
【頭部】症例34
【症例】40歳代男性
【主訴】右上肢の痺れ
【現病歴】出張先で、3日前昼仕事中に後頭部の違和感、右半身の痺れが出現した。翌日近医受診し、頭部CTを撮影したが異常を指摘されず、高血圧症状あったため、アダラートCR10mg処方された。昨日出張先から帰宅も、右半身のしびれは次第に強くなってきており、右上下肢に力も入りにくくなってきたため救急搬送となる。
【既往歴】高血圧
【内服薬】アダラートCR
【生活歴】喫煙20本/日×22年、ビール1l/日
【身体所見】BT 37.4℃、BP 174/100、瞳孔4mm/4mm、対光反射+/+、顔面神経麻痺なし、顔面感覚正常、挺舌左偏位、構音障害自覚あり、上肢MMTは、母指対立筋3/5、母指内転筋3/5、掌側骨間筋3/5、背側骨間筋3/5以外は5/5、下肢MMTは腸腰筋4/5、大腿四頭筋4/5、前脛骨筋4/5以外は5/5、感覚障害は右上下肢全体に軽い痺れがあり、右手掌は他より痺れ強い。
画像はこちら
MRI
頭部CTでは特記すべき異常所見は認めていません。
MRIでは一見見落としがちかも知れませんが、延髄下部左側内側にDWI高信号/ADC信号低下を認めています。
辺縁ですのでアーチファクトか?と思うかも知れませんが、ADCは確実に落ちています。
有意な所見です。
ちょっとわかりにくいですが、T2WIおよびFLAIRでは高信号となっていることが分かります。
ややFLAIRの方がこの症例ではわかりやすいですね。
これらの信号の組み合わせから急性期(〜亜急性期)の脳梗塞であることがわかります。
MRAでは左の椎骨動脈は細いことが分かります。
ただし、低形成の可能性がありますね。
延髄左側の梗塞であり、椎骨動脈解離による梗塞の可能性があります。
そのためBPASで外径(外観)を確認したいところですが、撮影されていません。
T2WIをよく見ると左の椎骨動脈はMRAで見るよりも太く見えます。
また血管の間に線状構造を認めており、解離腔を疑うintimal flapの可能性があります。
FLAIRはT2WIで太くなっているところの一部に高信号があるように見えます。
intraarterial signalの可能性がありますが、かなり微妙な所見です。
翌日のフォローMRIです。
左椎骨動脈はさらに描出不良になっています。(椎骨動脈解離が疑われているため、通常よりも下の方まで撮影されています。)
元画像を見ると、左椎骨動脈の外径と比較して血流のある部位(MRAで高信号となっている部位)がかなり細いことが分かります。
左椎骨動脈解離が疑われます。
脳血管カテーテル検査が施行されました。
※右上の椎骨動脈の解剖図は、脳MRI 1.正常解剖P269より引用。
左椎骨動脈の正面像を見ると、頭蓋内の椎骨動脈であるV4を中心に不規則な血管腔の狭小化(いわゆるpearl and string sign)を認めています。
左椎骨動脈解離を疑う所見です。
左椎骨動脈造影の側面像では、後下小脳動脈(PICA)起始部から脳底動脈合流部に及ぶことがわかります。
※後下小脳動脈(PICA)の解剖については脳MRA正常解剖ツールでご確認ください。
診断:左椎骨動脈解離による延髄内側梗塞(急性期)
※保存的に加療されました。入院から3ヶ月後に退院となりましたが、右上肢痺れは残りました。 職場復帰(内装業)は困難とのこと。 外来でフォローとなりました。
- その他所見:右小脳半球に陳旧性脳梗塞あり。(コメントありがとうございます。)
関連:
【頭部】症例34の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
CTで同部位、延髄左10/35に高吸収な物が見えるのですが、アーチファクトでしょうか?
