
症例45
【症例】30歳代男性
【主訴】左下腹部痛(電車で移動中に痛み出現あり、救急搬送)
【身体所見】意識清明、BP 161/106mmHg、HR 65回/分、SpO2 100%(RA)、BT 35.8℃、腹部平坦・やや硬・左腹部に自発痛、圧痛あり、反跳痛あり、筋性防御あり。 CVA tenderness左側で+。
【データ】WBC 7100、CRP 0.11、Hb 15.2
画像はこちら
腹部造影CTです。
左の腎周囲に液貯留を認めています。また腎周囲の筋膜の肥厚を認めてます。
また左腎から突出する腫瘤性病変を認めています。
腫瘤には脂肪成分の含有を認めています。
腎腫瘍でこのような脂肪成分の含有を認めた場合、腎血管筋脂肪腫(renal AML:renal angiomyolipoma)と診断されます。
腎AMLと腎周囲の液貯留はどう関係があるのでしょうか?
サイズの大きな腎AMLは出血することがあります。
今回も破裂して周囲に出血を起こしています。(CT値の高い液貯留を認めています。)
診断:左腎血管筋脂肪腫の破裂による出血
ところで、この出血を起こしている部位はどこなのでしょうか?
これまで数例の腹腔内出血の症例を見てきましたが、少し様子が違いそうです。
Douglas窩にも肝や脾周辺にも液貯留を認めてません。
これまで見てきた腹腔内出血を来した症例
と今回は何が違うでしょうか?
それは、肝臓・脾臓・卵巣などと異なり、腎臓は後腹膜臓器であるということです。
(※後腹膜臓器については下の動画解説で触れています。)
ですので、今回は後腹膜腔にのみ出血を来しており、腹腔内には出血は認めていません。
腎臓に出血や炎症が及んだ場合、以下のように広がります。
すなわち、腎周囲のbridging septa (橋中隔)を介して前腎筋膜、後腎筋膜などへ波及し、さらにそこから上下方向に広がっていきます。
(※bridging septa (橋中隔)は腎周囲腔に存在し、結合組織性の隔壁で、血管やリンパ管とも連絡しています。)
今回も出血を起こしているレベルを見てみますと、
このように腎臓周囲の筋膜にbridging septaを介して出血が広がっている様子がわかります。
また、周囲筋膜に広がった出血は下方に進展していきます。
今回の症例でも、左のかなり下方まで後腹膜に出血が及んでいることがわかります。
左右差を見ればその違いがよくわかりますね。
このように後腹膜に上下に血腫が広がる様子は矢状断像で見ればよりわかりやすくなります。
腎臓の前に前腎筋膜、後ろに後腎筋膜があり、この筋膜は下方で合流しますが、その中(後腹膜腔)で血腫が広がっている様子がわかります。
診断:左腎血管筋脂肪腫(AML)破裂による後腹膜出血
腹腔内出血と比較して、後腹膜腔は血腫が広がる腔に限りがあり、タンポナーデ効果があるため、まずは保存的に加療され、待機的にアンギオになることがあります。
今回のケースも翌日に待期的にアンギオとなりました。
左腎動脈の造影により、左腎から突出する腫瘤を認めています。
腫瘤内には仮性動脈瘤を疑う不整な血管拡張を複数認めています。
左腎AMLを栄養する血管を選んで金属コイルが留置されました。
留置後の左腎動脈造影です。
コイルが留置され、腎腫瘤の描出は消失していることがわかります。
腎AMLは今回の症例のように仮性動脈瘤を形成しやすく金属コイルで塞栓することで治療される事が多いです。
さて、コイル塞栓をしてから3ヶ月後にフォローのCTが撮影されました。
左腎には塞栓したコイルが残っています。
冠状断像では、左腎下極寄りにφ4.3cm大の脂肪濃度を内部に有する腫瘤を認めています。
腎血管筋脂肪腫を疑う所見です。
コイル塞栓により少しサイズは縮小したことが考えられます。
その後は他院にてフォローされています。
その他所見:L5/S術後。
症例45の動画解説
腎出血と後腹膜腔での広がり方について
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
腎周囲の解剖の復習(というより、真面目に勉強したのは初めてかもしれません笑)ができてとてもよかったです。
ブリッジングセプタも覚えておきます。病態の把握のみならず読影の表現力も広がりそうです。
