先に結論:メトトレキサート(MTX)脳症のMRI
- MTXは白血病などの抗がん剤や関節リウマチの治療薬として広く使われ、特に大量投与・髄腔内投与・放射線治療との併用で白質脳症を起こすことがあります
- 急性(亜急性)型では突然のまひ・言語障害など脳卒中のような症状で発症し、MRIで大脳白質の拡散強調像の高信号(ADC低下)を示しますが、脳梗塞と違って速やかに改善することが多いのが特徴です。慢性型では両側のびまん性白質病変や石灰化・萎縮が残ります
- 関節リウマチでMTXを使っている人では、MTX関連リンパ増殖性疾患(脳や全身のリンパ腫様病変)にも注意が必要です
メトトレキサート(methotrexate:MTX)とは?
- メトトレキサート(メソトレキセート/メソトレキサート)(methotrexate:MTX)は、ジヒドロ葉酸還元酵素を阻害する葉酸拮抗薬で、DNA合成に必要な葉酸の働きを妨げる。
- 関節リウマチ(RA)をはじめとする自己免疫性疾患、白血病や絨毛癌などの治療に用いられる。
- ホモシステインからメチオニンへの合成経路が阻害されるため、血中ホモシステイン濃度が上昇する。
メトトレキサート脳症(MTX脳症)(methotrexate-related leukoencephalopathy)とは?
- 白質脳症とは、脳の白質(神経線維の通り道)が傷む病態の総称で、薬や毒性物質によるものは中毒性白質脳症と呼ばれ、MRIで見つけやすい(Filley 2017)。MTXは薬剤性白質脳症の代表的な原因薬の一つである。
- 機序は明らかでないが、アデノシンの蓄積、NMDA受容体への興奮作用、ホモシステイン上昇など複数の機序が考えられている。
- MTXの髄腔内あるいは脳室内投与で出現し易く、大量投与および放射線照射との併用により頻度が増す。
- MTXによる脳症は急性、慢性MTX脳症がある。
急性MTX脳症
- 急性MTX脳症では使用後、多くは2週間以内に頭痛、嘔気、倦怠感、精神状態変化などの神経症状が出現する(Inaba 2008)。
- 小児急性リンパ性白血病の前向き研究では、無症状例の約20%にMRIで白質脳症を認め、臨床的な神経毒性を生じたのは3.8%と報告されている。
- 中止後速やかに改善することが多い。
- 突然の片麻痺や運動失調や言語障害で発症することがあり、症状から卒中様症候群(stroke-like syndrome)ともよばれる。
- MRIにて比較的左右対称性の大脳白質病変を認めることが多いが、局所病変、片側の場合や基底核に病変を認めることもある。そのため、脳梗塞と誤診しないように注意が必要。
- 拡散強調像は早期から高信号を示しADC低下を認める。小児がん患者の検討では、急性MTX脳症は大量静注・髄注後2週間以内(中央値7.5日)に発症し、左右が入れ替わる片麻痺など変動する症状を示した。拡散制限は症状に対応する部位にみられ、1〜7日で回復すると消えたが、T2強調像・FLAIRの異常は残ることが多かった。
- 造影T1強調像ではリング状あるいは結節状の増強効果を示すことがある。
- MTX使用後にPRES(Posterior reversible encephalopathy syndrome)や進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML)を発症することが知られている。ADC低下を示す病変も投与中断により急速に改善しうるため、一過性の代謝障害による細胞性浮腫を見ていると考えられている。
- 放射線照射併用や高用量投与、髄腔内投与例で急激な神経症状の悪化をきたす例では、播種性壊死性脳症(disseminated necrotizing encephalopathy:DNE)の可能性があり、深部白質病変に結節状やリング状の増強効果が出現する。播種性壊死性脳症の名称は化学療法による脳症全般で使われるが、MTXに関係するものが最も多い。CT所見で病変に石灰化を伴うことが知られている。画像では播種性壊死性脳症ではより広範な病変となり、生存例では後に石灰化をきたすことが多い。放射線療法との併用では投与後数年の経過で基底核や皮髄境界に異栄養性石灰化を呈することがあり、mineralizing microangiopathyとよばれるが、臨床症状との関連は明らかでない。
