
症例21
【症例】30歳代 女性
【主訴】左下腹部痛
【現病歴】本日仕事終了後、18時頃から左下腹部に激痛が走り、トイレで倒れ込んでいるところを発見され救急搬送となる。
【身体所見】BP 97/64、HR 66、BT 36.9℃、SpO2 100%(RA)、腹部:平坦、軟、左下腹部に疼痛あり、筋性防御なし、反跳痛なし、腸蠕動音:正常
【データ】WBC 4300、尿妊娠反応陰性
画像はこちら
CTで子宮腹側に大きな造影不良な腫瘍を認めています。
造影効果を認めない点から、
- 漿膜下子宮筋腫茎捻転
- 卵巣腫瘍捻転
がまず鑑別に挙がります。
左の卵巣静脈は左の腎静脈に合流しますので、合流部から尾側に卵巣静脈を追ってみます。
そうすると卵巣静脈の造影効果が不良で非常に追いにくいことがわかります。
この造影不良なのも捻転による影響を示唆する所見です。
追いにくいのですが、それでも頑張って追ってみるとどうやら造影不良の腫瘤に連続しているように見えます。
また、冠状断像や矢状断像でこの造影不良腫瘤と子宮との連続性ははっきりしません。(結構難しいですが。)
これらから、やはり左の卵巣腫瘍の捻転が第一に疑われます。
診断:左卵巣腫瘍の捻転
MRIが撮影されました。
- MRI DWI/ADC
- MRI T1WI(横断像)
- MRI 脂肪抑制T1WI(横断像)
- MRI T2WI(横断像)
- MRI T2WI(矢状断像)
- MRI T2WI(冠状断像)
- MRI 脂肪抑制造影T1WI(横断像)
- MRI サブトラクション(横断像)
- MRI 脂肪抑制造影T1WI(矢状断像)
腫瘍はT2強調像で淡い低信号を示しています。
T2強調像で低信号を示す卵巣腫瘍としては、
- 線維腫(Fibroma)
- 線維莢膜細胞腫(Fibrothecoma)
などが知られています。
右の正常卵巣は同定でき、この腫瘤と隣接して卵胞が散見されることからもやはりこの腫瘤は左卵巣由来であることが示唆されます。
また造影前後を比較するとCT同様に腫瘤には造影効果がないことがわかります。(子宮の造影と比較すると明らかですね。)
矢状断像では捻れの様子がよくわかります。
このねじれの部位には一部造影効果を認めていますが、腫瘤部には造影効果はやはりありません。
左卵巣腫瘍の捻転が疑われ手術が施行されました。
術式:左卵巣腫瘍摘出術
ascites : serous small amount
Adhesion : almost free
Uterus : hen’s egg size
Adnexae : rt.np lt 12×8cm大の充実性腫瘍を認めた。時計回りに2回転していた。
左の付属器に充実性の腫瘍を認め、2回転(720°)回転していたことがわかりました。
手術所見:
下腹部縦切開にて切開し、上記開腹所見を得た。
まず捻転を解除させた。
左卵巣腫瘍をモノポーラーおよびクーパーにて切開し、摘出した。
左卵巣の切断面は3-0vicrlyにて縫合した。これにて出血部は止血された。
温生食にて洗浄し、出血のないことを確認した。
最後に閉腹した。
最終的に、病理では、Fibroma with stalk torsion of the left ovaryと診断されました。
すなわち良性腫瘍である、左卵巣の線維腫の捻転であったということです。
最終診断:左卵巣線維腫の捻転(2回転)
関連:
その他所見:
- 右腎にくびれあり。陳旧性瘢痕が疑われる。
- 中等量の腹水貯留あり。
一流バリスタDr.Tの淹れ方
Meigs症候群とは?
