
症例25
【症例】60歳代 男性
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肝S4の低吸収域は何?
肝臓のS4の腹側側辺縁に周囲肝実質より低吸収域を認めています。
よく上下にスクロールすると、胸壁からの血管がこの低吸収域に連続して入っている様子がわかります。
S4の右背側側部分にも周囲肝実質よりも低吸収域を認めています。
こちらはやや見えにくいですが、血管構造が入っているように見えます。
これは何が起こっているのでしょうか?
実は、肝臓に入る血管は、
- 肝動脈
- 門脈
以外に存在することが知られています。
これを異所性静脈環流(=third flow)と呼びます。
そしてこの異所性静脈還流には、
- いわゆる右胃静脈(右胃・膵十二指腸静脈)還流
- 胆嚢静脈還流
- Sappey静脈還流
の3つが知られており、それぞれの還流部位は以下のようになります。
これらの還流部位は周囲の肝実質とは異なる血流動態を示し(流入血のホルモンや成長因子などの濃度差が関与し)、周囲肝実質と異なる信号濃度となることがあります。
頻度が多くここで覚えておくべきことは、
- これらの場所だけ脂肪肝になる
- これらの場所だけ脂肪肝にならない
という点です。
今回は、
- Sappey静脈還流
- いわゆる右胃静脈(右胃・膵十二指腸静脈)還流
の2箇所で局所的な脂肪肝が生じていることがわかります。
診断:局所的脂肪肝(異所性静脈環流(なかでもSappey静脈、いわゆる右胃静脈還流)による)
関連:肝の血流異常とは?限局性脂肪肝、偽病変、third inflow、AP-shuntの画像診断!
その他所見:
- 左肺に術後瘢痕あり。
- 動脈硬化あり。
今回の症例よりも、Sappey静脈還流部の限局的脂肪肝がやや広い症例がありましたので追加します(もっと目立つ症例も実際はたくさんあります)。
また、今回の症例よりも、Sappey静脈還流部の限局的脂肪肝の脂肪肝の程度がやや強い症例がありましたので追加します。
この症例では区域性の脂肪肝(脂肪肝がS1-3で目立つ)も認めています。
参考症例①
胸部CTですので肝臓が全部撮影範囲内に入っていないですが、まず肝臓は全体的に脂肪肝を認めています。
ただし、胆嚢床の部分で周囲肝実質と比較して高吸収となっています。
診断:部分的低脂肪化(focal spared area、胆嚢静脈およびいわゆる右胃静脈還流領域)
参考症例②
こちらの症例では、胆嚢床およびS4背側部分で脂肪肝がspareされています。
診断:部分的低脂肪化(focal spared area、胆嚢静脈還流領域)
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
ダイナミックで3相とも均等に低吸収で、「悪そう」には見えなかったのですが、こういう状態もあるんですね(^^)
これは、ダイナミックですけど、肝の精査のCTですか?
アルコール多い、最近CA19-9やCEA上昇傾向ということで膵臓ダイナミックのようです。
RFAの焼灼跡かと思ってしましました。こんなに表面付近と太い血管のある肝門部はRFAできないかとも思い、pseudo lipomaなのかとも思いましたが、肝門部側が説明できずでした。今回、内部を貫く血管の存在を教えていただき、今後鑑別できる自信になりました。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
血管は見えないことの方が多いです。
局所的な脂肪肝や、脂肪肝からspareされている場合はまずこの概念を思い出してください。
third inflow ≒ Sappey静脈と誤認していたので解説のシェーマがありがたかったです。
上行結腸周囲ほぼ全周性の脂肪と等吸収の領域(横断像298辺り)は病的意義はあるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>third inflow ≒ Sappey静脈と誤認していたので解説のシェーマがありがたかったです。
それはよかったです。
Sappey静脈部位以外にもありますので押さえておきましょう。
>上行結腸周囲ほぼ全周性の脂肪と等吸収の領域(横断像298辺り)は病的意義はあるのでしょうか?
おっしゃるように少し3層構造が目立つ部位がありますが、有意ではないと考えます。
おっしゃるように2層目(上行結腸〜横行結腸中心)が脂肪濃度になっていますね。
target fatパターンともよばれ、腸管の慢性炎症による脂肪変性といわれています。
third inflowは知ってはいましたが何となくのイメージだけでしたのでとても勉強になりました。
ありがとうございました。
2点質問させて下さい。
下部食道の壁肥厚は食道炎でしょうか?
また回盲部は軽度のinvaginationと読むのはやり過ぎでしょうか?
コメントありがとうございます。
>下部食道の壁肥厚は食道炎でしょうか?
それほど壁肥厚は目立たないように思います。
>また回盲部は軽度のinvaginationと読むのはやり過ぎでしょうか?
腸重積ではなく、粘膜下層が脂肪変性することがありまして、その状態ですね。
復習です。肝には一部だけ脂肪が沈着したり、しなかったりすることがあるという程度に覚えていたので、答えには迷いませんでしたが、機序が抜けていたので覚え直しておきます(^▽^)/
そうですね。限局的脂肪肝を肝腫瘤として精査される場合もありますので、この知識は重要ですね。
Sappey、何と読んでいますでしょうか。
サペイ?フランス語風にサペ?