左椎骨動脈解離腔の血栓を見ている可能性がありますね。こちらも重要な所見ですが、石灰化もしばしば起こしやすい場所ですので、CTだけではなかなか指摘しにくいところですね。少なくともアーチファクトではないです。
日常の読影で、T2やFLAIRなどのSE系シーケンスは、血流アーチファクトの影響が強いため(特に面内方向)、左椎骨動脈の内腔を評価するのは難しいと感じます。だだし今回の場合、DWIで延髄に高信号があり、MIPで左椎骨動脈の狭窄を伴い、T2で外観が太い、症状を伴うなど、解離を強く疑う時には「intimal flap」や「intraarterial signal」の可能性を考えることが大切だと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>T2やFLAIRなどのSE系シーケンスは、血流アーチファクトの影響が強いため(特に面内方向)、左椎骨動脈の内腔を評価するのは難しいと感じます。
おっしゃるとおりで教科書的な所見というのはなかなか見られないことが多い気がします。
今日もありがとうございます。
椎骨動脈解離による延髄梗塞を疑えたもののintimal flapには気づけませんでした。梗塞部位から予測してT2やFLAIRでの血管やintimal flapを注意深く観察したいです。
アウトプットありがとうございます。
>椎骨動脈解離による延髄梗塞を疑えたもの
今回はここがクリアされればOKだと思います。その後BPASを撮影したいところですね。
異常に気づかなかったです
難しかったです
辺縁で撮影範囲内でも下端に近い延髄梗塞見落としがちですので、ADCと合わせて判断するようにしてください。
椎骨動脈解離は解離性動脈瘤を作り紡錘状に膨れるものばかりのイメージでしたが、ふつうに偽腔を作り真腔が細くなっていたのですね。intimal flapにも気付きませんでした。CTで両側VAに石灰化があるように見えたので、それでMRAは細くなっているだけかと。。。
延髄梗塞でしたし、観察が足りなかったと反省です。
アウトプットありがとうございます。
>intimal flapにも気付きませんでした。
なかなか難しかったかもしれませんね。T2WIではFlow voidが見えるはずですので、本来見えるべき無信号(低信号)が見えないのは異常であると気づけるようにしましょう。
左椎骨動脈の描出が少し汚いな、と思っていました。
ので、単純な低形成ではなさそう、というところまでは考えられましたが、
解離を鑑別に入れることができませんでした。
結果、治療も大きく間違える、という(^▽^;)
梗塞の有無・血管が細い/太いくらいは大丈夫な気がしてきましたが、そこから先ですね!
アウトプットありがとうございます。
>単純な低形成ではなさそう、というところまでは考えられました
あと一歩ですね。
解離なのか、低形成なのかの判断は実際は難しいこともありますが、
年齢や症状なども考慮して総合的判断が重要となりますね。
梗塞には気付けましたが、T2で血管腔を確認するのはなるほどでした。
今後に生かそうと思います。
アウトプットありがとうございます。
毎回見えるわけではありませんが、見えることもありますので、
関係がありそうな部位はあらゆるシークエンスで確認したいところですね。
ルーチンMRAでは下方はどこまで撮影範囲にいれるべきでしょうか。
VAがすべて見えない場合はBPASは必ず撮影する必要がありますか?MRA元画像で代用できるので必ずしも不要ですか?
アウトプットありがとうございます。
施設にもよる思いますが通常頭蓋内VAをいれる感じかと思います。
>VAがすべて見えない場合はBPASは必ず撮影する必要がありますか?
撮影した方が情報が増えますね。追加で撮影できるならばしていただきたいです。
こんにちは!本日もよろしくお願い致します!
神経症候から、
①舌左偏倚ということは、左舌下神経核or右皮質由来の皮質核路を噛んでいる病変が考えられ、かつ
②右半身の痺れということは、左皮質由来錐体路を噛んでいる病変が考えられ、
①、②を一元的に説明できる病変は、左舌下神経核と、錐体交差する前の錐体路が存在する延髄の病変(延髄性片麻痺)の可能性が高い
として、画像読影にあたれました。神経学的所見がなかったら私の場合見逃していた可能性が高い気がします…。
神経学的所見と画像所見をなんとかリンクさせて考える癖をつけたいです…!
アウトプットありがとうございます。
>神経学的所見がなかったら私の場合見逃していた可能性が高い気がします…。神経学的所見と画像所見をなんとかリンクさせて考える癖をつけたいです…!
