先に結論:血管周囲腔(Virchow-Robin腔)とラクナ梗塞の違い
- 血管周囲腔は、脳に入る細い血管のまわりの液体で満たされたすき間で、多くは病気ではない正常の構造です。年齢とともに目立ち、基底核の下の方・大脳白質・中脳・海馬によく見られます
- MRIでは脳脊髄液と同じ信号(T2で白、FLAIRで黒)で、多くは径3mm未満の小さく整った丸〜線状、血管に沿うのが特徴です
- 陳旧性脳梗塞(古い脳梗塞)は、FLAIRで中が黒く(髄液と同じ)、縁が白いのが典型で、血管周囲腔より大きく形が不整なことが多いです
- ラクナ梗塞は、FLAIRで周囲に白い縁(グリオーシス)があることが多く、基底核の上2/3に多いことが区別の手がかりです。血管周囲腔が非常に多い場合は、高血圧などによる脳の小血管の病気のサインのことがあります
血管周囲腔(Perivascular space)とは?
- 脳の中に入る血管(穿通動脈・髄質動脈)のまわりの、脳脊髄液と同じ液体で満たされたすき間を血管周囲腔(Virchow-Robin腔:ウィルヒョウ・ロビン腔)といい、血管拍動などの影響で拡大して見えることがある。
- 血管拍動の影響の他、血液脳関門の障害に伴って血管透過性が亢進したり、アミロイドβタンパクが大脳皮質や軟髄膜の動脈壁に沈着して間質液の還流路が遮断され、その上流の血管周囲腔に間質液が貯留するためとも考えられている。
- 大脳白質(前頭葉、頭頂葉)、基底核、海馬、中脳に好発する。
- 正常変異であり、脳梗塞との鑑別が問題になることがある。2023年に改訂されたSTRIVE-2では、血管周囲腔は通常径3mm未満の脳小血管病の画像マーカーとして定義され、基底核と半卵円中心でその数を評価することが推奨されている。
血管周囲腔のMRI画像所見
- 辺縁明瞭、整形で均質、通常径は3mm未満(基底核下部ではより大きいことがある)。
- 穿通動脈や髄質動静脈の走行に沿う。
- 穿通枝領域などでは、時に内部に血管構造を確認することができる。
- T2強調像で高信号、T1強調像で等〜低信号、FLAIRで等〜低信号で、辺縁に高信号を伴わない。
- 血管周囲腔の拡大が集簇して、基底核全体にびまん性に淡い高信号=etat cribleと表現される。
- 稀に多房性の病変を含んで多発性に著明に拡大することがあり、嚢胞性腫瘤との鑑別を要することがある。
- 海馬では側脳室下角内側の歯状回とアンモン角CA1の間に好発する。しばしば多発性、両側性。
症例 60歳代女性 スクリーニング

左基底核下部にT2強調像で類楕円形の高信号あり。
MRAの元画像で内部に血管の走行を認めています。
典型的な血管周囲腔の所見です。
内部に血管が走行している様子を動画でチェックする。
ラクナの場合、辺縁にFLAIRやT2強調像でグリオーシスを反映した信号上昇あり。
血管周囲腔ではなし。
また、血管周囲腔は被殻の下1/3に分布、ラクナ梗塞は上2/3に分布することが多い。
基底核下1/3、特に前交連外側の被殻外側下方では、5mmを超えることが少なくない。
※神経膠症(グリオーシス)とは?→外傷や虚血、感染などによって生じるグリア細胞の反応
症例 80歳代女性 陳旧性脳梗塞と血管周囲腔が同じスライスである症例。
血管周囲腔の鑑別診断
| ラクナ梗塞 | 白質病変 | 血管周囲腔 | |
| T1強調像 | 低信号 | 等〜低信号 | 等〜低信号 |
| T2強調像 | 明瞭な高信号 | 高信号 | 高信号 |
| FLAIR | 等〜高信号時に、低信号 | 明瞭な高信号 | 等〜低信号 |
| 周囲 | T2WI,FLAIRにて不規則な高信号 (グリオーシスを反映) |
