
先に結論:エコーで疑い、病理で確定し、その後はhCGで経過をみる
| 項目 | 全胞状奇胎 | 部分胞状奇胎 |
|---|---|---|
| 染色体 | 多くは46,XX(すべて父由来) | 三倍体(父由来が2セット) |
| エコー | 胎児成分がなく、胎盤組織が嚢胞状に見える | 流産(稽留流産・不全流産)に見えることが多い |
| エコーで指摘できる割合 | 約8割 | 約3割 |
| 妊娠性絨毛性腫瘍(GTN)への進展 | 15〜20% | 0.5〜5% |
エコーで「奇胎疑い」でも、病理で奇胎と確定するのはおよそ半数です。
胞状奇胎とは?
胞状奇胎(hydatidiform mole)は、受精の異常によって絨毛が水腫状に腫れる病気で、妊娠性絨毛性疾患(GTD)の一つです。FIGOの2021年版レポートでは、頻度は妊娠1000あたり0.57〜2とされ、母体年齢の両端(とくに40歳超で約7.5倍)と胞状奇胎の既往がリスク因子です(Ngan 2021)。
全胞状奇胎(完全胞状奇胎とも呼ばれます)は通常46,XXで2本のX染色体がともに父由来、部分胞状奇胎は母由来と父由来をもつ三倍体です。区別には免疫染色(p57)やSTR遺伝子解析が用いられます(Ngan 2021)。
全胞状奇胎の初期診断にはエコーが第一選択で、治療後の局所の監視にも役立ちます(Shaaban 2017)。奇胎そのものは前がん病変ですが、hCGが下がらず停滞・上昇すると、侵入奇胎や絨毛癌などの妊娠性絨毛性腫瘍(GTN)へ進展したと判断されます。その頻度は全胞状奇胎で15〜20%、部分胞状奇胎で0.5〜5%です(Ngan 2021)。
症状と、エコーで早く見つかるようになったこと
典型的な症状は性器出血です。以前は妊娠悪阻(つわりの重症型)、妊娠高血圧腎症、甲状腺機能亢進症といった合併症がよく知られていましたが、妊娠初期のエコーで早く診断されるようになり、これらは少なくなっています(Ngan 2021)。早期発見によって子宮内容除去に伴う合併症も減ったとされます(Chawla 2023)。
一方で、早い時期に見つかるほど典型像はそろわず、エコーだけで奇胎と言い切るのは難しくなります。専門施設に奇胎疑いで紹介された1053例では、紹介時の妊娠週数の中央値は10週で、最終的に82%が胞状奇胎と確定しました(Fowler 2006)。
エコー所見:全胞状奇胎と部分胞状奇胎
全胞状奇胎
胎児成分がなく、胎盤組織が嚢胞状に見えるのが典型です(Ngan 2021)。ただし教科書的な蜂巣状(honeycomb)の像は、妊娠初期にはあまり見られません(Ngan 2021)。
部分胞状奇胎
胎児成分を伴いうるため、稽留流産や不全流産として見えることが多く、エコーでの診断は難しくなります(Fowler 2006)。水腫様流産(非奇胎)や遺残胎盤との区別が難しいことが、エコーの成績が低い主な理由です(Shaaban 2017)。
エコーの診断成績
| 研究 | 結果 |
|---|---|
| 専門施設1053例(Fowler 2006) | 術前エコーで奇胎を示唆できたのは全胞状奇胎79%、部分胞状奇胎29%。14週未満は35〜40%、14週以降は約60% |
| 妊娠初期90例(Kirk 2007) | 感度44%、陽性的中率48%。全胞状奇胎の感度95%、部分胞状奇胎20% |
卵巣のルテイン嚢胞(theca lutein cyst)
hCGの刺激で両側卵巣に多房性嚢胞ができることがあります。未治療の胞状奇胎386例では26.4%にみられ、平均径は7.3cm(3〜20cm)でした。両側性はその後の絨毛性腫瘍の発生と関連し、hCGが下がったあとも15〜18週ほど残る例がありました。重い合併症は102例中3例でした(Montz 1988)。捻転については卵巣腫瘍茎捻転のCT・MRI画像診断、機能性嚢胞は正常卵巣の大きさとMRI画像|機能性嚢胞とはも参照してください。
症例 40歳代女性 全胞状奇胎

引用:Radiopaedia(Complete hydatidiform mole)
子宮は大きく、内腔を小さな嚢胞がたくさん集まった腫瘤が占めていて、ぶどうの房(snowstorm)のように見えます。子宮の中にも外にも胎嚢は見えず、病理で全胞状奇胎と確かめられています。
MRI・CTの役割
胞状奇胎の初期診断はエコーが中心で、MRIは問題解決のための追加検査、CTなどは肺病変の評価に用いられます(Chawla 2023)。
MRIが役立つ場面の一つが、生児を伴う全胞状奇胎(双胎の一方が奇胎)と胎盤間葉性異形成(PMD)の区別です。どちらもエコー・MRIで多嚢胞性病変として見えますが、6例の検討では、奇胎は胎児の入った胎嚢の外に出血を伴って存在し、PMDは胎嚢内の胎盤の中に出血なく存在していました(Himoto 2014)。妊娠中の画像検査の被ばくについてはレントゲン・CTの被ばく量は大丈夫?妊娠中・授乳中の影響で解説しています。
