
症例65
【症例】40歳代 男性
【主訴】腰痛
【現病歴】4日前頃から腰痛あり、鎮痛薬で様子を見ていたが本日早朝より悪化あり、来院。
【既往歴】腰椎ヘルニア、胆のうポリープ、アトピー性皮膚炎
【身体所見】BT 37.6℃、BP 116/74mmHg、PR 70/min、SpO2 99%、CVA叩打痛なし。 左側臥位、右股関節屈曲させている、右psoas sign陽性。 四肢:下肢の異常感覚、感覚低下なし。 疼痛により右脚の進展不可能。明らかな麻痺はなし。
【データ】WBC 20800、CRP 25.87、プロカルシトニン 1.14、AST/ALT=172/228、ALP 564、LDH 322、γ-GTP 213
画像はこちら
両側腎に造影不良を認めています。
右尿管には壁肥厚・造影効果増強を認めています。
両側腎盂腎炎(正確にはAFBN)および尿路感染を疑う所見です。
※非提示でしたが、この方には膿尿がありました。
また、
右の大腰筋内にairを認めています。
内部には単純CTではややわかりにくいですが、やや低吸収域を認めています。
造影CTではより明瞭化します。
辺縁に造影効果を有し、内部にairを含有する液貯留を認めています。
腸腰筋膿瘍を疑う所見です。
※ちなみに腸腰筋=大腰筋+腸骨筋のことです。今回は大腰筋内のみに膿瘍形成を認めていますが、大腰筋膿瘍とは普通は言いません。
診断:右腸腰筋膿瘍+両側腎盂腎炎
では、なぜ腸腰筋膿瘍ができたのでしょうか?
腸腰筋膿瘍の原因としては、
- 脊椎炎からの波及
- 後腹膜臓器・骨盤内臓器の炎症からの波及
- 血行性・リンパ行性
が知られていますが、最も多いのは脊椎炎からの波及です。
腰椎MRIが撮影されました。
STIRの矢状断像でL4-5に異常な高信号を認めています。
化膿性脊椎炎、椎間板炎を疑う所見です。
また脊柱管内硬膜外に液貯留を認めています。
T2強調像の横断像でL5レベルで右大腰筋内および脊柱管内硬膜外に液貯留を認めています。
造影剤を用いた造影脂肪抑制T1強調像の矢状断像では、硬膜外の液貯留の辺縁に造影効果があるように見えます。
膿瘍を示唆する所見です。
また、STIRで高信号を示していたL4-5に造影効果を認めています。
化膿性脊椎炎、椎間板炎を疑う所見です。
L5レベルの造影脂肪抑制T1強調像の横断像です。
右大腰筋および脊柱管内の液貯留の辺縁に造影効果を認めています。いずれも膿瘍が疑われます。
また、L5自体にも造影効果を認め、右優位に周囲軟部組織に広範な造影効果を認めています。
炎症が周囲に広範に広がっていることが推測されます。
おそらく、
椎間板炎・椎体炎から右腸腰筋膿瘍、硬膜外膿瘍へと広がった。
と推測されます。
MRIを合わせた診断:L4/5椎間板炎、椎体炎からの右腸腰筋膿瘍、硬膜外膿瘍の疑い
※ただし、腸腰筋膿瘍は椎体炎・椎間板炎レベルから尾側に認めていますが、硬膜外膿瘍はL4/5レベルよりも頭側に認めています。既往のアトピーがあり、皮膚からの常在菌感染や、膿尿細菌尿があったことから、尿路感染からの菌血症、播種の可能性も考えられました。
保存的に抗生物質で加療されましたが、その後のフォローCTで膿瘍腔の増大が見られたため(非提示)、後腹膜鏡下右腸腰筋膿瘍切開排膿術が泌尿器科によりなされました。
※腸腰筋膿瘍はエコーガイド下やCTガイド下でドレナージ術が行われることが多いですが、この症例は硬膜外膿瘍もあったためか、オペになりました。
写真がぼけてますが、術中時の写真です。膿瘍腔から膿汁が出てきている様子がわかります。
洗浄されました。
血液培養・膿瘍液の培養からともに、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus:MSSA)が検出されました。
ちょっと所見が多い症例ですが、今回のCTでは、
- 両側腎盂腎炎(AFBN)
- 右腸腰筋膿瘍
には気付きたいところです。
腎盂腎炎はこれまで何度か見てきましたね。
今回は、腸腰筋膿瘍に気付いて、
その原因として、椎間板炎や椎体炎が多い
→MRIを撮影しよう!!