周囲に高信号を伴わない。 | |
| その他 | 最大径3mm〜15mm | 3mm以下 |
陳旧性脳梗塞のMRI所見と血管周囲腔の見分け方
- 陳旧性脳梗塞は組織が髄液に置き換わるため、T1強調像で低信号、T2強調像で高信号、FLAIRでは中心が髄液と同じ低信号で、縁にグリオーシスの高信号を伴うのが典型です。大きな梗塞では脳回の萎縮や脳室の引き込みを伴います。
- 拡散強調像は急性期の梗塞で高信号となり、陳旧性梗塞や血管周囲腔では高信号になりません。
- 拡大した血管周囲腔は、基底核の下部(レンズ核線条体動脈に沿う)、高位円蓋部〜半卵円中心の白質(髄質動脈に沿う)、中脳に多く見られます(Kwee 2007)。半卵円中心は、側脳室体部より上の高さに広がる大脳白質です。
放線冠や半卵円中心などで血管周囲腔が目立つ症例(70代女性)

動画でチェックする
動画で学ぶetat crible
遺残海馬溝が見える症例
海馬では側脳室下角内側の歯状回とアンモン角CA1の間に好発する。しばしば多発性、両側性。=遺残海馬溝

動画で学ぶ海馬溝遺残
血管周囲腔と間違えやすい「偽病変」:髄液・流れ・撮像条件による見かけの異常
脳MRIには、病気ではないのに病変のように見える所見があります。血管周囲腔のほかに、頻度の高いものを整理します。
| 見かけの異常 | 原因 | 見分けのポイント |
|---|---|---|
| FLAIRで脳溝・脳槽の髄液が白い | 酸素吸入や麻酔薬。全身麻酔中の小児20人では、酸素100%で全員の髄液が高信号になり、30%に下げると脳底槽と脳溝で部分的に、または全く見えなくなりました(Frigon 2004)。健常者6人の酸素吸入でも信号は約4〜5.3倍になりました(Anzai 2004)。プロポフォール麻酔の小児13人は全員に出ました(Filippi 2001) | くも膜下出血や髄膜炎と紛らわしい。麻酔・酸素投与の有無を確認する |
| 脳室の中がFLAIRで白い | 髄液の拍動によるアーチファクト。0.3Tの低磁場装置の202例では33例(16.3%)に出て、第4脳室が最も多く、脳室が小さい人や若い人で多くなりました(Ogbole 2016) | 脳室の中にとどまり、位相エンコード方向に脳の中へは広がらなかった(Ogbole 2016) |
| 3D FLAIRで見え方が違う | 94病変の比較で、多くの病変は2D FLAIRと同等以上でしたが、海馬硬化と軟膜転移では同等以下で、もやもや病のivy signは3Dで見えにくくなることが多くありました(Kakeda 2012) | 3Dで見えないときは、2D FLAIRなど他の撮像も確認する |
| 側脳室のまわりの淡い高信号(キャップ・バンド) | 加齢に伴う生理的な変化。病的な白質病変や拡大した血管周囲腔とは分けて読みます(Barkhof 2002) | 脳室の前角・後角の端に限られる淡い変化は生理的なことが多い |
| 静脈洞の中の欠損 | くも膜顆粒、静脈の中隔、撮像上のアーチファクトが、静脈洞血栓と紛らわしいことがあります(Zedde 2025) | MRVだけで血栓と決めず、他の撮像とあわせて判断する。くも膜顆粒、脳静脈洞血栓症の記事も参照 |
血管周囲腔か、病変か、見かけの異常かで迷ったときは、T2強調像・FLAIR・拡散強調像など複数の撮像で同じ場所を追えるか、血管に沿っているか、別の断面でも再現されるかを確かめます。
血管周囲腔拡大をきたす疾患1)
- ムコ多糖症
- 伊藤白斑
- Lowe症候群
- クリプトコッカスなど
関連記事:大脳皮質下に嚢胞性病変が集簇してみられるMVNTとは?
