
【頭部】症例13
【症例】50歳代女性
【主訴】右手の痺れ
【現病歴】1時間前に突然右前腕から遠位のしびれ感が出現したため救急搬送。頭痛、嘔気なし。
【身体所見】血圧 261/136mmHg、BT36.9℃、P 129bpm、SpO2 95%(RA)、瞳孔3mm/3mm、対光反射+/+、眼球運動に問題なく眼振なし。顔面の感覚異常なし。右上肢挙上不能。grip不能。左上肢・両下肢は挙上可能。
【内服薬】なし
【既往歴】なし
画像はこちら
左の前頭頭頂葉に長径4cm大の高吸収域を認めています。
(皆さんの環境ではサイズが測れません。すいません。)
これまで見てきたような基底核や脳幹(橋)、小脳からの出血ではなさそうです。
大脳の解剖ですが、下のように
- 灰白質(皮質)
- 白質
に分けることができます。
白質はその深さにより、
- 皮質下白質
- 深部白質
などと呼ばれることがあります。
今回はこの皮質下である白質に出血を認めています。
このような血腫を皮質下出血といいます。
血腫は皮質下白質から深部白質に及んでいます。
正中構造の偏位は認めていません。
冠状断像においても同様で、皮質下から結構深めの深部白質まで及んでいることがわかります。
ただし、正中構造偏位はありません。
皮質下出血の手術適応は以下の通りでした。
今回は脳表から深さが1cm以下ではありましたが、正中構造の偏位を認めていないことから保存的に加療されました。
さて、皮質下出血ですが、これまでの高血圧性脳出血と異なる点があります。
それは、上にあるように非高血圧性の出血であっても皮質下出血を起こすことがあるからです。
つまり、皮質下出血を見れば高血圧性以外に原因が隠れていることがあるので精査が必要となります。
この方はかなり血圧が高いので高血圧性が疑われますが除外が必要です。
- 脳血管カテーテル検査
- 脳MRI
※T2*強調像で右放線冠に陳旧性微小出血を認めています。
これらの検査を踏まえて、結果的に高血圧性と診断された症例です。
診断:左皮質下出血(高血圧性)
そこで、脳外科の先生(私より学年が結構上)に皮質下出血の手術適応についてLINEで聞いてみました。
すると皮質下出血は
- 血腫大、原因あり→可能なら血腫除去+原因除去
- 血腫大、原因あり→急性期不可なら血腫のも除去、後日原因除去
- 血腫大、原因なし→血腫除去
- 血腫小、原因あり→可及的早期に原因除去
- 血腫小、原因なし→保存的
と返事がありました。
では、血腫の大、小は具体的にどのように決定するのでしょうか?
かなり上の先生なので、
「大事ですね!」
と返すのが精一杯でした。
本当は、
「大事ですね!(おい)」
くらいで返したかったです。
で今回の症例を1スライスですが見てもらいました。
すると、やはり手術はしないと。
そして、やはり勘だと。
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ということで、勘を養いましょう!!!
しかし、決して冗談ではなく、この勘というのは、実際今回に限らず大事ですね。
- 目の前の画像がやばい(致死的もしくは今後なり得る)画像なのか、そうでないのか
画像に限らず、
- 目の前の患者さんが軽症なのか、実はめちゃ重症なのか
察することは大事ですね。
実際はなかなか難しいこともありますが・・・・・。
今回は、やはり正中構造の偏位がない点や、圧排所見がほとんどない点から、脳外科の先生の手術しない(保存的に治療する)「勘」が発動したのだと思います。(きっと)
(補足:この脳外科の先生は某大学病院に勤務する極めて優秀な先生です。ですのでこの「勘」というのは、決して「適当」という意味ではなく、極めて深い意味が含まれています。)
発症から約1ヶ月後のフォローのCTです。
血腫は残存していますが吸収されている様子がわかります。
関連:皮質下出血とは?症状、原因、CT画像診断、治療法のまとめ!