- ①原発腫瘍が線維腫、莢膜細胞腫、顆粒膜細胞腫
- ②腹水を伴う
- ③胸水を伴う
- ④腫瘍摘出により胸腹水が消失し,再貯留しない
これらのすべてを満たすものをMeigs症候群と言う。
Meigs症候群に伴う腹水は、原因は確定されていないが、卵巣腫瘍の間質の浮腫や壊死、嚢胞変性部からの流出、腫瘍の上皮下に存在する表層リンパ管からの波出、腹膜の液体産生などにより生じると考えられている以外、他の卵巣腫瘍や、子宮筋腫に同様の病態が生る。
胸水は腹水が胸腔内に移行したものと考えられており、右側に貯留することが多い。これは横隔膜の生理的な欠損や、リンパ系路が右側に優位であるためと言われている。
症例21の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
お世話になっています。
卵巣腫瘍があって、腹水がある程度貯留している所見をみると、すぐ悪性を疑ってしまいそうですが、良性腫瘍でも腹水貯留を伴うことがあるんですね。覚えて起きます。
そうですね。
Meigs症候群をぜひ覚えておいてください。
いつもお世話になっております。動画もすごくわかりやすかったです。左卵巣静脈を追い、造影不良だ、血栓があるのかなと思いながら読影していました。腹側のほうにある卵巣に走行している?腹側の水を卵巣とよみ、左下腹部痛だけど、あえて、右卵巣腫瘍捻転とこたえました。もう少し素直に読影、じっくりみようとおもいました。反省です。
動画がわかりやすく、お忙しい中ありがとうございました。ためになります。
アウトプットありがとうございます。
>左卵巣静脈を追い、造影不良だ、血栓があるのかなと思いながら読影していました。
いい線までいっていますね。
>動画がわかりやすく、お忙しい中ありがとうございました。ためになります。
ありがとうございます!
血管を追うことで臓器を特定する←難しいですが覚えておきます。最後まで子宮と連続しているのか、卵巣なのか判別できませんでした(TT)
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるようにこの症例は結構難しいと思います。
卵巣奇形腫捻転の症例が本編ではありましたが、合わせて復習していただければ幸いです。
血管を追って由来臓器を判断しようと試みたのですが、造影不良で追いにくく自信が持てずに最終的に間違った結論に至ってしまいました。
この造影不良も捻転による影響だったのですね。
勉強になりました。ありがとうございます。
次に活かしたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>この造影不良も捻転による影響だった
そうですね。捻転が起こっていない症例でご確認いただけたらと思いますが、造影不良による血管の追いにくさが今回顕著ですね。
sagiを見て、「(なんとなく笑)子宮っぽいな(^-^;」と思って、漿膜下筋腫としてしまいました( ̄▽ ̄;)
画像専門の専門家でも見分けるのは簡単ではないと聞いて安心しました(;’∀’)
ただ、今回の場合は、「漿膜下筋腫」と断定してしまうのではなく、
「どっちかよく分からないけど、緊急症例です!」
とはっきり書いたほうが、より信頼を得られそうでしたね(;’∀’)
アウトプットありがとうございます。
>ただ、今回の場合は、「漿膜下筋腫」と断定してしまうのではなく、
「どっちかよく分からないけど、緊急症例です!」
とはっきり書いたほうが、より信頼を得られそうでしたね(;’∀’)
そうですね。婦人科疾患で、造影効果が悪いので捻転しているのではないか!と言及できれば良いと思います。
卵巣の同定はやはり難しいですね.今回は卵巣腫瘍茎捻転と子宮筋腫捻転がすぐに出てきたのでよしとします.結論は間違えましたが笑
アウトプットありがとうございます。
>今回は卵巣腫瘍茎捻転と子宮筋腫捻転がすぐに出てきたのでよし
よしです!!!
