先に結論:卵巣静脈血栓

  • 卵巣静脈血栓は産後(特に帝王切開後)・骨盤の手術後・骨盤内感染・悪性腫瘍で起こり、約7〜8割が右側です
  • CTでは拡張した卵巣静脈の中の造影欠損として見え、産後の発熱・右下腹部痛では虫垂炎・腎盂腎炎とともに鑑別に挙げます
  • 婦人科がんの術後などで無症状で見つかるものは多くが経過観察ですが、腎静脈・下大静脈への進展や感染(敗血症性血栓性静脈炎)があれば抗凝固療法・抗菌薬を考えます

卵巣静脈血栓

・卵巣静脈内の血栓は、産褥期の合併症としてしばしば起こる。

・妊娠関連では妊娠の0.01-0.18%に合併し、分娩・流産後2〜6日ごろに好発する(Riva 2020)。帝王切開後の頻度は0.19%とまとめられている(Monnet 2024)。

・妊娠中の凝固能の亢進、分娩後の血流低下、静脈の障害、細菌感染などが原因で起こる。

・他には、子宮卵巣術後、外傷後、骨盤内感染症に偶然に卵巣静脈血栓が発見されることがある。

・悪性腫瘍で子宮卵巣術後(子宮付属器切除、後腹膜リンパ節郭清後)のCTで無症状の患者の8割に卵巣静脈血栓を認めたという報告もあり(Yassa 1999)。

・また悪性腫瘍に伴い凝固能異常が起こり、深部静脈血栓をきたすことがあり、Trousseau症候群と言われる。卵巣癌、特に明細胞癌に多いとされる。進行した明細胞癌では2年間の静脈血栓塞栓症の累積発生率が43.1%と、進行した漿液性癌(16.2%)より高かった(Matsuo 2015)。

卵巣静脈血栓の原因

  • 妊娠・産褥期、経口避妊薬
  • 悪性腫瘍(卵巣癌などの婦人科がん)
  • 子宮卵巣術後、外傷後、骨盤内感染症

原因が見当たらない例も4〜16%あります(Riva 2020)。

卵巣静脈血栓の画像診断

・卵巣静脈血栓の70-80%は右卵巣静脈に生じる(Riva 2020)。

・単純CTでは、拡張した静脈の内腔に高吸収〜等吸収の血栓を認める。

・造影CTにて卵巣静脈内に血栓に伴うdefectを認める。

・MRIでも血栓を確認でき、診断能はMRIが最も高く、CTがそれに次ぐとまとめられている(Monnet 2024)。

産後の発熱・右下腹部痛では卵巣静脈を下から上まで追う

産後の卵巣静脈血栓は、発熱と右下腹部痛という虫垂炎や腎盂腎炎と似た症状で受診するため、画像の前に疑われていないことが多い病気です。

  • 10年間に画像で確定した産後卵巣静脈血栓9例の検討では、症状が出てから診断までの平均は3.3日で、画像検査の前に卵巣静脈血栓を疑われていたのは2例(22.2%)だけでした。1例は肺塞栓、1例は尿管の圧迫を合併していました。著者らは、卵巣静脈血栓を探す目的をはっきりさせた造影CTを確定診断と他疾患の除外に勧めています(Lebon 2022)。
  • 産後20日目の右下腹部痛で、CTから虫垂炎と考えて腹腔鏡手術を行ったところ、炎症を起こしていたのは右の骨盤漏斗靱帯(卵巣静脈の通り道)で、卵巣静脈血栓性静脈炎だった例も報告されています(Cunningham 2026)。

読影のコツは、右卵巣静脈を骨盤(子宮の横)から腰筋の前を上って下大静脈に入るところまで、冠状断も使って連続で追うことです。拡張して内部が造影されない管状構造があれば卵巣静脈血栓を考え、血栓の上端が下大静脈や(左側なら)左腎静脈に及んでいないか、肺動脈に塞栓がないかも確認します。虫垂が正常に見えるかどうかも同じ検査で確かめておくと、虫垂炎との取り違えを減らせます。

症例 年齢不詳(女性) 分娩後5日目の発熱・右下腹部痛

卵巣静脈血栓 造影CT 冠状断像
引用:Radiopaedia(Post partum right ovarian vein thrombosis (thrombophlebitis))

造影CT冠状断像(門脈相)です。下大静脈の右側を骨盤から下大静脈へ向かって走る右卵巣静脈が著明に拡張し、内腔は低吸収の血栓で占められています(矢印)。報告では血栓は子宮の高さから下大静脈まで連続していました。

卵巣静脈血栓をみたときの対応

・子宮・付属器切除と後腹膜リンパ節郭清後に無症状で見つかる卵巣静脈血栓では肺動脈塞栓を疑う症状はみられず、血栓性静脈炎や肺動脈塞栓を伴わなければ治療は不要とされている。

・血栓に感染を生じたり、血栓が広がり、腎静脈から下大静脈に及んで、肺動脈血栓塞栓を生じた場合は致死的になりうるため、注意が必要。
・1128例をまとめた2024年のスコーピングレビューでは、肺塞栓が6.5%、下大静脈への進展が10.3%、左腎静脈への進展が9.6%にみられ、抗凝固療法は低分子ヘパリン(±経口抗凝固薬)を3〜6か月行うことが多かった。

