【頭部】症例15 解答編

【頭部】症例15

【症例】40歳代女性
【主訴】意識障害
【現病歴】本日トイレの前で意識を失った状態で倒れているのを同居している母が発見し、救急搬送となる。
【身体所見】JCS Ⅲ-100、体温36.2℃、血圧134/75mmHg、脈拍90回/分、SpO2 100%(RA)、呼吸数 20回/分、瞳孔径 1.5mm/1.5mm、対光反射は正常、右共同偏視を認める。
【既往歴】特記すべきものなし

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左側頭葉に脳実質内血腫を認めています。

また左の大脳谷槽〜Sylvius裂優位にくも膜下出血を認めています。

さらに、第4脳室にも高吸収を認めており脳室内にも血腫を認めていることがわかります。

側脳室の血腫は左優位であり、左から右方向に正中構造の偏位軽度認めています。

冠状断像で見ると、側頭葉の実質内血腫は側脳室下角のところで脳室内と連続しており、同部から穿破して脳室内出血を来していることがわかります。

また両側側脳室下角の開大を認めており、急性水頭症を軽度来している状態であることがわかります。

診断:くも膜下出血+脳実質内血腫(脳室穿破)+急性水頭症

 

今回どの様なストーリーが考えられるでしょうか?

1つは、血管奇形などがベースにあり、そこから皮質下出血(脳実質内出血)を起こした。

  • 皮質下出血→くも膜下腔に穿破→くも膜下出血
  • 皮質下出血→脳室内に穿破→脳室内出血

というストーリーです。

 

もう1つ考えなければならないのが、動脈瘤破裂によるくも膜下出血が起こった。

  • 動脈瘤破裂→くも膜下出血
  • 動脈瘤破裂→脳実質内に血腫を作った→その脳実質内血腫が脳室内に穿破した

というストーリーです。

 

緊急脳血管造影検査が施行されました。

左内頸動脈造影で、左内頸動脈後交通動脈分岐部(IC-PC)に嚢状の動脈瘤を認めています。

サイズは長径1.2cm大でした。また、動脈瘤は綺麗な球状ではなく、突出像(bleb)を伴っています。
サイズが大きく、破裂のリスクが高いblebを伴っています。

この動脈瘤が破裂したことにより、くも膜下出血および脳実質内出血を認めていたということです。

このように、くも膜下出血に脳実質内出血を伴うことがありますので注意が必要です。

 

最終診断:左ICーPC動脈瘤破裂によるくも膜下出血および脳実質内出血(+脳室穿破+急性水頭症)

※開頭動脈瘤頚部クリッピング術+脳室ドレナージ術が施行されました。

 

症例2でくも膜下出血を見た際にどの動脈瘤が破裂したのかを推定しましょうというお話をしました。
原因動脈瘤を推定する方法

原因動脈瘤を推定する方法としては、

  1. クモ膜下出血の部位
  2. 脳実質内血腫の部位
  3. filling defect sign

が知られており、中でも、2が最も正診率が高いとされます。
逆に(1)がはずれることがあることを知っておきましょう。∵SAHは急速に脳脊髄液と混ざり拡散し、教科書的な分布にならないことも多く、体位により移動するため。

今回は、2の脳実質内血腫を左の側頭葉に認めています。

破裂動脈瘤の部位と脳実質内出血の部位の関係は以下の通りとなっています。

瘤の部位 脳実質内血腫の分布の特徴
A-com 前頭葉下部内側および透明中隔部。
ACA遠位 脳梁および帯状回。
IC-PC 側頭葉
MCA 外包および側頭葉
VA-BA系 (第4脳室内)

今回は側頭葉に脳実質内血腫を認めていました。

またICーPC部位に血腫は接していますが、MCAの好発部位であるM2分岐部には接していません。

その点からもIC-PC動脈瘤破裂が疑わしいと予測することができます。

 

 

関連:

【頭部】症例15の動画解説

※動画内で治療について、血腫除去+クリッピング術といっていますが、正確にはクリッピング術+脳室ドレナージ術が施行されました。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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