AMLでしたね。腎にある「もの」の破裂だとは思ったのですが、周囲に惑わされて(?)、腫瘤の評価が適当になっていました。また勉強しておきます。
アウトプットありがとうございます。
>腎周囲の解剖の復習(というより、真面目に勉強したのは初めてかもしれません笑)ができてとてもよかったです。
後腹膜の解剖をこの症例や膵炎の症例などで復習しましょう。
腎から連続する腫瘤で、内部に脂肪がある。までは分かったのですが、腎血管筋脂肪腫というものを知りませんでした。腹膜の肥厚ではなく筋膜の肥厚なのですね。復習しておきます。
アウトプットありがとうございます。
>腎から連続する腫瘤で、内部に脂肪がある。までは分かったのですが、腎血管筋脂肪腫というものを知りませんでした。
腎臓で可視的な脂肪があれば、腎血管筋脂肪腫と診断します。
腎周囲の線維状の構造が靭帯なのか、血管なのか、それとも別の構造物なのかよく分かっていませんでした。
bridging septa…勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>bridging septa…勉強になりました。
今回だけではなく、腎盂腎炎、尿管結石などでも見られますので意識してみてください。
bridging septa のことを、先日の大網捻転のように血管が巻き込まれているのかと考えて、なにかが捻転したのかと考えてしまいました。
腎周囲の解剖について深く学習でき、とても勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>腎周囲の解剖について深く学習でき、とても勉強になりました。
膵炎など後腹膜の炎症の進展経路にもなりますので、覚えておいてください。
bridging septaを介して筋膜に血種が広がっており、膜というより腔であることを強く感じる症例でした。
前腎筋膜・後腎筋膜という”膜”という表現とRMP・RRPという”plane”という表現はどちらが的確?一般的?でしょうか
アウトプットありがとうございます。
>前腎筋膜・後腎筋膜という”膜”という表現とRMP・RRPという”plane”という表現はどちらが的確?一般的?でしょうか
以前は膜(fascia)と考えられていましたが、液貯留や血腫が広がる様子から腔、面(plane)と認識した方がよさそうですね。
最初に面と理解したほうがよいと読んだときは確かに!と衝撃でした。
表現は難しいところですが、面(plane)と使ってもレポートを読む人は「??」となりそうですね。
ですので、個人的には面と認識しながらも膜という表現を使っています。
本日も勉強になりました.
AMLを感染巣?膿瘍形成?と勘違いしてしまいました.復習します.
アウトプットありがとうございます。
>AMLを感染巣?膿瘍形成?と勘違いしてしまいました
後腹膜出血の最多がこのAMLの破裂です。脂肪成分があれば、「あ、またあれかな」と頻度からも疑うことができますので、覚えておいてください。
腸ばかりを見てしまい炎症がどこのものか分からなかったです。
動画を見ることで腎臓の解剖がより分かりました。
教科書で後腹膜にどの臓器があるなど書いてはあるものの覚えることでどんなことに使える知識なのかも今回の解説で分かりました。
アウトプットありがとうございます。
>教科書で後腹膜にどの臓器があるなど書いてはあるものの覚えることでどんなことに使える知識なのかも今回の解説で分かりました。
後腹膜臓器は1つ1つ暗記するというよりは場所でイメージするという感じですね。
腹腔内とは別の広がり方をしますので、この症例でその違いを理解してみてください。
>腹腔内出血と比較して、後腹膜腔は血腫が広がる腔に限りがあり、タンポナーデ効果があるため、まずは保存的に加療され、待機的にアンギオになることがあります。
なるほど~(*’▽’) どっちかっていうと、
「待機的にアンギオになることがあります。」の部分に反応しました。
AML(に限らず)はやっぱり、栄養され続ければどんどん大きくなっちゃいますかね(;’∀’)
「どうせ破裂しちゃったから、後腹膜でパックしちゃえば(アンギオしなくても)問題なし(^▽^)/」
という訳にはなかなかいかないんですね(^-^;
あるいは、「100% 保存的治療」の症例も、存在はしますか(;’∀’)?
