
【頭部】症例14
【症例】20歳代女性
【主訴】左側頭部痛
【現病歴】2日前の夜より左側頭部痛、嘔吐出現し、近医受診。カロナールにて様子を見ていたが軽快しないため来院。
【身体所見】JCS 0、BT36.7℃、BP130/88mmHg、P 105bpm、SpO2 98%(RA)、脳神経学的所見に明らかな異常なし。瞳孔3/3mm、対光反射迅速。四肢に運動感覚障害なし。
画像はこちら
左の側頭後頭葉の皮質下に3cm大の高吸収な血腫を認めています。
周囲には軽度低吸収な浮腫性変化を認めています。
また脳室内にも血腫を認めており、左側脳室後角から脳室内に穿破したことが疑われます。
皮質下出血を疑う所見です。
診断:皮質下出血
前回見たように、皮質下出血は高血圧性でも生じることがありますが、非高血圧性の可能性も考えなければなりません。
とくに既往もない若年者の場合、まず非高血圧性の可能性を考慮します。
非高血圧性の原因としては以下のものを考慮します。
- 脳血管奇形(動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、海綿状血管腫)
- 脳動脈瘤
- アミロイドアンギオパチー
- 脳腫瘍
- 出血性梗塞
- もやもや病
- 静脈洞血栓症
- 血管炎
- 血液疾患(白血病など)
- 薬物(抗凝固薬など)
- 凝固異常
- 外傷性
中でも若年者で考えなければならないのが、脳血管奇形です。
CTでのこれらの診断は困難なことが多いのでMRIや脳血管造影が必要となります。
T2WIで血腫の辺縁に低信号で抜けるnidus(ナイダス)と呼ばれる血管塊を認めています。
MRAの元画像においても血腫周囲に高信号の血管塊(nidus)を疑う所見が見られます。
また元画像では中大脳動脈(MCA)を追っていくとこの血管塊に到達することがわかります。
これらは、脳動静脈奇形(AVM)を疑う典型的な所見です。
-カルテより抜粋-
頭部MRIおよび脳血管撮影にて脳動静脈奇形(Spetzlar & Martin 1+1+0=grade2)と診断。
主な流入血管は角回動脈および頭頂後頭動脈(ともに中大脳動脈の枝)、流出静脈は上矢状静脈洞および横静脈洞への2本。
脳動脈奇形摘出手術を施行。
再度脳血管撮影を行い、脳動静脈奇形が全摘出されていることを確認し退院。
最終診断:皮質下出血(動静脈奇形による)
術後のフォローで撮影されたCTです。
血腫は消失しています。
関連:脳動静脈奇形(AVM)とは?MRI画像診断のポイントは?
【頭部】症例14の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
20代の脳出血は心情的に嫌なものです。さすがに出血を見落とすことはないでしょうが、明日まで待っても良いのか?気になるところです。随伴所見は脳室穿破ですが、素人的にはドレナージするほどでもなさそうに思います。しかし、血腫が原因で水頭症になってはいけないとも思います。この患者は血腫除去術のみと記載があったので、脳脊髄液の流れには結果的に影響しないのですね。水頭症が起きそうな感覚(ドレナージが必要)ってあるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>20代の脳出血は心情的に嫌なものです。
ですね。この方は血腫の除去のみで経過良好なのでまだ良い方だと思います。
>脳脊髄液の流れには結果的に影響しないのですね。水頭症が起きそうな感覚(ドレナージが必要)ってあるのでしょうか?
ちょっとESPRESSO脳外科的内容ですがおっしゃるように気になるので調べてみました。
成人の脳室内出血:急性水頭症が疑われるものは脳室ドレナージを考慮する(グレードC1)
(脳卒中治療ガイドライン 2015(追補2017対応)P157)
と記載があります。
※グレードC1は行うことを考慮してもよいが十分な科学的根拠がない。というものです。
症例13の脳外科の先生にLINEで聞いてみました。
以下返信です。
「基本的にはモンロー孔とか第4脳室レベルでどの程度血腫がパックされているかで、かなりパックされていると、やはり通常閉塞性水頭症になります。
あとは、軽度な脳室内血腫でもニボー形成している場合には、閉塞性では説明出来ない急性水頭症が起こります。
これは、最近言われている新しい髄液循環の概念で説明出来るかもですが、いわゆるバルクフロー説では説明困難で、今後真の髄液代謝の考えが必要です。
血腫が多い場合には、狭いところの閉塞性水頭症を生じ、急性水頭症となり意識障害も重度になりますが、例外的に軽度な脳室内血腫でも急性水頭症となることがあります。
また、急性水頭症は、画像、症状からの総合的判断です。」
とのことです。
画像からの急性水頭症を疑う所見
▶モンロー孔とか第4脳室レベルでの血腫がどの程度パックされているか。→閉塞性水頭症の可能性
▶軽度な脳室内血腫でもニボー形成している場合→閉塞性では説明が付かない水頭症の可能性
急性水頭症の診断
▶画像、症状からの総合的判断
ということですね。
勉強になりました。
すいません。こちらで調べようと思っていたのですが申し訳ありませんでした。私ではそこまでたどり着けなかったので助かりました。治療ガイドラインを調べれば推奨も見れるので良いですね。しらべかたに関しても勉強になりました。
いえいえ、今回の頭部コンテンツ作成にあたり、治療ガイドラインを購入したので、役に立ってよかったです。
若いので血管奇形なのかなとか、妊娠高血圧があり出血しやすくなったのかななど考えましたが分かりませんでした。単純CTでも出血成分がなければナイダスが見えることもありそうですが、難しかったです。
