
症例18
【症例】20歳代女性
【主訴】仕事中に突然の左下腹部の痛み
【データ】WBC 5600、CRP0.25
画像はこちら
腹部単純CTで子宮の左腹側に、脂肪濃度と石灰化を有する腫瘤を認めます。
左卵巣腫瘍が疑われ、脂肪を含有していることからも成熟嚢胞性奇形腫が疑われます。
その腫瘍と卵巣の間には軟部陰影を認めています。
造影CTでは、子宮の造影効果と比べると、卵巣腫瘍の造影効果が不良です。
子宮と卵巣腫瘍間にある軟部陰影もやや造影効果が不良です。
左卵巣腫瘍の捻転と診断されました。
婦人科にて手術の結果、この軟部組織は、卵巣間膜の捻れを見ており、2回転(720度)していました。
つまり、今回の画像をイラスト化すると次のようになります。
なかなかCTで診断することが難しい婦人科救急疾患ですが、以下のものが挙げられます。
今回は、卵巣の茎捻転です。
卵巣の茎捻転では、以下のような画像所見を認めます。
支持組織が捻れることで、
- 卵巣への血流低下〜欠損→造影不良となる。
- 卵巣間膜の捻れそのものの描出→今回のように子宮と卵巣腫瘍の間に構造物を認める。
また、捻れた卵巣に引っ張られ子宮が患側(捻れている卵巣側)に偏位します。
今回の症例ではこれらいずれの所見も認め、典型的といえます。
診断:左卵巣腫瘍茎捻転(成熟嚢胞性奇形腫)
※婦人科疾患が疑われた場合は、婦人科コンサルトが必要となります。
参考文献:
1)Digestion 60:9-13,1999
その他所見:胃内に残渣あり。
症例18の動画解説
卵巣腫瘍の茎捻転の画像所見
正常卵巣はどうみえるのか?
補足:卵巣静脈を逆行性に追うことで、骨盤内腫瘍が卵巣由来か否かを判断できるサイン(ovarian vascular pedicle sign)として知られており、漿膜下筋腫と卵巣充実性腫瘍を鑑別する際に特に役立ちます。
卵巣静脈と腫瘤性病変が連続する場合、感度92%、特異度87%で卵巣由来であるとされます。
(参考:画像診断 Vol.41 No.6 2021 P627)
症例16-18の過去の解答ページはこちら(passは、N5dPkUiy)
症例18のQ&A
- 婦人科疾患の画像を見れて勉強になりました。
- 婦人科疾患はなかなかCTで診断に至らないことが多いので、貴重な症例ですね!
- 卵巣の奇形腫はすぐに思いついたんですが、茎捻転ですかぁ。子宮とのエンハンスの差・・・。
いろいろ考えながら見なければと再認識しました。 - ちょっと難しい症例ですが、典型的なので覚えておいてください。
- 症状や腫大した卵巣から捻転だとは思ったのですが、それを裏付ける根拠を提示できませんでした。虚血を示せばよいのだろうと思ったのですが、それをどう示せばよいかわかりませんでした。子宮との造影効果の違いを見ればよかったのですね。勉強になりました。
- なかなか慣れていないと難しい症例でした。
典型的な画像なので目に焼き付けてください。
- 所見を指摘はしていますが、そこから先の考え方が全くの誤り。
婦人科領域は救急領域で目にしてはいますが、正しい理解が弱いと実感しました。 - 婦人科領域の画像診断とくに、CTは難しいですね。
良い経験にしてください。
- 子宮の偏位を自信を持って所見に入れられませんでした
解説の婦人科救急疾患や卵巣腫瘍茎捻転の分類図が見やすかったです - ちょっと難しい症例でしたね。ありがとうございます。
- 卵巣腫大があるときに、造影効果は保たれているレベルの茎捻転なのかあるいは卵巣出血なのかと悩むことがあります。
- 単純CTと造影があればそれを比べることですかね。
ただCTでは子宮・卵巣はなかなか難しいことが多いです。付属器が怪しければ、婦人科コンサルトや可能ならばMRIですね。
- 卵巣腫瘍茎捻転を指摘することはできたのですが、捻転している茎の部位の同定ができませんでした。今後は造影の程度の差に着目するように心がけます!
- 疾患名を指摘できたならばほぼクリアですね(^o^)
- 臨床所見と奇形種に造影効果がないから捻転だろうって思っていましたが、索状物が太いことにも注目しなければでした
- そうですね。イラストのようなねじれを想定できるかですね!
- 奇形腫、捻転なしと診断してしまいました。子宮と比べると確かに造影効果が乏しいですね。
- 奇形腫の脂肪に引っ張られて造影効果はこんなものかと思ってしまうかもしれないですね。
腸管もそうですが、造影効果の有無については評価が難しいこともありますが、今回はおっしゃるように子宮との比較で違和感がありますね。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
腫瘍部の造影不良に気づけませんでした。ところで奇形腫って成熟とか未熟とかがあって、悪性境界性良性があると思うのですが、この画像で成熟だとわかるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
未熟奇形腫は小児〜若年者に認められ、基本は頻度としては圧倒的に成熟です。
ただし、高齢者の場合でも悪性転化することもあるので注意も必要です。
・大きさが10cm以上
・増強効果を有する充実性成分や壊死・出血の存在
・周囲組織への浸潤性病変の存在
・微量な脂肪の存在
が、未熟奇形腫や悪性転化した奇形腫を疑う所見と報告されています。
(画像診断 Vol.32 No.8 2012 P729)
今はそのような所見はなく、明瞭な脂肪塊として、境界も明瞭ですし、悪性を示唆する所見ではありません。
症例ありがとうございます。
茎捻転部の軟部影と子宮の患側偏移、勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>茎捻転部の軟部影と子宮の患側偏移、勉強になりました。
婦人科疾患は、CTでは難しいことも多いですが是非覚えておいてください。
今回は石灰化を伴っていたのでわかりやすかったですが,実際,卵巣と腸管の区別に迷うことがあります.何か良い見つけ方などあれば教えてください.
