
【頭部】症例43
【症例】20歳代女性
【主訴】頭痛、嘔気
【現病歴】もともと頭痛はない。2日前から頭痛があり、左前頭部に鈍痛あり。間欠痛で、突然発症ではない。増悪寛解因子は認めない。昨日に嘔吐あり。ロキソニンの頓服で初めはましだったが、効かなくなってきている。
【身体所見】意識清明、BT 36.4℃、BP 89/48mmHg、P 76bpm、PR 14cpm、神経学的所見に異常所見なし。
画像はこちら
注意してみないと見落としそうな所見ですが、トルコ鞍内に異常な高吸収域を認めています。
正常例と比較するとトルコ鞍内の高吸収が異常であることがわかります。
このような高吸収を認めた場合、下垂体卒中やラトケ嚢胞などの可能性があります。
とくに今回はスクリーニングで見つかったわけではなく、症状があって撮影しておりますので、下垂体卒中の可能性を考えなければなりません。
MRIが同日に撮影されました。
拡散強調像(DWI)やADCでは異常所見ははっきりしません。
T2WIでトルコ鞍内は辺縁がやや高信号ー等信号、中心部が低信号で、MRA元画像(T1WIとほぼ同じ)では、淡い高信号を認めており、急性期の血腫の可能性があります。
※下垂体の出血も脳実質内出血と同様に出血の時期により様々な信号を呈し、厄介です。なかでも、
- T2WIで急性期(1-7日後)に低信号(デオキシヘモグロビン)
- T1WIで亜急性期(1-4週間)に高信号(メトヘモグロビン)
が特徴的とされます。
MRAのMIP像においても両側の内頸動脈の間に淡い高信号域を認めており、ここからも「あれ?おや?なにかおかしいぞ」と気づけるかもしれません。
下垂体ルーチンで撮影されておらず、矢状断像などもないのが残念ですが、下垂体卒中の可能性があり、当院では緊急時にHardy手術(経蝶形骨洞腫瘍摘出術)ができないため他院に転院となりました。
他院での5日後のCTです。
トルコ鞍内の高吸収域は明らかに低吸収化し、サイズが小さくなっており、やはり血腫があったことが推測されます。
転院後、頭痛の症状も改善傾向となりましたが、眼科診察で、両耳側暗点が判明し、他院にて待機的に手術(Hardy手術(経蝶形骨洞腫瘍摘出術))が施行されました。
病理診断では、炎症細胞が主体で腫瘍細胞などは認めませんでした。
術後、両耳側暗点は改善傾向となっています。(と診療情報提供書に記載がありました。)
診断:下垂体卒中
関連:
【頭部】症例43の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
下垂体はMRAでも後葉が高信号になるため全く異常を拾えませんでした。T2などでもよくある程度だと感じましが、確かにMRA元画像でよく確認すると、アーチファクトがあるとはいえ後葉が高信号な正常下垂体という感じではなく、信号が歪でした。
その目で見るとCTでも明らかにhighで異常を感じないといけないものだと思います。
下垂体の異常は嚢胞など何かモノが出来て、圧迫による症状があるものばかり出会うので、下垂体卒中という発想がなかったのも気づけなかった要因だと思います。
アウトプットありがとうございます。
>その目で見るとCTでも明らかにhighで異常を感じないといけないものだと思います。
そうですね。今回異常を認識しやすいのはCTの方ですね。
MRIだけだとちょっときついかも知れません。
CTで高吸収を指摘→MRIでその目で見てみると・・・ という流れですね。
今日もありがとうございます。明らかな異常所見なしとしてしまいました。病変が下垂体で画像の中心にあるため左右差の比較だけでは見落としてしまいがちです。正中病変の存在にも気を付けなければです。
アウトプットありがとうございます。
>病変が下垂体で画像の中心にあるため左右差の比較だけでは見落としてしまいがちです。正中病変の存在にも気を付けなければです。
おっしゃるとおりで、正中病変は見落としがちですね。
今回はCTで明らかな高吸収ですので、正常例と比べて異常所見を目に焼き付けておきましょう(^o^)
当院のMRIのシーケンスでは、矢状断が位置決め画像でしか撮影されません。なので、下垂体、脳梁、脳幹など、矢状断で確認しやすい構造は、位置決め画像で確認しています。(CTでも、MPRで矢状断を確認するようにしています)そして、何か異常があれば、矢状断を追加するようにしています。
アウトプットありがとうございます。
>位置決め画像で確認
なるほどです。
うちも脳卒中ルーチンなどには矢状断像は撮影ありませんね。
>矢状断を追加するようにしています。
いいですね!
