先に結論:石綿肺と石綿(アスベスト)関連疾患
- 石綿(アスベスト)を吸い込むと、数十年たってからさまざまな病気が起こります。最も多いのは胸膜プラーク(胸膜の板状の肥厚・石灰化)で、少量の曝露でも生じ、石綿を吸った証拠になります
- 石綿肺は大量に吸った人に起こる肺の線維化で、CTでは両側下葉の背側、胸膜直下の粒状影・分岐状影・曲線状影から始まり、進むと蜂巣肺になります。胸膜プラークを伴うのが特発性肺線維症との区別の手がかりです。CTの線状影・帯状影・すりガラス影は、病理の細気管支周囲の線維化や小葉間隔壁の肥厚と対応しています
- ほかに良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚・円形無気肺、そして肺がん・悪性胸膜中皮腫のリスクがあり、定期的な検査が大切です。仕事での曝露は労災補償や石綿健康被害救済制度の対象になることがあります
※石綿を扱う仕事の経験があり、息切れ・咳・胸の痛みがあるときは、呼吸器内科で相談してください。
石綿肺とは
- 英語ではasbestosis(アスベストーシス)と呼び、日本語の「石綿肺」「アスベスト肺」と同じ病気です。石綿(アスベスト)繊維を吸い込んだあとに起こる、肺実質のびまん性の間質性線維化が本態です(Cha 2016)。
- 珪酸Mgまたは鉄塩である石綿粉塵(アスベスト)を吸入することにより、肺に細気管支肺胞炎の形で始まる非可逆性進行性びまん性線維増殖をもたらす疾患である。
- 肺実質のびまん性線維化。
- アスベスト高濃度曝露者に多い(下の図参照)。そのため塵肺職歴(中でも石綿加工業、断熱作業など)が必須。
- 悪性腫瘍の合併頻度が高い塵肺。
- 石綿曝露の証明には胸膜病変の有無が重要。
- 特に胸膜プラークは石綿曝露から長い年月を経て壁側胸膜に認められる硝子化肥厚斑であり、横隔膜穹窿部、側胸部、縦隔胸膜に好発し、CTでは前方や傍脊椎のプラークも見つかる(Roach 2002)。
石綿肺の画像所見
▶CT所見:
- 下葉背側胸膜直下優位。
- 胸膜下粒状影(subpleural centrilobular dots、dot-like opacity)
- 小葉中心性分岐状影(subpleural branching lines)
- 胸膜下曲線様陰影(subpleural curvilinear shadow)特発性肺線維症との比較では、胸膜下の点状・分岐状影、胸膜下曲線状影、parenchymal bandは石綿肺に多く、小葉内細気管支の可視化や蜂巣肺は特発性肺線維症に多いと報告されています。
(・小葉間隔壁肥厚像および小葉内間質肥厚像、蜂窩肺、胸膜下線状影、胸膜から肺内へ向かう線状影が挙げられる。)
(・結節陰影としては、比較的進行例で胸膜直下に接して不整形陰影がよく認められる。)
このように胸膜直下からすこし距離を持って胸膜に沿った曲線様陰影は石綿肺に多い所見ですが、これだけで石綿肺とは決められません。
胸膜プラークの有無と職歴をあわせて判断します。
石綿肺と特発性肺線維症のCTの違い
| 所見 | 石綿肺 | 特発性肺線維症 |
|---|---|---|
| 胸膜下の点状・分岐状影、胸膜下曲線状影、parenchymal band | 多い | 少ない |
| 小葉内細気管支の可視化、蜂巣肺 | 少ない | 多い |
| 胸膜プラーク | 伴うことが多い | 石綿曝露がなければ伴わない |
(上2行はAkira 2003)
石綿肺の病理像とCT所見の対応
石綿肺と病理で診断された7人の固定肺を、死後に高分解能CT(HRCT)で撮影して病理と比べた研究があります。画像の所見は、次のような病理に対応しました(Akira 1990)。
| HRCTの所見 | 対応する病理 |
|---|---|
| 小葉内の線状影の肥厚 | 細気管支周囲の線維化(7例すべて) |
| 小葉間隔壁の肥厚 | 主に小葉間隔壁の線維性肥厚(4例)。浮腫によるものも3例 |
| 胸膜下曲線状影・胸膜に接した濃度上昇 | 細気管支周囲の線維化が胸膜下の肺で最も強く、曲線状の影や胸膜直下の濃度上昇をつくる |
| 実質内の帯状影(parenchymal band) | 胸膜下の線維化が気管支血管束の鞘に沿って中枢側へ伸びたもの |