症例 成人例

両側左右対称性に半卵円中心に白質変性あり。U-fiberは保たれています。
メトトレキサート脳症と診断されました。
引用:Radiopaedia
慢性MTX脳症
- 慢性MTX脳症では月あるいは年単位の経過で発症し、片麻痺や運動失調などの症状が緩徐に進行する。
- 小児に多く、投与量が多いほど早く発症する傾向があるとされる。
- 放射線治療を併用することで発症頻度が上昇するが、放射線照射に伴う白質脳症との鑑別が困難なことがある。
- 慢性MTX脳症ではT2強調像やFLAIR像では深部白質に斑状の高信号を認め、拡散強調像では信号変化をきたすことは少ない。1回の画像検査のみでは、加齢性変化や、慢性虚血性変化との見分けがつきにくい。
まぎらわしい白質脳症との違い
| MRIの特徴 | 経過 | |
|---|---|---|
| 急性MTX脳症 | 大脳白質の拡散強調像高信号(ADC低下)。症状に対応する部位にみられる | 数日で改善することが多い |
| PRES | 後頭葉・頭頂葉優位の皮質下浮腫(多くはADC低下なし) | 原因の除去で改善することが多い |
| 進行性多巣性白質脳症(PML) | 左右非対称の皮質下白質病変。U-fiberまで及ぶ | 免疫不全を背景に進行する |
| 放射線による白質脳症 | 照射範囲に一致したびまん性の白質病変・萎縮 | 年単位で進むことがある |
放射線治療・ガンマナイフ・化学療法のあとの脳MRI:白質変化と「偽増悪」
MTX脳症は、放射線治療を併用した脳で起きやすく、画像でも放射線による変化と重なります。治療後の脳MRIで出会う主な変化を整理します。
| 変化 | 時期の目安 | MRIのポイント |
|---|---|---|
| 放射線による白質脳症 | 照射から6か月以降に認知機能の低下とともに | 前頭部優位に広がるFLAIR高信号、脳萎縮、T2*強調像の小さな信号欠損。脳小血管病に似る(Bompaire 2018) |
| 定位放射線治療(ガンマナイフなど)後の白質変化 | 治療後1年〜数年 | 転移性脳腫瘍のSRS後の白質脳症は、1年で29%、2年で38%、3年で53%。全脳照射の併用、SRSの積算線量、転移の個数が関連(Trifiletti 2015) |
| 偽増悪(pseudoprogression) | 放射線治療後12週間以内に多い | 造影される病変が一時的に増えたり大きくなって見えるが、腫瘍の再発ではない(RANO 2.0、Wen 2023) |
| 放射線壊死 | 照射から数か月〜年単位 | 再発腫瘍との区別が難しい。拡散制限と脳血液量(rCBV)の上昇は、壊死より再発腫瘍に多い(Shah 2012) |
「再発か壊死か」を考えるときの手がかり
放射線壊死と再発腫瘍は、通常のMRI所見が大きく重なり、病理でも腫瘍と壊死が混ざっていることがよくあります。照射の計画(範囲・線量・種類)、原発巣の部位、照射からの経過時間などの情報が、とても重要です。拡散強調像や灌流画像、MRスペクトロスコピー、PETなどの補助的な検査も役立ちます(Shah 2012)。
治療のあとの評価:RANO 2.0
膠芽腫などの神経膠腫の治療効果の評価に使われるRANO基準は、2023年にRANO 2.0へ改訂されました。新規診断では、手術後ではなく放射線治療後のMRIを基準とし、偽増悪が多い放射線治療後12週間以内は、治療を続けたうえで、再度のMRIや病理で進行を確認することが必要とされました(Wen 2023)。膠芽腫130例では、偽増悪の頻度はRANO基準で15%でした(Kucharczyk 2017)。
