先に結論:脾症(splenosis)

  • 脾症は、外傷による脾臓破裂や脾臓摘出のときに散らばった脾臓の組織が、腹膜・大網・腸間膜・横隔膜の下(ときに胸腔内)にくっついて育ったもので、病気としての害はほとんどありません
  • CT・MRIでは脾臓と同じ濃さ・信号・造影パターンを示す多発結節として見え、腹膜播種・リンパ節転移・リンパ腫・NETと間違われやすいのが問題です
  • 脾臓の外傷・摘出の既往を確認し、迷うときは熱処理赤血球シンチなどで脾臓組織であることを確かめます

脾症(splenosis)とは?

  • 脾症(splenosis)は、腹部外傷による脾臓破裂や脾摘出術などの際に、飛散した脾臓組織が周囲の臓器や腹膜、腸間膜などに付着し、血管新生を経て無茎性に発育した状態を指す。いわば「脾組織の異所性自家移植片」である。
  • 左横隔膜下や腸間膜、大網、腹壁などに好発する。
  • しばしば悪性腫瘍の腹膜播種やリンパ節腫大と誤認されることがあるため、正確な画像診断が重要となる。

副脾との違い

脾症は一般的に脾摘術など術後や外傷後に発生する後天的な病態であり、左横隔膜下や腸間膜、大網、腹壁などに好発する。一方で、よく似た概念である「副脾(accessory spleen)」は、胎生期における脾原基の癒合不全によって生じる先天的な正常変異で、腹部CTでは11%(Romer 2012)〜16%(Mortelé 2004)にみられる。副脾は2cm未満の境界明瞭な円形結節で、均一に造影されることが多く、60%は脾門の高さにあった(Romer 2012、Mortelé 2004)。

両者の画像所見は正常脾臓に準じるため非常に酷似しているが、形態学的な違いとして以下の点が挙げられる。

  • 副脾:脾門部近傍に多く、脾動脈の枝から栄養されるとされる。
  • 脾症:脾臓の外傷・摘出のあとに、脾門から離れた腹膜・大網などに多発し、周囲組織の血管から栄養されるとされる。

両者を鑑別する臨床的意義は乏しいものの、重要なのは悪性リンパ腫、腹膜播種、あるいは神経内分泌腫瘍(NET)などとの鑑別である。

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脾症(splenosis)の画像診断のポイント

脾症のCT画像所見は、基本的に「正常な脾臓」と同様のCT値や造影パターンを呈することが最大の特徴である。

  • 単純CT:境界明瞭な低〜等吸収結節として描出される。
  • 造影CT(ダイナミック撮影):正常脾臓と同様の血流動態を示す。早期相(動脈相)では肝実質よりも強く不均一な濃染(斑状の造影効果)を示し、遅延相(平衡相)に向かって均一な濃染へと変化する。

外傷性脾損傷や脾摘出の既往がある患者で、腹腔内に多発する結節影を認めた場合、まずは脾症を念頭に置いて過去の正常脾臓(あるいは残存脾臓)の造影パターンと比較することがポイントである。確定診断には熱変性赤血球シンチグラフィが第一選択とされる。また、腹腔・骨盤腔以外にも胸腔内、皮下、肝内、頭蓋内での報告があり、腹部以外の結節でも脾外傷・脾摘の既往があれば脾症を鑑別に挙げる。

MRIにおいても、正常脾臓の信号強度と同等の所見を示すことが診断の決め手となる。

  • T1強調像:低信号
  • T2強調像:高信号
  • 拡散強調像(DWI):正常脾臓と同様に高信号を呈する。

SPIO(超常磁性酸化鉄)造影MRIの有用性:
脾症の組織には網内系細胞(マクロファージ等)が存在するため、SPIOを取り込む性質がある。そのため、SPIO造影後のT2強調像では著明な信号低下(黒く抜ける)を認める。胸腔内脾症の症例でも、SPIO造影MRIでの信号低下とシンチグラフィで、異所性脾組織の貪食能を示すことが診断に役立ったと報告されている(Ishibashi 2009)。

症例 30歳代女性 脾摘歴あり。

 

引用:Radiopaedia

腹部に、脾臓と類似した造影パターンおよび性状を示す複数の円形軟部組織腫瘤を認めます。

脾摘後であり、脾症を疑う所見です。

症例 70歳代男性 小児期に交通事故の既往あり

引用:Radiopaedia

脾臓は欠損している。腹膜腔内には、数 mm大から20 mm大までの境界明瞭な多数の結節を認めています。

脾症を疑う所見です。

正常の脾臓の造影CT・MRI(タイミングによる見え方)

  • 正常の脾臓は、造影CTの動脈相ではまだら(縞状)に染まり、門脈相〜平衡相で均一になります。動脈相のまだらな染まりを腫瘤や梗塞と間違えないよう、脾臓の評価は均一になる時相で行います。
  • MRIでは、正常の脾臓は肝臓に比べてT1強調像で低信号、T2強調像で高信号、拡散強調像で高信号に見えます。脾症や副脾はこれと同じ信号・造影パターンを示すのが手がかりです。

脾症でよくある疑問(Q&A)

Q. 脾症は治療が必要ですか?
A. 多くは偶然見つかる良性の状態で、症状がなければ治療の対象にはなりません(Fremont 2007)。悪性腫瘍と誤って生検や手術が行われないよう、外傷・脾摘の既往を確認することが大切です。

Q. 脾症を確かめる検査は何ですか?
A. 熱変性赤血球を使ったシンチグラフィが第一選択とされます(Fremont 2007)。脾臓と同じ造影パターンかどうかをCT・MRIで比べることも手がかりになります。

 

出典・参考文献

  1. Lake ST, Johnson PT, Kawamoto S, et al: CT of splenosis: patterns and pitfalls. AJR Am J Roentgenol 199: W686-W693, 2012. PubMed
  2. Lin WC, Lee RC, Chiang JH, et al: MR features of abdominal splenosis. AJR Am J Roentgenol 180: 493-496, 2003. PubMed
  3. Fremont RD, Rice TW. Splenosis: a review. South Med J. 2007;100(6):589-593. PubMed
  4. Möller K, Faiss S, Lim A, et al. Splenoses and Other Ectopic and Heterotopic Splenic Tissue: The Use of Long-Lasting Enhancement in Contrast-Enhanced Ultrasound to Avoid Unnecessary Intervention. Diagnostics (Basel). 2026;16(8). PubMed
  5. Romer T, Wiesner W. The accessory spleen: prevalence and imaging findings in 1,735 consecutive patients examined by multidetector computed tomography. JBR-BTR. 2012;95(2):61-5. PubMed
  6. Mortelé KJ, Mortelé B, Silverman SG. CT features of the accessory spleen. AJR Am J Roentgenol. 2004;183(6):1653-7. PubMed
  7. Ishibashi M, Tanabe Y, Miyoshi H, et al. Intrathoracic splenosis: evaluation by superparamagnetic iron oxide-enhanced magnetic resonance imaging and radionuclide scintigraphy. Jpn J Radiol. 2009;27(9):371-4. PubMed

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