尿閉(urinary retention)とは、膀胱に尿がたまっているにもかかわらず、自力で排尿できない状態を指します。

急性発症では下腹部の膨満感や痛みが強く、慢性の場合は症状に乏しいこともありますが、いずれにおいても画像検査はその原因と病態の把握に極めて有用です。

中でもCT検査は、尿路の閉塞レベル、膀胱や尿管、腎盂の拡張の有無、そして閉塞の原因となる病変の描出に優れており、診断精度の高い検査手段とされています。

尿閉(urinary retention)の主な原因

1. 機械的閉塞による尿閉(器質的原因)

何らかの物理的な“つまり”や“圧迫”によって尿の通り道がふさがれるタイプです。以下が代表的な原因です:

  • 前立腺肥大症:高齢男性に多く、肥大した前立腺が尿道を圧迫することで尿の通過が妨げられます。
  • 尿道狭窄:外傷や感染、手術後の瘢痕により尿道が狭くなり、排尿障害を起こします。
  • 腫瘍性病変:膀胱癌、前立腺癌、婦人科系腫瘍、大腸癌などが尿路を直接圧迫または浸潤します。
  • 血塊・膀胱結石:膀胱内の血の塊や大きな結石が内腔を物理的に閉塞します。
  • 両側尿管結石:非常に稀ですが、左右の尿管が同時に閉塞すると、膀胱が空にならず尿閉となることがあります。
  • 後腹膜線維症:線維組織が後腹膜内に異常増殖し、両側尿管を外側から圧迫して尿の流れを妨げます。中年以降の男性に多く、尿閉や水腎症の原因として重要です。

2. 機能的障害による尿閉(神経性・筋機能性)

尿路に物理的な閉塞がないにもかかわらず、神経や筋肉の機能が障害されて排尿ができなくなるタイプです:

  • 神経因性膀胱:糖尿病、脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン病などで膀胱収縮機能が障害され、尿が排出できなくなります。
  • 脳血管障害や脳腫瘍:中枢神経の損傷により排尿反射が失われる場合があります。

このように、尿閉の原因は単一ではなく、多岐にわたるため、CT画像での評価に加え、臨床情報や既往歴、神経学的評価が重要となります。

腹部CTにおける尿閉(urinary retention)の典型所見

腹部CTは、非造影でも尿路拡張の有無を明確に描出でき、以下のような画像所見が特徴的です:

1. 両側性水腎症(hydronephrosis)・水尿管症(hydroureter)

尿閉が進行すると、腎盂や腎杯の拡張(=水腎症)、尿管の拡張(=水尿管症)が両側に生じます。特に前立腺肥大や神経因性膀胱では下部尿路の出口が共通して狭窄するため、両側性の変化が重要なサインです。

水腎症(すいじんしょう)とは?
腎臓は体の中の“ろ過装置”で、血液から尿を作り、それを細い通路(腎盂と尿管)を通して膀胱へ送ります。ところが、尿の出口がどこかで詰まってしまうと、作られた尿が出て行けなくなり、腎臓の中に尿がたまって膨らんでしまう状態になります。これが水腎症です。CTでは、通常はほとんど見えないはずの腎盂(じんう)や腎杯(じんぱい)が、黒く丸く拡張して見えるのが特徴です。
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水尿管症(すいにょうかんしょう)とは?
尿は腎臓から細長い「尿管」を通って膀胱に送られますが、これも尿の流れが妨げられると、尿管の中にも尿が逆流してたまり、尿管が蛇のように太く描出されるようになります。このように尿管がふくらんでしまう状態が水尿管症です。CTでは、通常は見えづらい尿管が、連続して太く黒い線状に描出されるのがポイントです。下部尿管までくっきり見える場合、膀胱の出口近くで閉塞が起きている可能性が高くなります。

 

関連記事:水腎症とは?その原因・CT画像所見は?

症例 90歳代男性 腹部膨満

両側腎盂から腎杯の拡張を認め水腎症の状態です。

腎盂のみでなく両側上部尿管にも拡張所見を認めていることがわかります。

さらに尾側に追うと、両側尿管の拡張は、下部にも認め、尿管全域に及び拡張している水尿管症の状態であることがわかります。

また膀胱も拡張しています。

2. 拡張した膀胱

最大の所見のひとつが、著しく拡張した膀胱です。CT上では、骨盤内に球形〜楕円形の低吸収構造として描出され、しばしば腹腔内まで達するほど拡大していることもあります。

3. 原因病変の描出

例えば前立腺肥大では、前立腺が肥大し膀胱内に突出している様子が見られます。腫瘍性病変では、外圧や直接浸潤によって尿道や尿管が狭窄している様子も確認できます。

冠状断像でみると膀胱は著明に拡張し、前立腺腫大を認めることから、前立腺腫大による尿閉であると診断することができます。

診断と鑑別疾患

CTで尿閉の所見を確認した場合、まずはその閉塞のレベルと原因を明確にすることが重要です。鑑別すべき疾患としては以下のようなものが挙げられます:

特に神経因性膀胱では、画像上は尿閉による膀胱拡張や水腎症を示しながらも、明確な機械的閉塞が見られないことが特徴です。

治療方針と画像所見の変化

尿閉に対する初期治療は、尿道カテーテルを挿入して膀胱の減圧を図ることです。これにより腎機能が改善し、画像上でも膀胱、尿管、腎盂の拡張が徐々に軽減します。
CTフォローで水腎症の改善が確認できれば、機能的改善の一指標となります。

一方で、改善が乏しい場合は腫瘍性病変や線維性閉塞などの難治性要因の検索が必要です。

まとめ

尿閉の画像診断においてCTは、原因の特定と病態把握の両面で非常に有効です。特に前立腺肥大や腫瘍性病変、神経因性膀胱など、原因によって所見が微妙に異なる点を押さえることが診断の鍵となります。

特に今回提示したような水腎症・水尿管症・膀胱拡張の三徴候を確認した際は、閉塞レベルと原因精査を進めましょう。

参考文献・出典

  • Gayer G, Zissin R, Apter S, et al. Urinomas caused by ureteral injuries: CT appearance. Abdom Imaging. 2002;27:88–92.
  • 画像診断2021年特集:泌尿器領域 p.172
  • Feinstein KA, Fembach SK. Septated urinomas in the neonate. AJR. 1987;149:997–1000.

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