【頭部】症例13の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
経験を多く積まれた上での勘、ということですね☆
貴重な意見です。
まずは地道に教科書通りに手術を考慮するのかどうかを考えて症例を積み重ねていくのが大事そうですね(^▽^)/
アウトプットありがとうございます。
>経験を多く積まれた上での勘、ということですね☆
貴重な意見です。
そうですね。横断像だとそんなにサイズは大きくないですが、冠状断像だと結構今回の血腫は大きく見えますからね。
それを迷うことなく「しない」と。
>まずは地道に教科書通りに手術を考慮するのかどうかを考えて症例を積み重ねていくのが大事そうですね(^▽^)/
ですね。この「勘」をマスターできるのはかなり厳しそうで、我々は教科書的な判断でよいと思われます。
勘というのはおそらく説明は難しいけど根拠があるという、説明を求める側からすると根拠にならない感覚なのでしょうね。ここではなかったですが、フォローのCTはとられていたでしょうし、私の中では先生の教えてくださっている随伴所見の有無や血腫サイズが経過観察中に悪化しなかったから(そこで毎回判断され)でしょうから、先生の繰り返し教えてくれていることがベースになっているとあらためて思っています。考えさせられる情報提示ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
ヘルニア所見がないのが大きいのだと思います。
血腫は大きく見えますが、周囲の実質を圧排するような所見は認めないですしね。
皮質下出血の部位を前頭葉にするか、頭頂葉にするかで、少し時間をかけました。
実際、血腫に圧迫された中心溝を同定するのが難しかったです…。中心溝の直ぐ背側に血腫をみとめ、「左頭頂葉の皮質下出血」としました。
アウトプットありがとうございます。
>実際、血腫に圧迫された中心溝を同定するのが難しかったです…。
同じくここで少し苦しみましたが、あまり重要ではないと判断し、前頭頭頂葉と表現しまし(^_^;
今日もありがとうございます。
勘ですか!(笑)オペ適応としてしまいました。
直感と分析の力を養っていきたいです。
アウトプットありがとうございます。
サイズからはオペ適と考えて良いと思います。
あとは脳外科判断ですね。
kenkenさんと同じく
中心溝を同定しづらかったので、
上枝挙上不能から、前頭葉の脳内出血と書いてしまいました。
あと頭蓋骨内にair?と思ったのですが
くも膜顆粒ですね。
違うような気がしてきましたが…
https://遠隔画像診断.jp/archives/8133
を見てみますとやはりそうでしょうか?
>あと頭蓋骨内にair?と思ったのですが
くも膜顆粒ですね。
骨条件を作ってみました。
http://medicalimagecafe.com/case/Wg8c5CUY.html
くも膜顆粒もありますが、頭蓋骨の濃度が低いところが空気のように見えていますね。
いわゆるpunched out lesionのような有意なものではないと考えます。
骨条件作って頂きありがとうございます!
https://遠隔画像診断.jp/archives/4982
も見さして頂きました。
punched out lesionはもう少し穴が大きい感じがします。
ありがとうございました。
スペシャリストの勘というか感覚は非常にためになる情報だと思いました。勘と言っても随伴所見を踏まえての総合的な判断なのかなと感じます。
アウトプットありがとうございます。
>スペシャリストの勘というか感覚は非常にためになる情報だと思いました。
ですね。2枚見て即答で「しない」でしたからね。
サイズだけではなく圧排所見も見ているのでしょうね。
サイズによる手術適応の判断は単純に何cmとかではなく,脳外科の先生の経験と勘によるものだということですね.
今後繰り返し,脳出血症例を経験して,その勘を養おうと思います.
>サイズによる手術適応の判断は単純に何cmとかではなく,脳外科の先生の経験と勘によるものだということですね
まあ、我々はとりあえず単純に何cmで良いと思います。
あとはいろんな事情が関与してくるのだと・・・。
勘を養いましょう!は半分本気で、半分冗談ですので(^_^;
今回は、症例よりも、脳外科の先生の方が気になりました(汗)。
この先生は、もしかすると5~6年前に放射線科のミッドサマーセミナーで講演された先生ではないでしょうか?
