
【頭部】症例52
【症例】80歳代男性
【主訴】ふらつき、呂律困難、字が書けない
【現病歴】2週間前から上記の症状を自覚した、症状の強度は横ばい〜やや増悪。
【既往歴】眼窩内腫瘍(経過観察で小さくなった)、糖尿病
【内服薬】ネシーナ、アクトス、エディロール、クレストール
【生活歴】飲酒 焼酎1/2合を毎日
【身体所見】BP 91/56mmHg、脈不整、意識清明、呂律困難あり、視野異常あり(右中心部が見えない)、右への舌偏倚あり、回内回外運動異常あり、指鼻試験異常あり。
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MRI
頭部単純CTで、中脳の左腹側に2cm大の高吸収な腫瘤を認めています。
中脳の大脳脚を圧迫している様に見えます。
冠状断像でも同様です。
MRIでは、T1WIでは低信号の縁取りを認めており、内部は脳実質と等信号です。
T2WIではflow voidを示唆する基本低信号を示していますが、中心部はやや高信号です。また、中脳には浮腫を示唆する高信号を認めています。
MRA元画像では、脳底動脈→左後大脳動脈から腫瘤内に高信号が連続している様に見えます。
つまり、血流があることを示唆する所見です。
造影をすると、腫瘤は均一にほぼ全体的に造影されている様子が分かります。
MRA-DSA法といって、造影剤を用いたMRA撮影により、血管造影検査のように血行動態を経時的に観察することができます。
これで、緩徐に腫瘤が描出されている様子が分かり、動脈瘤であることがわかります。
さらに後日これを確認するために脳血管造影検査が施行されました。
左後大脳動脈から連続して徐々に造影されていき、動脈瘤が描出されている様子が分かります。
側面像でも同様です。
左後大脳動脈の巨大動脈瘤と診断されました。
診断:左後大脳動脈(巨大)動脈瘤
(※厳密には巨大動脈瘤は最大径が25mm以上と定義されており、今回は最大径でも1.8cm程度ですので、厳密な定義よりは少し小さいということになります)
※ADL障害は軽度であるため、手術のリスクを考慮すると、経過観察が妥当と考えられ、経過観察となりました。
その後、経過観察で、経時的に動脈瘤のサイズは縮小し、症状も消失していきました。
関連:
その他所見:三分岐前大脳動脈あり。
【頭部】症例52の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
これまでの講座のおかげで動脈瘤を疑うことができました。以前なら腫瘍だろうと思っていたと思うので少しずつ前に進めてると思います。ありがとうございました。余談ですが経過観察で縮むものなんですね。良い脳外科医は切りたがらないとホームページに書いている先生がいますが、症状があるのに経過観察が良いと判断できる先生はすごいですね。コイルを入れるものと思いながら解説を読んでいてびっくりでした。
アウトプットありがとうございます。
>以前なら腫瘍だろうと思っていたと思うので少しずつ前に進めてると思います。
それはよかったです。
今回は造影も含めてまとめて提示しましたが、最初造影がない状態では動脈瘤だろうなとは疑いながら腫瘍の可能性もあるのではないかと考えていました。
>余談ですが経過観察で縮むものなんですね。
あくまでこの例では縮みましたが、経時的に変化しない症例もあります。
ここまで縮小する動脈瘤を初めて見ました。
なんとなく、一度伸びてしまった血管壁は縮小した後ブヨブヨ?して動脈瘤の再発や壁の破綻が起きやすそうですね。
アウトプットありがとうございます。
大きな動脈瘤は小さな嚢状の動脈瘤と比べて破裂は少ないようですね。
動脈瘤の場合、MRAのMIPではっきりしないときがあるので、元画でしっかり確認したいです。
特に巨大な場合はMIP像にわずかしか映ってこないことがあるので注意が必要ですね。
今日もありがとうございます。
CT、MRI、造影MRI、MR-DSAで総合的に画像を見て考える事が以前に比べできるようになってきた気がします。
ここまで大きい瘤だと血栓や乱流やらでMRAで全貌は見えないですね。
アウトプットありがとうございます。
>CT、MRI、造影MRI、MR-DSAで総合的に画像を見て考える事が以前に比べできるようになってきた気がします。
それはよかったです。
>ここまで大きい瘤だと血栓や乱流やらでMRAで全貌は見えないですね。
ですね。血流はあちこちむいているでしょうからね。
やはりMRIの強みは色々な撮像条件を用いて,総合的に考えて,病変の性状などを推測できるところなのですかね.
勉強になりました.
アウトプットありがとうございます。
>MRIの強みは色々な撮像条件を用いて,総合的に考えて,病変の性状などを推測できるところ
ですね。加えて脳血管造影も動脈瘤や血管奇形を除外する上で重要ですね。
今回もありがとうございました。
DLBCLなどの腫瘍との鑑別点は何なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
最終的には血管造影やCTAで鑑別可能ですね。
悪性リンパ腫ならば拡散強調像や進展範囲も参考になります。
血管腫かなと間違えました。T2 WIやDWI からはあまりそれらしくないと思ったのですが造影をみて血管腫かなと…。ただそれにしても急に染まりすぎですね。
勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>ただそれにしても急に染まりすぎですね。
そうでですね。血管と同程度に染まっている点や脳実質外に存在していると考えられる点がポイントですね。
MIP像で左後大脳動脈の信号が途中から消えかかっており、病変部が後大脳動脈支配域と一致している。そう言えば、巨大動脈瘤だとMRAで描出されないとおっしゃっていたなぁと思いながら、何となくよく分からず血管腫としてしまいました。反省です。
病変部辺縁の信号はT2*WI、T1WI、T2WIの全てで低信号→Flow voidだと考えていいですか?
中心部はT1WIで等信号、T2WIで高信号、FLAIRでさらに高信号と様々で乱流が生じているのかなと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>巨大動脈瘤だとMRAで描出されない
そうですね。MRAはあくまで上方向の血流を画像化しているものですので、乱流を生じている大きな動脈瘤では過小評価してしまうことがあります。
>病変部辺縁の信号はT2*WI、T1WI、T2WIの全てで低信号→Flow voidだと考えていいですか?
中心部はT1WIで等信号、T2WIで高信号、FLAIRでさらに高信号と様々で乱流が生じているのかなと思いました。
そうですね。辺縁には上方向の血流があり、中心部には乱流が生じているのだと考えられます。
脳腫瘍ではないという決め手になったのは①造影T1WIで腫瘤がかなり強くかつ比較的均一に造影されたから②脳血管造影でP2と連続して造影されたから③MRA-DSAで脳血管と同様に造影されたからの3点でしょうか。
逆に脳腫瘍であったら①造影効果はここまで強くはないもしくはring enhancementなど一部に限られる②均一に瘤全体が染まらない③脳血管よりは弱く(?)造影される可能性が高い という解釈でよろしいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりです。
多血性の脳腫瘍もありますが、今回はCTや造影MRIなど血管と同程度である点がポイントですね。
普段は撮影されないですが、画像では、MRAーDSAを見れば動脈瘤で納得せざるを得ないですね。