
症例1
【症例】20歳代女性
【主訴】右下腹痛
【身体所見】腹部は平坦、軟。右下腹部に圧痛あり。反跳痛なし。
【データ】WBC 9200、CRP 2.47
画像はこちら
虫垂の腫大および壁の造影効果増強を認めています。
急性虫垂炎を疑う所見です。
虫垂炎を見た場合、穿孔や膿瘍形成の有無をチェックする必要がありますが、今回は穿孔や膿瘍形成を疑う所見は認めません。
少量腹水を認めていますが、生理的範囲内(~やや多い程度)です。
冠状断像では虫垂が盲腸から出ている様子がよくわかります。
また、虫垂の先端は長く、骨盤内にあります。
補足:
腹水の分布がやや右側に多く、癒着がある可能性あり。
また右骨盤底にて腹膜の肥厚軽度ありますが有意かは不明です(3日後には症状消失している点からも有意ではないのでしょう)。
冠状断像でしかわからないこともありますので、とくに虫垂炎を疑う場合は横断像だけではなく、冠状断像や矢状断像も作って貰いましょう。
診断:急性虫垂炎
※外科コンサルトが必要となります。
この方は入院にはならず、保存的に加療され、症状消失し、3日後に終診となっています。
その他所見:
- 副脾あり。
- 双角子宮あり。→正:弓状子宮あり。
- 回盲部に小リンパ節あり。
症例1の解説動画
補足動画 CTにおける虫垂の同定の仕方
動画内の症例です。
補足動画 虫垂炎の画像診断のポイント
その他所見:
- 肝両葉に淡いLDAあり。血管腫など。
- 前立腺にシード留置あり。
症例1 Q&A
- 腹水の量は生理的なものか炎症によるものか判断に迷いました。
- 微妙ではありますが、やや炎症によるものもあるのかもしれません。とくに腹膜の肥厚を優位と取ればです。
- 炎症があると虫垂には液体が貯留するのでしょうか。
- おっしゃるとおり正常です。虫垂炎のない虫垂はガスが貯留していることが多いです。
- 虫垂炎の診断はすぐについたが、穿孔の有無の判断・FreeAirの有無の判断に迷いました。普段は肺野条件を活用しFreeAirがないか確認しています。一部腹膜肥厚しているかとも思いましたが・・・。腹水の量は女性であれば正常とも考えましたが、普段よりやや多い印象を受けたので有意な増加ととってしまいました。
- おっしゃるとおりで、虫垂炎を見れば穿孔や膿瘍形成の併発を必ずチェックしなければなりません。
今回は濃度を変えられれないのと、穿孔がないのでややこしくしないためにも腹部条件のみ提示しました。
腹水量はやや多いですが、生理的範囲内と考えます。
- 症例1に関連してなのですが、虫垂の同定の際に回結腸動脈を探して虫垂を同定すると言われたことがあるのですが、イマイチよく理解できていません。この方法についてご教授いただけないでしょうか。
- 症例ごとに回結腸動脈を同定するのは現実的ではないと思います。
動画で解説しているように、盲腸と回盲部を探して虫垂を同定する方が良いと思いますが、
48/80で盲腸部から出ている静脈が回結腸静脈と思われます。動脈は伴走しているはずです。回結腸動脈についてはこちらで触れています。
- 調べたところ30~50mLが「生理的な腹水」とされるようです。なのですが、30〜50mlをCTで定量的に測る方法などはあるのでしょうか?それとも30〜50mlは勘?みたいな感じですか?
- ちょっとここは難しいですね(;゚ロ゚)。量を計測しているわけではなく、おっしゃるように勘というか、今回の量くらいを正常上限くらいでイメージしていただけたらと思います。
ちょうど生理的な範囲内です。と言えるような症例がありました。
- 虫垂がこんなに長い人もいるんだということにそもそもびっくりでした。
- どこまで続くんだ!と、もっと長い人もおられます。
- 虫垂炎では糞石、穿孔、膿瘍の有無を記載するように気をつけていますが、当院では回盲部の膿瘍形成が強い場合、抗生剤で粘り、炎症が落ち着いてから手術を延期している症例が多いです。最終的には外科医の判断になるでしょうが、虫垂炎の膿瘍形成に関して所見を記載する上で放射線科医として気をつけていることはありますか。
- だとすると、膿瘍が局所で被包化されているかどうかでしょうか。
膿瘍が腹腔内全体に広がって、腹膜炎を起こしている状態ですとさすがに緊急手術となると思いますので。
局所的で収まっているのならば、少しは粘れるかもしれません。(補足:局所的で収まっているようならば、抗生剤で炎症が治まるのを待ってから手術をするのが通常のようです。)
- 骨盤内が気になってしまい、右卵巣が腫れているのではないか?と思ってしまいました。左右非対称のように見えました。
- 卵巣は左右非対称で構いません。
生理的範囲内と考えます。
- 症例1の解説動画で腹水について少し言及されていましたが、癒着と腹水は関係があるのですか?
- 癒着をしていると腹水の分布に偏りを起こしたりすることがあります。
今回はこれとは違いますが、子宮内膜症が骨盤内に認めた場合などの腹水の分布の偏りが有名です。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
双角子宮ですか?弓状子宮ですか?子宮外側のくぼみはなさそうですが。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。おっしゃるように、外側のくぼみが今回なさそうなので弓状子宮という呼び方が正しいですね。修正します。ありがとうございます。
虫垂壁の造影効果があるのが、虫垂炎の所見との説明がありました。壊疽性虫垂炎になっても虫垂壁の造影効果はあるのでしょうか。血行不良でなくなってしまうのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>壊疽性虫垂炎になっても虫垂壁の造影効果はあるのでしょうか。
壊疽に陥った部分の壁には造影効果がなくなります。
ですので、造影効果を有する虫垂壁の連続性が保たれているかをチェックすることも重要ですね。
また壊疽に陥ると、壁外にガスを認めたり、膿瘍を形成することがありますのでそれらの有無のチェックも必要となります。
骨盤の膀胱直上にdirty fat sign があるように見えてしまいますが、
これは大網や腸間膜内の血管影が見えているだけでしょうか。
自施設で見ているslice厚(1.25mm)との違いか、画像の解像度の違いなのか
目立つような気がします。
アウトプットありがとうございます。
>骨盤の膀胱直上にdirty fat sign があるように見えてしまいますが、
確かに少しこの方は目立ちますね。
これだけで即、腹膜炎とは言えないですが、指摘してよい所見であると考えます。
腹腔内のリンパが腫脹していますが、虫垂炎の影響でしょうか?場所的には左腹部にあり、小腸炎の所見はありませんか?
また左腎足側に血管が走行し、左卵巣静脈に流入しているようです。Nutcraker現象の側副血行路でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>腹腔内のリンパが腫脹していますが、虫垂炎の影響でしょうか?場所的には左腹部にあり、小腸炎の所見はありませんか?
どこのリンパが腫脹していますか?
小腸炎の所見はないようです。
>また左腎足側に血管が走行し、左卵巣静脈に流入しているようです。Nutcraker現象の側副血行路でしょうか?
左卵巣静脈は拡張していませんし、特にNutcraker現象を疑う所見もありません。