下垂体はノーマークでした。左右差がなく分かりづらいですが、今後気を付けたいです。
アウトプットありがとうございます。
正中部にありますし、一見見落としがちですね。
ただし正常例と比較すると所見があることがわかります。
ここも注意して見るようにしてください。
全く気付かず、ここに来て異常なしパターンかと思ってしまいました。両耳側暗点は最初にあればヒントだったでしょうし、逆に頭痛の問診で視野の異常を聴くことが大事だということがよくわかります。
アウトプットありがとうございます。
>全く気付かず、ここに来て異常なしパターンかと思ってしまいました。
やりかねないですね。私なら(^_^;
正中部もしっかり観察するようにしましょう。
頭部CTではわかったものの,頭部MRIでは異常を指摘するのが難しかったです.確かにMRAのMIP画像の違和感には気付けそうですね.
アウトプットありがとうございます。
>頭部CTではわかったものの,頭部MRIでは異常を指摘するのが難しかった
頭部CTでわかればOKです。MRIは少し難しいですね。
頭部CTも経時的変化をみてやはり有意だったのだと実感できますね。
コメントが遅くなりました。
本症例、全く分かりませんでした。他の方もコメントされてましたが、MRIでの下垂体の信号変化は良く見る感じと思ってしまいました。CTで異常だなと思えれば違ったのでしょうけど・・・・。平素からMRA元画像での確認も血管だけを追うのではなくしっかり見なければいけないのだなと感じました。
ラトケのう胞は経験があるのですが下垂体卒中は初めてでしたので大変勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるようにMRIのみで気付くのは今回は厳しいですね。
CTでまず気付いて、MRIでその目で見てと言う流れですね。
質問失礼します。解説動画の中のT1をMRAの元画像で代用するというのがよく分からなかったのでご教授お願いします。
アウトプットありがとうございます。
T1WIが撮影されていない場合、同じTE、TRが短いMRA元画像をT1WIとして代用することがあります。
もちろん全く同じものではないですが、病変の信号パターンを見るのには使えます。
FLAIRでT2WIの代用をするのと同じです。
こんにちは。今日もよろしくお願いいたします。
①血圧が低いというところが気になっていたのですが、画像上異常所見なしで画像上異常所見をきたさない頭痛疾患を鑑別に挙げてしまいました…。神経症候があるということから、もっとくまなく画像を見るべきでした。
②血圧低下は下垂体卒中によるホルモン産生低下(続発性副腎不全、中枢性甲状腺機能低下症の合併など)に伴って生じたものかもしれないと後になって思いました…。
③早期に治療を行わないと生命予後が不良となりかねないと教科書に書いてあったので、猛省しなければです!
