先に結論:被嚢性腹膜硬化症(EPS)

  • 被嚢性腹膜硬化症は長期間の腹膜透析の後に起こる重い合併症で、腹膜が厚く硬くなり、小腸を繭のように包み込んで腸閉塞を起こします
  • CTでは腹膜のびまん性の肥厚・石灰化、小腸が一か所に集まって膜に包まれる(cocoon)、被包化された腹水が特徴です
  • 腹膜透析の中止後に発症することもあるため、透析歴を確認し、腹膜播種などの石灰化を伴う病変と区別します

硬化性被包性腹膜炎(Encapsulating Peritoneal Sclerosis: EPS/Sclerosing encapsulating peritonitis:SEP)とは?

  • 被嚢性腹膜硬化症(EPS。旧称:硬化性被包性腹膜炎SEP)は、腹膜透析における重篤な合併症の一つ。
  • 腹腔内および腸管周囲に線維化が進行する疾患。
  • 長期間にわたる腹膜透析の後に発症し、腸管が癒着して線維化が進むことで、持続的または間欠的な腸閉塞を引き起こす。
  • 本邦の前向き多施設研究では、4年間の観察で腹膜透析患者の2.5%に発症した(Kawanishi 2004)。その後、中性透析液と計画的な腹膜透析の中止を取り入れた本邦の研究では1.0%と報告されている(Nakayama 2014)。
  • 発生率は腹膜透析期間とともに上昇し、本邦の前向き多施設研究では5年0.7%、8年2.1%、10年5.9%、15年超で17.2%と報告されている。また約2/3は腹膜透析中止後に診断されている。
  • 初期には症状がほとんどみられないが、進行すると腸管が圧迫され、腹痛や嘔吐、下痢、腸閉塞・イレウスといった症状が現れる。

硬化性被包性腹膜炎(EPS/SEP)のCT画像診断

EPS/SEPの診断にはCTが重要であり、以下の所見が特徴的である。

(1) 腹膜の肥厚と石灰化

  • 腹膜がびまん性に肥厚し、造影で増強される。
  • 石灰化が広範囲に認められ、結節状や平滑な形態を示す。

(2) 腸管の癒着と被包化

  • 腹膜の肥厚により腸管が被包化され、小腸が限局的に収縮する。
  • フィブリンを主体とした炎症性被膜により被包化された腸管の形態が「cocoon(繭),abdominal cocoon」と表現されることがある。
  • 小腸の拡張や壁肥厚が伴い、腸閉塞・イレウスの原因となる。

(3) 限局性液体貯留

  • 腹膜に囲まれた局所的な液体貯留がみられる。
  • 腹膜透析液の残留と区別するため、透析終了後の時間経過を考慮する必要がある。

(4) 非特異的な所見

  • CTで所見が乏しい例もあり、画像所見が軽微でも臨床経過から疑うことが求められる。CTスコアの検討では、腸管の係留(tethering)と腹膜石灰化が最も特異的で、被包化腹水(loculation)は鑑別能が最も低い所見であった。また診断の中央値1.5年前のCTは13例中9例で正常〜ほぼ正常であり、CTは診断の補助には有用だがスクリーニングには向かないとされる。

症例 40歳代男性 末期腎不全(ESRD)のため、持続携行式腹膜透析(CAPD)を施行中

 

腹膜の広範な肥厚および石灰化を認めています。

引用:Radiopaedia

被包化された腸管の形態が「cocoon(繭)」のように見えます。

硬化性被包性腹膜炎(EPS/SEP)を疑う所見です。

名称の整理と腹膜透析以外の原因

SEP、abdominal cocoonなど様々な名前がありますが、EPS(被嚢性腹膜硬化症)が推奨される用語とされます(Singhal 2019)。

原因は長期の腹膜透析のほか、細菌性腹膜炎、とくに結核性腹膜炎が重要とされます(Singhal 2019)。

画像検査ではCTが第一選択で、腹部X線はふつう正常、超音波では腸管が根元の狭い「カリフラワー状」に見えることがあります(Singhal 2019)。

硬化性被包性腹膜炎の鑑別診断

腹腔内の石灰化という点では、次のような病変が挙がる。

 腹腔内石灰化を伴う病変

  • 腹腔内遊離体(腹腔ねずみ): 腹膜垂の遊離により形成される境界明瞭な結節状構造。
  • 落下結石: 腹腔鏡下胆嚢摘出術や虫垂炎手術後に腹腔内へ落下した結石。
  • 悪性腫瘍による腹膜播種: 腫瘍の充実成分や結節を伴う。
  • 寄生筋腫(parasitic myoma): 子宮筋腫が腹腔内で遊離・生着し、石灰化を伴うことがある。

 まとめ

EPS/SEPは腹膜透析患者に特異的な疾患であり、CTによる早期診断が重要となる。

腹膜の肥厚や石灰化、腸管の被包化、限局性液体貯留が主な所見であるが、他の疾患との鑑別が不可欠である。

透析歴や臨床経過を踏まえ、総合的な判断が求められる。

被嚢性腹膜硬化症でよくある疑問(Q&A)

Q. 腹膜肥厚とは何ですか?
A. CTで腹膜が厚く見える状態で、EPSのほか腹膜播種・結核性腹膜炎・腹膜中皮腫などでもみられます(Jeong 2008)。

Q. 腹膜透析中の定期的なCTで早く見つけられますか?
A. 発症前のCTは正常に近いことが多く、スクリーニングには向かないとされます(Tarzi 2008)。腹痛・嘔吐などが続くときは主治医に相談してください。

関連記事:腹部CTで石灰化をみたときの鑑別診断は?

参考文献:

  1. 画像診断別冊KEY BOOKシリーズわかる!役立つ!消化管の画像診断 P321
  2. 里上直衛. 第8章 腹膜・腸間膜 Q4 腸間膜や腹腔内に石灰化があった時に考えることは何ですか? 画像診断 41(4):S166-S169, 2021(本記事の参照: P167)
  3. Kawanishi H, Kawaguchi Y, Fukui H, et al. Encapsulating peritoneal sclerosis in Japan: a prospective, controlled, multicenter study. Am J Kidney Dis. 2004;44(4):729-737. PubMed
  4. Tarzi RM, Lim A, Moser S, et al. Assessing the validity of an abdominal CT scoring system in the diagnosis of encapsulating peritoneal sclerosis. Clin J Am Soc Nephrol. 2008;3(6):1702-1710. PubMed
  5. Vlijm A, Stoker J, Bipat S, et al. Computed tomographic findings characteristic for encapsulating peritoneal sclerosis: a case-control study. Perit Dial Int. 2009;29(5):517-522. PubMed
  6. Singhal M, Krishna S, Lal A, et al. Encapsulating Peritoneal Sclerosis: The Abdominal Cocoon. Radiographics. 2019;39(1):62-77. PubMed
  7. Nakayama M, Miyazaki M, Honda K, et al. Encapsulating peritoneal sclerosis in the era of a multi-disciplinary approach based on biocompatible solutions: the NEXT-PD study. Perit Dial Int. 2014;34(7):766-774. PubMed
  8. Jeong YJ, Kim S, Kwak SW, et al. Neoplastic and nonneoplastic conditions of serosal membrane origin: CT findings. Radiographics. 2008;28(3):801-817. PubMed

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