延髄梗塞は撮像範囲内の最下端であることが多く見落としやすいので、症状とのリンクが重要ですね。
脳梗塞のみでなくその原因も今回重要となりますので併せて復習していただけると幸いです。
今回は臨床的には非常に難しい症例ですね。
「自分の当直中に来たら…」とシミュレーションしながら拝見してました。
発症すぐに来院されたら、DWIで延髄の所見が取れないかもしれません。
そうすると、VAの所見単独だったら自分一人で指摘できたか…
(今回は当院の脳梗塞でルーチンに撮影されないT2に助けられました。)
やはり後頸部痛がある時点で研修医に任せず、自分もMRI室について行って、BPASとCHISSを追加しようと思いました。
解離は今までMRA元画像などで、
疑えるラッキーな症例ばかりだったので、少し舐めてました。。。
造影MRAまでいかないとわからないと症例があるんですね。
アウトプットありがとうございます。
>発症すぐに来院されたら、DWIで延髄の所見が取れないかもしれません。
おっしゃるように後方循環系の脳梗塞は前方循環系と比較してDWIで高信号になるまでの時間が長い傾向があります。
>そうすると、VAの所見単独だったら自分一人で指摘できたか…
いつもの低形成とせずにBPASや他のシークエンスで解離を除外したいところですね。
>やはり後頸部痛がある時点で研修医に任せず、自分もMRI室について行って、BPASとCHISSを追加しようと思いました。
そうですね。怪しい場合はMRAを少し長め(下の方まで)撮影してもらうことも大事ですね。
>造影MRAまでいかないとわからないと症例があるんですね。
そうですね。MRIだけでは何とも言えない難しいこともしばしばありますね。
安易に否定できないのがこの椎骨動脈解離の難しいところです。
ご丁寧にアドバイスありがとうございます。
MRAを下までですね!
覚えておきます。
DWIで高信号になるまで時間がかかるし、T2やFLAIRでも評価が難しいんですね。(他の方のコメント拝見しました)40歳代と若い方で、後頭部痛、舌の偏奇といった延髄障害による症状が見られたら、積極的に椎骨動脈乖離を疑っていきたいです。
アウトプットありがとうございます。
>DWIで高信号になるまで時間がかかるし、T2やFLAIRでも評価が難しいんですね。(他の方のコメント拝見しました)
そうですね。FLAIRやSWIではDWIより前に評価できることはありますが、この場所はちょっと難しいかもしれませんね。
>40歳代と若い方で、後頭部痛、舌の偏奇といった延髄障害による症状が見られたら、積極的に椎骨動脈乖離を疑っていきたいです。
そうですね。CTだけでは所見がないことが多いので、疑わしい場合はMRIですね。
いつもありがとうございます。
今回の症例では、梗塞部位と神経所見は合致していると思え、(延髄外側でないですが)特に神経所見からWallenberg症候群ではないなと除外しました。ただ、後頭部違和感からも椎骨動脈解離を疑おうと思えば疑えたのに、MRAをみても低形成としか思えませんでした・・・しっかりと復習したいと思います。
椎骨動脈解離自体は、PICA領域の梗塞によるWallenberg症候群を合併する方が頻度は高いのが、今回の症例ではV4から分岐する延髄傍正中動脈の閉塞による延髄内側梗塞を合併した、ということなのですよね・・・。
はじめにCTをみたときは何もないと思ったのですが、MRIで延髄下部の異常信号を確認してからCTを再度みたときに延髄の左側優位が低吸収になっているのではないかと感じました。これは低吸収域と取っても良いのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>PICA領域の梗塞によるWallenberg症候群を合併する方が頻度は高いのが、今回の症例ではV4から分岐する延髄傍正中動脈の閉塞による延髄内側梗塞を合併した、ということなのですよね・・・。
まさにおっしゃるとおりです。他の方も勉強になる補足コメントありがとうございます。
>はじめにCTをみたときは何もないと思ったのですが、MRIで延髄下部の異常信号を確認してからCTを再度みたときに延髄の左側優位が低吸収になっているのではないかと感じました。これは低吸収域と取っても良いのでしょうか?
再度CTを確認しましたが、これはCTだけで疑うのはやはり厳しいと思います(^_^;)
後から見ればそんな気もしますが・・・・。
いつもありがとうございます。
ADCの30/48で見られる、小脳右側の高信号はアーチファクトでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
同部はDWIで低信号、T2WIで高信号、FLAIRで高信号の縁取りを認め抜けていますので、陳旧性の脳梗塞ですね。
アーチファクトではありません。ありがとうございます。追記します。