違っていたらごめんなさい。
その先生なら、学生時代の先輩で、よく知っているものですから、つい聞いてしまいました。
コメントありがとうございます。
講演などはされていますが、そういった放射線科のセミナーなどではされていません。
かつてのマラソン仲間です。
今後この先生とのLINEシリーズがいくつか出てきます(^_^;
そうだったんですね。
違う人のようで、ほっとしたような、残念なような(笑)
頭部も出血から勉強させていただいており、できるだけコメントも残せるように頑張ります。
引き続き、よろしくお願い申し上げます。
>違う人のようで、ほっとしたような、残念なような(笑)
逆にこのミッドサマーセミナーで講義された先生がこちらは気になってきました(笑)
今年は残念ながら来週のミッドサマーセミナーは行けないです。
こちらこそ引き続きよろしくお願いします。
今回もそうでしたが、いつも病変が何頭葉にあるのか悩んでしまいます。自信がなくて解剖図で確認をしてしまいます。。
ところで、腹部シリーズの時からのことですが、EAPRESSOで学んだ症例が翌日の症例として出てくる・・・
今日も仕事でしょっぱな開けた症例が脳出血でした!普段あまりレポート書くこともないのに・・・
どこに注意すればいいか思い出しながらレポート作ることが出来ました!
ありがとうございました!
アウトプットありがとうございます。
>何頭葉にあるのか悩んでしまいます。
今回のようにかなり微妙なケースもありますね。
また中心溝の同定方法の症例がありますので、参考にしていただけたらと思います。
>学んだ症例が翌日の症例として出てくる・・・
それはよかったです。
たまたまかも知れませんが(^_^;
ただインプット→アウトプットのよい流れですね!
こんばんは!毎日お世話になっております!
❶右前腕遠位のしびれは皮質下出血で前腕の感覚を司る視床頭頂路が障害されたと考えれば矛盾しません。顔面の感覚異常は認められないため、大脳白質(内包や放線冠)が障害されたことによる手口感覚症候群などはきたしていないことがわかります(大脳白質病変に伴う手口感覚症候群では温痛覚・触覚鈍麻、時に振動覚鈍麻をきたす偽性神経根型のしびれ感を呈する症例が報告されているようです)。手口感覚症候群は「三叉神経脊髄路→三叉神経毛帯→視床頭頂路」のどこか(理論的にはとくに三叉神経毛帯以降)が障害されて口の感覚低下をきたしますが、本症例ではこの経路は噛んでいないため、手のみの感覚障害をきたしたのだと考えました。
今回は運動麻痺がありましたが、実際、もし運動麻痺などがなく、手の痺れだけで患者さんがいらっしゃったら、末梢性のものと勘違いしたりしそうで恐ろしいです(尺骨神経麻痺と思いきや脳梗塞に伴う偽性尺骨神経麻痺だったという症例を本で読んだことがあります…)。
❷右上肢の運動麻痺については、出血巣が大きいことから皮質脊髄路を噛んでしまったのかもしれません。
頭部救急でも身体診察は本当に大事なんだなぁと感じる日々です…
アウトプットありがとうございます。
>①本症例ではこの経路は噛んでいないため、手のみの感覚障害をきたしたのだと考えました。
なるほどです。
>②右上肢の運動麻痺については、出血巣が大きいことから皮質脊髄路を噛んでしまったのかもしれません。
ですね。同じくそう思います。
>身体診察は本当に大事なんだなぁと感じる日々です…
そうですね。傷害部位と症状とのは関係はホント奥が深いですね。
画像と症状が全然合わない!という場合はまだ画像としては、
出てきていないけれど今後出てくるケースもありますね。
いつもありがとうございます。
少し皮質下出血診断後の考え方で質問させて下さい。
①高齢かつ頭頂葉or後頭葉→年齢と場所でアミロイドアンギオパチーの可能性
②若年者~中年→AVMの可能性
②の場合は更に精査を要すると言うのは簡単に思いつきますが、
①の場合も精査されるのが一般的かどうか教えて頂ければ幸いです。
つまり、精査の基準として年齢や場所で考えるか否かです。
勿論、高血圧の有無も大事だと思いますが、現実的にはある程度の年齢であれば、降圧薬を服用されている方は無数におられますので…。
また以前のSAHの項目で脳実質内出血のみのものがあり、
側頭葉の皮質下出血は注意との記載がありました。
何か画像的に疑う他の兆候などはあるのでしょうか?
