
症例14
【症例】20歳代 男性
【主訴】皮膚黄染
【現病歴】10日前より嘔気出現あり。昨日職場同僚に黄疸かもと言われ受診。
【身体所見】意識清明、BP 103/64、HR 64、皮膚黄染あり、眼球結膜黄染あり、腹部平坦・軟、肝は腹筋で不明。
【データ】T-Bil 7.36、AST/ALT=201/1418、γGTP 219、CRP 0.83、WBC 3900
【その他】職業は調理師:調理の際に、鴨、ニワトリ、羊、鹿を生で調理、鯛・ホッケ、ヨコワ、カンパチ、イカも生で調理。ただし摂取はしていない。
画像はこちら
門脈両側に低吸収域を認めています。
門脈の浮腫を反映する所見で、periportal collarといいます。
periportal collarの原因には、
- 肝外傷:肝裂傷や肝静脈圧上昇による。
- 肝硬変、特に原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis;PBC)
- 急性肝炎
- 急性胆嚢炎
- 胆管炎:原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis;PSC)など
- 肝移植後拒絶反応
- 肝門部腫瘍(リンパ節転移など)
- 右心不全
- 骨髄移植(微小静脈閉塞による)
- その他:肝膿瘍、低蛋白血症、敗血症、急性膵炎、炎症性腸疾患、急性腎盂腎炎、粘液性の胆管細胞癌など。
といったものがあります。頻度の多いものを太線にしています。
また胆嚢漿膜下浮腫を認めています。(内側の高吸収のものが粘膜に相当します。)
このような胆嚢の漿膜下浮腫を生じる原因としては、
- 右心不全
- 低蛋白血症
- 急性肝炎
- 肝硬変
などが知られています。
また肝腫大および脾腫を認めています。
これらの所見および肝胆道系酵素が上昇していることから、急性肝炎が疑われます。
診断:急性肝炎(の疑い)
※保存的に加療されます。この方も入院となり消化器内科で保存的に加療されました。
※入院時の採血で、IgM-HA陽性であり、急性A型肝炎と診断されました。調理師との関連は不明です。
※急性肝炎は動脈相で肝全体がまだらな造影効果を示すことがありますが、この症例ではそれほどはっきりしません。
関連:
その他所見:
- 肝門部や小腸間膜沿い、傍大動脈に小リンパ節散見。
- 脾腫あり。
- 少量腹水貯留あり。
症例14の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
多くの人はまず胆嚢に目がいったんじゃないでしょうか?
→あ、漿膜下浮腫だ
→あ、periportal collarだ
→急性肝炎か
→腹水もそうなのかなぁ~
っていうのが多数派でしょうか?
肝「腫大」をはっきりと指摘できなかった人(僕のように(;’∀’)w)も少なくはない気がします
(そう願っています(;’∀’)(;’∀’))。
・腸管も若干浮腫っているように見えますが、気のせいですか?
・急性肝炎での脾腫の機序について確認させていただいてもよろしいでしょうか?
一般的なAlb↓→浮腫 みたいな感じですか?
お手数をおかけしますが、ご回答いただけますと幸いです。
よろしくお願い申し上げますm(__)m
アウトプットありがとうございます。
>多くの人はまず胆嚢に目がいったんじゃないでしょうか?
→あ、漿膜下浮腫だ
→あ、periportal collarだ
→急性肝炎か
→腹水もそうなのかなぁ~
っていうのが多数派でしょうか?
目の付け所は正解です。
>肝「腫大」をはっきりと指摘できなかった人(僕のように(;’∀’)w)も少なくはない気がします
(そう願っています(;’∀’)(;’∀’))。
肝腫大は難しいですね。若い人ではこれくらいの人もいますし。
>・腸管も若干浮腫っているように見えますが、気のせいですか?
小腸内の液貯留は少し目立ちますが、浮腫まではいかないと考えます。
>・急性肝炎での脾腫の機序について確認させていただいてもよろしいでしょうか?
一般的なAlb↓→浮腫 みたいな感じですか?
