
症例49
【症例】40歳代女性
【主訴】前日夕方より心窩部痛
【身体所見】BT 37.5℃、BP 100/60、眼瞼結膜やや蒼白、下腹部に圧痛、反跳痛あり。
【データ】WBC 14600、CRP 4.61、Hb 8.5
画像はこちら
CT
MRI
単純CTでDouglas窩に膀胱よりも濃度の高い液貯留を認めています。
腹腔内出血を疑う所見です。
単純CTでは、子宮との関係が不明瞭ですが、造影CTでは子宮の左側に複数の嚢胞が存在していることがわかります。
また子宮筋腫があります。
Douglas窩では腹膜に造影効果を認めており、腹膜炎の存在が示唆されます。
MRIが撮影されました。
T2強調像では、嚢胞は淡い低信号を示しています。
これはshadingといって出血性嚢胞、なかでも内膜症性嚢胞を示唆する所見です。
右側には正常卵巣を認めています。
子宮の左側に左卵巣も同定できますが、周囲との境界が不明瞭です。
周囲には出血性嚢胞を疑う嚢胞が複数あります。
本当に出血なのかは、T1強調像および脂肪抑制T1強調像で高信号を示していることで確認されます。(上の画像は脂肪抑制T1強調像のみ提示。)
また嚢胞間には癒着を示唆するbeak signを認めています。
(今回は左にのみ内膜症性嚢胞を複数認めていますが、左右に認め、左右の内膜症性嚢胞が癒着してbeak sign様の構造を取ることがあり、これをkissing ovaryと呼びます。)
左側に内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)を複数認めており、癒着しているところまではこれでわかりました。
では、今、何が起こっているのでしょうか?
と推測することができます。
その目で、内膜症性嚢胞をもう一度見てみましょう。
すると、最もサイズが大きな嚢胞には、どこか緊満感がありません。虚脱しているように見えますね。
つまり、この最も大きなサイズの嚢胞が破裂をして、
- 血性腹水
- 腹膜炎
を起こしていると推測することができます。
診断:左内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)の破裂(による化学性腹膜炎)
内膜症性嚢胞が破裂した場合、以下の画像所見に着目しましょう。
また、このように卵巣腫瘍が破裂する場合は、頻度として以下のものを考えます。
今回の内膜症性嚢胞や成熟嚢胞性奇形腫の破裂の頻度が高く、それらの場合は今回のように、化学性腹膜炎を起こすことが知られています。
関連:内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)破裂とは?MRI画像診断のポイントは?
その他所見:
- CTで嚢胞内の濃度が高い点を認めていますが、MRIのT2WIでは低信号部位と一致して凝血塊が示唆されます。
- 左腎嚢胞あり。
- L4/5/Sに椎間板の後方への膨隆あり。
症例49の動画解説
内膜症性嚢胞の破裂について
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今日の「ワード」は、「緊満感」ですね。かっこいい言葉だと思います。腫瘤のやる気ある・なしの評価に使っていこうと思います!
所見はほとんど拾えていたと思いますが、最終的な診断は誤ってしまいました。がしかし、婦人科の先生にグチグチ言われつつも結果的に救命はできそうでした。(意味のある)所見を多く拾えば拾うほど予後は向上しそうですね。
今回は腹水が血性であることをしっかり意識していれば正解にたどりつけそうでした。所見は多くありましたが、最終的には一番基本的なところが大事になってくるのかな、と思いました。
最後に、下記についてご回答いただけますと幸いです。
・子宮に感染があると、もっとMRIなどで汚くなりますか?
・CTなどで卵巣腫瘍が疑われる場合、どのようにMRIをオーダーすれば今回の撮影条件(T2、矢状断、T1、脂肪抑制、DWI、ADC mapping)が返ってきますか? 「卵巣膿腫疑い。」でいいですか?「卵巣嚢腫疑い。T2、矢状断、T1、脂肪抑制、DWI、ADC mappingお願いします。」と書かなければなりませんか?
何卒よろしくお願い申し上げます。
アウトプットありがとうございます。
>(意味のある)所見を多く拾えば拾うほど予後は向上しそうですね。
仰るとおりだと思います。
>・子宮に感染があると、もっとMRIなどで汚くなりますか?
