
【頭部】症例16
【症例】50歳代男性
【主訴】頭痛
【現病歴】2週間前に入浴後に急に頭痛自覚あり。近位受診にてロキソニン処方されコントロールされていたが、その5日後に再度頭痛あり近位受診。再びロキソニンで様子を見られていた。昨晩に頭痛増悪(経過の中では最も強い頭痛)あり当院受診。
【身体所見】JCS-0、GCS E4V5M6、体温 36℃、P52、BP174/115、SpO2 97%(RA)、頭痛あり、嘔気嘔吐なし、発語明瞭、めまいなし、瞳孔2.0mm/2.0mm、対光反射迅速、四肢運動感覚障害なし。
【嗜好】喫煙:15本/day 34年間、飲酒:缶ビール350ml×3本/day、ただし2週間前より体調悪く飲んでいない。
【内服薬】内服薬:アムロジンOD 2.5mg、頓服でロキソニン
画像はこちら
前頭葉の大脳鎌沿いに濃厚に沿った高吸収域を認めています。
くも膜下出血を疑う所見です。
下のスライスにおいても前大脳縦裂に沿った高吸収域を認めています。
両側のSylvius裂には血腫は認めていません。
脳底部では脳幹周囲のくも膜下腔は追うことができますが、両側の大脳谷槽は左優位に不明瞭となっています。
周囲の脳実質と同じくらいの吸収値です。
このような本来見えるべきくも膜下腔が見えないのも有意な所見であり、同部にもくも膜下出血が存在することが示唆されます。
では前大脳縦裂に見られるような高吸収ではないのはなぜでしょうか?
警告頭痛
今回のケースは2週間前に最初の頭痛があり、その後も頭痛の増悪があり、今回のCTを撮影する前に2回の頭痛の増悪のエピソードがあります。
つまり、最初のくも膜下出血は2週間前であることが示唆されます。
ただし、初回のくも膜下出血は出血量も軽微であり頭痛も軽度なことがあります。これを警告頭痛といいます。
今回もこの警告頭痛が2度起こり、その後今回の破裂が起こったと考えられます。
時期の異なると思われる血腫が両側の大脳谷槽に認められているのは、この警告頭痛の際の出血と考えることができます。
このような警告頭痛は少量出血を来した状態であり、動脈瘤が破裂する前駆状態(切迫破裂状態)とされます。
このほかに切迫破裂状態には以下のものが知られています。
切迫破裂状態:くも膜下出血の前駆症状
少量出血による警告頭痛の他、動脈瘤のサイズが大きくなることで脳神経核、脳神経を圧排することで症状が出ることがあります。
- 動眼神経麻痺
- 視神経、前頭葉症状(認知症、人格障害)
といったものです。
動眼神経麻痺は、
- 脳頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤(IC-PC動脈瘤)
- 脳底動脈先端の動脈瘤(Basilar top動脈瘤)
視神経、前頭葉症状は
- 前交通動脈動脈瘤(A-com動脈瘤)
のサイズ増大で起こる事が知られています。
ですので、これらの症状が出た際には、サイズが増大しており動脈瘤が破裂することを示唆します。
ちょっと話が逸れましたが、くも膜下出血を見た際には、どこの動脈瘤が破裂したのかを推測することも重要です。
その際には、
- クモ膜下出血の部位(血腫の分布)
- 脳実質内血腫の部位
- filling defect sign
を主に参照しますが、今回は下の2つは認めていません。血腫の分布から推定することになります。
破裂動脈瘤の部位と血腫の部位の関係は以下の通りでした。
部位 | 血腫の分布の特徴 |
A-com | 前大脳縦裂下部-透明中隔腔を中心に左右対称。 |
ICA | 同側の鞍上槽やSylvius谷に多い。Sylvius裂、脚間槽および迂回槽にも認められることが多い。両側性。 |
MCA | 同側のSylvius裂中心。 |
VA-BA | 後頭蓋窩(橋前槽、脚間槽、迂回槽など)中心。両側性、第4脳室内に血腫形成。 |
今回高吸収な血腫は主に前大脳縦裂にのみ認めています。
ですので、A-comの動脈瘤の破裂が疑われます。
他には、頻度は下がりますが、前大脳動脈(ACA)の遠位の動脈瘤が破裂しても今回のような分布になることがあります。
脳血管カテーテル検査が施行されました。
やはりA-comから突出する嚢状動脈瘤を認めており、同部の破裂によるくも膜下出血と診断されました。
診断:くも膜下出血(A-com動脈瘤破裂による)
※くも膜下出血の外科的治療は原則的に出血から72時間以内に行うべきとされます。これは、くも膜下出血後第4-14病日に脳主幹動脈に遅発性脳血管攣縮が生じることがあるためです。
今回は最初の出血は2週間前と考えられますが、脳血管カテーテル検査により攣縮を認めていませんでしたので、外科的な早期治療介入が可能とされ、クリッピング術が施行されました。
関連:クモ膜下出血(SAH)の原因動脈瘤を探す3つのポイント!
