
【頭部】症例46
【症例】70歳代男性
【主訴】意識レベルの低下、日中の傾眠傾向
【現病歴】総胆管結石にてERCP施行。その後膵炎を起こし、消化器内科にて入院加療中。
【既往歴】正常圧水頭症
【身体所見】JCS 10、GCS=E3V2M5=10、刺激で開眼するもすぐに閉眼。指示に応じず診察限定的。
画像はこちら
同日MRIはこちら
※古い装置で撮影したものでADCはありません。
頭部CTでは特記すべき異常所見を認めません。
ですのでMRIから見ていきます。
拡散強調像(DWI)で両側の視床内側および下丘(中脳の背側部)に左右対称な異常高信号を認めています。
ADCがないのでこれだけで拡散制限がある!とは言えないのですが、その可能性がありますね。
T2WIにおいても脳室部分に接する両側の視床内側に異常な高信号を認めています。
また中脳レベルでは、
- 乳頭体
- 中脳水道周囲
- 下丘
に左右対称な異常な高信号を認めていることがわかります。
FLAIRの冠状断像でも、視床内側部および下丘に左右対称な異常高信号を認めています。
こうしてみると、いずれも脳室周囲の水際の近くに異常な高信号を認めていることが分かりますね。
このような画像所見を見た場合に疑うべきは、Wernicke脳症(ウェルニッケ脳症)です。
急性膵炎で絶食状態であり、点滴管理(ビタミン類無添加)のみの状態でした。
ですので、採血でチェックされると同時に、
VitB1 200mg+ビタメジン1A/day
の投与が開始されました。
その後返ってきた採血の結果は、
- Vit B1 9ng/ml (正常範囲20-50)
とやはりビタミンB1が不足していたことが確認されました。
診断:Wernicke脳症
※その後、MRIは撮影されておらず、加療後のMRIを確認することは残念ながらできません。ただし、1年4ヶ月前のMRI画像が残っていましたので今回の画像と比較してみましょう。
すると拡散強調像(DWI)で今回両側視床内側や下丘に認めた異常高信号域ははっきりしなかったことがわかります。
T2WIやFLAIRにおいても同様です。変化前との信号を比較すると異常高信号を示していることがより分かりますね。
※ちなみに、併存症の正常圧水頭症ですが、画像からも以下のような特徴に合致しています。
※正常圧水頭症でその後も神経内科にかかっています。
関連:
【頭部】症例46の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今回も特徴的な所見から、疾患をしぼりこめました。
ところで、正常圧水頭症ですが、今回は、無治療ということでしょうか? それとも、治療中または治療後でも「脳室拡大」「円蓋の狭小化」「シルビウス裂の拡大」「脳梁角<90」などの所見はずっと残るのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>今回も特徴的な所見から、疾患をしぼりこめました。
それはよかったです。
>「脳室拡大」「円蓋の狭小化」「シルビウス裂の拡大」「脳梁角<90」などの所見はずっと残るのでしょうか?
シャントにより症状が軽快するとともにこれらのいわゆるDESH所見が改善するのが一般的です。
ただし、症状がよくなっても画像上変化があまり見られないということもあり、その場合は圧調整がまだ甘いケースと考えられます。
個人的にも興味があったので脳外科の先生に聞いてみました。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/wp-content/uploads/2019/06/NPH-DESH.png
ウェルニッケ脳症の画像所見を知らなかったため、症状はNPHによるもので両側視床内側や中脳の異常信号は水頭症の随伴所見なのかと思いました。ビタミンB1欠乏のエピソードもあり、解説を見ると機序的にも大変わかりやすかったです。妊娠した若い女性でも起こりうる様なので怖いですね。
アウトプットありがとうございます。
今回も左右対称の有所見であり、一見見落としがちですが、いずれも正常では異常信号を示さない場所ですので、
特に視床内側部で「ん?」と気付きたいところです。
この方は1年前の画像があったので、異常高信号となっている様子がよりわかりやすいですね。
まったくわからなかったです。ウェルニッケさんはすごい人だとも再認識しました。ちょっとこれは一度教えていただいても難解だと思いながらも経験値としてしっかり蓄積したいです。ありがとうございました。
ウェルニッケ脳症自体はそれほどマイナーな疾患ではないと思いますので、また教科書などでも復習しておいてください。
今日もありがとうございます。
難しかったです。画像診断の書籍等で見ることはあっても実際の画像を見るのは初めてでした。正中の左右対象病変は苦手です。これを目にしっかり焼き付けます。
アウトプットありがとうございます。
>画像診断の書籍等で見ることはあっても実際の画像を見るのは初めて
脳出血や梗塞と異なりそれほど頻度が高いものではないですからね。
だからこそスクロールして、ここか!確かに!と味わいましょう。
左右対称でアーチファクトかなとも思え、見逃しました。
アウトプットありがとうございます。
アーチファクトではないですが、左右対称なので気づきにくいですね。
視床内側部の正常例と比べていただくと異常であることが分かります。
拡散強調像の所見は淡い高信号で最初見落としてしまいました.
