症例33 解答編

症例33

【症例】20歳代男性
【主訴】左側腹部痛、歩くと響く
【データ】WBC 8600、CRP 0.38

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左下腹部を観察すると、下行結腸から突出する構造物を認めます。

リング状の構造で内部には軽度脂肪織濃度上昇を認めています。

憩室ではなさそうです。

その構造物のやや上側(頭側)には他の部位では認めていない、腹膜の肥厚を認め、顕在化しています。

これは炎症が腹膜に及んでいることを示唆する所見です。

また周囲の脂肪織濃度上昇を軽度認めています。

冠状断像ではこれらの所見をまとめて観察する事が出来ます。

なにが炎症を起こしているのでしょうか?

正体はこれです。

腹膜垂(ふくまくすい)です。

 

腹膜垂とは
  • 結腸ひもに沿って漿膜下脂肪織が分葉状、舌状に突出し垂れ下がる脂肪組織です。
  • 直腸を除く大腸全体に分布します。とくに盲腸とS状結腸に集簇します。

 

これが何らかの原因で、茎部捻転を起こすと腹膜垂炎となります。

今回は下行結腸の腹膜垂が捻転を起こし、腹膜垂炎を発症。炎症が腹膜におよび局所的な腹膜炎を起こしていることがわかります。

憩室炎との鑑別としては、腹膜垂炎は、

  • そもそも憩室ではない(内部にairや糞便はない。)。
  • リング状構造を認め内部は脂肪である(今回はその脂肪もやや濃度上昇を認めています)。
  • 下行結腸には炎症所見がない。(憩室炎の場合はしばしば結腸に粘膜下層の浮腫を来します。)

といった特徴があります。

ちなみにこの腹膜垂炎が進行して腹膜垂が無腐性壊死に陥ると、遊離して腹膜腔に脱落します。

これを

  • 腹腔ねずみ(peritoneal mouse)
  • 腹腔内遊離体(intraperitoneal loose body)

などと言います。Douglas窩などで孤立した石灰化として認められます。
孤立した石灰化ですので、体位などにより腹腔内を移動するため、このような名前がつけられています。

このようにDouglas窩などに石灰化として認められます。
上の症例は楕円形をしており、腹膜垂の形のまま綺麗に石灰化している様子がわかります。

 

診断:(下行結腸)腹膜垂炎

※保存的に加療されます。

関連:

その他所見:

  • 右腎結石あり。
  • 左腎嚢胞あり。
今日の症例の解説動画

腹膜垂炎について

腹膜垂の関連症例(すでにやった方も是非チャレンジしてみてください。)

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

 

 

で!!!!

 

 

ちょっと見て欲しいものが。

これは20歳代男性の正常像を探して作ったものです。

過去に「異常なし」と診断されている症例から画像を探しました。

でもこのツールを上腹部から順番に作っている途中で気付いたのです。

 

「これ異常なし症例じゃないやん!!!」

 

この症例も、下行結腸の腹膜垂炎がありそうです。

本人は左下腹部痛を訴えていたのに、なにもないですよ。と帰されたのでしょう・・・

保存的に加療されますし、同じように見落とされているケースは実は結構あるのでしょうけど。

ま、ここだけの話ということで。