子宮頸癌のFIGO2018進行期分類とMRI画像所見の対応
婦人科癌の進行期分類にはFIGO分類(International Federation of Gynecology and Obstetrics)が世界的に用いられています。
そのFIGO分類が2018年に改訂され、日本でもそれを踏まえ、取り扱い規約4版臨床編において、進行期分類の決定のためにCTやMRI,FDG-PETなど画像診断が追加されました。
今回は、2018年に改訂された子宮頸癌のFIGO2018進行期分類とそれに対応するMRI画像所見についてまとめました。
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Ⅰ期:頸部に限局
Ⅰ期の分類は以下の様に顕微鏡的なⅠAと画像で確認できるⅠBに分けられます。
ⅠA:顕微鏡的
- ⅠA1:間質浸潤の深さ≦3mm
- ⅠA2:間質浸潤の深さ>3mm、≦5mm
ⅠB:ⅠAを越える
腫瘍の最大径によって以下のように分類されます。
- ⅠB1≦2cm
- ⅠB2>2cm,≦4cm
- ⅠB3>4cm
FIGO2018で2cmという項目が追加されました。
なぜ2cmという項目が追加されたのか?
- 2cmというサイズが予後因子であるから(ⅠB1期はⅠB2期よりも予後が2倍よく、再発率が低いことがわかったから)
- ⅠB1期広範子宮頸部摘出術と呼ばれる妊孕能温存手術の適応となるため。
関連:広範子宮頸部全摘術(Radical trachelectomy)とは?
Ⅱ期:頸部をこえるが骨盤壁や腟壁下1/3には達さない
Ⅱ期の分類は以下の様になります。
- ⅡA:腟壁浸潤が膣壁上2/3に限局していて、子宮傍組織への浸潤を認めないもの。
- ⅡB:子宮傍組織浸潤あり
ⅡA期はさらに腫瘍のサイズによってⅡA1期とⅡA2期に分けられます。
- ⅡA1≦4cm
- ⅡA2>4cm
MRIでは、膣壁のT2WI低信号が腫瘤によって消失してしまう所見を多方向から捉えます。
腟内に突出していても、膣壁のT2WI低信号が保たれていれば、Ⅰb期となります。
ⅡB期に相当する傍組織浸潤の有無は治療法選択に大きく影響があります。
この部位を評価数する際には、頸管に対して垂直な斜断面が有用で、これによりMRIの正診率は80-87%となることが報告されています。
傍組織浸潤の有無の判断には、頚部間質のドーナツ型の低信号(=Stromal ring)に着目することが重要です。
腫瘍とこのStromal ringとの関係で深達度が決まります。
まず、腫瘍がStromal ringに浸潤しているが、全層性の断裂はない場合は、definitive ⅠBとなります。(full stromalと呼ばれる。)
次に、全層性の断裂を認めるが、辺縁は整であり、傍組織への突出がない場合は、suggestive ⅠBとなります。
これは、顕微鏡的浸潤がある場合があり、正診率が60%程度と報告されています。
最後に、傍組織への突出もしくは辺縁に不整を認めた場合、これは傍組織浸潤があると判断でき、ⅡBとなります。
ただし、傍組織と頚部間質の境界がわかりにくい症例もあるので注意が必要です。
その場合、傍組織は動静脈が走行しておりT2WI高信号の静脈や動脈のflow voidなども参考にしながら境界を考えます。つまり、太い血管に腫瘍が進展している所見を認めた場合は少なくとも傍組織浸潤ありと判断できます。
Ⅲ期:骨盤壁または腟壁下1/3に達する
次にⅢ期の分類は以下の様になります。
- ⅢA:下1/3に達する腟壁浸潤
- ⅢB:骨盤壁浸潤、水腎症・無機能腎 ※骨盤壁とは内・外腸骨血管の内側のラインを指す。
- ⅢC:リンパ節転移
- ⅢC1:骨盤内リンパ節転移
- ⅢC2:傍大動脈リンパ節転移
ⅢAかどうかの評価:腟壁浸潤の程度について
まず腟壁に浸潤しているかどうか、そしてそれが腟の下1/3まで達しているかどうかで分類します。
腟壁浸潤があるけれど、腟壁下1/3に到達していない場合はⅡAとなります。
一方で、腟壁浸潤があり、腟壁下1/3に到達してる場合はⅢAとなります。
ⅢBかどうかの評価:骨盤壁浸潤の有無について
腫瘍が外側に進展して骨盤壁に達するかどうかでⅢBか否かが決定されます。
傍組織への進展を認めるが、骨盤壁に及ばない場合は、ⅡBとなります。
一方で骨盤壁に到達している場合は、ⅢBとなります。
では、骨盤壁に到達するとはどういった画像所見から判断すればいいのでしょうか?
