
【頭部】症例58
【症例】60歳代男性
【主訴】左手の力が入りづらい
【現病歴】今朝5時に起きたら左手が握りにくいことに気がついた。しびれもあり(第2,3指の掌側)、朝、救急外来受診。
【既往歴】糖尿病、脂質異常症
【内服薬】エパデール
【生活歴】past smoker 20本×22年、飲酒:500ml/日
【身体所見】意識清明、BP 155/103mmHg、P 92bpm、BT 35.3℃、Sp02 97%(RA)、神経学的所見:MMT 総指伸筋 5/4、小指外転筋 5/4、浅指屈筋 5/4、深指屈筋 5/4、左Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ指にしびれあり。それ以外の神経学的所見に異常所見なし。
画像はこちら
MRI
頭部CTでは特記すべき異常所見は認めません。
次に同日1.5時間後に撮影されたMRIを見てみましょう。
右前頭葉の皮質にDWI高信号・ADC信号低下・FLAIR高信号を示す部位を認めています。
DWIのみですと、脳溝に存在するようにも見えますがFLAIRで脳皮質であることがわかります。
急性期以降の新規脳梗塞を疑う所見です。
今回この症例を取り上げたのは、この病変部位の解剖が重要であるからです。
そのためには一次運動野である中心前回と一次感覚野である中心後回を分ける中心溝の解剖を同定する必要があります。
ということで、まずこの動画をチェックしてください。
中心溝の同定方法解説動画
動画で解説している症例のDWI画像はこちら。
動画を見ていただき、中心溝マスターになっていただいたところで、
今回の症例の解剖を確認すると以下のようになります。
つまり、高信号を示しているのはまず一次運動野である中心前回であり、さらにはその中でも後方へ出っ張っているprecentral knob signとも呼ばれる手指の運動野に相当する部位であることがわかります。
今回皮質に1箇所脳梗塞を認めている点から、塞栓性が疑われましたが、塞栓源としては頸動脈エコーで両側内頸動脈にプラークを認めず、心エコーで弓部大動脈小弯側に可動性のないプラークを認めるのみでした。
ですので、発作性心房細動が起こって、心原性脳梗塞が発生した可能性も考慮されましたが、推測の域を出ることはできませんでした。
診断:右大脳皮質(中心前回)急性期脳梗塞(塞栓性疑い)
※治療により経過は良好で、症状は左第Ⅳ指の筋力低下を認めるのみとなりました。入院から10日に退院となり、近医でフォローとなっています。
関連:頭部CT、MRIにおける脳の中心溝の同定方法のポイントは?
その他所見:脳底動脈に軽度狭窄あり。
【頭部】症例58の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
中心溝が分かりにくいときもありますが、同定するための技をこれだけ持っていれば安心できそうです。
今回のように局所的な病巣で、部位に応じた機能障害だけが出てくる例だと機能的な解剖学の勉強がとても分かりやすいです。
アウトプットありがとうございます。
>同定するための技をこれだけ持っていれば安心できそうです。
お役に立ててよかったです!
>部位に応じた機能障害だけが出てくる例だと機能的な解剖学の勉強がとても分かりやすいです。
そうですね。特に中心前回はそれがわかりやすいですね。
これまで見た中心溝同定のどの記事よりもスッと入ってきました!上のコメントにもありましたが手数が多くなれば安心です。症例58内で右椎骨動脈は低形成という所見でしたが、BPASとMRAで径に差がある場合、病変かと思ってしまうのでまだまだです。今回の症状には関係ないとわかっていても正常(低形成)というのには勇気がいります。本日もありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>これまで見た中心溝同定のどの記事よりもスッと入ってきました!
それはよかったです。
>BPASとMRAで径に差がある場合、病変かと思ってしまうのでまだまだです。
おっしゃるようにここは実際悩ましいケースもあります。
外形と血流がある部位を比較していますので、どうしてもMRAの方が若干細くなってしまいますね。
今日もありがとうございます。
precentral knob signを今まで逆Ω型だから中心前回や中心溝かな、と同定していましたが、今回の症例で6種類の同定方法を教えて頂いたので今度から自信をもって同定できそうです。
病変部から1スライス頭側の中心後回にFLAIRで高信号を認めるように見えたのですが、これは異常なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>今回の症例で6種類の同定方法を教えて頂いたので今度から自信をもって同定できそうです。
よかったです!
>病変部から1スライス頭側の中心後回にFLAIRで高信号を認めるように見えたのですが、これは異常なのでしょうか?
確かに淡い高信号がありますが、微細すぎてなんとも言えないですね。
古い梗塞後の変化の可能性もあるかと思います。
MRAで他の血管に比べて、右MCA(M2)に血管の狭小化があるように見えるのは、正常範囲なのでしょうか?
