先に結論:5-FU脳症
- 5-FU脳症は5-FUやその仲間の抗がん剤(テガフール・カルモフール・カペシタビンなど)で起こる白質脳症で、投与後数日〜数週に意識障害・構音障害・ふらつきで発症します
- MRIでは脳梁・大脳深部白質の左右対称のDWI高信号(ADC低下)が特徴で、皮質直下のU線維は保たれます
- 抗がん剤の投与歴の確認が診断の第一歩です。原因薬剤を中止すると回復した報告が多く、DPD(5-FUの分解酵素)欠損の確認も重要です(Perrain 2021)
5-FU(5-fluorouracil)とは?
- 5-フルオロウラシル(5-fluorouracil:5-FU)はフッ化ピリミジン系の代謝拮抗薬に分類される抗癌剤。
- 誘導体であるカルモフールやテガフール、プロドラッグであるカペシタビンを含む。
- 胃癌、結腸癌などの消化器系癌や頭頸部癌、子宮頸癌などに広く用いられている。
- テガフール・カルモフールの代謝産物(フルオロ酢酸など)は、培養実験で髄鞘を直接傷害した(Akiba 1996)。フルオロ酢酸はクエン酸からイソクエン酸へ変換する酵素アコニット酸ヒドラーゼ(アコニターゼ)を阻害してTCA回路を障害する物質で、この機序も推測されている。
- 発症までの期間は、薬剤の種類・1日量・投与期間・併用治療によって異なる(Mizutani 2008)。5-FU・カペシタビンでは初回コース開始から3日以内に発症した報告がある(Perrain 2021)。
- カルモフールによる白質脳症の推定発現率は0.026%と報告されている(Mizutani 2008)。テガフール・カルモフールは大脳白質の白質脳症を起こすことが知られている(Akiba 1996)。
- 5-FUの分解酵素DPD(ジヒドロピリミジン脱水素酵素)の欠損があると5-FUの毒性が強く出やすく、白質脳症の後に再投与を考える場合はDPD欠損の除外が前提とされている(Perrain 2021)。
- カルモフールによる白質脳症の症状は歩行障害が最も多く、次いで構音障害、認知機能の低下の順で、進行すると昏睡に至る(Mizutani 2008)。5-FU・カペシタビンでは歩行の失調、構音障害、錯乱などで発症した(Perrain 2021)。
- 病理学的には大脳白質の病巣では髄鞘の破壊がみられる一方、軸索やU-fiberは比較的保たれる。
5-FU脳症(5-FU-induced encephalopathy)のCT、MRI画像所見
- 画像所見はCT検査では左右対称性の広範囲の深部白質の低吸収域が見られる。
- MRI検査では比較的早期から大脳深部白質にT2強調像やFLAIR像で左右対称性の高信号が見られ(この際にU-fiberは保たれる)、脳梁に病変が見られるのが特徴的である。他、中小脳脚や両側の皮質脊髄路に沿って見られた報告もある(Tan 2016)。
- DWIが早期に有用で脳梁の病変は明瞭な高信号を示す傾向がある。(DWIの高信号は髄鞘の層間剥離、空胞変性、浮腫(髄鞘内浮腫)が推測されている。軸索は保たれる)急性期には病変部はADC低下を認める。
- 画像上は異常を認めない症例もある。フランスの医薬品安全性監視データベースの検討では、5-FU・カペシタビンの初回コース開始から3日以内に失調・構音障害などで発症し、脳梁に拡散制限を伴うT2/FLAIR高信号(造影効果なし)を認めた。薬剤中止により中央値8.5日で全例の症状が回復し、MRI所見も正常化していった。
- T2強調像の大脳白質の高信号はほかの多くの病気でもみられ(Matsumoto 1995)、一酸化炭素中毒などほかの中毒性・代謝性の白質脳症(Shah 2022)とも似るため、薬剤投与歴の確認が第一である。加齢による脳室周囲の高信号との区別にはDWIが役立つと報告されている(Fujikawa 2001)。
白質脳症を起こす主な抗がん剤
- 大脳白質を主に侵す白質脳症の原因として、カルモフール、フルオロウラシル(5-FU)、テガフール、シタラビン、シスプラチン、メトトレキサートなどが挙げられている(Mizutani 2008)。
- 治療で最も大切なのは、原因薬剤をすぐに中止することである(Mizutani 2008)。
症例 50歳代男性 大腸癌遠隔転移にて5-FU使用中

脳梁膨大部および膝部、両側深部白質に異常な高信号を認めています。
U-fiberは保たれています。
5-FU脳症と診断されました。
引用:Radiopaedia
5-FU脳症でよくある疑問(Q&A)
Q. 5-FU脳症は治りますか?
A. フランスの医薬品安全性監視データベースの6例では、原因薬剤の中止で全例が回復しました(Perrain 2021)。一方、カルモフールの白質脳症は進行すると昏睡に至ることがあり(Mizutani 2008)、早期の診断が大切です。
抗がん剤治療中にふらつきやろれつが回らないなど気になる症状があれば、すぐに主治医にご相談ください。
関連記事:薬剤性脳症の原因薬剤と主な障害部位
参考文献:
- 片瀬 七朗, 土屋 一洋. 中枢神経 脱髄/変性疾患. 臨床画像 34(13):79-99, 2018(4月増刊号)(本記事の参照: P90)
- 山本 麻子, 住田 薫, 豊田 圭子, 大場 洋. 中枢神経領域における中毒,代謝疾患の紛らわしい画像所見. 臨床放射線 63(6):665-674, 2018(本記事の参照: P665-666)
- 頭部 画像診断の勘ドコロ NEO P241
- Perrain V, Bihan K, Bompaire F, et al. Leukoencephalopathy with transient splenial lesions related to 5-fluorouracil or capecitabine. Eur J Neurol. 2021;28(7):2396-2402. PubMed
- Tan MB, McAdory LE. Capecitabine-induced leukoencephalopathy involving the bilateral corticospinal tracts. J Radiol Case Rep. 2016;10(3):1-10. PubMed
- Mizutani T. [Leukoencephalopathy caused by antineoplastic drugs]. Brain Nerve. 2008;60(2):137-41. PubMed
- Akiba T, Okeda R, Tajima T. Metabolites of 5-fluorouracil, alpha-fluoro-beta-alanine and fluoroacetic acid, directly injure myelinated fibers in tissue culture. Acta Neuropathol. 1996;92(1):8-13. PubMed
- Matsumoto S, Nishizawa S, Murakami M, et al. Carmofur-induced leukoencephalopathy: MRI. Neuroradiology. 1995;37(8):649-52. PubMed
- Fujikawa A, Tsuchiya K, Katase S, et al. Diffusion-weighted MR imaging of Carmofur-induced leukoencephalopathy. Eur Radiol. 2001;11(12):2602-6. PubMed
- Shah NR, Tavana S, Opoku A, et al. Toxic and metabolic leukoencephalopathies in emergency department patients: a primer for the radiologist. Emerg Radiol. 2022;29(3):545-555. PubMed
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