症例40 解答編

症例40

【症例】80歳代女性
【主訴】下痢、食事が摂れない
【既往歴】非閉塞性腸管虚血(NOMI)で小腸部分切除
【身体所見】意識清明。会話可能。体温 35.8℃、BP95/55mmHg、PR 74/min腹部は平坦、軟、no pain、腹部正中にope scar、腸蠕動音に異常なし。
【データ】WBC 8900、CRP 4.02

画像はこちら

腹部単純CTです。

NOMIで手術をした吻合部周囲の小腸壁内にガスを疑う所見を認めています。

冠状断像で見ると、ガスは腸管壁内だけではなく、壁外の腸間膜内にも存在している様子がわかります。

さて、腸管壁内にこのようにガスを認める病態を「腸管気腫症」と言いますが、大きく

  • 腸管壊死を伴うもの→致死的気腫(clinically worrisome,life-threatening pneumatosis)
  • 腸管壊死を伴わないもの→経過観察でよい良性気腫(benign pneumatosis)

の2つのタイプがあります。

かたや致死的、かたや経過観察でよいと両極端ですが、その両者の鑑別としては、画像所見よりも、臨床所見が非常に重要となります。
  • 腸管壊死を伴うもの→急性腹症として、激烈な痛みで発症することが多い。
  • 腸管壊死を伴わないもの→症状が軽微で偶然発見されることが多い。

今回は、症状は割と軽微(下痢、食事が摂れない)であり、腹部の身体診察所見にも特記すべき異常はありませんでした。

となると、症例30のNOMI(疑い)であったような致死的な腸管気腫症ではなく、良性の腸管気腫症と判断することができます。

ちなみに、腸管壊死を伴う場合は

  • 上腸間膜動脈閉塞症
  • NOMI
  • 上腸間膜静脈血栓症
  • 虚血性腸炎
  • 絞扼性イレウス
  • (新生児壊死性大腸炎)

などが原因となります。

今回は、絞扼性イレウスや虚血性腸炎を疑う所見は認めませんし、上腸間膜動脈閉塞症(症例27)やNOMI(症例30)で認めたようなsmaller SMV signも認めません。

これらの点から、総合的に考えると、良性の腸管気腫症と判断することが出来ます。

保存的に加療されました。

3日後のフォローCTがこちらです。

3日後のフォローのCTでは、腸管壁内ガスおよび腸間膜内のガスはほぼ消失していました。

診断:腸管気腫症(良性)

今回は、腹腔内遊離ガス(free air)や静脈内ガス〜門脈内ガスははっきりしませんでしたが、これらを認める良性の腸管気腫症もあります。

画像を見た医者や技師さんは腸管壊死かもしれないと大騒ぎをしてる一方、患者さんはとくに症状もなくキョトンとしているということはよくあることです。

関連:腸管壁内気腫(腸管気腫症、嚢状腸管壁気腫)とは?CT画像診断のポイントは?

その他所見:

  • 左腎萎縮あり。
  • 膀胱バルーン留置あり。
  • 腰椎側弯あり。
  • L4,5圧迫骨折あり。
症例40の動画解説

腸管気腫症について


お疲れ様でした。

今日は以上です。

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