TACE(肝動脈化学塞栓療法) 治療の流れ・効果・副作用

肝臓がんでTACE(肝動脈化学塞栓療法)をすすめられました。どんな治療で、副作用はありますか?
TACEは、がんに栄養を送る肝臓の動脈にカテーテルを入れて、抗がん剤と「詰め物」を流し込む治療です。治療のあと数日、発熱やおなかの痛みが出ることが多いですが、多くは一時的です。

先に結論:TACE(肝動脈化学塞栓療法)

項目 ポイント
何をする? 足の付け根などからカテーテルを入れ、肝臓がんを養う動脈に抗がん剤と塞栓物質を入れる
主な対象 手術やラジオ波で治しきるのが難しい肝細胞癌(特に「中間期」)
主な副作用 塞栓後症候群(発熱・腹痛・吐き気)。多くは数日でおさまる
効果の確かめ方 1〜数か月後の造影CT・MRIで、がんの「生きている部分」が残っていないかを見る


cTACEとDEB-TACEの違いの表

TACEとは

TACEはTranscatheter Arterial ChemoEmbolization(肝動脈化学塞栓療法)の略です。IVR(画像下治療)の代表的な治療のひとつです。

肝臓は門脈と肝動脈の2本から血液を受けていますが、肝細胞癌(肝臓から発生するがん)は主に肝動脈から栄養を受けています。そこで、がんにつながる動脈にカテーテルを進めて、

  • 抗がん剤でがんを直接たたき、
  • 塞栓物質(血管をふさぐ詰め物)で血の流れを止めて、がんを「兵糧攻め」にする

という2つの作用をねらいます。がんのすぐ手前の細い枝まで入って行う方法は 超選択的TACE(Ultraselective TACE) で解説しています。

どんな人が対象?

肝細胞癌の治療は、がんの数・大きさ・血管への広がり・肝臓の働き(肝予備能)・体の元気さを合わせて選びます。世界でよく使われるBCLC(バルセロナ臨床肝癌)分類は2022年に改訂されています(Reig 2022)。

TACEは主に、手術やラジオ波焼灼で治しきるのが難しい、中間期の肝細胞癌に生存の上乗せがある治療とされています(Lammer 2010)。根拠となった比較試験は次のとおりです。

試験 対象 結果(生存率)
Llovet 2002(スペイン) 切除できない肝細胞癌 112人 1年・2年生存率:TACE 82%・63%、対症療法 63%・27%
Lo 2002(香港) 切除できない肝細胞癌 80人 1年・2年・3年生存率:TACE 57%・31%・26%、対症療法 32%・11%・3%

日本では「肝癌診療ガイドライン」の治療アルゴリズムで選びます。どの治療が合うかは、肝臓内科・外科・放射線科などで相談して決めます。

cTACEとDEB-TACEの違い

cTACE(従来型) DEB-TACE(薬剤溶出性ビーズ)
使うもの 抗がん剤とリピオドール(油性の造影剤)を混ぜた液+ゼラチンスポンジなど 抗がん剤をしみこませた小さなビーズ(球状の塞栓物質)
特徴 リピオドールががんにたまり、CTで白く写る 薬がビーズからゆっくり出て、全身に回る量を減らすよう設計
比較試験(PRECISION V) 完全奏効22%・奏効44% 完全奏効27%・奏効52%(優越性は示せず)。重い肝障害と抗がん剤の副作用は少なかった

PRECISION V試験(212人)では、DEB-TACEはcTACEより効果が「勝る」ことは証明できませんでしたが、体への負担(重い肝臓の障害、ドキソルビシンという抗がん剤による副作用)が少ないという結果でした(Lammer 2010)。cTACEのあとCTでリピオドールが白く見える理由は TACE後のリピオドール沈着とは? で解説しています。

治療の流れ

  1. 治療前:造影CT・MRIでがんの場所と数、血管の走り方を確認。血液検査で肝臓・腎臓の働きを確認
  2. 当日:足の付け根(または手首)の動脈に局所麻酔をして、カテーテルを入れる
  3. 血管造影:造影剤を流してがんを養う動脈を探し、さらに細いカテーテル(マイクロカテーテル)で近づく(肝動脈の解剖と分岐)
  4. 注入:抗がん剤と塞栓物質を入れる
  5. 治療後:カテーテルを抜いて圧迫止血し、しばらく安静。発熱や痛みに対して薬を使う
  6. 効果判定:1〜数か月後に造影CT・MRI。必要なら繰り返し行う

上の流れは一般的な例で、細かい手順や入院日数は施設によって違います。

治療のあと熱が出たら、失敗したということですか?
いいえ、TACEのあとの発熱や痛みはよくある反応で、「塞栓後症候群」と呼ばれます。ただ、高い熱が続く、痛みが強くなる、黄疸が出るといったときは早めに連絡してください。

