
【頭部】症例17
【症例】50歳代男性
【主訴】一過性意識消失
【現病歴】現病歴:本日昼にデスクワーク中に倒れ、10秒ほど呼びかけに反応しなかった。その後は普段通り応答できていたが、軽度後頭部痛は持続していた。転倒時の目撃者はおらず、音がして同僚が気付いた。立位で倒れたのか、座位で倒れたのかは不明。
【身体所見】体温36.7℃、血圧 130/93mmHg、脈拍数 79bpm、SpO2 99%(RA)、意識清明、神経学的所見に異常なし。
【既往歴】片頭痛
画像はこちら
第3脳室および一部側脳室に高吸収の血腫を認めています。
血腫は脳幹部周囲に分布が目立ちます。
両側の大脳谷槽、脚間槽、迂回槽、四丘体槽などにほぼ左右対称にくも膜下腔に血腫が存在しています。
さらに下の方を見ていくと、延髄や頚髄周囲にも血腫が広がっていることがわかります。
これまで見てきたくも膜下出血と異なり、かなり下の方(尾側側)に血腫の分布が目立つことがわかります。
ちなみに、第4脳室の外側孔(ルシュカ孔)、正中孔(マジェンディ孔)で脳室とくも膜下腔は連続していますので、ここから血腫が第4脳室に入ったと考えることができます。
これらの血腫の分布を来すくも膜下出血を見た場合に考えるべき原因はなにでしょうか?
動脈瘤とくも膜下出血の血腫の分布の関係は以下の通りでした。
部位 | 血腫の分布の特徴 |
A-com | 前大脳縦裂下部-透明中隔腔を中心に左右対称。 |
ICA | 同側の鞍上槽やSylvius谷に多い。Sylvius裂、脚間槽および迂回槽にも認められることが多い。両側性。 |
MCA | 同側のSylvius裂中心。 |
VA-BA | 後頭蓋窩(橋前槽、脚間槽、迂回槽など)中心。両側性、第4脳室内に血腫形成。 |
今回はこのうち、後頭蓋窩中心で、両側性であり、第4脳室にも血腫の形成を認めている点から、VA-BA系つまり、
- 椎骨脳底動脈系の動脈瘤もしくは解離(椎骨動脈:Vertebral artery→略してVA、脳底動脈:Basilar artery→略してBA)
によるくも膜下出血が疑われます。
診断:くも膜下出血(椎骨脳底動脈系の動脈瘤もしくは解離疑い)
脳血管カテーテル検査(脳アンギオ)が施行されました。
右椎骨動脈造影で、PICA(Posterior inferior cerebellar artery、後下小脳動脈)分岐部の遠位の椎骨動脈が紡錘状拡張を認めています。
PICAの解剖については頭部MRA画像診断ツールを参考にしてください。
※ツールでは左のPICAしか描出されていない症例となっています。
椎骨動脈解離が疑われます。
脳血管造影画像の再構成画像がこちらです。
右の椎骨動脈のPICA遠位の紡錘状拡張の様子がよくわかります。
解離が生じた部分にコイルを詰めて血流遮断す血管内治療が施行されました。
13本のコイルを用いて解離部の母血管閉塞施行され、右PICAは温存されました。
最終診断:くも膜下出血(右椎骨動脈解離による)
関連:
【頭部】症例17の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
大まかなことは解りやすかったです。このパターンはCTとってると1スライス目でわかるので、早くわかるとかっこいいです(笑)。今後は「vaかバジラかな?」って付け加えます(失笑)。
>このパターンはCTとってると1スライス目でわかるので、早くわかるとかっこいいです(笑)。
なるほど。たしかにそうdせうね。
>今後は「vaかバジラかな?」って付け加えます(失笑)。
そうですね。あえてその部分の拡大画像を作ってあげましょう。
若干左の大脳谷槽の血腫が右より多いように思ったため,左?と思いましたが,右でしたね.
瘤だけではなく解離も忘れないようにしたいと思います.
後方循環系(VA-BA径)では瘤や解離の可能性を考えましょう。
特に若い方では解離が多いです。
今日もありがとうございます。
だいぶくも膜下腔の解剖が身に染み付いてきたと思います。血腫の分布の特徴も早く身に染みつかせねば!