Q. 治療のあとに脳MRIで造影される病変が増えたら、再発ですか?
A. 放射線治療後12週間以内は偽増悪が多く、すぐに再発とは言えません。治療を続けて再度のMRIで確認します(Wen 2023)。時間がたってからの変化は、壊死と再発の区別が難しいため、拡散強調像、灌流画像、PETなども使って総合的に判断します(Shah 2012)。
Q. MTX脳症と放射線による白質脳症は、どう見分けますか?
A. 急性MTX脳症は、投与後2週間以内に症状が出て、症状に一致する部位に拡散制限がみられ、数日で改善します(Inaba 2008)。一方、放射線による白質脳症は、照射から6か月以降に認知機能の低下などで気づかれ、びまん性のFLAIR高信号や萎縮が持続します(Bompaire 2018)。MTXと放射線を併用すると、両方の影響が重なることがあります。
がんの治療中や治療後に、頭痛、物忘れ、手足の動かしにくさなどの症状が出たときは、早めに主治医に相談してください。
メトトレキサート脳症でよくある疑問(Q&A)
Q. 急性MTX脳症はどのくらいで回復しますか?
A. 小児がん患者8例の検討では、全員が1〜7日(中央値5.5日)で回復しました。ただしT2強調像・FLAIRの異常は残ることが多いとされます(Inaba 2008)。また症状が出た患者の多くは、その後のMTX再投与で再発しませんでした(Bhojwani 2014)。
Q. 頭痛も症状の一つですか?
A. はい。同じ検討では8例中3例に頭痛がみられ、片麻痺や言葉の障害、混乱などとともに出ることがあります(Inaba 2008)。MTXを使っていて頭痛や手足の動かしにくさ、言葉の出にくさが出たときは、すぐに主治医に相談してください。
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参考文献:
- 片瀬 七朗, 土屋 一洋. 中枢神経 脱髄/変性疾患. 臨床画像 34(13):79-99, 2018(4月増刊号)(本記事の参照: P91-2)
- 山本 麻子, 住田 薫, 豊田 圭子, 大場 洋. 中枢神経領域における中毒,代謝疾患の紛らわしい画像所見. 臨床放射線 63(6):665-674, 2018(本記事の参照: P665)
- 頭部画像診断の勘ドコロ P235
- 頭部 画像診断の勘ドコロ NEO P237-9
- Bhojwani D, Sabin ND, Pei D, et al. Methotrexate-induced neurotoxicity and leukoencephalopathy in childhood acute lymphoblastic leukemia. J Clin Oncol. 2014;32(9):949-59. PubMed
- Inaba H, Khan RB, Laningham FH, et al. Clinical and radiological characteristics of methotrexate-induced acute encephalopathy in pediatric patients with cancer. Ann Oncol. 2008;19(1):178-84. PubMed
- Filley CM, McConnell BV, Anderson CA. The Expanding Prominence of Toxic Leukoencephalopathy. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2017;29(4):308-318. PubMed
- Bompaire F, Lahutte M, Buffat S, et al. New insights in radiation-induced leukoencephalopathy: a prospective cross-sectional study. Support Care Cancer. 2018;26(12):4217-4226. PubMed
- Trifiletti DM, Lee CC, Schlesinger D, et al. Leukoencephalopathy After Stereotactic Radiosurgery for Brain Metastases. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2015;93(4):870-8. PubMed
- Shah R, Vattoth S, Jacob R, et al. Radiation necrosis in the brain: imaging features and differentiation from tumor recurrence. Radiographics. 2012;32(5):1343-59. PubMed
- Wen PY, van den Bent M, Youssef G, et al. RANO 2.0: Update to the Response Assessment in Neuro-Oncology Criteria for High- and Low-Grade Gliomas in Adults. J Clin Oncol. 2023;41(33):5187-5199. PubMed
- Kucharczyk MJ, Parpia S, Whitton A, et al. Evaluation of pseudoprogression in patients with glioblastoma. Neurooncol Pract. 2017;4(2):120-134. PubMed
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