血管周囲腔でよくある疑問(Q&A)
Q. 血管周囲腔の拡大は病気ですか?
A. 多くは年齢とともに見られる正常の構造です。ただし数が非常に多い場合は、脳の小血管の病気の画像マーカーとして扱われます(STRIVE-2)。
Q. état criblé(エタ・クリブレ)とは?
A. 基底核に拡大した血管周囲腔がたくさん集まり、ふるい(篩)の目のように見える状態を表すフランス語です。
Q. FLAIRで脳溝が白く見えるのは、くも膜下出血ですか?
A. 出血のこともありますが、高濃度の酸素吸入や麻酔薬でも髄液が白く見えることがあります(Frigon 2004; Filippi 2001)。強い頭痛などの症状や経過とあわせて、医師が判断します。
Q. 脳室の中がFLAIRで白く見えるのは病気ですか?
A. 髄液の拍動によるアーチファクトでも白く見えます。低磁場装置の検討では、脳室が小さい人や若い人で多く、脳室の中にとどまっていました(Ogbole 2016)。
参考文献:
- 頭部画像解剖 徹頭徹尾-疾患を見極め的確に診断する P54
- 画像診断 Vol.42 No.11 増刊号 2022 P26-7
- PMC6839481
- Duering M, Biessels GJ, Brodtmann A, et al. Neuroimaging standards for research into small vessel disease-advances since 2013. Lancet Neurol. 2023;22(7):602-618. PubMed
- Kwee RM, Kwee TC. Virchow-Robin spaces at MR imaging. Radiographics. 2007;27(4):1071-86. PubMed
- Bokura H, Kobayashi S, Yamaguchi S. Distinguishing silent lacunar infarction from enlarged Virchow-Robin spaces: a magnetic resonance imaging and pathological study. J Neurol. 1998;245(2):116-22. PubMed
- Frigon C, Shaw DW, Heckbert SR, et al. Supplemental oxygen causes increased signal intensity in subarachnoid cerebrospinal fluid on brain FLAIR MR images obtained in children during general anesthesia. Radiology. 2004;233(1):51-5. PubMed
- Anzai Y, Ishikawa M, Shaw DW, et al. Paramagnetic effect of supplemental oxygen on CSF hyperintensity on fluid-attenuated inversion recovery MR images. AJNR Am J Neuroradiol. 2004;25(2):274-9. PubMed
- Filippi CG, Ulug AM, Lin D, et al. Hyperintense signal abnormality in subarachnoid spaces and basal cisterns on MR images of children anesthetized with propofol: new fluid-attenuated inversion recovery finding. AJNR Am J Neuroradiol. 2001;22(2):394-9. PubMed
- Ogbole GI, Soneye MA, Okorie CN, et al. Intraventricular cerebrospinal fluid pulsation artifacts on low-field magnetic resonance imaging: Potential pitfall in diagnosis? Niger Med J. 2016;57(1):59-63. PubMed
- Kakeda S, Korogi Y, Hiai Y, et al. Pitfalls of 3D FLAIR brain imaging: a prospective comparison with 2D FLAIR. Acad Radiol. 2012;19(10):1225-32. PubMed
- Barkhof F, Scheltens P. Imaging of white matter lesions. Cerebrovasc Dis. 2002;13 Suppl 2:21-30. PubMed
- Zedde M, Pascarella R. Non-Thrombotic Filling Defects in Cerebral Veins and Sinuses: When Normal Structures Mimic a Disease. Neurol Int. 2025;17(1). PubMed
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FLAIRでは同じ様に周りがLowでもT2*を撮ってみるとmicrobleedsだと分かることもあるよー
Mr.ひろしのMR様
ありがとうございます。おっしゃる通りです。
いつもお世話になっております。
海馬溝遺残と同様の位置の側脳室内側に有る血管周囲腔の、MRA元画像が無く内部に動脈が見えない時の、鑑別ポイントをご教示いただきたいです。この違いがよく分かりません。
MRA元画像などで内部の動脈はむしろ見えないことの方が多いです。
側脳室内側の血管周囲腔は場所から判断します。
ご回答くださりありがとうございます!