| すりガラス影 | 肺胞壁や小葉間隔壁の軽度の肥厚(線維化または浮腫) |
| 牽引性気管支拡張・蜂巣肺 | 進行した線維化(それぞれ4例・2例に認められた所見) |
- 生前のHRCTの所見も、この死後HRCTの所見と似ていて、病理とよく対応したと報告されています(Akira 1990)
- すりガラス影は、肺胞壁や小葉間隔壁の軽度の肥厚(線維化または浮腫)でも生じます
- 石綿肺は肺実質のびまん性の間質線維化が本態で、診断には画像による評価が必要です(Cha 2016)。ただし画像だけで決めず、曝露歴と胸膜プラークの有無とあわせて判断します
石綿曝露関連疾患
- 胸膜プラーク
- 円形無気肺(良性胸水に合併しやすい)
- びまん性胸膜肥厚 (良性胸水後に続発しやすい。)
- 良性石綿胸水
- 石綿肺癌
- 胸膜中皮腫

疾患別の石綿曝露濃度と潜伏期間

(Bohlig H,et al,1975を参考に作図)
胸膜プラーク
- 石綿曝露から長い潜伏期間を経て生じる限局性胸膜肥厚。
- 低濃度曝露でも生じ、経過とともに厚くなり、石灰化を伴うようになる。
- ただし、レントゲンで分かるような高度の胸膜プラークは、比較的曝露量が多いとされる。高分解能CTは胸部単純X線より肺実質・気道・胸膜の異常の描出に優れており、石綿関連の胸膜・肺病変の評価にはCTの役割が大きい。
- 外側後方、横隔膜、心膜側の壁側胸膜に多く、肺尖部や肋横隔膜角部はまれ。
- 基本的には、両側。片側のこともあり、左右非対称の例では左優位が多いと報告されています(Fisher 1985)。CTで評価した279例では、片側のみは3.6%でした(Kim 2015)。
- 柊の葉(holly-leaf)パターン。
- 胸膜プラークは経過とともに石灰化を伴うことが多い。
- CTでは両側性に板状の胸膜肥厚を呈し、石灰化を伴わない場合は筋肉に近い吸収値を呈する。石灰化を伴う場合、部分的に石灰化する際には壁側胸膜寄りに偏在していることが多い。
- 厚生労働省の石綿による肺がんの認定基準(2012年改正)では、エックス線写真で確認できる胸膜プラーク、またはCT画像で胸壁の1/4以上に及ぶ胸膜プラークを「広範囲の胸膜プラーク」としています(厚生労働省 2012)。

CTでみた胸膜プラークの分布(279例・Kim 2015)
| 部位 | 頻度・傾向 |
|---|---|
| 胸壁 | 98.6%(前側は上部、背側は下部に多い) |
| 横隔膜 | 78.1%(右に多い) |
| 縦隔 | 42.7%(左に多い) |
| 厚さ | 1〜20mm(平均5.4mm) |
症例 70歳代男性 胸膜プラークフォロー

結核(Tb)の後遺症などでも胸膜の石灰化はみられるため、両側性か、典型的な部位か、職歴があるかをあわせて判断します。
良性石綿胸水
- 胸水はさまざまな原因で生じ、不整な壁肥厚を認めない早期胸膜中皮腫と胸膜プラークとの鑑別は困難。
- 胸水細胞診や胸腔鏡下胸膜生検にて中皮腫を除外する。
- びまん性胸膜肥厚
- 良性石綿胸水に続発することが多い。
- 連続するシート状に肥厚した胸膜。しばしば肺尖部や肋横隔膜角部(CP angle)を侵すものの石灰化することは稀。
- 胸部単純X線写真において「平滑で途絶のない胸膜陰影が胸壁の25%以上で、肋横隔膜角の鈍化の有無は問わない」(McLoud 1985)。石綿曝露者1373例ではびまん性胸膜肥厚が13.5%にみられ、原因は良性石綿胸水の後遺症(31.3%)や癒合したプラーク(25.4%)が多く、肺線維症の胸膜への波及は10.2%でした(McLoud 1985)。
- 臓側胸膜から肺に炎症が波及→癒着を生じる→CTにて胸膜と直交する索状影として認められることがある(crow’s feet(カラスの足))。
中皮腫
- 石綿曝露による稀な腫瘍。
- 職業曝露でない低濃度の曝露でも生じる。
- 一側胸水のみの症例もある。
- 壁側胸膜肥厚
- 胸膜プラークの存在は他疾患との鑑別に有効。
- 縦隔側胸膜肥厚は特徴的とされる。
→詳細は胸膜中皮腫の画像診断へ。
石綿肺・胸膜プラークでよくある疑問(Q&A)
