
症例20
【症例】70歳代女性
【主訴】下血・黒色便、めまい
【身体所見】直腸診にて赤黒色の血液付着あり。
【データ】WBC 7300、CRP 0.17、Hb 10.9
画像はこちら
ダイナミックCTの早期相から十二指腸の下行脚の傍十二指腸憩室に造影剤の漏出を認めます。
これを造影剤の血管外漏出像(extravasation)といって、同部位から活動性の出血が起こっていることを示唆する所見です。
早期移行の相では、この造影剤の貯留する量が増えて行っている様子がわかります。
十二指腸からの出血が起こっている事が推測されます。
内視鏡的に加療され、出血性十二指腸潰瘍と診断されました。
診断:上部消化管出血(出血性十二指腸潰瘍)
※消化器内科コンサルトとなります。内視鏡で止血できない場合は、アンギオが施行されることもあります。
その他所見:
- 胃内に残渣あり。
- 左背部皮下に粉瘤疑い。
- 左胸膜石灰化あり。
- 肝嚢胞あり。
- 膵divisumの可能性あり。
- 上行結腸に憩室多数あり。
症例20の動画解説
消化管出血の画像所見
症例20のQ&A
- 上部消化管出血を疑って見ていたのですが十二指腸下行脚の造影剤漏出に気づけませんでした
- extravasation 重要な所見ですのでチェックしておいてください。
- 十二指腸の連続性を考えると、憩室内に造影剤の露出が起きているように見えるのですが、実際、憩室内の潰瘍だったのでしょうか?それとも、憩室ではなかったのでしょうか?
- おっしゃるように傍十二指腸憩室内ですね。追記しました。
- 胃が大きく、小腸も拡張して壁の造影効果が強い気がするのですが、気のせいでしょうか。特に意味は無いですか。
- 胃が大きいのは食事が残ってるからですね。造影効果はこんなものだと思います。
- 腸管の走行に違和感はあったのですが、憩室には気づけませんでした。
- extravasationに気づけるかが重要です。
- 憩室が分からず、十二指腸と直接つながっているもので解剖を必死に考えた結果、全く別の回答をしてしまいました。
- 出血していることに気づければ大丈夫です。
- 上部下部出血のextravasationに好発部位などはあるのでしょうか。十二指腸なら下行脚に多いなど。
- 胃十二指腸胃潰瘍、膵炎後、腫瘍がある部位、血管異常がある部位、憩室がある部位などに起こりやすいとされます。血管が破れるということはそこに他とは違う何かが通常はあります。
- 造影剤プールの場所をしっかり確認できませんでした…
ところで、胃壁が少し薄っぺらいように感じましたが、こんなものですか? - 胃壁は少し薄いかも知れませんが、胃内に残渣がたくさんありますので、こんなものでしょうね。
よくみると穹隆部に憩室のような構造がありますね。
- そのまま憩室出血としていました。
- 憩室出血でOKです。出血部位がわかればOKです。
- ここ数日の演習で腸管を少しは追えるようになり、おおよその患部まではたどり着けたのですが、出血、造影剤のextravasationまでは至りませんでした。
やはり画像のパターン認識、経験が足りていないと感じております。 - 消化管出血でこのように同定できるものは一度経験したらあとは上部も下部も同じですので、この機会に覚えておいてください。
- 二指腸の下行脚からの造影剤の漏出(extravasation)は指摘でき、十二指腸潰瘍からの出血が疑われることはわかったのですが、十二指腸の憩室からの出血とまでは同定できませんでした。憩室の同定がどうも苦手なので、今後注意深く読影するようにしたいです!
- まあここまでわかればほぼ正解で、問題ないと思いますよ。
- 憩室からの出血でしたが、ここまで大きな憩室もありえるんでしょうか。
- 十二指腸の憩室ではよくあるくらいの大きさです。
- 主訴をしっかり読んでなかったので、消化管出血を疑って画像を見れませんでした。十二指腸が全体に拡張している様に見えましたが、あの程度は正常ですか?