と思えるかが重要です。
でもその前に、CTでも椎体炎・椎間板炎はある程度は評価できます。
CTでは、
- 椎間板腔の狭小化
- 病的椎間板に接した椎体終板の破壊像
といった所見を認めることがあります。
今回非提示でしたが、
L4/5/Sに椎間板腔の減高、骨の終板の破壊像、骨棘形成を認めています。
が、骨の終板の破壊像は、それほど派手ではなく、変性においてもこの程度を認めることがあります。
また、今回L4/5に椎間板炎・椎体炎を認めていましたが、L4/5とL5/Sの変化はCT上は同程度です。
今回は、CTのみでは積極的に椎間板炎・椎体炎アリ!とは言いにくい状態です。
また、硬膜外膿瘍については、MRIありきでその目で見ると・・・(気付く人はCTで気付けるのでしょうけど)
CTでも脊柱管内に液貯留を認めていることがわかります。
関連:
その他所見:
- 肝嚢胞あり。
- 胆石あり。
症例65の動画解説
動画では腎盂腎炎(AFBN)についての解説はしておりません。
(すっかり忘れておりました(;゚ロ゚))
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
お世話になっています。
「脊柱管内に濃度変化がある」と気づきましたが、「脊椎の変性が強いため黄色靱帯の硬化かな」と思い、所見としてひろっていませんでした。脊髄外膿瘍のですね…CT所見を覚えておきます。
すいません。
脊髄外膿瘍→硬膜外膿瘍
>「脊柱管内に濃度変化がある」と気づきました
これだけで十分すごいと思いますよ。
なかなか目が行きにくいところです。
ルーチン読影で必ず脊柱管内は見るようにしています。硬膜外血腫や骨髄腫など、まれに疾患を発見することがあります。今回は発見できませんでしたが…次からは指摘したいです。
腸腰筋膿瘍に目がいってしまい、
腎盂腎炎を、見逃してしまいました。
腎臓、尿管あたりは見るのが苦手です…
特に尿管とかは未だに画像で追うことができないときがあります。
徐々にここも注意して追えるようにしないとですね。
アウトプットありがとうございます。
>腸腰筋膿瘍に目がいってしまい、
今回の主題はここなので、まずはここに気付いて頂けたらOKです。
その上で、過去に学んだ腎盂腎炎にも気付きたいですね。
>特に尿管とかは未だに画像で追うことができないときがあります。
基本追えますが、症例によっては追えないこともあります。
腎盂腎炎はさらっと見逃してしまうことがあります。1度目ではないです(・・;)
まぁ、膿尿があればヒントでしたかね。
でも、逆に、膿尿があれば今度は腎盂腎炎ばかりに引っ張られて腸腰筋膿瘍に気づかなかったかもしれませんし、
さらにいえば、「ヘルニア」と書いてあるからこそ、
「脊椎はもともと汚いんだろう」と思い、椎体炎は、可能性すら思い浮かびませんでした(・・;)
1つ見つけて終わりでないのが実践的ですね(╹◡╹)
ほんと、画像って難しいヽ(´o`;
アウトプットありがとうございます。
>まぁ、膿尿があればヒントでしたかね。
まぁ、依頼医はそんなことは滅多に記載してくれませんが。
>「ヘルニア」と書いてあるからこそ、
「脊椎はもともと汚いんだろう」と思い、椎体炎は、可能性すら思い浮かびませんでした(・・;)
ですね。
今回は腸腰筋膿瘍と椎体炎の関係をよく見ておいてください。
深部膿瘍が出るのはいつかと待ちかねていたところだったので,腎臓見落としてしまいました.
そして脊柱MRIを撮像するという考えもありませんでした.勉強になりました.
アウトプットありがとうございます。
>深部膿瘍が出るのはいつかと待ちかねていたところだった
(;゚ロ゚)
>脊柱MRIを撮像するという考えもありませんでした
結構、椎体炎からの波及でこのように腸腰筋膿瘍を形成することが多いので覚えておいてください。
今回のように硬膜外膿瘍まで併発することはやや珍しいですが。
こんにちは。毎日ありがとうございます。
①腸腰筋膿瘍は指摘できました。STIR画像は知りませんでした。MRIもいろいろな撮像のしかたがあって難しいです。「MRIに絶たく強くなる撮像法のキホン」という本を読んでSTIR画像の勉強をしました!
②腎盂腎炎は全くもって気づけませんでした。前回の内容もよく復習しておきます!
もうひとつ疑問点を失礼いたします。
③ALTの上昇、胆道系酵素の上昇から、肝臓、胆嚢の所見を拾おうとしたのですが、よくわかりませんでした。薬剤かなにかの影響なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>①腸腰筋膿瘍は指摘できました。STIR画像は知りませんでした。MRIもいろいろな撮像のしかたがあって難しいです。
MRIは難しいですね。
解説している画像を理解できるようになっていただければ基本的に大丈夫です。
>②腎盂腎炎は全くもって気づけませんでした。
腸腰筋膿瘍に気付いてしまうとそちらに目が行ってしまいますね。
>③ALTの上昇、胆道系酵素の上昇から、肝臓、胆嚢の所見を拾おうとしたのですが、よくわかりませんでした。薬剤かなにかの影響なのでしょうか?
