
【頭部】症例19
【症例】30歳代女性
【主訴】心静止(身元不明)
【現病歴】マンションの茂みで倒れているところを発見、救急要請。救急隊到着時は、警察が心臓マッサージをしている状態であり、すでに心静止。
【身体所見】JCS-300、頸のロープの跡あり、両膝に擦過創あり。他に明らかな外傷なし。
画像はこちら
実はこの方、心静止で搬送された方です。
脳底部にて、両側脳幹周囲や大脳谷槽、脳底槽に高吸収域を認めています。
くも膜下出血を疑う所見です。
くも膜下出血により、心静止となったのでしょうか?
よく見ると大脳半球はびまん性に腫脹をしており、脳溝がほとんど見えません。
「なんて見えにくい画像なんだ!!!見えにくい症例を提示してくるなよ!!!」
と思われた方もおられるかもしれません。
この見えにくいというのが所見であり、脳が著明に腫脹していて、びまん性に低吸収化しているためです。
頸にロープの跡があり、縊頚(いっけい)が疑われます。
脳への血流が途絶え、低酸素脳症により、脳浮腫、脳の低吸収化を来しているのです。
つまり、くも膜下腔が白い(高吸収)のではなく、脳実質が黒い(低吸収)という状態です。
このようにあたかもくも膜下出血のように見えてしまうため、偽性くも膜下出血と呼ばれます。
追記:上のイラストの「くも膜下腔が高吸収なのではなく」という部分ですが、真のくも膜下出血ほどではないにせよ高吸収になることが知られておりますので正しくありません。下で動画で修正します。
診断:低酸素脳症(による偽性くも膜下出血)
※CPR開始後、自己心拍が再開し蘇生されましたが、JCS 300が継続のまま蘇生後低酸素脳症による意識障害が持続し、来院半月後に亡くなりました。
※ロープの跡はありましたが、いわゆる首吊りではなかったため、事件性を否定できないということで、警察で検死が行われ、大学病院で司法解剖となりました。(その後の結果は不明です。)
関連:CTでくも膜下出血と類似所見を呈する状態・鑑別診断とは?
その他所見:軸椎(第2頚椎)の歯突起の骨折あり。(コメントありがとうございます。)
【頭部】症例19の動画解説
症例19の補足&修正とpseudo-SAHについて
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
SAH → 脳浮腫状態かと思いました。何でもかんでもくも膜下の高吸収に飛びつかないように気をつけます。
アウトプットありがとうございます。
pseudo SAHを覚えておいてください。
脳溝が見えない、脳浮腫、
くも膜下槽の高吸収が確認できたので
くも膜下出血としました。
出血部位はどこだろうと探してましたが
もともと出血自体なかったんですね。
出血がないのにこのように高吸収に見えるのは知りませんでした。
脂肪肝で肝内の血管が見えるのと同現象
でしょうか。
このような症例はあまり遭遇しないので
助かります。
明日も楽しみにしています。
アウトプットありがとうございます。
>脂肪肝で肝内の血管が見えるのと同現象でしょうか。
そうですね。相対的に高吸収に見えてしまうというものです。
CPAと記載を見た瞬間にpseudo SAHかと感じました。pseudo SAHなら脳室と脳実質の色味も変わると思い外傷性SAHとしてしまいました。C2歯突起も骨折してそうですし・・・
側脳室も白くなっているpseudoSAHを本かネットで見たことがあり、今回部分的(脳室は白くなっていない)になぜ白くなるのか疑問に思いました。
⇒びまん性に脳浮腫が生じると,浮腫をきたした脳実質が低吸収化し,腫脹した脳実質により圧迫された頭蓋内静脈が鬱滞することで,相対的に脳溝および脳槽が高吸収となる(レジデントノート 2019年3月号掲載【解答・解説】来院時心肺停止の50歳代女性)
勉強になりました。ありがとうございます。
>C2歯突起も骨折してそう
これについては一番下のスライスで微妙ですね。
>頭蓋内静脈が鬱滞することで,相対的に脳溝および脳槽が高吸収
そのようですね。調べていただきありがとうございます。
一度でも見たことがあれば印象に残りやすい症例かなと思います。
見た瞬間に「あちゃ~( ̄▽ ̄;)」と思ってしまいますね。
こうなってしまうと、ROSCをしてもやっぱり生命・神経予後的には厳しいですね…
脳回・脳溝の不明瞭化・腫脹は覚えていましたが、
全体に低吸収化すること、そして偽性くも膜下出血という像を呈することを新たにインプットしておきます(^▽^)/
ROSC!!?
ググりました。
return of spontaneous circulation:心肺蘇生による自己心拍再開
なるほどです。初めて聞きました。
>全体に低吸収化すること、そして偽性くも膜下出血という像を呈することを新たにインプットしておきます(^▽^)/
ぜひ覚えておいてください。
今までのSAHとは違い、分布の偏りがなく、均一で左右対称なことに違和感を感じました。その上、高度な脳浮腫があり…答えにたどり着きました。
>分布の偏りがなく、均一で左右対称なことに違和感
むむむ!やりますね!
