腹膜播種・癌性腹膜炎は、消化器癌や卵巣癌において頻繁にみられる病態です。

進行癌の診断時点で既に腹膜播種を伴う例も多く、画像診断はその評価において極めて重要な役割を果たします。

そこで、腹膜播種・癌性腹膜炎の病態、発生機序、CTを中心とした画像診断のポイントについて概説します。

腹膜播種・癌性腹膜炎とは?違いは?

  • 一般的に、腹膜播種(peritoneal dissemination/metastasis)とは、がん細胞が腹膜に転移し、結節状に増殖する病態を指す。
  • 一方で癌性腹膜炎(peritoneal carcinomatosis)は、腹膜播種によって広範囲に腹膜が炎症を伴いながら肥厚・硬化し、腹水の貯留がみられる状態を指すことが多い。
  • 腹膜播種と癌性腹膜炎はほぼ同義で使われることもあるが、厳密には上記のように腹膜播種の状態から腹膜が肥厚、硬化をきたし、腹水の貯留が見られる状態を癌性腹膜炎と呼ぶ。

腹膜播種・癌性腹膜炎の発生機序

腹膜播種は、腫瘍細胞が腹腔内へ播種し、腹膜表面に定着・増殖することで生じる。主な原発巣としては、胃癌、大腸癌、卵巣癌が挙げられる。発生機序としては、

  • 直接播種: 原発腫瘍が漿膜を突破し、腹腔内へ脱落する。
  • リンパ行性転移: 腫瘍細胞がリンパ流に乗って腹膜へ到達する。
  • 血行性転移: 血管を介して腹膜へ腫瘍細胞が移行する。

播種の好発部位として、大網、腸間膜、Douglas窩、横隔膜下、肝表面、傍結腸溝が知られている。

腹膜播種を来す原発巣として頻度が高くないものを選べ

  • 肺癌
  • 卵巣癌
  • 胃癌
  • 大腸癌

正解!

不正解...

正解は肺癌です。

腹膜播種は胃癌,卵巣癌,大腸癌などで頻度が高い。

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関連記事:腹水をCT画像で認めた場合の腹膜腔の解剖名は?ダグラス窩?モリソン窩とは?

腹膜播種・癌性腹膜炎の臨床的特徴と症状

腹膜播種の臨床症状は多岐にわたるが、代表的なものとして以下が挙げられる。

  • 腹水貯留: 進行例では腹水の貯留が顕著となり、腹部膨満感を引き起こす。
  • 消化器症状: 腸間膜や腸管への浸潤により、腸閉塞症状や食欲不振が生じる。
  • 疼痛: 腹膜の炎症や腫瘍浸潤により腹痛を伴うことがある。

腹膜播種・癌性腹膜炎のCT画像診断のポイント

CT検査は腹膜播種の評価において中心的な役割を果たす。代表的なCT所見は以下の通りである。

  • 腹膜の肥厚
    • 不整型肥厚: 癌性腹膜炎では結節状の肥厚を示す。
    • (均一型肥厚: 細菌性腹膜炎や結核性腹膜炎にみられる。)
  • 腹水の性状
    • 高濃度または不均一な腹水: 癌性腹膜炎の特徴。
    • 壁在結節の有無: 癌性腹膜炎ではしばしば認められる。
    • 造影効果のある部分: 癌性腹膜炎を示唆する所見。
  • Omental cake(大網ケーキ)の形成
    • 大網が腫瘍浸潤により腫瘤状に肥厚する状態。
    • CTでは腸管と前腹壁の間に不整な軟部腫瘤がみられ、正常の脂肪が消失する。
  • 腸間膜の変化
    • 腸間膜血管束の硬化: 腫瘍が腸間膜に浸潤すると、腸間膜の線維化により放射状の形態を呈する。
    • 腸管の偏位: 腹水が存在するにも関わらず腸管が浮遊せず、中心に寄る特徴的所見。

実際の腹膜播種・癌性腹膜炎のCT画像を見てみましょう。

症例 70歳代男性 膵癌

大網の脂肪織濃度上昇を認め腫瘤状であり、omental cake(大網ケーキ)の状態(もしくはその一歩手前)であることがわかります。

大網への播種を疑う所見です。

また腹水を認め、モリソン窩ではわずかに腹膜の肥厚を認めています。癌性腹膜炎を疑う所見です。

骨盤内では腹膜に沿って所々に不整な肥厚を認めています。

癌性腹膜炎を疑う所見です。

 

症例 70歳代男性 胃癌

引用:radiopedia

大網の脂肪織濃度上昇を認め腫瘤状であり、omental cake(大網ケーキ)の状態です。

また腹水を認め、左傍結腸溝ではわずかに腹膜の肥厚を認めており、癌性腹膜炎を疑う所見です。

 

鑑別診断

CT画像において腹膜播種を疑う場合、以下の疾患との鑑別が必要となる。

  • 感染性腹膜炎: 細菌性、結核性、好酸球性腹膜炎など。
  • 腹膜偽粘液腫: 粘液産生腫瘍により腹腔内にゼリー状物質が貯留。
  • 原発性腹膜癌: 腹膜自体から発生する悪性腫瘍。

診断のための補助画像診断

CTに加えて、MRIやFDG-PETを用いることで診断精度を向上させることができる。

  • MRI(拡散強調像): 高拡散制限領域が腫瘍を示唆する。
  • FDG-PET: 腫瘍の糖代謝活性を評価し、微小な病変の検出に有用。

大網が播種による腫瘍浸潤により腫瘤状に肥厚する状態は何と呼ばれるか?

  • パンケーキ
  • 大網ケーキ
  • 播種ケーキ

正解!

不正解...

正解は大網ケーキです。

大網が播種による腫瘍浸潤により腫瘤状に肥厚する状態を大網ケーキ(omental cake)と呼ぶ。

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参考文献:

  • 臨床放射線 Vol. 67 No. 11 2022 P1392
  • 臨床画像 Vol. 35 No. 2 2019 P159
  • 画像診断 Vol. 41 No. 4 増刊号2021 P167−8
  • 画像診断 Vol.36  No. 4 増刊号2016 P107
  • 画像診断別冊KEY BOOKシリーズ わかる!役立つ!消化管の画像診断 P332-333

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