>だいぶくも膜下腔の解剖が身に染み付いてきた
それはよかったです!!慣れと繰り返しですね。
これまでの症例の解説も振り返りながら、くも膜下出血の原因部位の推定までできました。
しかし、解離という可能性もあるんですね(;’∀’) ばっちり正解の日はまだまだ先ですね…
あと、脳室とくも膜下腔のつながりの復習もできました(^▽^)/ 解剖学以来な気がします(笑)
>解剖学以来な気がします(笑)
ですよね(笑)。
特に若い方では解離の可能性も考えましょう。
椎骨動脈の解離はたまに目にしますが、解離性脳動脈瘤が破裂してクモ膜下腔へ出血があるものは初めて見ました。
日頃から単純CTでも椎骨動脈の形は見るようにしていましたが、出血成分があることで全然分かりませんでした。
椎骨動脈解離の場合は、解離による
・脳梗塞
・くも膜下出血
が起こる事がありますので、覚えておいてください。
頚髄周囲にも出血が及んでいたのですね…細かい所見ですが、「頚髄周囲の不明確のみの症例」もあるかもしれませんので、今後、読影手順に含めて起きます。
そうですね。
下の方は見落としがちなので注意が必要ですね。
くも膜下出血は指摘できたのですが・・・そこに行き着くまでの読影プロセス(自分の思考回路が・・・)が激ヤバでした。
もう一度、ゆっくり時間を取って読み返します。
※激ヤバプロセス・・・第3脳室に出血あるなぁ・・・おや、松果体の石灰化かぁ・・・あれ松果体に高吸収?←この辺りでMRIの信号変化と思考がごちゃ混ぜに・・・
恥ずかしい限りです。疲れてる時にはcafeブレイクでもして落ち着いてから画像をみることとします(^_^;)
アウトプットありがとうございます。
>疲れてる時にはcafeブレイクでもして落ち着いてから画像をみることとします(^_^;)
ですね。過度に疲れているときに画像診断してろくなことはありません(体験談)
アウトプットありがとうございます。
>疲れてる時にはcafeブレイクでもして落ち着いてから画像をみることとします(^_^;)
ですね。疲れているときに画像診断してろくなことがありません。
せざるを得ない場合も多いですが・・・。
こんにちは!いつもお世話になっております。
①椎骨脳底動脈解離は出血も梗塞も起こし得るということで、治療方針が変わってくるのでしっかりと復習しておきます!
②また、「片頭痛は椎骨動脈解離のリスク因子である」という記載も教科書にあったので、その点は今回の患者さんの片頭痛の既往と合致していると思いました。
③動脈解離の場合痛みの局在でおおざっぱな部位予測はできるということを勉強しました。
椎骨動脈解離→後頸部〜後頭部痛(今回の患者さんですね)
内頸動脈解離→前頭部痛(50〜67%)、顔面痛(10%)、前頸部痛(25%)
④神経学的所見に異常なしとのことでしたが、「くも膜下出血に伴う髄膜刺激症状は発症後数時間以内は認められないことが多い」ということを勉強しました。
アウトプットありがとうございます。
>「片頭痛は椎骨動脈解離のリスク因子である」
そうなんですね。それは知りませんでした。
>動脈解離の場合痛みの局在でおおざっぱな部位予測はできる
そうですね。後頸部から後頭部痛では、解離をまず除外ですね。
今回も勉強になりました。ありがとうございます。
お恥ずかしながら後頭蓋の出血を完全スルーしていました。気を付けたいです。
主旨とそれるのですが、横断像29枚目の低吸収な部分は大脳鎌の脂肪腫ですか?
アウトプットありがとうございます。
>横断像29枚目の低吸収な部分は大脳鎌の脂肪腫ですか?
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/wp-content/uploads/2019/07/lipoma.png
頭部の場合、脂肪腫がairのように一見見えることがありますが、
おっしゃるように濃度を変えて見てみると頭部皮下脂肪と同じ濃度であり、
脂肪腫であることが分かります。
本日もありがとうございました。
“一過性に意識を消失して、再び意識回復した。後頭部に続く頭痛”という病歴がすごく特徴的だなと思いました。硬膜外血腫や硬膜下血腫だったら、意識はどんどん悪くなっていきそうだし、脳梗塞だったらバタンと倒れるか、どこかに麻痺が出現しそうです。
後頭部に続く頭痛はくも膜下出血によるもので、一過性に意識消失したのは、椎骨脳底動脈の解離による一過性脳虚血によるものだったのかなと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>“一過性に意識を消失して、再び意識回復した。後頭部に続く頭痛”という病歴がすごく特徴的だなと思いました。
意識消失は特徴的ではないかもしれませんが、後頭部に続く頭痛は椎骨動脈解離に特徴的です。
>硬膜外血腫や硬膜下血腫だったら、意識はどんどん悪くなっていきそう
急性硬膜外血腫:数分〜数時間の意識清明期を経て、急激な意識レベル低下が起こる。
急性硬膜下血腫:受傷直後より意識障害が見られる
というのが教科書的には重要でしたね。
>後頭部に続く頭痛はくも膜下出血によるもので、一過性に意識消失したのは、椎骨脳底動脈の解離による一過性脳虚血によるものだったのかなと思いました。
頭痛自体は解離でも起こります。
後頭部痛で受診して、解離のみ(脳梗塞やくも膜下出血は伴わない)だったということは日常臨床でもあります。
>一過性に意識消失したのは、椎骨脳底動脈の解離による一過性脳虚血によるものだったのかなと思いました。
そうですね。この説明が一番考えやすいのかなと思います。(専門の先生がおられたらご意見いただいたいです。)
❶左のシルビウス裂は右と比べるとやや不明瞭かな?と思いました。右のシルビウス裂まで出血が及んでいると考えましたが合っていますでしょうか?