時々、見慣れてはいても読み方が人によっていろいろな単語や人名がありますよね。
アウトプットありがとうございます。
サペイで良いと思いますが、
https://ejje.weblio.jp/content/Sappey”s+fibers
こちらにはサペーと書いてますね。線維ですが。
>時々、見慣れてはいても読み方が人によっていろいろな単語や人名がありますよね。
ですね。思わぬ読み方だったということもありますね(^_^;)
エコーは日頃やってるので、fatty spared areaという言葉は知っていました。しかし、成り立ちや、脂肪肝にならない場合がある、なんて初めて知りました(^_^;)ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
同じ肝臓でも異所性静脈環流(=third flow)により場所によって血流が異なるということです。人体の不思議ですね(^^)
third flowと限局的脂肪肝の関係が整理できて勉強になりました。低脂肪化という言葉もよく理解できてませんでしたが、脂肪肝が背景にあるときの話だったのですね!
また、各部位の還流静脈名が具体的に知れて覚えやすくなったのと、所見の表現の仕方も参考になります。
血管の走行が見れることがあることも初めて知りました。知識が意味をもって納得に変わりました、ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>低脂肪化という言葉もよく理解できてませんでしたが、脂肪肝が背景にあるときの話だったのですね!
そうですね。ここだけspareされるということですね。
>血管の走行が見れることがあることも初めて知りました。知識が意味をもって納得に変わりました、ありがとうございます。
なかなか血管まで見えることは少ないですが。
よかったです(^^)
上行結腸に著明な炎症があり、普通は肝膿瘍を考えたくなりますが、肝膿瘍の可能性はないのですか?
アウトプットありがとうございます。
今回上行結腸に著明な炎症はありません。
盲腸から上行結腸に粘膜下層の肥厚があるように見えますが、この粘膜下層の濃度は通常よりも低吸収であり、粘膜下層の脂肪変性と考えられます。
Target fatパターンとも呼ばれ、慢性期の潰瘍性大腸炎、Crohn病の他、肥満患者、化学療法後、セリアック病などで見られる、とされます。
今回は原因はちょっとわかりません。
また肝膿瘍の場合はサイズが小さいもの以外は液貯留としてCTで認識できるのが通常ですが、今回は液貯留ほどの低吸収は認めていません。
肝膿瘍の症例を一つ提示しますね。
https://imaging-diagnosis.com/view/DZazSjKf
毎回勉強になります。脂肪肝になる時とならない時があり、まったく反対の状態になるのが不思議に思いました。
また、上行結腸のターゲットサインも、実際の症例で経験し、なんだろうと思っていました。
コメント欄もたいへん勉強になります。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>まったく反対の状態になるのが不思議に思いました。
局所的に脂肪肝となったり、同じ場所がspareされたり、面白いですね。
>上行結腸のターゲットサインも、実際の症例で経験し、なんだろうと思っていました。
浮腫にしては低吸収なのが特徴ですね。
今回も大変勉強になりありがとうございました。小腸内の濃度が高く感じていたので消化管出血精査のダイナミックCTかと思いましたが、薄いガストログラフィンを服用して多少時間を置いてから撮影したのでしょうか?それとも小腸内はノーマルなのでしょうか?教えて頂きたく思います。
アウトプットありがとうございます。
>薄いガストログラフィンを服用して多少時間を置いてから撮影したのでしょうか?それとも小腸内はノーマルなのでしょうか?教えて頂きたく思います。
この症例ではガストログラフインの服用はありません。
小腸はやや高吸収ですが正常範囲内です。
いつも貴重な症例ありがとうございます。
このような症例で、研修医の先生がEOB-MRIで精査を!という依頼を何度か説得し回避された記憶があります。もしご不安な場合USでサイズフォローをお願いします、と。
その他の所見として
「IMA直上のAAAの疑い」、は如何でしょうか?
頭尾方向の走行から単なる動脈硬化による口径不整だけとは取れず、また血管右壁は動脈硬化による石灰化が認められず、軽微な所見ですがレポート記載レベルでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>このような症例で、研修医の先生がEOB-MRIで精査を!という依頼を何度か説得し回避された記憶があります。もしご不安な場合USでサイズフォローをお願いします、と。
それでも撮影されて、局所的脂肪肝ですと記載した記憶があります(^_^;)
>「IMA直上のAAAの疑い」、は如何でしょうか?
頭尾方向の走行から単なる動脈硬化による口径不整だけとは取れず、また血管右壁は動脈硬化による石灰化が認められず、軽微な所見ですがレポート記載レベルでしょうか?
確かに局所的に腫大していますので記載してよいと考えます。
サイズも目立たず嚢状とは言えない形なので、AAAとまでは記載しませんが。
いつもフィードバックありがとうございます。
>確かに局所的に腫大していますので記載してよいと考えます。
サイズも目立たず嚢状とは言えない形なので、AAAとまでは記載しませんが。
aneurysmようでは無いので、その部位のみ動脈硬化による口径不整が目立つくらいの表現の方が適切ですね。
>それでも撮影されて、局所的脂肪肝ですと記載した記憶があります(^_^;)
現場から言うと、EOB-MRIは数ある検査のうち長時間なので、良性腫瘍ではなるべく回避したいところです。更衣〜ルート確保〜単純〜ダイナミック〜HBP肝細胞相、でゆうに30分以上かかります:-)(T_T)
そうですね。
せめて単純MRIでお願いしたいところですね。