腫瘤のタイプによって異なったりしますか?
アウトプットありがとうございます。
>「どうせ破裂しちゃったから、後腹膜でパックしちゃえば(アンギオしなくても)問題なし(^▽^)/」
あるいは、「100% 保存的治療」の症例も、存在はしますか(;’∀’)?
腫瘤のタイプによって異なったりしますか?
サイズの大きなAMLは破裂前に治療適応になることがありますので、
破裂を起こした場合はなおさら基本治療されますね。
あと腎細胞癌などの場合は、遠隔転移などがなければ外科的に手術になります。
今回のように腫瘍内に脂肪濃度に相当する低吸収のものがしっかりとあればAMLと絞り切れますが、脂肪が微量な場合はどう判断したら良いですか?
腎細胞癌破裂の症例を私はまだ見たことがありません。
AML破裂と腎細胞癌破裂と脂肪量以外で画像的に判断できる特徴がありますか?
転移のあるなしとかになりますか?
アウトプットありがとうございます。
>脂肪が微量な場合はどう判断したら良いですか?
この場合は難しくなりますね。
おっしゃるように脂肪が少ないAMLがあります。
この場合は単純CTで筋肉と同じくらいの吸収値である他、
ダイナミックのパターンやMRIの画像で鑑別していくことになります。
ただし、それらは出血が引いてからになります。
この出血量では脂肪がなければ脂肪が少ないAMLなのか、腎細胞癌なのかはわかりません。
衝撃的な画像でした.
腎腫瘤内部に脂肪を認めたら腎AMLでよいとのことでしたが,脂肪成分は低吸収部分ということでよいでしょうか.
大変基本的な質問で申し訳ございません.
アウトプットありがとうございます。
>脂肪成分は低吸収部分ということでよいでしょうか.
おっしゃるように低吸収部分ですね。皮下脂肪と同じくらいの吸収値です。
まず腎周囲の汚い網目状の構造に目が行き、よく見てみると腎から突出する構造があり。
膀胱の濃度と比較して高濃度であったので血腫や血性腹水なのかな?腫瘤が破裂したのかな?と思い。
とても汚いので腎細胞癌が破裂したのかと思ってしまいましたが・・・
冷静に考えれば、腎腫瘤を見たらまず脂肪成分が含まれているかを評価しなくてはならないのに、なんでそれが出来なかったのか悔しいです!
まだまだです・・・。
見た目の派手さに惑わされて自信がなく、基本を忘れてしまったようです。
後腹膜出血の多くがAMLの破裂なのですね。覚えておきます。
今日もありがとうございました!
アウトプットありがとうございます。
>とても汚いので腎細胞癌が破裂したのかと思ってしまいましたが・・・
冷静に考えれば、腎腫瘤を見たらまず脂肪成分が含まれているかを評価しなくてはならないのに、なんでそれが出来なかったのか悔しいです!
とりあえず腎腫瘍が破裂していることがわかればOKです。
腫瘍の精査は出血が収まってからで問題ありませんので。
勉強になりました.renalAMLの破裂する前の画像もあれば見てみたいですね.