卵巣静脈血栓を認めても、子宮卵巣術後ならよくあること。一方、Mayo Clinicの卵巣静脈血栓35例の検討では、背景にホルモン刺激(48%)・悪性腫瘍(34%)・骨盤内感染(23%)・最近の手術(20%)が多く、再発率は下肢DVTと同程度(100人年あたり3件)で、再発は対側卵巣静脈・左腎静脈・下大静脈にみられました。5年死亡率は43%と高いものの、死亡はすべてがん関連でした。症状がなければ、大騒ぎをする必要はない。

卵巣静脈の解剖

・卵巣静脈、精巣静脈は右は下大静脈へ、左は左腎静脈へ合流する。

・右卵巣静脈の走行:卵巣から骨盤漏斗靱帯(卵巣提索)の中を上行し、尿管の前を交差しながら腰筋の前を上って、腎静脈より下の高さで下大静脈の右前面に斜めに合流する。左卵巣静脈は左腎静脈にほぼ直角に合流する。

・左腎静脈圧が高くなると、左の卵巣静脈、精巣静脈は側副路として発達する。

・左のみ腎静脈に合流するという左右差のため、左で卵巣静脈、精巣静脈は圧上昇することが多く、そのため、精索静脈瘤は左側に多い。

・卵巣腫瘍、精巣腫瘍がある場合、リンパ流は静脈に並走するため、卵巣静脈、精巣静脈が下大静脈、左腎静脈に合流するレベルで、傍大動脈にリンパ節腫大(転移)をきたすことがあるので注意。

卵巣静脈血栓でよくある疑問(Q&A)

Q. 卵巣癌ではなぜ血栓ができやすいのですか?
A. がん細胞が出す組織因子などで血液が固まりやすくなる仕組み(Trousseau症候群)があり(Varki 2007)、そこに手術や腹水などが重なるためです。上皮性卵巣癌の術後には、症状のない例も含めて8%に静脈血栓塞栓症がみられ、明細胞癌は危険因子の一つでした(Xu 2021)。

Q. 治療の指針(ガイドライン)はありますか?
A. 質の高い研究は少ないものの(Monnet 2024)、産後の卵巣静脈血栓では抗凝固療法、がん患者で偶然見つかったものでは抗凝固療法を行わない方針が提案されています(Riva 2020)。具体的な治療は主治医と相談してください。

産後や骨盤の手術後に発熱や腹痛が続く場合は、早めに医療機関を受診してください。

関連記事:門脈栓の鑑別診断、画像診断(門脈血栓、門脈腫瘍栓)

参考文献

  1. Yassa NA, Ryst E. Ovarian vein thrombosis: a common incidental finding in patients who have undergone total abdominal hysterectomy and bilateral salpingo-oophorectomy with retroperitoneal lymph node dissection. AJR Am J Roentgenol. 1999;172(1):45-7. PubMed
  2. Jacoby WT, Cohan RH, Baker ME, et al. Ovarian vein thrombosis in oncology patients: CT detection and clinical significance. AJR Am J Roentgenol. 1990;155(2):291-4. PubMed
  3. Kubik-Huch RA, Hebisch G, Huch R, et al. Role of duplex color Doppler ultrasound, computed tomography, and MR angiography in the diagnosis of septic puerperal ovarian vein thrombosis. Abdom Imaging. 1999;24(1):85-91. PubMed
  4. Wysokinska EM, Hodge D, McBane RD 2nd. Ovarian vein thrombosis: incidence of recurrent venous thromboembolism and survival. Thromb Haemost. 2006;96(2):126-31. PubMed
  5. Riva N, Calleja-Agius J. Ovarian Vein Thrombosis: A Narrative Review. Hamostaseologie. 2020;41(4):257-266. PubMed
  6. Monnet M, Dufrost V, Wahl D, et al. Epidemiology, natural history, diagnosis, and management of ovarian vein thrombosis: a scoping review. J Thromb Haemost. 2024;22(11):2991-3003. PubMed
  7. Lebon A, Connault J, Cardaillac C, et al. [Postpartum ovarian vein thrombophlebitis: diagnosis, treatment and follow-up. Retrospective study over 10 years]. Rev Med Interne. 2022;43(8):462-469. PubMed
  8. Cunningham JS, Teoh J, Clottey K, et al. Diagnostic pitfalls in the postpartum period: postpartum ovarian vein thrombosis misdiagnosed as appendicitis. BMJ Case Rep. 2026;19(5):e271321. PubMed
  9. Matsuo K, Hasegawa K, Yoshino K, et al. Venous thromboembolism, interleukin-6 and survival outcomes in patients with advanced ovarian clear cell carcinoma. Eur J Cancer. 2015;51(14):1978-88. PubMed
  10. Xu Y, Jia Y, Zhang Q, et al. Incidence and risk factors for postoperative venous thromboembolism in patients with ovarian cancer: Systematic review and meta-analysis. Gynecol Oncol. 2021;160(2):610-618. PubMed
  11. Varki A. Trousseau’s syndrome: multiple definitions and multiple mechanisms. Blood. 2007;110(6):1723-9. PubMed

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