アウトプットありがとうございます。
今回はCTで脳静脈奇形の診断はきついですね。
皮質下出血があり、年齢も若く高血圧もないので、精査が必要であるという方向にもっていければOKです。
HNさんのご質問及び、ごろ〜先生のご解答、とても勉強になりました。ありがとうどざいます。
過去に、脳室穿破が軽度でも、脳室の拡大を伴う症例を経験したことがあって、疑問に思ったことがありました。
アウトプットありがとうございます。
>脳室穿破が軽度でも、脳室の拡大を伴う症例を経験したことがあって、疑問に思ったことがありました
髄液が滞りやすい状態というのもあるようです。
その後のLINEのやりとりで心不全なども関与するとその先生は考えておられるようです。
今日もありがとうございます。
出血の原因がわからないかなとよく見てみましたがCTのみだとやはり厳しいですね。
随伴所見を指摘する事はだいぶ慣れてきた気がします。
なかなかCTでは指摘するのは困難ですね。
MRIなどに誘導できれば問題ありません。
>随伴所見を指摘する事はだいぶ慣れてきた気がします。
それはよかったです!!
皮質下出血で脳表からの深さが1cmを超えていたので、手術適応ではないと書いてしまいました。
若年者で、皮質下出血の方は脳血管奇形が
あって出血を起こしている可能性が高いので、他の検査に回さなけばいけないという事がわかりました。
そして、手術をしないといけないという事と。
頭部CTも奥が深いです…
明日も、頑張ります。
>皮質下出血で脳表からの深さが1cmを超えていた
浅いところが1cm以下ならば手術適応ですね。
>あって出血を起こしている可能性が高いので、他の検査に回さなけばいけないという事がわかりました。
そして、手術をしないといけないという事と。
ここが若年者では重要ですね。
脳出血、脳室穿破の評価もできました。
ただし、非高血圧性の可能性を考慮できませんでした。
一歩一歩行きます(^▽^)/ w
アウトプットありがとうございます。
>ただし、非高血圧性の可能性を考慮できませんでした。
若年者や高血圧のない方の皮質下出血の場合は常に二次性を考慮ですね。
若年の方の脳出血は見ただけであたふたしてしまいそうですが、MRI検査できちんと有用なシーケンスを撮像するよう心がけたいと思いました。
そうですね。
血管奇形を中心にMRI(+脳血管造影)で診断したいところです。
脳室穿破の量を少ないとぱっと見落としそうになるなと思いました.
出血の原因精査が必要とわかることが重要なのですね.勉強になりました.
>出血の原因精査が必要とわかることが重要
そうですね。
皮質下出血の場合は特にそうですね。
高血圧性のすぐ後に非高血圧性の症例を提示して頂き、
その後のMRI等で診断がつくという流れが大変わかりやすく、
皮質下出血は2つの可能性を考える必要があることを体感できました。
皮質下出血や、典型的ではない場所の出血では必ず精査に繋げられるよう注意したいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>皮質下出血は2つの可能性を考える必要があることを体感できました。
それはよかったです。
年齢や高血圧の有無などのチェックも大事ですね。
こんにちは。いつもお世話になっております!
今日も回答には至ったのですが、出血部位の同定が曖昧になってしまってもやもやしていました。
後頭葉や側頭葉の境界を同定するメルクマールがなくていつもなんとなく同定してしまっています。
アウトプットありがとうございます。
頭頂葉と後頭葉の境界に頭頂後頭溝があります。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/wp-content/uploads/2019/07/Parieto-occipital-sulcus1.png
が、おっしゃるように今回若年者でCTですので、ちょっと難しいですね。
今回も勉強になりました。
脳室穿破についてですが、左側脳室後角は血腫から直接つながっているのでわかりやすいですが、
左側脳室前角や右側脳室後角は血管や脈絡叢との区別が難しいと感じました。
アウトプットありがとうございます。
>左側脳室前角や右側脳室後角は血管や脈絡叢との区別が難しいと感じました。
確かに右側脳室後角はわかりにくいかもしれませんね。
左側脳室前角は明らかな左右差がありますので今回はわかりますね。
右側脳室にも血腫が穿破しているのですね、わたしも、液面形成などの像がみられないと、脈絡叢との区別が難しいと感じました。区別する方法はありますでしょうか?もしくは、区別する意義はそこまでないのでしょうか、、、
アウトプットありがとうございます。
>液面形成などの像がみられないと、脈絡叢との区別が難しいと感じました。
おっしゃるとおりですね。右側脳室後角のところはちょっと難しいかもしれません。
ただし同部に正常で高吸収として認めるのは基本的に石灰化です。
石灰化と出血の鑑別はしばしば困難なこともありますが、
今回の高吸収は石灰化よりは血腫ぽいなと思えれば
(ここが難しいところかも知れませんが)指摘可能ですね。
今回は第4脳室にも血腫を認めていますね。
モンロー孔(両側か片側かも)
第3脳室、中脳水道、第4脳室
など狭いところが血腫でパッキングされていないかが
画像での評価では重要です。
もちろん側脳室下角の開大の評価も重要ですね。
ですので、今回右側脳室後角の高吸収が血腫なのか脈絡叢なのかを
鑑別することは臨床的にはあまり意義はありませんね。
毎回勉強になる症例をありがとうございます。
今回の症例では、血管造影はされたのでしょうか?
