肝臓のCTで、肝内に著明な高吸収域を認めたとき、まず「出血でしょうか?」「石灰化でしょうか?」と考えることがあります。

しかし、肝細胞癌(HCC:hepatocellular carcinoma)に対してTACE(transcatheter arterial chemoembolization:肝動脈化学塞栓療法)が行われた後であれば、重要な鑑別としてリピオドール沈着を考える必要があります。

特に、肝内に粗大な石灰化のような高吸収域を見た場合には、画像だけで判断するのではなく、HCCの治療歴、とくにTACE歴がないかを確認することが非常に重要です。

 

TACEとは?

TACEとは、肝動脈化学塞栓療法のことです。

HCCは門脈血流よりも肝動脈血流に依存することが多いため、腫瘍を栄養する肝動脈枝から薬剤を注入し、さらに塞栓を加えることで腫瘍を虚血・壊死に導く治療です。

従来型TACE(conventional TACE:cTACE)では、抗癌剤と油性造影剤であるリピオドールを混和して使用することがあります。

このリピオドールは、血流の豊富なHCC内に取り込まれ、腫瘍内に比較的長く停滞します。そのため、TACE後のCTでは、リピオドールが沈着した部位が著明な高吸収域として描出されます。

リピオドール沈着はCTでどう見える?

リピオドールはCTで非常に高吸収に見えます。

そのため、TACE後の肝臓では以下のような所見として認められます。

  • 腫瘍内の濃い高吸収域
  • 肝区域・亜区域に沿った高吸収域
  • 石灰化のように見える粗大な高吸収域
  • 治療直後〜数日後では比較的広範な高吸収域として見えることがある
  • 時間経過とともに沈着範囲や濃度が変化することがある

特に単純CTでは、リピオドール沈着は石灰化のように見えることがあります。

しかし、TACE後であれば、これは「病的石灰化」ではなく、治療に伴う油性造影剤の沈着として理解する必要があります。

症例 80歳代女性 肝細胞癌(HCC)で加療中

  • 肝右葉に広範な高吸収域を認める
  • 肝S8に腫瘤状の著明な高吸収域を認める

このような所見を見たとき、単純に「肝内石灰化」や「出血」と判断してしまうと、TACE後変化を見落とす可能性があります。

本症例の診断は、HCCに対するTACE後のリピオドール沈着です。

なぜリピオドールはHCCに沈着するのか?

HCCは一般に動脈血流が豊富な腫瘍です。

リピオドールは油性造影剤であり、腫瘍血管内へ流入した後、腫瘍内に比較的長く停滞します。

抗癌剤とリピオドールを混和して投与することで、抗癌剤が腫瘍内に局所的にとどまりやすくなり、徐放性に作用することが期待されます。

つまり、リピオドールは単なる造影剤ではなく、TACEにおいて抗癌剤の担体としての役割も持ちます。

CTで肝内高吸収域を見たときの鑑別

肝臓に高吸収域を認めた場合、鑑別として以下が挙げられます。

  • 石灰化を伴う肝腫瘍
  • 石灰化を伴う肝転移
  • 陳旧性肉芽腫
  • 肝内結石
  • 出血
  • 薬剤・造影剤沈着
  • トロトラスト沈着
  • HCCに対するTACE後のリピオドール沈着

この中で、HCC治療歴がある患者さんでは、まずTACE後のリピオドール沈着を考えることが大切です。

特に、肝内に非常に強い高吸収域を認める場合、通常の肝転移の石灰化よりもリピオドール沈着の方が高吸収として目立つことがあります。

石灰化肝転移との見分け方

リピオドール沈着と石灰化肝転移は、どちらもCTで高吸収域として見えることがあります。

ただし、実際の読影では以下の点を確認します。

確認項目 リピオドール沈着を疑う所見 石灰化肝転移を疑う所見
既往歴 HCCに対するTACE歴がある 大腸癌、卵巣癌、胃癌などの悪性腫瘍歴がある
吸収値 非常に強い高吸収を示すことが多い 石灰化として高吸収だが、分布や形態は腫瘍に依存する
分布 治療血管支配に一致することがある 転移巣に一致して多発することがある
経時変化 治療後の時間経過で沈着範囲・濃度が変化することがある 腫瘍の増大・縮小に応じて変化する
重要な情報 TACE歴 原発巣の有無