アウトプットありがとうございます。
そうですね。この方は破裂してから初診でこられたかと思いますが、
その後の画像などないかチェックしてみます。
破裂前の画像はありませんでしたが、コイル塞栓後3ヶ月後の画像がありましたので、追加しました。
破裂前とは少し形態は変わっているかと思いますが、腎血管筋脂肪腫であることがはっきりとわかります。
膿瘍か腎細胞癌の破裂かと思ってしまいましたが、腎血管筋脂肪腫だったのですね、、勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
破裂により後腹膜に出血を来していることがわかればまずはOKです。
その上で今回のように脂肪を含有する場合は、AMLを考えてください。
即IVRかと思いました。
後腹膜臓器の出血は待機的が多いんですね。
アウトプットありがとうございます。
もちろん即IVRもあります。
バイタル次第ですね。
コメント遅くなりました。解説ありがとうございます。
出血しているのはわかりましたが、腫瘍の破裂だったのですね。
腎血管筋脂肪腫、bridging septa、、勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
特発性や外傷によることもありますが、今回は腫瘍の破裂が原因となります。
基本的な質問で申し訳ありません。出血や炎症がひどければ前腎傍腔や腎周囲腔は左右の交通を来たすのでしょうか。後、一部造影効果がある様に見え活動性出血ありと読んだのですが如何でしょうか。よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
前腎傍腔は膵炎の例を見れば分かるように左右に容易に広がることがあります。
そもそも前腎傍腔は右とか左とかあまり区別しないと思います。
一方で、腎周囲腔は左右の交通はないと言われています。
今回も左腎周囲腔は派手なのに、右は知らんぷりですね。
>後、一部造影効果がある様に見え活動性出血あり
ここは少し難しいところですね。
一般的に活動出血ありとするのは、ダイナミック早期相でextravasationがあり、平衡相でそれが広がっている場合に考えます。
今回は平衡相のみしか撮影されていないのと、明らかに高吸収な造影剤濃度の漏出ははっきりしないので、なんとも言えないですね。
いずれにせよ後腹膜の場合は腹腔内出血と異なり、待機的に見られることがありますのでその点も覚えておきましょう。
いつもお世話になっています。
復習しています。
血管外漏出所見はCTではないと考えて良いでしょうか。
復習ありがとうございます。
そうですね。今回平衡相の撮影のみですが、血管外漏出所見ははっきりしませんね。
後腹膜腔の出血は後腹膜内に制限されけれども、形態はベターとして一様なものだと思っていました。
Bridging septaのために、腹腔内出血の広がり方と後腹膜腔の出血の広がり方に違いがあるということがよく理解できました。大変勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>Bridging septaのために、腹腔内出血の広がり方と後腹膜腔の出血の広がり方に違いがあるということがよく理解できました。
Bridging septaがあるために腎周囲の炎症や浮腫、血腫の広がり方は特徴的ですね。
血腫が腹腔内なのか後腹膜腔なのかの判断は治療方針にもつながりますので非常に重要です。
腎の腫瘤が破裂、まではわかりましたが、腎腫瘤の鑑別が全然挙がりませんでした。復習します。ありがとうございました。
不勉強で申し訳ないですが、このように腎内の金属コイル等を行ったあとは、MRIは通常通り撮像してよいのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
最近のコイルであればMRIは問題なく撮影できますが、アーチファクトは出てしまいますね。
正常の腎でも、腎周囲の毛羽立ちが目立つ人がいます。あれはbridging septaをみているのかなとふと思いました。いかがでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃる通りです。bridging septaが目立つ方がおられますね。
ですので、左右差、過去画像との比較が重要ということです。
こんだけ大きいものは即上申と思いますが、破裂前の腎血管筋脂肪腫では読影レポート待つか、と考えそうです。未破裂で脂肪を含む腫瘤影を見つけた場合、技師が指示医師に即上申する目安があればご教授お願いします
アウトプットありがとうございます。
>破裂前の腎血管筋脂肪腫では読影レポート待つか、と考えそうです。
未破裂の腎血管筋脂肪腫の場合は、緊急性はありませんので、慌てる必要はありません。
ですが、レポートスルーはされないように主治医の先生には伝えて泌尿器科受診していただく必要はありますね。
貴重な症例ありがとうございます。
遅れたコメントで申し訳ありません。
単純→平衡相を撮影する過程で、単純CTで今回のようなAMLの破裂を疑った場合、出血源の同定や活動性出血の評価のためにダイナミック撮影を考慮する、というのは意義ありますでしょうか?後腹膜出血の場合はそこまで緊急視しなくても、、、でしょうか?(^_^;)
アウトプットありがとうございます。
>単純CTで今回のようなAMLの破裂を疑った場合、出血源の同定や活動性出血の評価のためにダイナミック撮影を考慮する、というのは意義ありますでしょうか?
腹腔内出血であれ、後腹膜出血であれ、出血源の同定や活動性出血の評価のためにダイナミック撮影を考慮するという点は非常に重要です。
今回は1相のみの撮影でしたが、ダイナミック撮影するべきですね。