割と出会う疾患なので,再度復習して,次は見落とさないように気をつけます.
アウトプットありがとうございます。
>割と出会う疾患
ですね。入院中の点滴管理で起こりえる疾患ですので、意外と見逃されているケースもありそうですね。
こんばんは、本日は遅くなりましたが、よろしくお願いいたします。
①正常圧水頭症の所見ですが、スライスによっては円蓋上部の一部は脳溝が開いているような気がして、水頭症だけではなくて、萎縮もあるのかもしれないと考えてしまいました。
②FLAIRだけ見ていると側脳室周囲にも高信号が認められるので、DWI、ADC、T1WI、T2WIなど他の画像もきちんと読影することが大事なんだと思いました。
③Wernicke先生が1881年に発表した3例のうち1例は硫酸で自殺企図した人の持続性の嘔吐が原因だったらしいです。眼球症候って具体的にどういう感じなのだろうと思って症候学の本ですこし勉強してみました。
眼球症候としては、「水平性眼振(単眼性のこともある)、内斜視、水平性注視麻痺(即ち両側性Foville症候群)、垂直性注視麻痺・縮瞳・対光反射遅鈍(即ちParinaud症候群)」が認めらるそうです。そのなかでも、「内転よりも外転、垂直運動は上向きよりも下向きの制限が強い症例が多い」らしいです。また、頭位変換眼球運動や視覚誘導性の眼球運動も誘発できないそうです。
症候から核・核下性麻痺と共に、核上性麻痺、時には核間性麻痺を呈するという事実は、画像上病変が脳幹の眼運動系に広く存在することからも説明できるのかもしれないと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>①スライスによっては円蓋上部の一部は脳溝が開いているような気がして、水頭症だけではなくて、萎縮もあるのかもしれないと考えてしまいました。
ここは少し難しいところかもしれませんが、円蓋上部は基本的に濃厚が狭い状態です。これはシルビウス裂や側頭葉のレベルと比較することが重要です。
>②
そうですね。今回FLAIRは冠状断像しか撮影されていませんが、横断像があれば、いつもみない部位に高信号を認めていることに気づくことが重要です。
>③
詳しく調べていただきありがとうございます。
持続性の嘔吐でビタミンが足りなくなったのですね。
ウェルニッケ脳症なのですね(^_^;)
正常圧水頭症で脳室の拡大があるのは分かりましたが、アルツハイマー型認知症?とよく分からない診断にしてしまいました。
なんとなく視床内側の高信号の違和感はあったのですが、ひっかけられませんでした。
最近の症例は名前を聞いたことはあっても、知らない疾患が多くて苦戦中です(汗)
妻(精神科の看護師)に「ウェルニッケって言ったら、アルコールの人がなるやつよ」って教えられる始末です(笑)
ウェルニッケ脳症はよく本でも見かけるような気がするので、今回の症例を機会にしっかり覚えておきたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>なんとなく視床内側の高信号の違和感はあったのですが、ひっかけられませんでした。
ここが最も今回重要な所見で、違和感を持てるかが大事ですので、あと一歩ですね。
次見たときはどこかで見たようなと思い出せるはずです。
>妻(精神科の看護師)に「ウェルニッケって言ったら、アルコールの人がなるやつよ」って教えられる始末です(笑)
そうですね。慢性アルコール中毒の方などに見られますね。
>ウェルニッケ脳症はよく本でも見かけるような気がするので、今回の症例を機会にしっかり覚えておきたいと思います。
今回は入院している方に見られました。点滴のビタミン類の添加って重要なんだなと教えてもらった症例でした。
乳頭体、、、恥かしながら知らなかったので調べてみました。
細かくて画像で同定するのに自信がなく、他の症例のT2画像を見てみたりもしたんですが、うーん、よく見えませんね^_^;5mmスライスでは見えないことが多いんでしょうか?
中脳の前側内側にある楕円形のものという理解でいいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>他の症例のT2画像を見てみたりもしたんですが、うーん、よく見えませんね^_^;5mmスライスでは見えないことが多いんでしょうか?
そうですね。正常例では通常のスライスで見えないこともあります。
>中脳の前側内側にある楕円形のものという理解でいいでしょうか?
おっしゃるとおりです。
http://medicalimagecafe.com/tool/head/01.html
こちらの解剖ツールでは、12/22で確認することができます。