縦隔脂肪腫症(Mediastinal lipomatosis)とは?

  • 縦隔内に被膜を持たない成熟脂肪組織が広範かつ対称性(あるいは非対称性)に蓄積する良性の病態である。
  • 肥満、ステロイドの長期投与、クッシング症候群などに関連して発症することが多いが、特発性に生じるケースもある。
  • 多くは無症状であり、他の目的で撮影された胸部画像検査で偶然発見されることが大半である。しかし、稀に気道や血管を圧迫し、呼吸困難や咳嗽などの症状を呈することもある。

縦隔脂肪腫症の画像所見

縦隔脂肪腫症のレントゲン所見

胸部単純X線写真は、本疾患が最初に疑われる契機となることが多い。特徴的な所見は以下の通りである。

  • 上縦隔から前縦隔にかけての対称性または非対称性の縦隔拡大(Mediastinal widening)が認められる。
  • 辺縁は平滑であり、心陰影の辺縁が不鮮明になる(シルエットサイン陽性)ことがある。
  • 通常の軟部組織腫瘍と比較して、X線透過性がやや亢進している(脂肪によるX線吸収の低下)のが特徴であるが、単純写真のみで脂肪と断定することは困難な場合が多い。

CT検査における診断のポイント

縦隔脂肪腫症の確定診断において、CTは最も重要かつ有用なモダリティである。悪性腫瘍との鑑別のために以下のポイントを確認する。

  • 脂肪濃度の確認: 蓄積している組織が均一な脂肪吸収値(概ね -50 ~ -150 Hounsfield Units: HU)を示すことが最大の鑑別ポイントである。
  • 被膜の欠如と周囲への進展: 単一の腫瘤を形成するのではなく、被膜を持たない脂肪組織が気管、大血管、心膜などの周囲臓器の隙間を埋めるように、あるいは包み込むように進展している。
  • 圧排所見の乏しさ: 血管や気道などの既存構造を完全には閉塞・狭窄させず、柔らかく周囲を覆うような形態をとる。
  • 充実性成分の欠如: 内部に軟部組織濃度(0 HU以上)の結節や索状影、石灰化などを伴わない。これらが存在する場合は、悪性腫瘍などを疑う必要がある。

症例 40歳代男性 ステロイド内服あり。

引用:radiopedia

後縦隔に脂肪組織が過剰に沈着しており、それにより食道が前方へ偏位しています。

縦隔脂肪腫症を疑う所見です。

縦隔脂肪腫症と心膜外脂肪塊(Pericardial fat pad)との鑑別と違い

縦隔内に脂肪が蓄積する良性の所見として、縦隔脂肪腫症のほかに日常の画像診断で頻繁に遭遇するものに「心膜外脂肪塊(心外膜下脂肪塊、Pericardial fat pad)」がある。これらはともに被膜を持たない成熟脂肪組織の集簇であるが、その発生部位と広がり方に明確な違いがある。

  • 心膜外脂肪塊: 心臓と横隔膜が交わる部分である「心横隔膜角(Cardiophrenic angle)」に局所的に発生する。特に右側に好発し、心膜の外側に寄り添うように存在する局限的な脂肪の塊である。生理的な脂肪沈着、あるいはその延長とみなされる。
  • 縦隔脂肪腫症: 心横隔膜角に限局せず、上縦隔から前縦隔を中心に、気管や大血管の周囲の隙間を埋めるように「広範かつびまん性」に脂肪が蓄積する。

ただし、縦隔脂肪腫症と心膜外脂肪塊は、発生部位の違いから便宜上区別して解説されることが多いが、実際の臨床画像においては両者がオーバーラップ(併発)しているケースも頻繁に観察される。

症例 60歳代男性

引用:radiopedia

縦隔に脂肪組織が過剰に沈着しています。

縦隔脂肪腫症を疑う所見ですが、心膜外脂肪塊とは一塊となっていると考えられます。

関連記事:胸部レントゲンで見られる心膜外脂肪塊とは?

縦隔脂肪腫症と鑑別を要する主な疾患

縦隔内に脂肪成分を含む病変(Fat-containing mediastinal lesions)としては、以下の疾患との鑑別が重要である。

  • 縦隔脂肪腫(Mediastinal lipoma): 被膜を持つ明瞭な境界の腫瘤を形成する点で本症と異なる。
  • 脂肪肉腫(Liposarcoma): 内部が不均一であり、厚い隔壁や軟部組織成分(非脂肪成分)が混在する。多くは周囲組織への浸潤傾向を示す。
  • 胸腺脂肪腫(Thymolipoma): 脂肪組織の中に、胸腺組織に由来する軟部組織の索状影や結節影が混在する。
  • 成熟嚢胞性奇形腫(Mature cystic teratoma): 脂肪だけでなく、石灰化(骨や歯)、嚢胞(水成分)、軟部組織など、複数の成分が混在する不均一な腫瘤である。

 

出典・参考文献

  • Rajani R, Gandhi S, Brum RL. “CT to the rescue in benign, symmetrical mediastinal lipomatosis.” Thorax, 67(8), 758, 2012.
  • Carter BW, et al. “Anterior Mediastinal Masses.” American Journal of Roentgenology, 202(4), W408-W415, 2014.
  • Nguyen N, et al. “A Benign Cause of Widened Mediastinum: A Case of Mediastinal Lipomatosis.” Jefferson Digital Commons, 2025.

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