確かにあまり考えたことがなかったですね、どうなんでしょうか。
ちょっと今日は忙しいので、インスタント先生の宿題とします。
【提出期限】 本日17時
よろしくお願いしますm(_ _)m。
正式な文献をあさったわけではないので根拠には欠けますが・・・
下記の通りでいかがでしょうか?(^▽^)/
単純に急性A型「肝炎」による「脾腫」と考えてしまったので
よくわからなくなってしまったのかもしれません(;’∀’)
純粋に、急性のウイルス感染症と考えると、
脾腫やリンパ節腫脹が出るのも自然な気がしてきました(^▽^)/
逆に、
https://www.m3.com/clinical/kenshuusaizensen/409043 によると、
「・・・Periportal collar signです。胆嚢壁の肥厚と内腔虚脱、それから門脈壁の肥厚、これを造影CTでみますと門脈の周囲の造影不良域として描出されます。この所見はリンパの鬱滞で起こるといわれています。」(by もの凄く偉大な肝臓の先生)
だそうです。
以下、全くの僕のオリジナル解釈です(根拠ゼロ)ww、
「Q1. なぜ急性肝炎では脾腫が起こるのでしょうか?」
A1. 急性ウイルス肝炎では、
急性の「ウイルス感染」そのものにより、
リンパ系に影響が出て、
リンパ節が腫脹したり、脾臓が腫脹したり、Periportal collar signや胆嚢壁の腫脹が見られる、
と考えられます。
「Q2. では、なぜ『肝炎ウイルス』感染では、肝臓や胆嚢に所見が出やすいのでしょうか?」
A2. それは、そういうウイルスだからです。ウイルスにも好き嫌いがあるからです。人間だってそうじゃないか・・・
さらに、この根拠のない解釈に基づくならば、
急性ウイルス肝炎を経て
慢性肝炎・肝硬変に移行した患者の場合、
まず、急性肝炎発症時に、
リンパ系の変化によって急性の脾腫が起こり、
急性肝炎が沈静化した頃に一度脾腫もおさまるものの、
慢性肝炎・肝硬変に移行すると、
(リンパ系の影響ではなく)門脈圧が亢進することによって、
再び脾臓がだんだんと腫大していく、
という経過も理論的には考えられますね(^▽^)/
何度も言いますが、根拠はありません(;’∀’)(;’∀’)ww
>直腸慢性肝炎・肝硬変に移行すると、
(リンパ系の影響ではなく)門脈圧が亢進することによって、
再び脾臓がだんだんと腫大していく、
これはおっしゃるとおりですね。
ちょっと調べてみましたが、脾腫については記載のあるものとないものがありますね。
肝腫大も脾腫も急性肝炎の場合は一過性に生じますね。
EBウイルスによる急性肝炎あらば肝脾腫は強そうですが、非特異的な所見なのかもしれません。
A1で大まかには正しいのかも知れませんね。
お世話になっています。
読み過ぎかもしてませんが、「早期相での下大静脈への逆流」と「右心室>左心室」の所見より、急性肝炎の他に「右心不全疑い」も加えましたが、所見としても大丈夫でしょうか?
心臓が一部しか映っていませんがおっしゃるようにあるかもしれませんね。
カルテ参照しましたが、心臓については一切検査されていませんでした。
また画像もこの1回のみでした。
水平断よりも冠状断では肝腫大がわかりやすいですね.
再構成はやはり有用ですね.
アウトプットありがとうございます。
そうですね。虫垂炎でもそうですが、冠状断像は有用な事が多いですね。
参考サイト拝見しました。肝炎も、画像のみならず、総合的な評価が必要なんですね。
今回は造影だけですが、それでも肝実質が低吸収になっているように見えます。「その目で見ると」なのかもしれませんが…。
また、胆嚢炎と漿膜下浮腫の違いも参照しました。これは、直感そのままで、胆嚢(内腔)が腫大していて、「胆嚢自体が辛そう」だったら胆嚢炎で、胆嚢自体は大きくないのに壁肥厚だけが目立てば、静脈うっ滞と考えればよいですか?