今日もありがとうございました。
pseudo SAH、存在を知っていたもののあまり症例数を見たことがないので勉強になりました。
>存在を知っていたもののあまり症例数を見たことがないので勉強になりました。
そんなに頻繁にみるものではないのでそれはよかったです!!
まず抱くのは明らかに読影しづらいという違和感ですね.普段の撮像と何か異なるのだろうという違和感から死亡後のAIかとも思いました.低酸素による脳浮腫であれば,均一に浮腫が起きることも納得です.勉強になりました.
>明らかに読影しづらいという違和感
ここに気づけたらOKですね。
見えにくい人ではないということですね。
>低酸素による脳浮腫であれば,均一に浮腫が起きることも納得です
ですね。
SAHと勘違いしていました。脳浮腫で低吸収化するのですね。
ただ、今まで見てきた脳画像と全然雰囲気が違うことには気づけて良かったです。
そうですね。何か見えにくいと思ったら偽性のケースも考えましょう。
何より臨床情報が重要ですが。
回答は気脳症、頭蓋底骨折の疑いとしたのですが、実は画像を見た直感で何となく生きてる感が無いなぁと感じました。
自分でも理由はわかりませんが・・・で、まさかAIとかじゃないだろうしなぁ、でとんちんかんな回答を提出という・・・(-_-;)
貴重な症例をありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>まさかAIとかじゃないだろうしなぁ
それに近いですね。
こんにちは。毎日お世話になっております。
①若い女性、左右対称性のくも膜下出血様所見ということから、低髄液圧症候群を鑑別に挙げましたが、脳浮腫は挙げられませんでした。
②後方の大脳鎌が右に偏倚していることを所見として述べたにも関わらず、脳浮腫と言い切ることができませんでした。
③少し本題から外れてしまうのですが、定型的縊頸、非定型的縊頸とではCT画像所見は異なってくるのか、ふと疑問に思いました…(椎骨動脈が閉じるのか否かというところで所見は異なってきそうなだとは思ったのですが…)。
アウトプットありがとうございます。
>①
低髄液圧症候群でもおっしゃるようにpseudo SAHとなることがありますね。
>③
定型的縊頸、非定型的縊頸という分類を初めて知りました。
http://www.jaam.jp/html/dictionary/dictionary/word/0803.htm
>椎骨動脈が閉じるのか否かというところで所見は異なってきそう
そうですね。後方循環系に圧迫所見がないのであれば、
Pcomの発達具合にもよりそうですが、画像所見は変わるかもしれませんね。
なぜか、pseudo SAH=びまん性軸索損傷と覚え間違いをしていたことが判明しました…メカニズムをわかりやすく解説いただけたので、今後はしっかり覚えていられそうです!
アウトプットありがとうございます。
今回問題編ではあえて病歴を記載しませんでしたが、
実際は病歴がかなり重要ですね。
びまん性脳腫脹が生命危機徴候であることは知っており、くも膜下出血に伴うびまん性脳腫脹かと単純に考えてしまいました。
つまり低酸素血症でpseudo SAHが起こることを知らず(or 忘れており)、間違えました。。
でも単純に所見を拾えたことはとても嬉しかったです。
今回の症例で、低酸素血症によるpseudo SAHもう忘れません!
アウトプットありがとうございます。
>でも単純に所見を拾えたことはとても嬉しかったです。今回の症例で、低酸素血症によるpseudo SAHもう忘れません!
それはよかったです。
実際は病歴がかなり重要な症例でしたね。
今日ありがとうございました!
脳溝が見えにくくなってたので外傷性SAH?かとも思いましたが、それにしては皮下出血とかもないし、、、なんでこんなに均等にあるんだろうか?とおもったらそう言うことやったんですね!
ちなみにこのように出血かどうか微妙な時はww.WLを変えるのもアリですか?
だいたいある程度の急性で脳出血はCT値60〜80HU、なので、wlを60〜70.WWを20〜30にして血のみわかりやすくのもありですか?
アウトプットありがとうございます。
>なんでこんなに均等にあるんだろうか?とおもったらそう言うことやったんですね!
そうですね。病歴が重要ですが、そこを出すとものすごい先入観が入ってしまう(実際の臨床の現場ではそれでいいのかもしれませんが、今回は練習ですので)のであえて隠しました(^_^;
>ちなみにこのように出血かどうか微妙な時はww.WLを変えるのもアリですか?
相対的にくも膜下腔が低吸収に見えているだけですのでアリですね。
Ai画像も出るの?と思ったのですが、状況を把握することも大切だなと思いました。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりです。読影依頼に「救急」としか書いていないとカルテチェックをしないといけない症例ですね。
現病歴の記載がなかったためくも膜下出血と答えてしまいました。。。
深遠なラジオロジストは病歴やカルテがいらない、というわけではないんですね。
もしかしたら、画像だけでpseudo SAHと診断できる???
アウトプットありがとうございます。
>深遠なラジオロジストは病歴やカルテがいらない、というわけではないんですね。
病歴やカルテは必須ですね(^_^;)
>もしかしたら、画像だけでpseudo SAHと診断できる???