副作用:塞栓後症候群など

塞栓後症候群(PES)は、血の流れを止めたがんや肝臓の一部が傷むことで起こる症状のまとまりで、腹痛・発熱・吐き気・嘔吐が代表です(Li 2025)。

  • 頻度:中間期の肝細胞癌にcTACEを行ったタイの試験では、56人中27人(48.2%)に起こりました(Koonsiripaiboon 2025)
  • 予防:ステロイド(デキサメタゾン)を前もって使うと、腹痛・発熱・吐き気が減ったという研究のまとめがあります(Li 2025)
  • 肝機能:TACEで肝臓の働きが一時的に落ちることがあります。もともと肝臓の働きが悪い人では、肝不全による死亡が増えたという報告もあり(Lo 2002)、治療の前に肝予備能をよく確かめます

効果判定:mRECISTとLI-RADS治療反応

TACEのあと、がんが小さくならなくても、中が壊死(死んだ組織)になっていれば効いています。そこで、大きさだけで判定するRECISTではなく、造影CT・MRIの動脈相で染まる部分=生きているがん(viable tumor)の大きさで判定するmRECISTが使われます(Lencioni 2010)。

判定法 見るもの ひとこと
mRECIST 動脈相で染まる「生きているがん」の径 臨床試験でよく使われる
LI-RADS 治療反応(TRA) 治療した結節が生きているか(nonviable / equivocal / viable) 読影レポートで使う

LI-RADSの考え方は LI-RADSとは?、治療後の再発の見え方は 肝細胞癌の治療後の局所再発のCT・MRI を参考にしてください。

症例 70歳代男性 B型肝硬変・肝細胞癌の治療後

肝細胞癌 TACE後 CT 横断
引用:Radiopaedia(Hepatocellular carcinoma post transarterial chemoembolisation)

肝右葉の後ろ側にある腫瘍が、TACEで入ったリピオドールのため強い高吸収(白)になっています。これがTACE後に見られる典型的な所見です。肝臓は肝硬変の形をしており、肝臓の周りに少量の腹水があります。

よくある疑問(Q&A)

Q. TACEでがんは治りますか?
A. TACEは主に、手術などで治しきるのが難しい場合に、がんをおさえて生存をのばす治療です(Llovet 2002・Lo 2002)。効果は人によって違い、繰り返し行うこともあります。

Q. 何回くらい受けるの?
A. 決まった回数はありません。香港の試験では1人あたり中央値4.5回行われていました(Lo 2002)。効果判定の画像と肝臓の働きを見ながら、主治医が次の方針を決めます。

Q. 治療のあと、どんな症状なら連絡すべき?
A. 高熱が続く、おなかの痛みが強くなる、目や皮膚が黄色くなる、カテーテルを入れた所が腫れて痛むなどのときは、治療を受けた病院に連絡してください。

まとめ

  • TACEは、肝臓がんを養う動脈から抗がん剤と塞栓物質を入れるIVR治療
  • 主な対象は、手術やラジオ波で治しきるのが難しい中間期の肝細胞癌
  • cTACEとDEB-TACEがあり、効果は同じくらいで副作用の出方が違う
  • 塞栓後症候群(発熱・腹痛・吐き気)はよくある。効果はmRECISTなどで判定
  • どの治療が合うかは、主治医とよく相談して決める

関連:「肝細胞癌(HCC)のCT・MRI画像診断」・「肝RFA後のCT・MRI画像所見」

参考文献

  1. Reig M, Forner A, Rimola J, et al. BCLC strategy for prognosis prediction and treatment recommendation: The 2022 update. J Hepatol. 2022;76(3):681-693. PubMed
  2. Llovet JM, Real MI, Montaña X, et al. Arterial embolisation or chemoembolisation versus symptomatic treatment in patients with unresectable hepatocellular carcinoma: a randomised controlled trial. Lancet. 2002;359(9319):1734-1739. PubMed
  3. Lo CM, Ngan H, Tso WK, et al. Randomized controlled trial of transarterial lipiodol chemoembolization for unresectable hepatocellular carcinoma. Hepatology. 2002;35(5):1164-1171. PubMed
  4. Lammer J, Malagari K, Vogl T, et al. Prospective randomized study of doxorubicin-eluting-bead embolization in the treatment of hepatocellular carcinoma: results of the PRECISION V study. Cardiovasc Intervent Radiol. 2010;33(1):41-52. PubMed
  5. Lencioni R, Llovet JM. Modified RECIST (mRECIST) assessment for hepatocellular carcinoma. Semin Liver Dis. 2010;30(1):52-60. PubMed
  6. Li R, Huang Z, Liu Y, et al. Efficacy of prophylactic dexamethasone in reducing post-embolization syndrome following transcatheter arterial chemoembolization for hepatocellular carcinoma: a systematic review and meta-analysis. BMC Gastroenterol. 2025;25(1):577. PubMed
  7. Koonsiripaiboon P, Ruamtawee W, Simasingha N, et al. Efficacy of N-acetylcysteine vs dexamethasone in preventing postembolization syndrome post-transarterial chemoembolization in hepatocellular carcinoma: A randomized controlled trial. World J Gastroenterol. 2025;31(31):109630. PubMed

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