なぜか腹水を高吸収としてしまい、腫瘍破裂という、明後日の方向にいってしまいました(;’∀’)
まず腫瘤が造影されていないことを、おかしいと思うべきでした…
アウトプットありがとうございます。
>まず腫瘤が造影されていないことを、おかしいと思うべきでした
ここが今回の一番のポイントですね。
サイズが大きすぎて一瞬気付かないケースもあるかもしれませんね。
解説ありがとうございます。
造影不良になっているから捻転なのはわかりましたが、漿膜下子宮筋腫か卵巣腫瘍かで迷いました。。
やはり婦人科系の画像診断は難しいですね。血管から同定できるように意識してみます。
アウトプットありがとうございます。
>造影不良になっているから捻転なのはわかりましたが、漿膜下子宮筋腫か卵巣腫瘍かで迷いました。。
CTでこの2つが鑑別に挙がれば十分だと思います。
その先はMRIを見ながらということに基本的にはなりますね。
こんばんは。いつも大変お世話になっております。
左卵巣静脈を同定することができず、さらに、子宮がやや右側に偏位しているように見えたので、右卵巣の捻転によって子宮が右側に引っ張られているのではないか?と考えてしまいました(卵巣捻転はS状結腸間膜で可動性が制限されない右側に多いという特徴が頭にあったので、右側としてしまったのもあります…)。
しっかりと復習しておきます!!
アウトプットありがとうございます。
>子宮がやや右側に偏位しているように見えたので、右卵巣の捻転によって子宮が右側に引っ張られているのではないか?と考えてしまいました
その思考で十分だと思います。
この症例で大事なのは、捻転に気づけて、婦人科コンサルトできることですね。
臨床症状から、今回は漿膜下子宮筋腫の捻転か、卵巣腫瘍の捻転か区別がつきませんでしたが、「この症例で大事なのは、捻転に気づけて、婦人科コンサルトできること」とのコメントがあり、少しほっとしています。
「卵巣静脈を追う」というのは本編でもありましたが、見直してみてもなかなか難しいです。
アウトプットありがとうございます。
>「この症例で大事なのは、捻転に気づけて、婦人科コンサルトできること」とのコメントがあり、少しほっとしています。
そうですね。CTだけで確定するのは難しいかもしれません。
>「卵巣静脈を追う」というのは本編でもありましたが、見直してみてもなかなか難しいです。
こちらも少し難しいかもしれませんが、左卵巣静脈を追うことができますね。
卵巣静脈を逆行性に追うことで、骨盤内腫瘍が卵巣由来か否かを判断できるサイン(ovarian vascular pedicle sign)として知られており、漿膜下筋腫と卵巣充実性腫瘍を鑑別する際に特に役立ちます。
卵巣静脈と腫瘤性病変が連続する場合、感度92%、特異度87%で卵巣由来であるとされます。
(参考:画像診断 Vol.41 No.6 2021 P627)
いつもお世話になっております。
本題とは逸れてしまいますが、画像診断において「腫瘤」と「腫瘍」はどのように使い分けるのが良いでしょうか。
3cm以上で悪性らしさが無ければ腫瘤、というようにやや曖昧な使い方をしているのですが何か明確な基準などあればご教授いただきたいです。
アウトプットありがとうございます。
ちょっと色々調べてみましたが記載がある書籍などは見つかりませんでした。
腫瘤は腫瘍を包括する用語で、塊が生じている状態に用います。
原発が分かっている場合や悪性を疑う場合に腫瘍と表現することが多いですが、良性腫瘍もありますし、どのように表現するかは個人差もあるところかもしれません。
何か基準などが見つかれば追記します。
関連
http://www.c-mei.jp/BackNum/028n.htm
ご返信ありがとうございます。
画像所見だけだと微妙なラインもあり判断に迷うことも多く感じます。
また何かあればご教授ください。よろしくお願いします。
恥ずかしながら腫瘤を膀胱に尿がたまった状態だと思い込んでいました。
膀胱は冠状断と矢状断で腫瘤に下の方に押しつぶされて見えてるんですね。
こちらで失敗の経験を積めて良かったです。
アウトプットありがとうございます。
>膀胱は冠状断と矢状断で腫瘤に下の方に押しつぶされて見えてるんですね。
そうですね。たまにこういうことありますね。
膀胱内の尿が少ない場合では特にですね。
横断像のみではわかりにくいことがありますので、おっしゃるように冠状断像や矢状断像で確認することが重要ですね。