- おっしゃるように正常よりは拡張してますね。ひだもよく見えますし、造影効果も増強している印象です。炎症による変化を疑います。
- extra vasationに気がつきませんでした。あとから見ると派手に見えるのですが、、
- 消化管出血が疑われる場合で、ダイナミック撮影をするのはまさに出血しているところはないかを探しに行く目的が主ですので、extravasation覚えておいてください。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
症例ありがとうございます。
総胆管、主膵管の拡張があり、出血部のやや口側スライスに高吸収の腫瘤があるように見え、十二指腸乳頭部癌とそこからの出血と答えてしまいました。潰瘍からの出血だったのですね。見直すと腫瘤には見えないですね。
アウトプットありがとうございます。
>十二指腸乳頭部癌とそこからの出血と答えてしまいました。潰瘍からの出血だったのですね。見直すと腫瘤には見えないですね。
消化管の腫瘍はサイズが大きいものでないとCTでは同定できないことが多く、腫瘍なのか潰瘍なのかは画像だけではわからないことが多いです。
消化管出血であり、十二指腸からの出血であることがわかればOKです。
いつも勉強になります
恐らく静脈瘤か潰瘍からの出血だろうなと考え肝臓と脾臓を診て異常がなかったのでとりあえず静脈瘤は否定。
潰瘍なら壁肥厚があってわかるはず・・・と考え追っ手いたが見つからず、下部消化管に異常はなかったので上部消化管出血と予想はつけたものの出血源は確定できませんでした。。。
アウトプットありがとうございます。
ダイナミック撮影されている場合は、extravasationがないかを小腸も含め、冠状断像も含め観察します。
活動性出血がないと見られないので、出血が間欠的な場合は認めないこともあるので何度か撮影することもありますが。
お世話になっております。
十二指腸のextravasationはすぐに分かったのですが、十二指腸水平脚から空腸の一部に腸管の腫大と壁肥厚を認められそうなのですが、これの原因は何でしょうか?また、膵divisumとはどういう状態を指すのでしょうか?すみません。よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>十二指腸水平脚から空腸の一部に腸管の腫大と壁肥厚を認められそうなのですが、これの原因は何でしょうか?
こちらは壁肥厚ではなく血腫を見ていると考えます。
特に空腸の一部で目立ちます。
>また、膵divisumとはどういう状態を指すのでしょうか?
膵divisumについてはこちらを参考にしてください。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/9146
>こちらは壁肥厚ではなく血腫を見ていると考えます。
特に空腸の一部で目立ちます。
なるほど。ありがとうございます。膵divisumについても勉強いたします。
消化管出血のCT画像診断に関連して、急性腹症全般のCT画像診断にお伺いしたいことがあります。
私は、急性腹症では基本的に腹部単純CT+造影(平衡相の1相が多い。胆道感染、急性膵炎、出血を疑う時はダイナミック)を行なっていますが、単純CTを施行する意義は、造影CTでは観察しにくい尿管結石などの評価を主に目的にしているのでしょうか?
私の上司の中には、被爆量が増えるため、未成年などでは単純CTは不要で造影のみという意見の医師もいます。
急性腹症における単純CTの位置付けをご教授いただければ幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>私は、急性腹症では基本的に腹部単純CT+造影(平衡相の1相が多い。胆道感染、急性膵炎、出血を疑う時はダイナミック)を行なっていますが、単純CTを施行する意義は、造影CTでは観察しにくい尿管結石などの評価を主に目的にしているのでしょうか?
単純CTが必要な疾患は、
尿路結石
総胆管結石
消化管出血
絞扼性腸閉塞
が疑われる場合などです。
尿管結石は造影CTでもわかりますが、わかりにくくなることがありますし、尿管結石を疑うケースで造影CTは普通は撮影しません。
総胆管結石は単純だと見えるのに造影すると不明瞭化することがありますので、胆道感染など疑う場合は単純が欲しいところです(この症例は撮影されていませんが)
>私の上司の中には、被爆量が増えるため、未成年などでは単純CTは不要で造影のみという意見の医師もいます。
被曝量が増えるのはおっしゃるとおりで何でもかんでも、単純+造影(特にダイナミック)はNGだと思います。
あとは施設にもより、1人当直先で造影CTと言うとかなり嫌がられることもあり、基本的に単純1択のところもあります。
そういった場合はまず単純を撮影して、どうしても必要ならば追加という形になるかと思います。
丁寧なご回答ありがとうございます。想定される疾患だけでなく、施設のマンパワーも考慮すべきなのですね。
ちなみに絞扼性腸閉塞における単純CTでは、出血性梗塞を示唆する壁の高吸収を評価する理解でよろしいでしょうか?