そうですね。子宮頚部が感染すると、
・子宮頸部の腫大
・T2強調像での頸部の信号上昇
と言った所見を示すことがあります。
が、なかなか画像での評価は、膿瘍を形成しないと難しいことが多いと思われます。
>・CTなどで卵巣腫瘍が疑われる場合、どのようにMRIをオーダーすれば
これはその病院にもよると思いますが,普段から骨盤MRIを撮影しているところならば、卵巣膿腫疑いでしっかり撮影してくれるはずです。
膿瘍を疑う場合は、DWIが重要になりますので、場合によってはDWIは複数方向から撮影して貰ってもいいかもしれません。
お世話になっています。
子宮左側の嚢胞病変を管状の構造物とてらえて卵管の拡張と判断してしまいました。実際にはチョコレート嚢胞が連なって大きな嚢胞状の病変を呈していたのですね…。日常、大きい病変や派手な病変ほど難しいと感じることがあります。
言われてみれば、癒着、出血によるshading、T1での強い高信号(出血)とチョコレート嚢胞に特徴的な所見があります。
大きい病変ほど、「丁寧に所見を拾っていくことの大切さ」を再確認しました。
アウトプットありがとうございます。
>実際にはチョコレート嚢胞が連なって大きな嚢胞状の病変を呈していたのですね…。
そうですね。チョコレート嚢胞が複数あり、癒着しています。
しかし仰るように卵管の拡張と鑑別しにくいこともあるかと思います。
婦人科疾患が苦手なので勉強になりました。
shadingとは、嚢胞内のniveauみたいな所見のことだと思っていました。
仮にCT画像がない場合、MRIのみで凝血塊と石灰化を鑑別する方法はありますか?(卵巣嚢腫で石灰化を伴うものがdermoid以外に分かりませんが)
また破裂や明らかな癒着、腹部症状などの所見がない場合、嚢胞内容が出血であるか粘液(もしくは膿)であるかを鑑別する方法があればご教授願います。
アウトプットありがとうございます。
>shadingとは、嚢胞内のniveauみたいな所見のことだ
層状のものもありますし、全体に低信号を認めるものもあります。
背側のチョコレート嚢胞はniveau像というか層状の形態で、下ほど低信号になっていますね。
>MRIのみで凝血塊と石灰化を鑑別する方法はありますか?
凝血塊の程度にもよりますが、CTでないと鑑別困難な事はあると思います。
>嚢胞内容が出血であるか粘液(もしくは膿)
こちらもMRIのみでは鑑別困難な事が多いと思います。膿の場合は、DWIが鑑別のポイントになりそうです。
嚢胞のうち、背側の嚢胞を右の卵巣と勘違いし、両側のチョコレート嚢胞と勘違いしてしまいました。
が、症例によってはそういうこともあるのですね。
チョコレート嚢胞、血性腹水はそれぞれ考えることはできていたのですが、チョコレート嚢胞の破裂はあまり聞いたことがなかった(勉強不足です)ので、2つが結びつかず、でかいというだけで茎捻転と考えてしまいました。
血性腹水と考えたのなら、どこから出血してるのかしっかりと考えるべきでした。
画像から、破裂してそうかまでわかるのですね。
“やる気がなさそう”、思わず笑ってしまいました。記憶に残りそうです。
アウトプットありがとうございます。
>嚢胞のうち、背側の嚢胞を右の卵巣と勘違いし、両側のチョコレート嚢胞と勘違いしてしまいました。
今回は右の卵巣はしっかりありますね!
>でかいというだけで茎捻転と考えてしまいました。
チョコレート嚢胞は癒着が強いので捻転しにくいことで知られていますので、覚えておきましょう。
>“やる気がなさそう”、思わず笑ってしまいました。記憶に残りそうです。
(^o^)
やっとこれは出血で,脂肪ではないなとかを意識しながら読影することができるようになってきました.
やはり構造物の同定が一番難しいなと感じますね.
詳細な解説がありいつもありがたいです.
アウトプットありがとうございます。
>やはり構造物の同定が一番難しい
そうですね。MRIでさえも、ここの領域の構造物の同定がやはり難しいですね。
子宮なのか卵巣なのか、迷うこともしばしばあります。
軸捻転と誤診しました。
また腹水にやられました( ̄▽ ̄;)
以前の(間違った方向の)反省から、「腹水をT2で結構しっかり白い」ことのみで、漿液性腹水と判断してしまいました。
→コアグラは、出血性梗塞(「CTの高吸収とDWIの異常は多分違う部位なのだろう」という合理化のもと)に見えてしまいました。
以下最先端AI “Siri” による原因解析です。
①(患者さんにとっては間違いなく良いことですが、)腹水が多量ではなく、膀胱と腹水の間に子宮が噛んでいだこと。吸収値や信号の比較評価が少し難しかったです。
② 自分の中で、無意識のうちに「出血」と「extravasation」が「1:1対応」してしまっている。ダイナミックで血管からのリークがなければ、いつのまにかチョコレート嚢胞破裂が、鑑別の上位からフェードアウトしてしまっている。
婦人科救急であると分かった、ただそれだけを前向きに捉えて、直明けの1日を謳歌しますヾ(๑╹◡╹)ノ”
アウトプットありがとうございます。
>「腹水をT2で結構しっかり白い」ことのみで、漿液性腹水と判断してしまいました。
T2WIのみを見るとそう判断してしまうかも知れませんね。単純CTやT1強調像も参考にしてください。
>以下最先端AI “Siri” による原因解析です。
(;゚ロ゚)
>「出血」と「extravasation」が「1:1対応」してしまっている。ダイナミックで血管からのリークがなければ、いつのまにかチョコレート嚢胞破裂が、鑑別の上位からフェードアウトしてしまっている。
出血が起こっていても今まさに出血していない限りはextravasationは認めません。
消化管出血が起こっているのだろうけど、ダイナミック撮影しても認めない、、、ということがしばしばあります。
むしろextravasationはあればラッキーですね。
当直お疲れ様でした!!!