最も重要なのは、HCCでTACEを受けた既往があるかどうかです。

画像だけで無理に鑑別しようとするのではなく、治療歴を確認することで診断が一気に明確になります。

TACE後の治療効果判定で見るべきポイント

TACE後のCTでは、リピオドールが沈着しているかどうかだけでなく、残存腫瘍・局所再発がないかを評価する必要があります。

ここで重要になるのが、造影CTやMRIでの造影効果です。

HCCのviable tumor、つまり生きた腫瘍成分は、一般に以下のような所見で疑います。

  • 治療部位内または辺縁の結節状・腫瘤状・不整な造影効果
  • 動脈相濃染(arterial phase hyperenhancement:APHE)
  • washout appearance
  • 治療前腫瘍と類似した造影パターン

LI-RADS Treatment Response Algorithmでも、治療後病変の評価では、単に治療部位が高吸収かどうかではなく、残存する腫瘍性造影効果があるかが重要視されます。

したがって、TACE後のリピオドール沈着を見たときは、次のように考えると整理しやすいです。

  • 単純CTで高吸収:リピオドール沈着を反映
  • 造影CT/MRIで結節状の濃染:残存・再発HCCを疑う
  • リピオドール沈着の欠損部や辺縁の濃染:viable tumorの可能性を考える
  • 明らかな腫瘍性造影効果がなければ、治療後変化として経過観察されることが多い

リピオドールがしっかり沈着していれば安心?

リピオドール沈着は、TACE後の治療効果を考えるうえで重要な所見です。

一般に、腫瘍内にリピオドールがよく沈着している場合、TACEの標的病変へ薬剤が到達していることを示唆します。

一方で、リピオドール沈着が不完全な場合や、沈着部に欠損を認める場合には、局所進行や再発のリスクに注意が必要です。

ただし、リピオドール沈着だけで完全奏効と断定することはできません。

治療効果判定では、造影CTやMRIを用いて、腫瘍性の造影効果が残っていないかを確認することが重要です。

ラジオ波焼灼療法後との違い

HCCの局所治療には、TACE以外にラジオ波焼灼療法(RFA)などもあります。

RFA後の治療部位は、凝固壊死を反映して低吸収域として見えることが多く、TACE後のリピオドール沈着のように強い高吸収域を示すわけではありません。

そのため、肝内に著明な高吸収域を認めた場合には、RFA後変化よりも、TACE後のリピオドール沈着を考える方が自然です。

もちろん、実際の読影では、治療内容・治療時期・術前画像との比較が重要です。

TAEとTACEの違い

TAEはtranscatheter arterial embolizationの略で、経カテーテル的動脈塞栓術を意味します。

TACEはtranscatheter arterial chemoembolizationの略で、TAEに化学療法、つまり抗癌剤投与の要素が加わったものです。

HCCの治療文脈では、TAEとTACEが近い意味で使われることもありますが、厳密には抗癌剤を併用するかどうかが異なります。

また、TAEという言葉は肝臓以外の出血や腫瘍塞栓などにも広く使われるため、文脈に注意が必要です。

出典

  1. Cho Y, et al. Transarterial Chemoembolization for Hepatocellular Carcinoma: 2023 Expert Consensus-based Practical Recommendations of the Korean Liver Cancer Association. Korean Journal of Radiology. 2023.
  2. Burgio MD, et al. Lipiodol retention pattern after TACE for HCC is a predictor for local progression in lesions with complete response. European Radiology. 2019.
  3. Lencioni R, Llovet JM. Modified RECIST assessment for hepatocellular carcinoma. Seminars in Liver Disease. 2010.
  4. Voizard N, et al. Assessment of hepatocellular carcinoma treatment response with LI-RADS: a pictorial review. Insights into Imaging. 2019.
  5. American College of Radiology. Liver Imaging Reporting and Data System(LI-RADS)Treatment Response Assessment.

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