【頭部】症例16の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
SAHの存在や出血源は指摘できましたが、大脳谷槽の不明瞭化に気づきませんでした。日頃のクモ膜下腔の観察や意識がまだ足りないなと反省です。時間が経過したSAHや出血量の少ないSAHを見逃さないためにも、もっともっと意識して観察していきたいです。
アウトプットありがとうございます。
>時間が経過したSAHや出血量の少ないSAHを見逃さないためにも、もっともっと意識して観察していきたいです。
なかなか難しいところはありますが、本来見えるべき解剖が見えないのは異常だと意識することが大事ですね。
警告頭痛は怖いですね…警告頭痛では、CTで確認できない症例も多いと思いますが、「見えるべきくも膜下腔が見えない所見」や「軽度の水頭症(ニコニコサイン)」などの所見を確実にひろえるようになって、何らかの所見がある場合は、確実に指摘できるようになりたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>「見えるべきくも膜下腔が見えない所見」や「軽度の水頭症(ニコニコサイン)」などの所見
そうですね。わずかなSAHの場合はこのあたりが手がかりとなりますね。
他の方もおっしゃっていますが、大脳谷槽の不明瞭化は難しかったです…
あと、所見を正確に(エレガントにw)表現するには、部位の名称をもっと定着させないといけないと感じます。
しかし、知識は抜けていくものですね(;’∀’)
今回の症例、医師国家試験なら毎年出そうなくらい、ものすごく典型的な病歴だと思うんですが、
現場だとやっぱり「今そこに出血があるかどうか」くらいしか見られないことが多く、
2週間前の「警告頭痛」を意識したことないかもしれません。
問診の参考になります(^▽^)/
アウトプットありがとうございます。
>所見を正確に(エレガントにw)表現するには、部位の名称をもっと定着させないと
そうですね、解剖名がなかなか難しいところでありますが、言語化するには使えるようになりたいものです。
>現場だとやっぱり「今そこに出血があるかどうか」くらいしか見られないことが多く、
2週間前の「警告頭痛」を意識したことないかもしれません。問診の参考になります(^▽^)/
そうですね。病歴の聴取、問診大事ですね。
今日もありがとうございます。
大脳谷槽の不明瞭化見逃しました…最近実質内出血が続いてたのでくも膜下腔を意識する習慣が薄れてました。気をつけなければ…
アウトプットありがとうございます。
>最近実質内出血が続いてたのでくも膜下腔を意識する習慣
思い込みは気をつけないとですね。
昨日勉強したので、ということでついそっちの方向に持って行きがちですね。
私もたまにありますが(^_^;
filling ditect signは血漿成分が吸収され、CT値が上昇した血腫(80HUくらい)の中に新鮮血腫(50HUくらい)が混じりある程度凝固した中にでるから見えるのだと思ってましたが(それもなくはないのでしょうが)、動脈瘤そのものを見ているのですね。解説の中の画像で、血管もditectしていることとか今まで意識してなかったので自分の中でまた一つ成長できた気がします。
コメントをアウトプットしなければと思うと何度も見返すのでよいものですね。何か書かねばと粘りました。
アウトプットありがとうございます。
>動脈瘤そのものを見ているのですね
ですね。こんかいははっきりしませんが、大きな動脈瘤の場合は見えることがあります。
>コメントをアウトプットしなければと思うと何度も見返すのでよいものですね。何か書かねばと粘りました。
(^▽^)。まあ、簡単だった、難しかった程度でも大丈夫です。
くも膜下出血という点は指摘できましたが・・・。ちょっとズレた回答をした気がします。
「本来見えるべき解剖」←CT画像でのこれがまだ定着していないのでまずはそこからですね。
>「本来見えるべき解剖」←CT画像でのこれがまだ定着していないのでまずはそこから
ここが意外と難しいところです。本来見えないものが見えるのには気付きやすいのですが。
前大脳動脈領域のSAHであることはすぐにわかりましたが,やはり大脳谷槽の不明瞭化には違和感すら覚えませんでした.
