石綿肺とは
- 珪酸Mgまたは鉄塩である石綿粉塵(アスベスト)を吸収することにより、肺に細気管支肺胞炎の形で始まる非可逆性進行性びまん性線維増殖をもたらす疾患である。
- 肺実質のびまん性線維化。
- アスベスト高濃度曝露者に多い(下の図参照)。そのため塵肺職歴(中でも石綿加工業、断熱作業など)が必須。
- 悪性腫瘍の合併頻度が高い塵肺。
- 石綿曝露の証明には胸膜病変の有無が重要。
- 特に胸膜プラークは20年以上たってから壁側胸膜に認められる硝子化肥厚斑であり、横隔膜穹窿部、側胸部、心嚢、傍脊椎に好発する。
石綿肺の画像所見
▶CT所見:
- 下葉背側胸膜直下優位。
- 胸膜下粒状影(subpleural centilobular dots、dot-like opacity)
- 小葉中心性分岐状影(subpleural branching lines)
- 胸膜下曲線様陰影(subpleural curvilinear shadow)
(・小葉間隔壁肥厚像および小葉内間質肥厚像、蜂窩肺、胸膜下線状影、胸膜から肺内へ向かう線状影が挙げられる。)
(・結節陰影としては、比較的進行例で胸膜直下に接して不整形陰影がよく認められる。)
このように胸膜直下からすこし距離を持って胸膜に沿った曲線様陰影を呈する疾患には、石綿肺と、PM/DMなどに伴う肺病変があります。
PM/DMの場合には胸膜直下との距離が石綿肺より広いのが特徴です。
胸膜下線状陰影が見られる疾患・病態
- 石綿肺
- PM/DMをはじめとした膠原病肺
- 特発性間質性肺炎
- うっ血性心不全
- 末梢性無気肺
石綿曝露関連疾患
- 胸膜プラーク
- 円形無気肺(良性胸水に合併しやすい)
- びまん性胸膜肥厚 (良性胸水後に続発しやすい。)
- 良性石綿胸水
- 石綿肺癌
- 胸膜中皮腫
疾患別の石綿曝露濃度と潜伏期間
(Bohlig H,et al,1975を参考に作図)
胸膜プラーク
- 石綿曝露から15-20年後に生じる限局性胸膜肥厚。
- 低濃度曝露でも生じ、経過とともに厚くなり、石灰化を伴うようになる。
- ただし、レントゲンで分かるような高度の胸膜プラークは、比較的曝露量が多いとされる。
- 外側後方、横隔膜、心膜側の壁側胸膜に多く、肺尖部や肋横隔膜角部はまれ。
- 基本的には、両側。まれに片側もあり(その場合は左優位。)
- 柊の葉(holly-leaf)パターン。
- 胸膜肥厚(胸膜プラーク)の石灰化の頻度は10〜15%。
- CTでは両側性に板状の胸膜肥厚を呈し、石灰化を伴わない場合は筋肉に近い吸収値を呈する。石灰化を伴う場合、部分的に石灰化する際には壁側胸膜寄りに偏在していることが多い。
- 単純X線でも判定できる胸膜プラークや、半胸郭を縦隔以外で4分割して、その1/4以上の範囲に胸膜プラークが及ぶものを、広範囲プラークという。
症例 70歳代男性 胸膜プラークフォロー
Tbでも胸膜石灰化見られますが
- Tbの場合は、肺側(内側)に石灰化
- アスベストの場合は外側に石灰化
の傾向があります。
良性石綿胸水
- 胸水はさまざまな原因で生じ、不整な壁肥厚を認めない早期胸膜中皮腫と胸膜プラークとの鑑別は困難。
- 胸水細胞診や胸腔鏡下胸膜生検にて中皮腫を除外する。
- びまん性胸膜肥厚
- 良性石綿胸水に続発することが多い。
- 連続するシート状に肥厚した胸膜。しばしば肺尖部や肋横隔膜角部(CP angle)を侵すものの石灰化することは稀。
- 胸部単純X線写真において「片側あるいは両側胸膜肥厚の広がりが、片側の場合は一側胸膜の50%以上、両側の場合は25%以上を有し、胸膜の厚さが少なくとも5mm以上」(英国労働補償基準)
- 胸部単純X線写真において「平滑で途絶のない胸膜陰影が胸壁の25%以上で、肋横隔膜角の鈍化の有無は問わない」(1985年McLoudら)
- 肋横隔膜角の鈍化を必要条件とし、胸膜の厚さを3mm異常(ILO基準2003年)。
- 臓側胸膜から肺に炎症が波及→癒着を生じる→CTにて胸膜と直行する索状影として認められることがある(crow’s feet(おんどりの足))。
中皮腫
- 石綿曝露による稀な腫瘍、世界的に増加傾向。
- 職業曝露でない低濃度の曝露でも生じる。
- 一側胸水(87%)のみの症例もある。
- 壁側胸膜肥厚(89%)
- 胸膜プラークの存在は他疾患との鑑別に有効。
- 縦隔側胸膜肥厚(85%)は特徴的とされる。
→詳細は胸膜中皮腫の画像診断へ。
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肺がん検診の読影を行なっている、非常勤の内科医師です。複数の胸膜の石灰化巣は、胸部単純X線でよく見る所見です。20年ほど前になるかと思いますが、阪神のある工場の周辺の一般住民に、石綿肺の患者さんが多く発見され、社会問題になりました。クボタだったように思いますが、記憶がはっきりしません。
そのとき、環境省から「胸膜の石灰化がみられる受診者は医療機関で問診をうけ、石綿の吸入が疑われる環境にある個人は、肺がんになりやすいので、年に2回胸部X線検査をうけるよう説明をうけるように」というお達しがあり、検診結果にその旨を説明したパンフレットを加えて通知していました。
私個人は、そうすることのエビデンスがなく、環境省の一時しのぎだと思い、胸膜石灰化は「要経過観察」にしただけで、所見も「胸膜プラーク」とせず、所見名も「胸膜石灰化」としていました。
胸膜石灰化のうち、石綿暴露によるものは何パーセントくらいあるものでしょうか。年回肺がん検診をうけて、早期発見ができるものでしょうか。
コメントありがとうございます。
年2回の胸部X線検査による肺がん早期発見に明確なエビデンスはありません。
胸部X線は石綿関連肺がんや中皮腫の早期発見には限界があることが知られています。
とくに中皮腫は胸膜に沿って進展する腫瘍で、X線では発見困難であることが多く、CT(特にHRCT)の方が有用です。
米国NIOSHや日本のがん対策でも、胸膜プラークや石綿曝露者に対してCTを使ったスクリーニングの方が現実的とされています。
したがって、年2回のX線という対策は「科学的エビデンスというよりは、行政対応としての妥協策・暫定措置」の色合いが強かったと思われます。
また、一般に、胸膜石灰化のうち石綿曝露によるものの割合について明確な数値はありませんが、複数の疫学調査から、高齢者にみられる胸膜石灰化のうち、職業歴や居住歴を詳細に調べると、一定割合(20〜50%程度)に石綿曝露が疑われる という報告もあります(地域差が大きいです)。