すいません。これについては画像からはわからないですね。
おっしゃるように薬剤の影響があるのかもしれません。
腎盂腎炎の所見は何度も見てきましたが、まだ身についてないみたいです。
今回は、所見には完全に気づいていたんですが、あらぬ覚え違いをしていました…
「画像上明らかでなくても、腎盂腎炎かもしれない」でしたね。
「画像はあてにならない」とは全然違いますね( ̄▽ ̄;)
病歴で膿尿やCVA叩打痛がなく、それを根拠に「否定」してしまいました( ̄▽ ̄;)
知識を「モノにする」のは茨の道だと感じます(;’∀’)
あと、もう一つ反省点としては「腸腰筋膿瘍」まで診断できていて、
「この人はなぜ腸腰筋膿瘍になったんだろう?」というところに考えがいかなかったところですね。
恐らくこの画像をオーダーした先生もそうだったんだと思いますが、
この採血結果だと、やっぱりまず胆道系をみちゃいますね・・・
筋由来の酵素上昇、ということなんでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>「画像上明らかでなくても、腎盂腎炎かもしれない」でしたね。
「画像はあてにならない」とは全然違いますね( ̄▽ ̄;)
そうですね。画像で異常所見を認めていたら、腎盂腎炎を積極的に疑いましょう。
所見がないからといって否定はできないのが、腎盂腎炎や胆管炎ですね。
>あと、もう一つ反省点としては「腸腰筋膿瘍」まで診断できていて、
「この人はなぜ腸腰筋膿瘍になったんだろう?」というところに考えがいかなかったところですね。
ここも経験がないとその思考に普通は行かないかも知れませんね。
ぜひ椎体炎・椎間板炎がないのか→矢状断像の骨条件を再構成してもらおう!MRIを撮影してもらおう!と次のステップに進めるようにしましょう。
>この採血結果だと、やっぱりまず胆道系をみちゃいますね・・・
筋由来の酵素上昇、ということなんでしょうか?
そうですね。胆道系を疑ってしまいますね。
おっしゃるように筋由来もあるのかもしれませんが、どうなんでしょう・・。
恥ずかしながら大腰筋膿瘍とは言わないとは知りませんでした(汗)。。
大変勉強になりました。ありがとうございました!
アウトプットありがとうございます。
言葉の問題ですので、大腰筋膿瘍といっても良いと思いますよ。
むしろそちらの方が場所を正確に示しているとも言えます。
慣習の問題ですね。
貴重な症例ありがとうございます。
今回、腸腰筋膿瘍、腎盂腎炎ともに指摘することができました!
「膿瘍内部にairがある」というくだりですが、ガス貯留というのも膿瘍と判断する上で重要でしょうか?
また、他部位の膿瘍でも同様でしょうか?
基本的なことで申し訳ありません。膿瘍というとリング状の造影・内部に液貯留、としか認識がなかったので、、、
アウトプットありがとうございます。
>「膿瘍内部にairがある」というくだりですが、ガス貯留というのも膿瘍と判断する上で重要でしょうか?
おっしゃるとおりです。
ガスを有しないことが多いですが、閉鎖腔にガスがある場合は膿瘍形成の可能性を考えます。
他部位でも同様です。
両側腎の造影不良に全く気付きませんでした。何回もスクロールしているはずなのに。
右の大腰筋膿瘍で決して満足していたわけではありません。
副所見がないか、いつも探してはいるのですが。
アウトプットありがとうございます。
>右の大腰筋膿瘍で決して満足していたわけではありません。
副所見がないか、いつも探してはいるのですが。
一つ見つけて安心しない、という症例でしたが、膿瘍を見落とすよりは良いですね。
大腰筋膿瘍およびその原因まで推測できたらまずはOKだと思います。
貴重な症例ありがとうございます.
下肢の進展不可能で腸腰筋膿瘍を疑い、指摘できたのですが、腎盂腎炎には気づけませんでした。
腸腰筋膿瘍で胸部~骨盤部までの造影CTを撮影することが多いのですが、その時に腸腰筋以外に肩周囲や肋骨にも膿瘍を認める時があります。これは何が原因と考えられますか。知識不足で申し訳ありませんが、ご教授お願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>腸腰筋膿瘍で胸部~骨盤部までの造影CTを撮影することが多いのですが、その時に腸腰筋以外に肩周囲や肋骨にも膿瘍を認める時があります。これは何が原因と考えられますか。
そのような症例に遭遇したことがないので何とも言えないですが、血行性に膿瘍が全身で多発しているということですかね。
MRIは頭部以外は緊急で撮影できないので、
読み慣れておらず、難しく感じます。
今回、造影MRIを撮影されていますが、
腸腰筋膿瘍、化膿性椎間板炎一般で
造影する事で情報量は増えるのでしょうか。
乏しい経験では単純で撮影してもらっていた気がします。
膿瘍の局在がCECTではっきりしていれば不要と考えても良いのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>腸腰筋膿瘍、化膿性椎間板炎一般で
造影する事で情報量は増えるのでしょうか。
情報量は増えますが、単純でも大丈夫です。ただし、STIRもしくは脂肪抑制T2WIは必要です。
>膿瘍の局在がCECTではっきりしていれば不要と考えても良いのでしょうか。
膿瘍の局在はCTでできますが、椎体炎、椎間板炎の診断には単純でもMRIが必要です。