鑑別
| 鑑別 | ポイント |
|---|---|
| 水腫様流産(非奇胎) | 奇胎疑いで紹介された1053例の18%が非奇胎の水腫様流産だった(Fowler 2006) |
| 稽留流産・不全流産 | 部分胞状奇胎の多くはこう見える(Fowler 2006) |
| 遺残胎盤(RPOC) | エコーでの区別が難しい(Shaaban 2017) |
| 胎盤間葉性異形成 | 胎嚢内の胎盤にあり、出血を伴わない(Himoto 2014) |
妊娠初期の出血の画像診断としては子宮外妊娠(異所性妊娠)の画像診断もあわせて確認しておくとよいでしょう。
次にすること
子宮内容の除去は、妊孕性の温存を希望する場合、子宮の大きさにかかわらず吸引術(できれば超音波ガイド下)が推奨されています(Ngan 2021)。除去した組織は病理検査に提出され、確定診断となります。その後は血中hCGを定期的に測り、停滞や再上昇がないかをみます(Ngan 2021)。
不正出血やつわりが強いなど、気になる症状があれば婦人科を受診してください。
よくある疑問(Q&A)
Q1. エコーで「奇胎疑い」なら、ほぼ確実ですか?
いいえ。妊娠初期の研究では、エコーで疑われた例のうち病理で奇胎と確定したのは48%でした(Kirk 2007)。最終的な診断は病理で決まります。
Q2. 部分胞状奇胎はなぜ見逃されやすいのですか?
胎児成分を伴うことがあり、エコーでは普通の流産と区別しにくいためです。エコーで指摘できたのは約3割でした(Fowler 2006)。
Q3. 卵巣が大きく腫れていると言われました。
ルテイン嚢胞の多くはhCGの低下とともに小さくなりますが、長く残ることもあります(Montz 1988)。痛みが強いときの対応も含め、主治医に相談してください。
あわせて読みたい:侵入奇胎・絨毛癌(妊娠性絨毛性腫瘍)の画像所見
参考文献
- Ngan HYS, Seckl MJ, Berkowitz RS, et al. Diagnosis and management of gestational trophoblastic disease: 2021 update. Int J Gynaecol Obstet. 2021;155 Suppl 1:86-93. PubMed
- Fowler DJ, Lindsay I, Seckl MJ, et al. Routine pre-evacuation ultrasound diagnosis of hydatidiform mole: experience of more than 1000 cases from a regional referral center. Ultrasound Obstet Gynecol. 2006;27(1):56-60. PubMed
- Kirk E, Papageorghiou AT, Condous G, et al. The accuracy of first trimester ultrasound in the diagnosis of hydatidiform mole. Ultrasound Obstet Gynecol. 2007;29(1):70-75. PubMed
- Montz FJ, Schlaerth JB, Morrow CP. The natural history of theca lutein cysts. Obstet Gynecol. 1988;72(2):247-51. PubMed
- Himoto Y, Kido A, Minamiguchi S, et al. Prenatal differential diagnosis of complete hydatidiform mole with a twin live fetus and placental mesenchymal dysplasia by magnetic resonance imaging. J Obstet Gynaecol Res. 2014;40(7):1894-900. PubMed
- Shaaban AM, Rezvani M, Haroun RR, et al. Gestational Trophoblastic Disease: Clinical and Imaging Features. Radiographics. 2017;37(2):681-700. PubMed
- Chawla T, Bouchard-Fortier G, Turashvili G, et al. Gestational trophoblastic disease: an update. Abdom Radiol (NY). 2023;48(5):1793-1815. PubMed
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