>ちなみに絞扼性腸閉塞における単純CTでは、出血性梗塞を示唆する壁の高吸収を評価する理解でよろしいでしょうか?
おっしゃるとおりです。
あとは造影する場合は、造影前後での造影効果を評価するためにも、造影前と造影後を見たいところです。
動画内の左尿管膀胱移行部に尿管結石ありと表示されているのですがどのあたりでしょうか?
見つける事が、できなかったです。
アウトプットありがとうございます。
すいません、完全に誤植です。ここの部分は無視してください。
門脈ガスの所見があるようにみえますが
如何でしょうか
アウトプットありがとうございます。
門脈ガスは認めないと思いますがどのスライス部分でしょうか?
間歇的出血では動脈相でも出血をみとめないと記載がありますが、聞歇的出血を呈する具体例がありましたら、ご教示いただけないでしようか
アウトプットありがとうございます。
>聞歇的出血を呈する具体例がありましたら、ご教示いただけないでしようか
下血などの症状があるのにダイナミックCTでextravasationを同定できない場合です。
今回の症例とは直接関係ないのですが,早期相,動脈相,門脈相などあまり自分なりに整理できていません.
早期層(=動脈層)→門脈相→平衡相の順でよろしいでしょうか?
またこれらの相の区別は大動脈の造影濃度でcheckしたらよいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>早期層(=動脈層)→門脈相→平衡相の順でよろしいでしょうか?
すいません。ちょっと当院が特殊で早期動脈相→後期動脈相→平衡相 くらいのタイミングになっています。
>またこれらの相の区別は大動脈の造影濃度でcheckしたらよいでしょうか?
大動脈および門脈、下大静脈を見てということになりますが、個人差もかなりあるので注意が必要です。
ダイナミックCTを追加すると造影剤漏出の経時的変化が分かりやすくなりますね。今まで1相のみの造影CTで済ませてしまうことが多かったのですが、症例を選んでダイナミックCTを追加しようと思いました。大変勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>ダイナミックCTを追加すると造影剤漏出の経時的変化が分かりやすくなりますね。
そうですね。早期相での血管外漏出像(extravasation)およびその後のその広がりを確認することでより出血部位の同定をすることができます。
解説の早期相と平衡相の写真の後の1行目に「傍十二支著憩室」と誤植がありました。
さて、空腸の壁肥厚が見られると思いますが、これは十二指腸の出血の影響と考えて良いのでしょうか。または空腸にも問題があるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>解説の早期相と平衡相の写真の後の1行目に「傍十二支著憩室」と誤植がありました。
誤植報告いただきありがとうございます。修正しました。
>空腸の壁肥厚が見られると思いますが、これは十二指腸の出血の影響と考えて良いのでしょうか。または空腸にも問題があるのでしょうか。
他の方のコメントのところにも記載しましたが、壁肥厚のようにも見えますが局所的であり、おそらく血腫そのものを見ているのだと思います。
黒色便の情報から胃付近の出血だと考え、探しましたが、出血点が同定できませんでした
アウトプットありがとうございます。
上部が疑われますね。
造影剤の血管外漏出像(extravasion)や今回は単純CTはありませんが、単純CTでの高吸収な血腫を探すようにしてください。
他の方も質問していましたが、膵管癒合不全について質問させて下さい。
今回の場合だと、主膵管と同様の径の管腔構造物が水平断の23,24あたりで二つ見えるため、副膵管と考えて膵管癒合不全s/oという判断過程で良いでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりです。
肝内胆管の拡張はありませんが総胆管の拡張はあるように見えました。
十二指腸内腔の圧上昇により胆汁が流れにくく通過障害を認めるといった病態は考えられるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>総胆管の拡張はあるように見えました。
有意な総胆管拡張は11mm以上ですので、計測できない環境で申し訳ありませんが、それほど拡張はしていないように見えます。
>十二指腸内腔の圧上昇により胆汁が流れにくく通過障害を認めるといった病態は考えられるのでしょうか。
そういったことはあり得ると思います。