【頭部】症例25-2 解答編

【頭部】症例25

【症例】40歳代女性
【主訴】右上下肢の動かしにくさ
【現病歴】1週間前に右上下肢の動かしにくさ、呂律困難があった。その後症状は一度消失。当院糖尿病内科受診時も症状消失しており、約半月後に頭部MRI撮影予定であった。しかし、昨晩より右上下肢の動かしにくさ再発あり。本日も症状続いており受診となる。
【既往歴】1型糖尿病、高血圧、腸閉塞
【内服薬】ヒューマログ、トレシーバ
【生活歴】喫煙 10本/日 20歳〜、3年前に禁酒
【身体所見】意識清明、BT 36.2℃、BP 174/88mmHg、P 81bpm、SpO2 99%(RA)、Barre 右回内、やや下垂するかどうか、Mingazzini 右下垂。その他は明らかな神経学的所見の異常なし。

画像はこちら

MRIが撮影されました。

フォローの1週間後のMRIも一緒に見ましょう。

まずは、来院時のMRIから見ていきましょう。

左の放線冠に

  • 拡散強調像(DWI)で高信号
  • ADCで信号低下
  • FLAIRで高信号

を呈する領域を複数認めています。

今回サイズも小さくCTでははっきりしませんが(その目で見るとDWI高信号部はCTでも低吸収に見えなくもないですが、これを所見として取るのは厳しいでしょう。逆にこのレベルを取ると何でも(ちょっとした低吸収も有意と)取ってしまいそうです)、上のようにMRIの信号パターンから

  • 発症から急性期(1-7日後)以降

であることが予測されます。

MRAでは左の中大脳動脈のM1(水平部)の途中から途絶していることがわかります。

またFLAIRでは、左中大脳動脈のみ高信号として描出されており、これはこの血管の血流が少なくなっていることを示唆するんでしたね。

このようなFLAIRにおける動脈の高信号をintraarterial signalと呼ぶのでした。

※このintraarterial signalであるFLAIRの動脈の高信号≠すべて詰まっている ということに注意しましょう。あくまで血流が少なくっているだけですので過大評価はNGです。

一方、SWIでは左中大脳動脈領域の還流静脈である皮質静脈が拡張しています。左右差を見れば明らかですね。

これも血流が少なくなっていることを示唆する所見でした。

前回の症例でも見たように、これらのサインが閉塞動脈の同定のヒントとなりますので合わせて復習しておきましょう。

撮影法 評価部位 正常の動脈血流 動脈閉塞
T2強調像 内頸動脈、椎骨脳底動脈、皮質動脈近位部 flow void flow voidの消失→高信号
MRA 脳動脈全体 TOF信号 TOF信号の消失
FLAIR 皮質動脈、脳底動脈 正常動脈は認識できない intraarterial signal(塞栓子や血栓および末梢側の低灌流が高信号)
T2*強調像 皮質動脈 正常動脈は認識できない susceptibility sign(塞栓子や血栓が低信号)
磁化率強調画像(SWI) 皮質動脈 正常動脈は認識できない susceptibility sign(塞栓子や血栓が低信号)
還流異常領域からの還流静脈 正常静脈は低信号 還流静脈の低信号の増強(デオキシヘモグロビン濃度が上昇するため)

ここまでわかる頭部救急のCT・MRI P263引用改変

 

さて、今回の脳梗塞はこれまで見てきたような心原性でしょうか?

心原性とすると、これまでの症例で見てきたように、皮質を含んだ広範囲な脳梗塞になることが一般的ですので、心原性よりはアテローム血栓性脳梗塞が疑われます。

つまり、

  • ①左内頸動脈起始部に動脈硬化による不安定プラークがあり、それが飛んで左中大脳動脈のM1に詰まったArtery to Artery embolism(塞栓性のアテローム血栓性脳梗塞)

あるいは、

  • ②左中大脳動脈 M1(水平部)に動脈硬化があり、動脈硬化の進行により狭窄ー閉塞した。(血栓性のアテローム血栓性脳梗塞)

の2つのエピソードが考えられます。

ただし、①とすると基本的に心原性塞栓と同じ機序になりますので、もっと広い範囲で梗塞となるのが通常です。

ですので、今回は②のエピソードが最も画像所見とマッチします。(もちろん①の可能性もあります。)

MRAでは左の中大脳動脈のM1の途中から描出を認めていませんが、このMRAも過大評価されることがあるので注意が必要です。血流が全て途絶えているとすると、拡散強調像(DWI)でもっと広範に高信号を認める梗塞になっているはずです。

ですので、血流は少なくなっているけれども完全に途絶しているわけではないということに注意が必要です。

診断:アテローム血栓性脳梗塞(血栓性)疑い

 

※アテローム血栓性脳梗塞と診断され加療されました。

1週間後のMRAです。

左の中大脳動脈のM1に狭窄は残存していますが、末梢の描出は良好となりました。

この点からも、左の中大脳動脈のM1(水平部)に動脈硬化による狭窄があり、動脈硬化の進行により末梢の血流が弱くなった(すなわち血栓性のアテローム血栓性脳梗塞のエピソード)ということが考えられます。

※入院から20日後に退院となりました。退院時身体所見: Barre陰性 回内回外左右差なし。 歩行正常。少し右半身が使いにくい気もする。字を書くときに苦労する。

※退院後、外来フォローとなりました。退院後は禁煙されたようです。

症例25-2の動画解説

 

アテローム血栓性脳梗塞の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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