子宮頸癌取り扱い規約では、内外腸骨血管の内側のラインに達する場合に骨盤壁浸潤と判断すると記載があります。
骨盤壁浸潤は、臨床的に内診によって腫瘍と骨盤壁の間にcancer free spaceを触知できるかによって、決定されます。
MRIでは、
- 骨盤骨や骨盤壁の筋に直接浸潤がある
- 腫瘍が傍組織を置換している
- 腫瘍から索状構造が伸びており、内腸骨動静脈に達している
- 水腎症や水尿管がある
場合に、骨盤壁浸潤がありと判断されます。
ⅢC:リンパ節転移について
リンパ節転移についてはFIGO2018進行期分類から定義されました。
子宮頸癌の領域リンパ節には、
基靭帯(傍組織)、閉鎖、外腸骨、内腸骨、総腸骨、仙骨、鼠径上(鼠径靭帯の頭側にある骨盤のリンパ節)
そして傍大動脈が含まれます。
リンパ行性転移の経路としては、原発巣から傍組織、閉鎖リンパ節、総腸骨リンパ節、傍大動脈リンパ節といく経路が重要です。
傍大動脈リンパ節転移は以下のようにⅢC2期と分類されます。
- ⅢC1:骨盤内リンパ節転移
- ⅢC2:傍大動脈リンパ節転移
※閉鎖リンパ節とは?
閉鎖リンパ節は「外腸骨血管の背側で、閉鎖孔及び閉鎖神経、閉鎖動静脈周囲にあるもの」と定義されます。
目安としては、外腸骨血管、内腸骨血管の間にある脂肪織の領域と考えればOKです。
Ⅳ期:膀胱・直腸粘膜浸潤または小骨盤腔を越えた広がり
最後にⅣ期については以下の通りです。
- ⅣA:膀胱・直腸粘膜への浸潤
- ⅣB:小骨盤腔を越えた広がり
膀胱もしくは直腸粘膜への浸潤
子宮の前方には膀胱があり、後方には直腸があります。
これらの粘膜に浸潤した場合にⅣAと診断できます。
粘膜への浸潤と定義されていますので、膀胱や直腸の筋層が残っている場合は、粘膜への浸潤とは判定できない点に注意が必要です。
小骨盤腔を越えた広がり
血行性転移としては、肺・肝・骨、腰椎に多いです。
またリンパ行性転移をしやすい腫瘍とされており、骨盤内から傍大動脈のリンパ節転移を越えて進むと遠隔転移とみなされ、左鎖骨上窩が好発部位、そして逆行性に縦隔リンパ節への転移が起こることもあります。
FIGO2018進行期分類と治療法の関係
FIGO2018進行期分類と治療法の関係は以下の通り。
- ⅠA期:子宮頸部円錐切除術、単純/準広汎子宮全摘出術±PEN、放射線治療
- ⅠB期、Ⅱ期:広汎子宮全摘出術+PEN±PAN(NACを考慮)±術後補助療法、放射線治療、同時化学放射線治療
- Ⅲ期:同時化学放射線治療(※ただしⅢC期は上のⅠB,Ⅱ期の治療がされることがある)
- Ⅳ期:化学療法など(※ただし同時化学放射線治療がなされることがある。)
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参考文献:
- 画像診断 Vol.40 No.13 2020 P1289-1298
- 画像診断 Vol.41 No.10 2021 P1067-1075
- 症例から学ぶ産婦人科疾患の画像診断P110
- 婦人科MRIアトラス改訂第2版 P65
- 子宮頸癌治療ガイドライン2017版