④出血の経時的変化の表はいつもお世話になっています!もし超急性期に超急性期出血が画像で撮影されていたら、T1WIで低吸収、T2WIで高吸収を呈する可能性もあるのかと考えてみました(そしたらT1WI、T2WIだけで出血と梗塞を鑑別するのは難しくなりそうだと感じました)。
アウトプットありがとうございます。
血圧については若い女性の場合これくらい低いことはありますので、元々の血圧がどうだったかというのが重要ですね。
ただし、そのような記載はありませんでした。
>③
なかなか目がいかないところだと思いますが、今回くらいの高吸収ならば気づきたいところです。
>④
出血についてはなかなか表のようにきれいに見えないことが多いので難しいところですね。
また、出血のMRIについては今後出てくる!?かもしれません。(^^)
今回は、CT画像で下垂体の違和感を感じて、次にT2,FLAIRを見て悩み、造影画像が無いので苦し紛れにええいっ、下垂体線種!と回答してしまいましたが、なるほど下垂体卒中。DWI,ADCで表現されなくても、今後は物おじせずに疑っていきたいです。(もちろん所見を十分にとって)
アウトプットありがとうございます。
>CT画像で下垂体の違和感を感じて、
素晴らしいですね。ついスルーしそうなところです。
>DWI,ADCで表現されなくても、今後は物おじせずに疑っていきたいです。
今回はMRIでは特にその目で見ないと難しいですね。
下垂体、完全にスルーして「異常なし!」にしてしまいました(;^_^A
たしかに、CTで下垂体にhigh densityはひっかけないといけないですね。
つい、MRIでは、高信号なのを見慣れているので気になりませんでした。
あまりに、異常所見がないし、若い女性の頭痛なので、脳静脈血栓かなぁ?とか考えましたが・・・。
下垂体も気をつけます。
ちなみに、うちのクリニックでは、僕らが下垂体にスルーしたときになにかありそうな場合には、MRAの元画像からsagの画像を再構成するように先生から指示があるます。
下垂体はsagが見やすいですよねぇ~。なんて言い訳しちゃいけませんね(汗)
アウトプットありがとうございます。
>たしかに、CTで下垂体にhigh densityはひっかけないといけないですね。
今回のように高吸収が目立つ場合は引っかけた方がいいですね。
下垂体卒中は出血がニボー像を作ることがあり、その方が気づきやすいかもしれません。
>下垂体はsagが見やすいですよねぇ~。
おっしゃるように前葉と後葉の関係含め下垂体はsagが見やすいですね。
CTではなかなか再構成されない傾向にありますが、今回もCTで下垂体を引っかけているので、MRIでは下垂体のsagが欲しかったですね。
本日もありがとうございました。
私の目は節穴ですね^^; 同じ過ちを繰り返さないように気をつけたいです。
FLAIR像16枚目、左前頭部の髄膜が肥厚しているかと思いましたが、有意じゃないですよね。。
アウトプットありがとうございます。
>私の目は節穴ですね^^;
いえいえ、結構難しい症例でした。
>FLAIR像16枚目、左前頭部の髄膜が肥厚しているかと思いましたが、有意じゃないですよね。。
有意ではないですね。15枚目では右側にも認めています。
むしろ、正常で硬膜はこのように見えることがあるという例として良い画像かもしれません。
硬膜が肥厚するとどうなるか・・・後日出てくるので楽しみにしておいてください。
いつもありがとうございます。
質問なのですが、この症例では造影MRIは必要ないのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
下垂体卒中の場合は腫瘍ではありませんので必ずしも造影MRIは必要ではありません。
下垂体の所見は全く気が付けませんでした、、、
そして、ひとつ気になった所見なのですが、
左前頭葉に、DWI:38/160で高信号域、SWIで低信号になっている領域があり、皮質下の出血を反映した所見なのではと考えてしまいました。
これは何を反映した所見なのか教えて頂けるとありがたいです。
アウトプットありがとうございます。
>左前頭葉に、DWI:38/160で高信号域、
こちらは脳表であり、アーチファクトですね。
>SWIで低信号になっている
少しここで目立ちますが左だけでなく右側でも認めており有意ではありません。
出血があるならば、FLAIRやT2WIでも確認できますが、今回は認めていません。
いつもありがとうございます。
もしMRI撮影中に下垂体卒中の可能性に気づいたとして、下垂体部分の薄いスライスのSgを追加する場合ですが、
T2、T1、できたらT2star、といった優先度でいいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
下垂体のMRIの矢状断の基本はT1WI,T2WIですので、まずこの二つですね。
頭痛のみの自覚症状で発熱もなし。髄膜炎でもない、下垂体部分の高信号、アーチファクトかとおもい見逃してしまいました。
そう思ってみると、MIP像は白い高吸収がみえており、よく見ないといけません。
アウトプットありがとうございます。