正常例を解剖を意識して見慣れていない証拠かなと思いました.
普段からもっと意識して,読影していきます.
>前大脳動脈領域のSAHであることはすぐにわかりました
今回はここが最大のポイントですので、まずはOKですね。
「本来見えるべきくも膜下腔が見えないのも有意な所見」
出血は派手で分かりやすいのですが、逆に見えなくなるのも重要な所見ですね。まったく気づきませんでした。
そうですね。
見えなくなるのも重要な所見です。
発症から時間が経過している症例や出血量が少ない症例ではこの所見しかない場合もあるので注意が必要ですね。
こんにちは!いつもお世話になっております!
大脳谷槽不明瞭化は見逃しました…。
「本来ないところにあるという所見」と「本来あるべきところにないという所見」とでは、後者の方が圧倒的に難しいですね…
もっと修練を積む必要があると感じました…
アウトプットありがとうございます。
>「本来ないところにあるという所見」と「本来あるべきところにないという所見」とでは、後者の方が圧倒的に難しい
そうですね。特に今回は対称性でしたしね。
くも膜下腔の見えるべき黒(低吸収域)を常に意識してください。
大脳谷槽の不明瞭化がみえませんでした。前の症例で、くも膜下腔を意識することを学んだはずなのに、悔しいです…。今後の症例で忘れないようにします。思い出せてよかったです。
アウトプットありがとうございます。
>くも膜下腔を意識することを学んだはずなのに、悔しいです…。
悔しいと思えたら次は大丈夫です!意識してみてみてください。
大脳谷槽が等吸収だったので素通りしてました。見えないからこそ注意しないとですね。
症例1の正常構造の講義を見直すちょうど良い症例でした。
やはり、正常構造を意識した丁寧な読影が大事だと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>症例1の正常構造の講義を見直すちょうど良い症例でした。
復習になってよかったです。
>正常構造を意識した丁寧な読影が大事だと思いました。
そうですね。くも膜下出血の場合は特にこれが重要ですね。派手なペンタゴンばかりじゃないということですね。
症例と解説ありがとうございます!
SAHとAcomのAAA破裂かなと思えることができました!ついでに大脳谷槽が見えにくくなってることも指摘できました!ありがとうございます!成長が実感できます!
ところで少し気になったのですが、、、警告頭痛なんですが、これはAAAが破裂じゃなく、瘤から血液が滲み出るってイメージでいいのですか?
アウトプットありがとうございます。
>ついでに大脳谷槽が見えにくくなってることも指摘できました!
それはよかったです!!
>瘤から血液が滲み出るってイメージでいいの
おっしゃる通りです!!
ちなみにAAAは腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm)の略です。
症例ありがとうございます。
警告出血による左右大脳谷槽の不明瞭化の所見についてですが、破裂したA-CON動脈瘤からのoozingが脳槽内で移動して今回の所見となったと考えてよろしいのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>破裂したA-CON動脈瘤からのoozingが脳槽内で移動して今回の所見となった
おっしゃるとおりです。症例15でも脳幹周囲や右大脳谷槽の不明瞭化がありましたが、あれもこれも、くも膜下腔に高吸収ではないくも膜下出血が存在しているために不明瞭化しているということです。
今日もためになる症例ありがとうございます。
つい高発部位のことを失念して、血腫の分布からACAの動脈瘤を予測してしまいました(^_^;)
警告頭痛や大脳谷槽も、言われてみればたしかにそうだよなぁと思うのですが・・・。
もっとごろー先生に教えていただいたことを整理しながら戦闘力を上げていかないといけないですね!