❷今回の症例で失神した理由は脳幹周囲のくも膜下まで出血が及んでいるため脳幹網様体を圧迫したからと考えておりますがこの解釈でよろしいでしょうか?また、仮にSAHがなく、今回のように片側の椎骨動脈解離だけだとしても一過性意識消失を来す可能性はあるのでしょうか?
愚問で申し訳ございません。。
アウトプットありがとうございます。
>左のシルビウス裂は右と比べるとやや不明瞭かな?と思いました。
おっしゃるとおりですね。
>右のシルビウス裂まで出血が及んでいると考えましたが合っていますでしょうか?
そうですね。右も不明瞭なので血腫はあると判断できます。
>今回の症例で失神した理由は脳幹周囲のくも膜下まで出血が及んでいるため脳幹網様体を圧迫したからと考えておりますがこの解釈でよろしいでしょうか?また、仮にSAHがなく、今回のように片側の椎骨動脈解離だけだとしても一過性意識消失を来す可能性はあるのでしょうか?
愚問ではなく、難しいですね(^_^;)
解離では後頚部痛、後頭部痛が一般的ですが、解離が起こった際に一過性虚血発作が起こったことも考えられます。
参考
http://www.memai.jp/shindan/13VBI.html
意識消失について考察があるかまたチェックしておきます。
ぎゃー!!
しまった!解離ですよねぇ~(汗)
いつも、解離や動脈瘤を気にしながらMRIを撮影しているのに、クモ膜下出血=動脈瘤破裂と結論付けてしまいました(^_^;)
う~ん、今日は注意深く答えられたと思ったのに、視野狭窄でした(苦笑)
アウトプットありがとうございます。
>クモ膜下出血=動脈瘤破裂と結論付けてしまいました(^_^;)
頻度としては動脈瘤破裂ですが、今回のように下の方に血腫の分布が多い場合で、比較的若い方で、後頭部痛があって、と解離を示唆するエピソードがある場合は解離も考えましょう。もちろん椎骨脳底動脈系の動脈瘤の破裂の可能性もあります。
高齢者の場合は、脳アミロイドアンギオパチーで円蓋部のみにSAHを認めることもあります。
動脈瘤以外もあるということを覚えておきましょう。
この講座の趣旨とはずれますが、この症例はCT撮影する、ということが最もポイントだったように思います。失神の病歴でCTとることは少ないので…
関係ないことで失礼しました
アウトプットありがとうございます。
>失神の病歴でCTとることは少ないので…
おっしゃるとおりだと思います。
今回は後頭部痛が持続していたというのもかなり解離を疑う病歴だと思います。
解離のみでSAHを伴っていない場合はCTではわからないことが多いですが・・・。
積極的に疑わしい場合はMRIが撮影されますね。
勉強になりました、ありがとうございます!
脳室とくも膜下腔の連続性や髄液の流れを復習させていただきました!
今回のケースでは、第4脳室〜第3脳室、側脳室の血腫は、髄液の正常な流れを考えると、逆流して形成されたと考えてよろしいでしょうか?
また、SAHの経過で、出血が洗い出されていく際は、基本的に逆流することはなく、正常な髄液の循環に乗ると考えてよいのかなと思いますが、髄液の流れで説明できないような部位に出血を見た場合は、例えば新たな出血の存在などを疑った方がいいのでしょうか?
分かりにくい質問で申し訳ありません。
よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>今回のケースでは、第4脳室〜第3脳室、側脳室の血腫は、髄液の正常な流れを考えると、逆流して形成されたと考えてよろしいでしょうか?
そうですね。逆流しているのだと考えられます。
>髄液の流れで説明できないような部位に出血を見た場合は、例えば新たな出血の存在などを疑った方がいいのでしょうか?
いえ、この場合も基本逆流したのだと考えるのが自然です。簡単に逆流しますので。