それともMRAでAVMの診断となったためにする必要がなかったのでしょうか。
AVMの血管造影が見てみたいなと思いました。
もしも可能であればお願いしたいです!
アウトプットありがとうございます。
こちらです。
毎回追加の画像提示できるわけではないのでよろしくお願いします。
今日も大変勉強になる症例をありがとうございました。素人質問で大変恐縮ですが、CT横断像で両側淡蒼球のあたりに点状の高吸収域があるように見えるのですが、出血ではなく生理的な高吸収域なのでしょうか?今回の皮質下出血と関連あるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように生理的石灰化です。
今回の皮質下出血とは関係がありません。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/16802
横断像19-20/32の脳溝が白い気がしてくも膜下出血かと思ったのですが、気のせいですか?
外傷の場合は細かいくも膜下出血も拾った方が良さそうでしたが、脳出血の場合は、はっきり分かるもの以外頑張って探す必要はないのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>横断像19-20/32の脳溝が白い気がしてくも膜下出血かと思ったのですが、気のせいですか?
確かに脳溝沿いにも少しあるかもしれないですね。
>、脳出血の場合は、はっきり分かるもの以外頑張って探す必要はないのでしょうか。
もちろん隈無く探した方がよいです。高血圧性などの脳内出血と思っていたら実は、動脈瘤破裂によるわずかなSAH+脳内出血というケースもあります。
この場合は血腫の局在やわずかなSAHが手がかりとなることもあります。
右側脳室後角のHDAも出血なのですね(^_^;)
脈絡叢の石灰化だと思い込んでいました。
後、AVMの場合、MRAを撮影する場合には、AVMの血管塊がすべて入るように撮影したほうがよいですよね?
ついルーチンで撮影してしまって欲しいところがないみたいなことが一度ありまして(汗)
その時に、前のカルテの確認が必要だなと再確認させられました。
アウトプットありがとうございます。
>右側脳室後角のHDAも出血なのですね(^_^;)脈絡叢の石灰化だと思い込んでいました。
おっしゃるように紛らわしいですね。
今回は左右差があり、両側後角の高吸収も石灰化よりは形状が血腫のようです。
もちろん背景には石灰化も混在しているかもしれません。
>後、AVMの場合、MRAを撮影する場合には、AVMの血管塊がすべて入るように撮影したほうがよいですよね?ついルーチンで撮影してしまって欲しいところがないみたいなことが一度ありまして(汗)
理想はそうですね。特に既に診断がついている場合はそうしていただけると助かりますね。
皮質下出血とはいいますが、皮質も含んでますね。皮質下出血という名称は、皮質下から出血しているというふうに考えていいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>皮質下出血という名称は、皮質下から出血しているというふうに考えていいのでしょうか?
そうですね。確かに今回は血腫は皮質にも及んでいます。
皮質下から出血していると考えていただいて大丈夫です。
皮質の下に白質があります。白質は皮質下白質と深部白質と分けられますが、皮質下出血の場合、深部白質からの出血ではないというくらいで覚えておきましょう。
表面に近い出血は、高血圧性出血の好発部位ではないので、皮質下出血と言いますね。
側脳室下角は「開大」とまではいきませんか?
重ね重ねすみません。
側脳室下角はどのぐらいから開大と言えるのでしょうか?ニコニコが目立ったら異常?という認識で良いのでしょうか
アウトプットありがとうございます。
この症例に限らず側脳室下角の開大についての質問がありますが、やはり年齢が重要です。
これが60歳や70歳台ならば問題になりません。
今回は20歳台ですのでやはりおっしゃるように下角は開いていると判断できます。
脳室そのものの拡張は目立ちませんが。
いつもありがとうございます。
MIP像ではあまりはっきりせずとも血管造影では非常に明瞭にAVMが見えていて非常に勉強になりました。
MIP像、CTA、血管造影の使い分けが曖昧なので勉強していきたいと思いました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね、CTやMRIのシークエンスによってはAVMは同定できず、T2WIなどをしっかり見ないと同定できません。
CTで脳内出血を確認 → その原因精査のために、MRI、脳血管造影、CTAという流れが大事ですね。
誤植の訂正ばかりで申し訳ないのですが、現病歴の
近位受診
→近医受診
かと思います。
誤植のご指摘ありがとうございます。
修正します。