アウトプットありがとうございます。
>血腫の分布からACAの動脈瘤を予測してしまいました(^_^;)
SAHを診断した上で、ここまで予測できたら十分だと思います。
>警告頭痛や大脳谷槽も、言われてみればたしかにそうだよなぁと思うのですが・・・。
大脳谷槽の正常くも膜下腔が見えないというのは重要所見なので、正常くも膜下腔が見えるかを症例1で見たように追うようにしましょう。
>戦闘力を上げていかないといけないですね!
1日1歩ですね。先は長いのでコツコツ行きましょう。
今回もとても勉強になりました!
1つ疑問ですが、
時系列で最初の出血は大脳谷槽付近で起こったと推測されるのならば、動脈瘤の部位はICAが疑わしいと素人なりに思うのですが、
高吸収だったり目立つところで判断せよ、ということでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>時系列で最初の出血は大脳谷槽付近で起こったと推測されるのならば、動脈瘤の部位はICAが疑わしいと素人なりに思う
ではなくて、Acomからのくも膜下出血が周囲のくも膜下腔に経時的に移動しているため、大脳谷槽付近ではやや古い血腫が存在しているということです。
Acomでは古いものに加えて新規出血がありますので、高吸収が目立つということです。
>高吸収だったり目立つところで判断せよ、ということでしょうか?
一般的には、高吸収が目立つ部位が出血点と考えられます。
いつも大変勉強になります。ありがとうございます。SAHの存在は分かりましたが、大脳谷槽の不明瞭化は難しかったです。また破裂動脈瘤の推定を忘れがちなので気を付けたいです。
質問なのですが、2週間前や5日前の警告出血の段階で、CTを撮影していた場合は、おそらく大脳谷槽のみで高吸収域がみられていただろう、と考えて良いのでしょうか?
またその場合には、SAHの破裂源の推定はどのように考えていけば良いのでしょうか?
よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>質問なのですが、2週間前や5日前の警告出血の段階で、CTを撮影していた場合は、おそらく大脳谷槽のみで高吸収域がみられていただろう、と考えて良いのでしょうか?
ではなくて、ここで撮影をしていてもAcom周囲中心で見られたことが考えられます。
くも膜下腔を出血は移動して、今回は大脳谷槽では髄液で一部薄まった古い血腫を認めているということになります。
薄まり、古いため、不明瞭で高吸収ではないということです。
非常に勉強になりました。ありがとうございます。
確認なのですが、
くも膜下出血の外科的治療は原則的に出血から72時間以内に行うべきとされます。
とのことですが、この72時間というのは警告出血(切迫破裂)を含めて、ということでよろしいでしょうか??
アウトプットありがとうございます。
>この72時間というのは警告出血(切迫破裂)を含めて、ということでよろしいでしょうか??
脳卒中治療ガイドラインには72時間の目安に警告出血については記載がありませんが、遅発性血管攣縮が起こる前に治療を開始するという意図ですので含めるのだと考えます。
出血後72時間以内に行った早期手術はそれ以降の手術よりも在院日数を短縮できるというエビデンスがあるようです。
最初は「こんなの気付けるかっ」、と思っていたくも膜下出血の薄い高吸収と大脳谷槽の消失を拾えるようになって感慨深いです。ありがとうございます。
”見えるべきものが見えないことを感じ取る”、という主人公によく求められる資質を高めていきたいです(笑
的外れかもしれませんが、全体的にくも膜下腔が見えないような気がするなぁと感じたので、
中脳、大脳基底核、橋レベルでの大脳新皮質表層のくも膜下腔が消失している、と記述してみたのですが、有意な所見として捉えてもよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>「こんなの気付けるかっ」、と思っていたくも膜下出血の薄い高吸収と大脳谷槽の消失を拾えるようになって感慨深いです。
嬉しいbefore→afterの報告ありがとうございます!
>くも膜下腔が消失している
腔が消失しているわけではなく本来の正常な髄液ではなくなっているので不明瞭になっているということですね。
有意な所見です。