単純,造影CTのみでは最初,子宮左側の嚢胞性腫瘤とダグラス窩の腹水を一つの腹水と勘違いしておりました.
MRIでの出血の見え方がキーなるんですね.
婦人科疾患でMRIが重要な理由がやっとわかった気がしました.
アウトプットありがとうございます。
そうなんです。
骨盤はCTだけでは造影があっても厳しいことが多いです。
とくに婦人科系疾患ではMRIが重要となります。
ただし、CTがまず撮影されることが多いと思いますので、
CTである程度所見を拾ってMRIへ持って行く必要があります。
破裂所見である「緊満感がなくなっている」、というのが言われてみればなるほど!と思いました。
腹膜炎についてですが、もう少し腹膜が厚く造影効果もあれば腹膜炎なのかなと勝手に思っていましたが、
腹膜の厚さに関係なく造影効果があれば腹膜炎と思っても良いのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
画像のみではなんとも言えないところで、腹部診察所見などとも合わせて判断する必要がありますが、
おっしゃるように厚さに関係なく造影効果があればやはり正常ではないので、腹膜炎を疑って良いと考えます。
内膜症性嚢胞の癒着を卵管拡張と見誤ってしまいました。
まだまだ修行が足りません(泣)。
アウトプットありがとうございます。
卵管の拡張はわかりにくいこともありますよね。
卵管留血症の場合、管状構造としてある程度連続性を追うことができるかも重要となります。
MRIの所見から、子宮内膜症性嚢胞を同定することはできたのですが、血清腹水、腹膜炎など大事な所見を見逃してしまい、猛反省です…。
また、やる気のない嚢胞とのことでしたが、大きくパンパンに張っていてなんだかやる気がありそうだと思い込んで、嚢胞壁の破綻はないと考えられると述べてしまいました。
明日で最後ですが、終わってからがいよいよ始まりだと考えて、これまで習ったことを何度もしつこく復習したいと思います!
アウトプットありがとうございます。
まずは子宮内膜症性嚢胞を同定が第一ですね。
>やる気のない嚢胞とのことでしたが、大きくパンパンに張っていてなんだかやる気がありそうだと思い込んで、嚢胞壁の破綻はないと考えられると述べてしまいました。
ここの判断は少し難しいところかもしれません。
少し、ナヨっとした嚢胞ですが、明らかに虚脱している!というものでもないからです。
>明日で最後ですが、終わってからがいよいよ始まりだと考えて、これまで習ったことを何度もしつこく復習したいと思います!