軽度の攣縮があったのではないかと考えました。お手間をとらせますが、後日のMRAでも同様に見えるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>MRAで他の血管に比べて、右MCA(M2)に血管の狭小化があるように見える
確かに左と比べると全体的にやや描出不良ですね。
後日の画像はありませんでしたが、過去画像と比較して差はありませんでした。
すいません、確認ありがとうございました。細い血管が2本重なっていて、末梢で太く見えただけかもしれません。
そうですね、2本重なっているように見えますね。
ちょび髭で帯状溝縁部を覚えられそうです笑
ちょい髭じゃないこともありますが、ここを「ちょび髭」と読んでいるのは出典はありませんので、
当講座のみとなります。きっと。
FLAIRのスライスで17〜21
で脳溝の間に見えている
血管のような構造
は正常でしょうか?
確かに通常では見られにくい血管構造が見えますね・・・。
このあと脳梗塞が大きくなることはなかったのですが、血流の低下を示唆しているのかもしれません。
MRA MIP像で脳底動脈の近位部も細く見え、かつBPASでは脳底動脈は太く見えましたので狭窄と考えたのですが、これはどのように考えたらよろしいですか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるようにMRA元画像、MIP像とBPASとの見え方にやや解離がありますね。
ですので同部位に軽度狭窄がありそうです。
追記します。
こんばんは!いつもお世話になっております。
卒試期間中でなかなかコメントがかけなくてもどかしいです…
「総指伸筋 (橈骨神経支配)、小指外転筋 (尺骨神経支配)、浅指屈筋 (正中神経支配)、深指屈筋 (正中神経支配)、左Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ指にしびれ(概ね正中神経支配領域)あり」とあることから、末梢病変がたくさん!
ではなくて、脳梗塞による「偽性」のものだったのですね。しかし、「中心前回病変なのでMMT が低下」はわかるのですが、手掌側Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ指のしびれ(感覚)の方はどう説明したらよいのだろうと疑問に思いました。中心後回に影響が及んでいるのでしょうか…
手持ちの教科書に、
「感覚神経系に障害がなくてもしびれは生じうる。すなわち末梢の血行の障害、感覚神経の上行路ではなく下降路である感覚制御系の障害、運動系(錐体路、錐体外路、運動ニューロン)の障害、自律神経系の障害によってもしびれは生じうるし、酸塩基平衡などの代謝やホメオスターシスの乱れや薬物乱用もしびれの原因になる」
という記載があったので、必ずしも中心後回に病変が及ばないで中心前回に限局していても、しびれはきたしうるのだろうととりあえず考えることにしました。
アウトプットありがとうございます。
卒業試験勉強お疲れ様です。
カルテや退院サマリーなど一通りチェックしなおしましたが、しびれの原因についての言及はありませんでした。
加療により、しびれは消失、左Ⅳ指の筋力低下のみ残り退院となっております。
みなさんが仰るように、どの教科書よりもス~と入ってきました!(そのまま抜けそうですが。)
モヤモヤが取れました。やはり、これは動画でないと伝わりにくいと思います。
ありがとうございました。これから注意して見たいと思います!
アウトプット&うれしいコメントありがとうございます。
>そのまま抜けそうですが。
(^_^;)
本音トークありがとうございます。
わかりにくい症例もありますし、ちょび髭じゃないだろ!という形状もありますが、注意深く観察してみてください(^^)
(過去ログにも少しありましたが)ここまで脳表に近いと、仮にまだ再灌流していなくても、MRAで(右中大脳動脈の枝だとおもうのですが)梗塞部位を指摘するのはむずかしいのでしょうか。また4.5時間以内だったらt-PAの適応になるとおもうんですけど、今回は急性期以降ですから、DAPT+statinとかになるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>(過去ログにも少しありましたが)ここまで脳表に近いと、仮にまだ再灌流していなくても、MRAで(右中大脳動脈の枝だとおもうのですが)梗塞部位を指摘するのはむずかしいのでしょうか。
そうですね。MRAでの指摘は今回は難しいですが、確かにM2以降は左と比べると右でやや描出不良ですね。
>今回は急性期以降ですから、DAPT+statinとかになるのでしょうか。
すいません。どのように治療されたかはこの症例についてはわかりません。
いつもお世話になっております。
今まで曖昧であった中心溝の解剖が理解できました。大変わかりやすいと思います。血管をMRAの元画像を追う様に脳溝も追ってみると色々分かるものですね。勉強になりました。
一点、解説の中で「precentral knob sign」を説明している画像(DWIが3枚張り付けてある画像)の一番右、中心後溝と連続している溝が「上前頭溝」になっておりますが、「頭頂間溝」でよろしいでしょうか。ご確認頂けますと幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>血管をMRAの元画像を追う様に脳溝も追ってみると色々分かるものですね。勉強になりました。
そうですね。ちょび髭(帯状溝縁部)から同定していく方法がわかりやすいかもしれません。
色んな症例で試してみたい場合は、書籍になりますが「脳画像の読み方第2版」がオススメです。
>「頭頂間溝」でよろしいでしょうか。ご確認頂けますと幸いです。
おっしゃるとおりです。修正します。
誤植ご指摘いただきありがとうございます。
ご返信およびご対応いただきありがとうございます。
>「脳画像の読み方第2版」がオススメです。
CD-ROMもついているのですね。見てみます。
CD-ROMもついているのですが、紛失してしまいました(T_T)
多分家のどこかにあるのだと思いますが。
CD-ROMなくても本だけでも全然問題ありません。