今回ですと若いとはいえ脳溝が見えにくく、脳腫脹が激しいのでおかしいと気づけますね。
日々勉強になることばかりです。いつもありがとうございます!
一つ伺いたいのですが、
軸椎の軸突起が折れてる様に見えるたのですが、気のせいでしょうか…?
アウトプットありがとうございます。
>軸椎の軸突起が折れてる様に見えるたのですが、気のせいでしょうか…?
(;゚ロ゚)
本当ですね・・・。追記します。ありがとうございます。
頚椎の過伸展で起こることがある骨折ですね。
となると、ますます首つりよりは事件性の可能性が高くなりますね。
なるほど、低酸素脳症での偽性クモ膜下出血はじめてしりました。
知らずにこの症例を見ると確実にクモ膜下出血だと思ってしまいますね。
たしかに、脳実質内のコントラストもわかりずらいですし、脳溝も見えずらいですね。
脳実質が低吸収になっていることの図わかりやすいですね。
何気にイーシンチュウーなのがいいです(笑)
アウトプットありがとうございます。
>知らずにこの症例を見ると確実にクモ膜下出血だと思ってしまいますね。
たしかに、脳実質内のコントラストもわかりずらいですし、脳溝も見えずらいですね。
そうなんです。単にくも膜下腔の高吸収を見るだけでなく総合的に判断することが重要です。
>何気にイーシンチュウーなのがいいです(笑)
イーシンチュウ=一星球ですね。
最初に悟空が持っていたのは、記憶が正しければ、スーシンチュウ=四星球だったような。懐かしいです(^^)
いつも大変勉強になる症例ありがとうございます。
こちらのコメント欄で、軸椎の軸突起の骨折をご指摘されていた方がいらっしゃいましたが、宜しけれご教授頂ければありがたいです。
お手数をおかけ致しますが、よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
こちらに動画でまとめました。
詳細な解説、どうもありがとうございました!
しっかりと確認できました。
CPAからROSCした症例を見たことがあったので蘇生後脳症かな?と思いながら読影しました。
眼球が突出しているような気がするのですが、気のせいでしょうか??
アウトプットありがとうございます。
>眼球が突出しているような気がするのですが、気のせいでしょうか??
言われてみると突出しているような気もしたのですが、他の正常例と比較すると有意ではなさそうです。
こちらで色々チェックしてみてください。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/32406
自分はC2の歯突起骨折を指摘することはできませんでしたが、いわゆる首つりで起こる”ハングマン骨折”ということで、より首つりの可能性が高まるのではないでしょうか?
あっすみません。歯突起骨折だからハングマン骨折じゃないですね!笑
おっしゃるとおりですね。
首つりの場合は、ハングマン骨折が起こりやすいと言われていますね。
動画でまとめました。
いつもお世話になっています。
今回はてっきりSAHだと思ってしまいました。それはさておき。。
「脳実質が黒い(低吸収)になると相対的にくも膜下腔が白く(高吸収)なる」というのは、「相対的に」という部分がちょっと腑に落ちません。。
対象部位のX線の吸収自体が大きくならないとCT値は理論上変化しない(周りが低吸収になっても対象部位は影響は受けない)からです。
脳実質が浮腫により低吸収ということは全体的に通常のウィンドウ条件では黒っぽく写っているということになりますが、この画像では色合いは通常とあまり変わらないことから、ウィンドウレベルをそもそも上げているのではないかと考えました。そうすれば、くも膜下腔のCT値が変わらずとも画像的には白く写りますので、納得できるのですが、どうなのでしょうか。
NH様が調べてくださったように頭蓋内静脈が鬱滞することで脳槽・脳溝のCT値自体が変化しているということなのでしょうか(でもここにも「相対的に」って書いてありますが・・)。
かなり細かい話で申し訳ありませんが、気になったので(教科書等で調べるには限界があり・・)質問いたしました。
アウトプットありがとうございます。
>対象部位のX線の吸収自体が大きくならないとCT値は理論上変化しない(周りが低吸収になっても対象部位は影響は受けない)からです。
おっしゃるとおりです。
>この画像では色合いは通常とあまり変わらないことから、ウィンドウレベルをそもそも上げているのではないかと考えました。
確認したところウインドウレベルは上げていませんでした。
ですので、くも膜下腔のCT値そのものが上昇しているということになります。
ちょっと説明がよろしくなかったので修正します。
補足&修正動画を追加しました。
申し訳ありません。
補足・修正を頂きましてありがとうございました。
ウィンドウ条件を変えていないというのがわかったので、やはりクモ膜下腔のCT値が上昇(0付近から30~40くらい)していたのですね。静脈うっ滞により血管が拡張して血管内の血液のCT値が目立つようになるということと理解しました(脳実質が浮腫を起こしているのでくも膜下腔も狭くなっているように見えるのも影響していそうですね)。
色々と勉強になりました。ありがとうございます。
>脳実質が浮腫を起こしているのでくも膜下腔も狭くなっているように見えるのも影響していそうですね
これもあると思います。
こちらこそありがとうございます。