そうですね。1度で終わらせずに動画もありますので、ぜひ復習してください。
解剖のイメージが付きにくくなかなか想像力にも限界に近づく女性の婦人科領域ですが「すぐ役立つ・・・」で何とか回答にこぎつけました。明日もよろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>解剖のイメージが付きにくくなかなか想像力にも限界に近づく女性の婦人科領域
婦人科領域は解剖が難しいですよね(^_^;)
とはいえ、救急疾患はある程度限られているので、重要疾患を目に焼き付けましょう。
ほぼ網羅しているので、復習していただければと思います。
勉強なりました。ありがとうございます。
ひとつ質問なのですが、CTで子宮と卵巣が一塊になっている場合が度々あり、子宮か卵巣見分ける事が難しいということがしばしばあるのですが、先生が基準としている所見などはありますでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
こちらで解説しているように卵胞や卵巣静脈を手がかりに卵巣を探しますが、CTではおっしゃるように一塊となっており、判別できないこともしばしばあります。
MRIでも高齢の場合はわからないこともあります。
いつも大変勉強になります。
shadingについてご質問なのですが、
T2WI中程度低信号であることをshadingというのでしょうか。
教科書によっては、T2WIで高信号と低信号が混在している所見や、高信号~低信号のグラデーションになっている所見をshadingと言っているような記載もあり、混乱しています。
シンプルに考えて、内膜症性嚢胞において出血成分が示唆される所見をshadingと言っているという認識でよいのでしょうか。
また、内膜症性嚢胞だとわからない段階では、shadingという表現を用いるのはよくないのかなと思っていましたが、先生が使われているように、『shadingを示唆』という表現はなるほどと思いました。
アウトプットありがとうございます。
調べてみました。
■内膜症性嚢胞とshading
Shadingは1987年にNisimuraらにより命名された内膜症性嚢胞のMRI所見である。
内膜症性嚢胞においてはその名の通り病変は嚢胞であり、内容物は血液とはいえ液体であるのでT2WIで高信号であることが期待されるが、本症では嚢胞の一部(多くの場合はMRIの撮影体位が背臥位のため、重力に沿って背側)が電灯の暈(shade)をかけたようにあることから名付けられた。
病理組織学的には出血後、血清と分離した血餅成分(粘稠度が高い)や古い血腫内のヘモジデリンの常磁性体効果、壁に生じた炎症が線維化を招来することによりT2WIで低信号になると考えられている。(婦人科MRIアトラスP238-239)
ということで、おっしゃるように、もともとは、T2WI高信号の嚢胞の中にニボー像を示す低信号をshadingと名付けたのだと思われ、そういう意味ではグラデーションのような所見を示すのだと思われますが、こちらの書籍にもshadingが強い例として、T2WIで全体が低信号となっているものを説明しており、
「嚢胞内で繰り返し出血を起こし、T2WIで一部もしくは全体に低信号を認めるものを、内膜症性嚢胞におけるshading」
と表現してよいと考えます。
ですので、
>シンプルに考えて、内膜症性嚢胞において出血成分が示唆される所見をshadingと言っているという認識でよいのでしょうか。
という認識でよいと考えます。
”内膜症性嚢胞の破裂では特に脂肪抑制T1強調が出血の診断に重要”ということでしたが、破裂していない内膜症性嚢胞でも卵巣内で出血を繰り返しており脂肪抑制T1強調で高吸収にみえそうな気がするのですが、通常の(?)卵巣子宮内膜症性嚢胞と卵巣子宮内膜症性嚢胞の破裂は腹腔内出血の所見以外に脂肪抑制T1強調でどのように区別をしたらよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>”内膜症性嚢胞の破裂では特に脂肪抑制T1強調が出血の診断に重要”
ではなく、内膜症性嚢胞の診断には、脂肪抑制T1強調が重要です。
破裂の有無では、嚢胞の緊満感の有無をチェックすることが重要となります。
もちろん腹腔内出血の確認も重要ですが、腹水で薄まるため、脂肪抑制T1強調だけでなく、T2WI、T1WIも参考に腹腔内出血の有無を判断します。
今回の症例は難しかったです。解説動画は何度も聴かないと。
いよいよ明日、症例50ですね。どんな症例かしら。
アウトプットありがとうございます。
今日は難しかったですね(^_^;)
明日は(と言うか今日は)CTのみです。
想像力も試される症例となっています。
お世話になってます。
この症例での造影MRI・サブトラクションは内膜症嚢胞の評価のためというよりは、卵巣出血や捻転の評価のためと考えてよいですか?
よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりです。サブトラクションは造影効果の有無・程度を確認するためのものですので、主に捻転などの評価に用います。
お世話になっております。
この1週間の当直で2度内膜症性嚢胞の破裂疑いと遭遇しました。
1人目の診療の際に骨盤内に隔壁を伴う多房性腫瘤を認め炎症反応も高値で「骨盤内膿瘍」の疑いで産婦人科コンサルトしました。
放射線科の読影では膿瘍もしくは内膜症性嚢胞と判断されましたが、両者の鑑別ポイントなどございますでしょうか。
よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>この1週間の当直で2度内膜症性嚢胞の破裂疑いと遭遇しました。
それは貴重な体験をされておられますね(^_^;)
>放射線科の読影では膿瘍もしくは内膜症性嚢胞と判断されましたが、両者の鑑別ポイントなどございますでしょうか。
MRIが撮影されれば両者は明確に鑑別できますが、CTのみですと、難しいことも多いでしょうね。
膿瘍の場合は、卵管卵巣膿瘍となれば卵管の管状構造の拡張を認めますのでヒントになりますね。
あとは周囲脂肪織濃度上昇をより認めやすいのは膿瘍でしょうね。