学会(ESUR)は2020年に合意声明を出し、撮像・読影・報告の標準化を提案しました。専門家の80%以上の合意を「recommended」とし、PASの診断に次の7所見が推奨されています(Jha 2020)。
| 所見 | 見え方のポイント |
|---|---|
| ① 胎盤内T2低信号帯(intraplacental dark T2 bands) | T2強調像で胎盤内を走る帯状・結節状の低信号 |
| ② 子宮/胎盤の膨隆(uterine/placental bulge) | 胎盤床で子宮の輪郭が外へ張り出す |
| ③ 胎盤後方のT2低信号線の消失(loss of low T2 retroplacental line) | 胎盤と筋層の間の低信号線がとぎれる |
| ④ 筋層の菲薄化・断裂(myometrial thinning/disruption) | 胎盤床の筋層が薄い、または追えない |
| ⑤ 膀胱壁の断裂(bladder wall interruption) | 膀胱壁の低信号がとぎれる(膀胱への侵入を示唆) |
| ⑥ 子宮外へ突出する胎盤腫瘤(focal exophytic placental mass) | 胎盤組織が子宮の外へ突出 |
| ⑦ 胎盤床の異常血管(abnormal vasculature of the placental bed) | 胎盤床・子宮膀胱間などの拡張・蛇行した血管 |
①〜④は「胎盤が筋層に入り込んでいるか」、⑤〜⑦は「子宮の外(膀胱・骨盤内)まで及んでいるか」を見る所見と整理すると読影しやすくなります。合意声明では、PASに合わせた撮像プロトコールと標準化した報告の使用も推奨されています(Jha 2020)。Radiographicsには7所見の画像解説があります(Patel-Lippmann 2023)。
正常の子宮筋層や子宮の層構造は子宮体部の正常解剖とMRIも参考にしてください。
症例 30歳代女性 癒着胎盤(帝王切開2回の既往)

引用:Radiopaedia(Placenta accreta)
子宮下部(膀胱のすぐ上)の胎盤が厚く、内部が不均一に見えます。症例ページでは、前壁でT2低信号の帯(子宮筋層)が途切れて筋層が薄くなり、太い血管の無信号域が膀胱頂部に向かって走ることが挙げられています。
超音波とMRIの診断能
同じ患者集団で超音波とMRIを比べた18研究・861妊娠のメタアナリシスでは、次のとおりで、両者に有意差はありませんでした(Hong 2022)。
| 検査 | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|
| 超音波 | 0.90(0.86-0.93) | 0.83(0.79-0.86) |
| MRI | 0.89(0.85-0.92) | 0.87(0.83-0.89) |
この結果から著者らは、費用の高いMRIを全例にルーチンで行うことは勧められないとしています(Hong 2022)。MRIの役割は、超音波で迷う例の補助と、侵入の深さ・範囲(特に膀胱や子宮外への進展)を手術前に把握することにあります(Patel-Lippmann 2023)。
心配な場合とそうでない場合
- 心配な所見:膀胱壁の断裂、子宮外へ突出する胎盤腫瘤、胎盤床の異常血管など、子宮の外への進展を示す所見。手術計画(泌尿器科や放射線科との連携)に直結します。
- 判断を慎重にしたい所見:所見が1つだけで弱い場合。MRIの所見は単独で決めず、超音波所見・帝王切開既往・前置胎盤の有無とあわせて評価します。
- 落ち着いて見てよい場合:推奨7所見がそろわず、超音波でも疑いが乏しい場合。
次にすること
PASが疑われた場合は、産科・麻酔科・放射線科・泌尿器科などによる多職種での分娩計画が重要とされています(Patel-Lippmann 2023)。放射線科医はMRIで侵入の位置(前壁・後壁・子宮頸部方向)、深さ、膀胱など周囲臓器への進展を報告書に明記します。骨盤の血管解剖は内腸骨動脈の分岐と子宮動脈の解剖にまとめています。
妊娠中の画像検査の被ばくについてはレントゲン・CTの被ばく量は大丈夫?妊娠中・授乳中の影響、造影剤についてはMRI造影剤の種類一覧と副作用を参照してください。気になる症状があれば婦人科を受診し、妊娠中であればかかりつけの産科で相談してください。検査や分娩方法の判断は主治医に相談しましょう。
よくある疑問(Q&A)
Q1. 超音波で癒着胎盤が疑われたら、MRIは全員に撮るのですか?
A. メタアナリシスでは超音波とMRIの診断能に差がなく、全例ルーチンのMRIは勧められていません(Hong 2022)。超音波で判断に迷う場合や、侵入範囲の評価が手術計画に必要な場合に追加されます。
Q2. MRIで「accreta」「increta」「percreta」まで区別できますか?
A. 7所見のうち膀胱壁断裂や子宮外へ突出する胎盤腫瘤は子宮外への進展を示唆しますが、最終的な分類は分娩時の臨床所見と病理で決まります(Jauniaux 2019, Hecht 2020)。
Q3. 帝王切開の既往がなくても癒着胎盤になりますか?
A. 帝王切開既往と前置胎盤は代表的な背景ですが、それ以外の背景で起こる例もあり、臨床情報とあわせて評価します。
あわせて読みたい:前置胎盤のMRI
参考文献
- Jha P, Pōder L, Bourgioti C, et al. Society of Abdominal Radiology (SAR) and European Society of Urogenital Radiology (ESUR) joint consensus statement for MR imaging of placenta accreta spectrum disorders. Eur Radiol. 2020;30(5):2604-2615. PubMed
- Patel-Lippmann KK, Planz VB, Phillips CH, et al. Placenta Accreta Spectrum Disorders: Update and Pictorial Review of the SAR-ESUR Joint Consensus Statement for MRI. Radiographics. 2023;43(5):e220090. PubMed
- Jauniaux E, Ayres-de-Campos D, Langhoff-Roos J, et al. FIGO classification for the clinical diagnosis of placenta accreta spectrum disorders. Int J Gynaecol Obstet. 2019;146(1):20-24. PubMed
- Hecht JL, Baergen R, Ernst LM, et al. Classification and reporting guidelines for the pathology diagnosis of placenta accreta spectrum (PAS) disorders: recommendations from an expert panel. Mod Pathol. 2020;33(12):2382-2396. PubMed
- Hong S, Le Y, Lio KU, et al. Performance comparison of ultrasonography and magnetic resonance imaging in their diagnostic accuracy of placenta accreta spectrum disorders: a systematic review and meta-analysis. Insights Imaging. 2022;13(1):50. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