>下垂体部分の高信号、アーチファクトかとおもい見逃してしまいました。
おっしゃるように骨に囲まれた部位でアーチファクトも出る部位ですので、アーチファクトとして問題ない範囲なのか、そうでないのか判断が難しいケースもありますが、今回くらい高吸収ならば拾いたいですね。
>そう思ってみると、MIP像は白い高吸収がみえており、よく見ないといけません
そうですね。この高信号は何を見ているのだろうと疑問に思い、元画像へ戻れたら気づくかもしれませんね。
いつもお世話になっております。
MRI元画像を見ると、副所見として三分枝前大脳動脈ではないかと考えましたがいかがでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
確かに3本ありますね。おっしゃるとおりです。
いつもお世話になっております。いつも勉強させて頂いております。とみまるてす。
動画の中でオキシヘモグロビンとでデオキシヘモグロビンはT1強調画像では高信号になっておりますが、メトヘモグロビンにならなければT1強調画像では高濃度にならないのではと、考えました。
前の先生の示して頂いた画像では低濃度になっていたと思います。
間違っていたらすみません。
よく分からなかったので、下垂体炎にしてしまいました。
アウトプットありがとうございます。
>動画の中でオキシヘモグロビンとでデオキシヘモグロビンはT1強調画像では高信号になっておりますが、メトヘモグロビンにならなければT1強調画像では高濃度にならないのではと、考えました。
おっしゃるように明瞭な高信号はメトヘモグロビンで辺縁からです。
今回は明瞭な高信号ではなく、T1WIでは中等度信号くらいですね。
下垂体炎でもCTで同部を指摘できれば十分だと思います。
最初、画像の異常を指摘できず鑑別にも思いつきませんでした。実際の現場では見落とさないようにします。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
正中部ですので左右差がなく気づきにくいかも知れませんが、今回のような高吸収であったり、大きな下垂体腺腫の場合は気づけるように普段からトルコ鞍周囲も何となく見るようにしておいてください。
くも膜下出血を除外する際に、両側の大脳谷槽(シルビウス谷)の低吸収を確認するのと同じような感じ(陰性所見を確認するという点で)ですね。
いつもありがとうございます。
前頭部の頭痛にこだわり、左前頭葉皮質がDWI 高信号/ADC map 低信号/ SWI低信号にみえたため、脳炎の一種か??と盛大にそれていきました。アーチファクトでしょうか(苦し紛れ)
下垂体周囲の所見は全くわかりませんでした。^^;
確かにBPに違和感を感じ、内分泌系の疾患がちらっとよぎったのに結局スルーしていた自分がいました。そういう感覚にはきちんと対処しなくてはなりませんね。自戒のためアウトプット致します。
アウトプットありがとうございます。
>左前頭葉皮質がDWI 高信号
アーチファクトですね。DWIでは皮質にしばしばこのようなアーチファクトが生じます。
>下垂体周囲の所見は全くわかりませんでした。^^;確かにBPに違和感を感じ、内分泌系の疾患がちらっとよぎったのに結局スルーしていた自分がいました。そういう感覚にはきちんと対処しなくてはなりませんね。自戒のためアウトプット致します。
自戒のためアウトプットありがとうございます。
サイズが小さいものはCTでは指摘はできませんが、今回くらいのサイズや高吸収は異常としてインプットしてください。
正中部で気づきにくいですが、他の方にもコメントしているように同部もちらっと確認するようにしましょう。
下垂体がおかしいかなと思ったのにそれ以上深追いせずnormal studyとしてしまいました。外来ならよっぽどonsetがはっきりしていない限り完全に見逃してます。実際見たケースはもっと出血がはっきりしていたので見逃さずにすみましたが…。大変勉強になりました。猛省します。
アウトプットありがとうございます。
>下垂体がおかしいかなと思ったのにそれ以上深追いせずnormal studyとしてしまいました。
あと一歩ですね。
普段まじまじと見ないので、「何か違和感あるけど正常でもこんなのだったかな」と流してしまいがちなのが下垂体ですね。
おかしいかなと思った違和感を次回から大事にしていただけたらと思います。
>実際見たケースはもっと出血がはっきりしていたので見逃さずにすみましたが…。
出血のニボー像などがあればよりわかりやすいのですが、そうでない場合も出血以外の可能性も考慮して引っかけてMRIで精査してもらうのが良いですね。
まったく気づきませんでした・・・・。
DWI/ADCの38~39枚目の左前頭葉皮質が高信号+同部位陥没しているように見え、かつSWIで同部位外側が無信号だったので静脈洞血栓症・・・・?
とか思ってしまいました・・・・。
アウトプットありがとうございます。
難しかったかもしれません。
>DWI/ADCの38~39枚目の左前頭葉皮質が高信号+同部位陥没しているように見え
こちらは脳表によく起こる磁化率アーチファクトですね。