アウトプットありがとうございます。
>胆嚢(内腔)が腫大していて、「胆嚢自体が辛そう」だったら胆嚢炎で、胆嚢自体は大きくないのに壁肥厚だけが目立てば、静脈うっ滞と考えればよいですか?
そうですね。
ただし、胆嚢炎でも漿膜下の浮腫を認めることがあるので注意が必要です。
毎日ありがとうございます!(昨日のコメントでは懇切丁寧なご説明をありがとうございました!)
今回は検査所見と画像所見から病態をイメージしやすかったです。
しかし、
①早期相で低吸収が目立ったことから、造影効果が悪い虚血性変化があるのではなかろうか、と推察してしまいました。しかし、成書を参考にしたところ、「脾臓や膵臓は動脈支配のため、動脈相で門脈優位の肝臓よりも濃染する」という記載があったことから、肝が相対的に低吸収に見えるということがわかりました。「門脈と動脈は7:3の支配関係である」という知識とリンクして納得できました。
②私の持っている「腹部救急疾患の画像診断とインターベンション」という本では、「急性肝不全の亜急性型でが、破壊と再生を繰り返している症例ではしばしばmap signが認められ、原因が自己免疫性肝炎の場合の特徴である」という記載がありました。同じ肝炎でも、原因により見え方が異なるということがわかったので、もうすこし勉強しなければ、と感じた次第です!
アウトプットありがとうございます。
>早期相で低吸収が目立ったこと
これは脂肪肝がベースにあるとも考えられますので、虚血とは考えるべきではないです。
>「脾臓や膵臓は動脈支配のため、動脈相で門脈優位の肝臓よりも濃染する」という記載があったことから、肝が相対的に低吸収に見えるということがわかりました。
これはおっしゃるとおりですね。
>同じ肝炎でも、原因により見え方が異なるということがわかったの
そうですね。自己免疫性肝炎の場合は、多血性結節がしばしば見られHCCと鑑別が必要なことがあります。
map signというのは初めて聞いたのですがこのことですかね。
今回は、肝炎で一般的認められやすい
・periportal collar
・胆嚢漿膜下浮腫
に着目できるようにしてください。
横断像と冠状断の2つがあると心強いですね。肝臓の大きさも横断像では気がつきにくいですが、冠状断では「こんなにも大きいのか」と驚かされます。periportal collarも冠状断でわかりやすかったです。普段は横断像しか提供されないことが多いですが。
アウトプットありがとうございます。
>肝臓の大きさも横断像では気がつきにくいですが、冠状断では「こんなにも大きいのか」と驚かされます。
肝臓の大きさが頭尾方向に15.5cmを超える場合などに肝腫大を考慮しますので、肝腫大の診断において冠状断像での評価は重要ですね。
とはいえ肝臓は特に若年者はしばしば正常でも大きいので判断には注意が必要ですが。
>periportal collarも冠状断でわかりやすかったです。
そうですね。目立つ症例では冠状断像の方がわかりやすいことがありますね。
いつも勉強させていただいております。
今回も貴重な症例をありがとうございます。
periportal collarと胆嚢の漿膜下浮腫は指摘でき、採血データとperiportal collar、総胆管に異常を認めない点から急性肝炎を疑うことができました。しかし、胆嚢の漿膜下浮腫については鑑別を挙げることができなかったので、今回覚えておきたいと思います!
アウトプットありがとうございます。
>periportal collarと胆嚢の漿膜下浮腫は指摘でき、採血データとperiportal collar、総胆管に異常を認めない点から急性肝炎を疑うことができました。
よかったです!
>胆嚢の漿膜下浮腫については鑑別を挙げることができなかったので、今回覚えておきたいと思います!
periportal collarとかぶるところもありますが、この機会に押さえておいてください。
本日もありがとうございます。
本を見ながら、診断にはたどり着けましたが、胆嚢の漿膜下浮腫やびまん性肝腫大等、やったのに忘れた!というのが沢山ありました。
アウトプットありがとうございます。
一度見たことがあるということが重要ですね。
>やったのに忘れた!というのが沢山ありました。
その上でこのように思えたということは次回はより記憶されているはずです。
仮にきちんと記憶されていなくても、何かこんな所見あったなと、調べられますね。