Q. 胸膜プラークがあれば石綿肺ですか?
A. いいえ。胸膜プラークは胸膜の変化で、石綿を吸った証拠になりますが、石綿肺は肺そのものの線維化です。胸膜プラークだけで肺の線維化がない人も多くいます。
Q. レントゲンとCTはどちらがよくわかりますか?
A. 石綿肺の所見は胸部X線でもすりガラス影や小粒状影として見えることがありますが、CTのほうが検出感度が高く、X線で見えにくい前方や傍脊椎の胸膜プラークもCTで見つかります(Roach 2002)。
Q. 石綿肺のCTの線は、病理では何にあたりますか?
A. 小葉内の線状影は細気管支周囲の線維化、小葉間隔壁の肥厚は線維化または浮腫、胸膜下曲線状影は胸膜下に強い細気管支周囲の線維化に対応します(Akira 1990)。
参考文献
- Akira M, Yamamoto S, Yokoyama K, et al. Asbestosis: high-resolution CT-pathologic correlation. Radiology. 1990;176(2):389-94. PubMed
- Akira M, Yamamoto S, Inoue Y, et al. High-resolution CT of asbestosis and idiopathic pulmonary fibrosis. AJR Am J Roentgenol. 2003;181(1):163-9. PubMed
- Roach HD, Davies GJ, Attanoos R, et al. Asbestos: when the dust settles an imaging review of asbestos-related disease. Radiographics. 2002;22 Spec No:S167-84. PubMed
- American Thoracic Society. Diagnosis and initial management of nonmalignant diseases related to asbestos. Am J Respir Crit Care Med. 2004;170(6):691-715. PubMed
- Kim KI, Kim CW, Lee MK, et al. Imaging of occupational lung disease. Radiographics. 2001;21(6):1371-91. PubMed
- Cha YK, Kim JS, Kim Y, et al. Radiologic Diagnosis of Asbestosis in Korea. Korean J Radiol. 2016;17(5):674-83. PubMed
- Kim Y, Myong JP, Lee JK, et al. CT Characteristics of Pleural Plaques Related to Occupational or Environmental Asbestos Exposure from South Korean Asbestos Mines. Korean J Radiol. 2015;16(5):1142-52. PubMed
- Fisher MS. Asymmetrical changes in asbestos-related disease. J Can Assoc Radiol. 1985;36(2):110-2. PubMed
- McLoud TC, Woods BO, Carrington CB, et al. Diffuse pleural thickening in an asbestos-exposed population: prevalence and causes. AJR Am J Roentgenol. 1985;144(1):9-18. PubMed
- 厚生労働省. 石綿による疾病の認定基準(肺がん関係)の改正のポイント. 2012. PDF
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肺がん検診の読影を行なっている、非常勤の内科医師です。複数の胸膜の石灰化巣は、胸部単純X線でよく見る所見です。20年ほど前になるかと思いますが、阪神のある工場の周辺の一般住民に、石綿肺の患者さんが多く発見され、社会問題になりました。クボタだったように思いますが、記憶がはっきりしません。
そのとき、環境省から「胸膜の石灰化がみられる受診者は医療機関で問診をうけ、石綿の吸入が疑われる環境にある個人は、肺がんになりやすいので、年に2回胸部X線検査をうけるよう説明をうけるように」というお達しがあり、検診結果にその旨を説明したパンフレットを加えて通知していました。
私個人は、そうすることのエビデンスがなく、環境省の一時しのぎだと思い、胸膜石灰化は「要経過観察」にしただけで、所見も「胸膜プラーク」とせず、所見名も「胸膜石灰化」としていました。
胸膜石灰化のうち、石綿暴露によるものは何パーセントくらいあるものでしょうか。年回肺がん検診をうけて、早期発見ができるものでしょうか。
コメントありがとうございます。
年2回の胸部X線検査による肺がん早期発見に明確なエビデンスはありません。
胸部X線は石綿関連肺がんや中皮腫の早期発見には限界があることが知られています。
とくに中皮腫は胸膜に沿って進展する腫瘍で、X線では発見困難であることが多く、CT(特にHRCT)の方が有用です。
米国NIOSHや日本のがん対策でも、胸膜プラークや石綿曝露者に対してCTを使ったスクリーニングの方が現実的とされています。
したがって、年2回のX線という対策は「科学的エビデンスというよりは、行政対応としての妥協策・暫定措置」の色合いが強かったと思われます。
また、一般に、胸膜石灰化のうち石綿曝露によるものの割合について明確な数値はありませんが、複数の疫学調査から、高齢者にみられる胸膜石灰化のうち、職業歴や居住歴を詳細に調べると、一定割合(20〜50%程度)に石綿曝露が疑われる という報告もあります(地域差が大きいです)。