アウトプットありがとうございます。
卵巣はCTでは分からないこともしばしばあります(MRIの方がかなりわかりやすいですがMRIでも同定できないことがあります)が、腸管と異なり連続性がないこと、低吸収の小さな(時に大きな機能性嚢胞もありますが)嚢胞として認めることで区別できることがあります。
いつも勉強させていただいています。
捻転わかりませんでした。
ちなみに、この捻転、MRIではどのように画像化されるのでしょう?
T2強調画像で高信号?で捻転している様子も画像化できるのでしょうか?
T1では?
アウトプットありがとうございます。
MRIでどう画像化されるかcase by caseですが、捻れの部分はMRIの方がわかりやすいことが多いです。
この症例では残念ながらMRIは撮影されていません。
茎捻転まで考えが至りませんでした。
やはり下腹部痛がある場合、成熟嚢胞性奇形腫の有無のみならず、捻転や破裂を意識するべきですね。
なお、婦人科コンサルトする際には、冠状、矢状断を作成することは有益でしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>やはり下腹部痛がある場合、成熟嚢胞性奇形腫の有無のみならず、捻転や破裂を意識するべきですね。
ですね。動画で解説した婦人科疾患を思い出していただけたらと思います。
>なお、婦人科コンサルトする際には、冠状、矢状断を作成することは有益でしょうか。
有益です。捻れている様子が冠状断や矢状断の方がわかりやすいことがあります。
何となくで正解はしたのですが、子宮の偏位だったり、卵巣の造影効果の不良であったり、茎捻転部位がどこかであったり、拾えなかったので、とても勉強になりました。きちんと細かく所見を拾って、それを元に診断しないと足元すくわれるなと思いました。
激励メッセージもありがとうございました。励みになります。朝のメールを見てすぐに鉛筆と受験票をかばんに入れました笑
アウトプットありがとうございます。
>何となくで正解はしたのですが、子宮の偏位だったり、卵巣の造影効果の不良であったり、茎捻転部位がどこかであったり、拾えなかったので、とても勉強になりました。
なかなかCTでは難しいことが多いですが、今回はCTでも診断が可能な症例でした。
>激励メッセージもありがとうございました。励みになります。朝のメールを見てすぐに鉛筆と受験票をかばんに入れました笑
卵巣腫瘍捻転は、、、さすがに国家試験には出ないかもしれませんが(^_^;)
と思って調べたら出ることもあるんですね。
https://medu4.com/110D39
鉛筆と受験票を入れたのならもう大丈夫ですね。
あとは2日酔いにだけ注意していただければ(違)。
全く基本的なことですみません。卵巣の見方がわかりません。ある程度大きくないとわからないこと、連続性がないことから腸管とは違うことはわかります。ある程度大きくなった時に、なぜそれが卵巣と分かるのか、といったごく基本的な質問です。
アウトプットありがとうございます。
補足動画を追加しましたのでそちらをご覧ください。
丁寧な補足動画を作っていただきありがとうございました。とてもわかりやすかったです。
正常卵巣はCTでどのように見えるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
補足動画を追加しましたのでそちらをご覧ください。
答としてはおおむね合っていましたが、卵巣腫瘍部分と茎捻転部分をしっかりと分けて指摘することができませんでした。卵巣静脈といえば、昔はウイルス性肝硬変が多かったので門脈圧亢進症も診ることも多々あって、よく見ましたが、その頃以来ちょっと忘れてました。
正常の卵巣の動画をありがとうございます。そこで思ったのですが、ここまで提示される症例はなにか病的異常があるという前提で見てきましたが、現場では異常がなくて終わってしまう検査もあると思います。自分一人でも「異常がない」「大きな異常がない」と言えるくらいにはなりたいと思っています。そこで、今後の課題として、系統的読影を実演していただけないでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>そこで、今後の課題として、系統的読影を実演していただけないでしょうか?
こういったものということでしょうか?
よろしくお願いします。
ありがとうございました
いつもありがとうございます。
左腎静脈が分岐していますか?
アウトプットありがとうございます。
すいません。どういう意味でしょうか?
分かりづらいコメントで申し訳ございません。
左卵巣静脈が、左腎静脈の分岐に注いでいるなあと思って確認で聞いてしまいました(腎静脈本幹?分岐前?に注ぐタイプしか見たことがなかったので)。
伝わりましたでしょうか・・・(^^;
確かにそうですね。
左腎静脈の太いものが2本あり、その尾側の方に卵巣静脈が注いでいますね。
おっしゃるようになかなか見ないタイプですね。
よく気づきましたね。ありがとうございます。