よろしくお願い致します。
アウトプットありがとうございます。
>①の場合も精査されるのが一般的かどうか教えて頂ければ幸いです。つまり、精査の基準として年齢や場所で考えるか否かです。
施設や主治医によっても異なるかもしれませんが、高齢であっても皮質下出血の場合は血管奇形などを除外するためにMRI(T2*WIあるいはSWIも撮影したいです)の精査(や場合によっては脳血管造影)がされるのが一般だと思います。
>また以前のSAHの項目で脳実質内出血のみのものがあり、側頭葉の皮質下出血は注意との記載がありました。何か画像的に疑う他の兆候などはあるのでしょう
か?
SAHが脳実質内出血のみ起こしているケースは非常に難しいですが、高血圧性の皮質下出血は頭頂葉に多いと言われていますので、側頭葉に認めた場合は、血管奇形やSAHの可能性をより考える!くらいですかね。
いつもお世話になっております。
皮質下出血なのはわかったのですが、出血部位に側頭葉と書いてしまいました。前頭葉か頭頂葉で迷うところなのでしたね。頭部CTは良く撮影しておりましたし、症例もたくさん見ていたのですが、こういう基本的なところが抜けているので毎回勉強になっております。ありがとうございます。
一点、1か月後のフォローですが、横断面がおそらく搬送時の画像となっているかと思われます。。ご確認いただけますと幸いです。
それにしても、脳外科の先生のコメントは興味深いですね。マイケル・ポランニーが言った「暗黙知」というやつでしょうか・・
アウトプットありがとうございます。
>出血部位に側頭葉と書いてしまいました。前頭葉か頭頂葉で迷うところなのでしたね。
そうですね。側頭葉ではないですが、脳の萎縮もないので境界がわかりにくいですね。
>1か月後のフォローですが、横断面がおそらく搬送時の画像となっているかと思われます。。ご確認いただけますと幸いです。
誤植ご指摘いただきありがとうございます。
差し替えました。
>マイケル・ポランニーが言った「暗黙知」というやつでしょうか・・
暗黙知:経験的に使っている知識だが簡単に言葉で説明できない知識(wikipediaより)
まさにこれですね(^_^;)
血管造影なのですが、一般的に椎骨動脈は片側しか造影しないものなのでしょうか?脳底動脈から先が見えればよいということでしょうか。MRAで右椎骨動脈動脈が細く見えたことと合わせて気になってお聞きしました。
アウトプットありがとうございます。
確認しましたがやはり椎骨動脈は今回は左からのみ造影されています。
4血管検査(four vessel study:左右総頚動脈、左右椎骨動脈)場合によっては6血管検査(six vessel study:左右内頚動脈、左右外頚動脈、左右椎骨動脈)を行う。
引用元
http://citec.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=25764
と記載がありますので、通常は両側行うと思われます。
今回はMRAで低形成であることがわかっていたため、右は行われなかったのかもしれません。
勉強になりました。ありがとうございます。
質問ですが、
どこまで皮質下と表現するか迷うことがあります。
皮質下白質と深部白質の境界はあるのでしょうか?
あるとすれば画像(CT.MRI)で分かりますか?
アウトプットありがとうございます。
>皮質下白質と深部白質の境界はあるのでしょうか?
厳密な境界はありませんので、皮質直下かどうかでおおよそ判断します。
人によって皮質下と表現する部位と深部と表現する部位はどうしてもオーバーラップがあると思います。
脳室があるレベルですと、脳室周囲白質と言うほど脳室周囲ではないものは深部白質ですね。