
症例63
【症例】20歳代 女性
【主訴】右下腹部痛
【現病歴】2日前から38℃台の発熱、右下腹部痛あり。痛み増強あり。
【身体所見】BT 36.6℃、右下腹部に圧痛あり、筋性防御あり、反跳痛なし。
【データ】WBC 9800、CRP 4.72
画像はこちら
右下腹部痛で「虫垂炎疑い」として他院から紹介されてきた患者さんでした。
(他院ではCTは撮影されていません。)
この方のように内臓脂肪が少ない若い方(高齢者もですが)は、解剖が確認しにくいことがしばしばあります。
虫垂を同定できないこともありますが、今回の症例では、
虫垂を同定することができ、腫大はみとめていませんでした。
一方で、回腸末端に全周性の壁肥厚および壁の造影効果増強を認めています。
冠状断像では、その様子がよくわかります。
回腸が結腸へと入り込んでいくところで末端を中心に全周性の壁肥厚を認めています。
また回結腸動静脈沿いにやや腫大したリンパ節を複数認めている様子も冠状断像でよくわかります。
横断像でもリンパ節は同定できますが、今回の症例では冠状断像の方がリンパ節はわかりやすいですね。
また冠状断像でも虫垂は同定でき、腫大を認めていません。
さて、回腸末端に壁肥厚を認めており、リンパ節がやや目立ちます。
回腸末端炎を疑う所見です。
回腸末端に炎症を起こす疾患としては、
- エルシニア(Yersinia)
- Crohn病
- 結核
などが知られています。
今回は、臨床的にも経過的にも、感染性の回腸末端炎(エルシニアと原因菌は同定することはできませんでした(便培養などが出されていない)が、エルシニア疑いとします)と診断されました。
診断:回腸末端炎
※抗生剤で保存的に加療され、軽快・退院となりました。
関連:
その他所見:少量腹水あり。(生理的範囲内。)
症例63の動画解説
3層構造を保った壁肥厚とその鑑別まとめ
エルシニア腸炎は小腸炎で3層構造壁肥厚を認める例外でしたね。
虫垂のCTでの同定方法の補足動画
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
虫垂の位置確認、正常までは
なんとかできました。
あと、回腸〜盲腸までの異常も
指摘はできました。
ただ時間はかかりました…⤵️
今日もありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>虫垂の位置確認、正常までは
なんとかできました。
あと、回腸〜盲腸までの異常も
指摘はできました。
素晴らしいですね!なかなか異常所見を指摘しにくい症例です。
お世話になっています。
「子宮筋層の造影効果が低下している領域」と、その周囲の濃度上昇があるように見えますが、子宮内膜/筋炎を考えてもよろしいでしょうか?
>「子宮筋層の造影効果が低下している領域」と、その周囲の濃度上昇があるように見えますが、子宮内膜/筋炎を考えてもよろしいでしょうか?
おっしゃるように子宮筋層の右側にて造影不良を認めますが、筋腫がある可能性があります。
MRIでも子宮内膜や筋層の炎症の評価はかなり難しく、CTにおいてはなおさら評価困難といわれています。
PID疑いであってもCTでは膿瘍がないと同定は基本的に困難です。
あとは腹膜炎はある程度は評価できますが、これも臨床所見と合わせてとなります。
ご回答ありがとうどざいます。
画像診断では、「内膜や筋層の炎症の評価はかなり難しい」ということですね。勉強になりました。
そうなんです。
以前、婦人科画像の有名な先生の講演を聴きに行ったときに、
PIDの診断画像は診断基準の必須ではない。なぜなら難しいから。
「PID疑いとのことですが、膿瘍はありません。」程度しか書けない。
というメモが私のPCに残っています。
そんなに画像では評価するのは難しいのかとこの分野での画像の無力さを痛感した瞬間でした。
恥ずかしいほどに間違えました笑.
若い方の腹部CTは腸管隣接して追いにくいため難しいと感じます.
しっかり復習します.
アウトプットありがとうございます。
脂肪が少ない人は本当に見えにくいですね。
よく見ると回腸末端の壁肥厚や冠状断像でリンパ節が目立つことに気付きますね。
> エルシニア腸炎は小腸炎で3層構造壁肥厚を認める例外でしたね。
なかなかに読み飛ばしているものですね(;’∀’)
まさに、百聞は一見に如かず。 文字通りですね(^▽^)/
炎症性腸疾患って、確かまだなかったですよね? (自信なし(;’∀’))
誤診が2度目くらいなので、一見したいです(;’∀’)ww
アウトプットありがとうございます。
炎症性腸疾患は基本的に慢性疾患ですので、すでに診断されていることが普通で、
その既往を隠すのも微妙ですし、急性腹症の教科書でも掲載されていないことがほとんどなので、
どうしようかと迷っている経緯があります。
補足でどこかで出すかも知れません。
「腸管壁」の評価はやっぱり結腸の方が易しいですね(^-^;
今回も、「3層構造を保った」を指摘するのは難しいと感じました。
あと、診察所見も重要である一方で、評価は難しいですね。
施設によっては画像がとれないこともありますし、右下で筋性防御+なら確かに焦ってしまいます(;’∀’)
まず「腹膜炎はどこだろう」と思って画像をみたんですが、今回はなかったですね(臨床的には安心ですが)。
診察所見も検査所見もどちらも重要であることがよくわかります。
アウトプットありがとうございます。
>「腸管壁」の評価はやっぱり結腸の方が易しいですね(^-^;
そうですね。
憩室炎、虚血性腸炎がその代表ですが、腸管壁肥厚は確かに結腸の方が気付きやすいかもしれません。
>施設によっては画像がとれないこともありますし、右下で筋性防御+なら確かに焦ってしまいます(;’∀’)
そうですね。
身体所見で虫垂炎疑いで依頼がきて、結構虫垂炎のことが多いので、身体所見大事ですね。
毎日本当にありがとうございます。
そして毎日盛大に間違えております…。毎回大変恥ずかしい限りなのですが、以下が今回の私の残念な思考回路です…。
①まず臨床症状から虫垂を同定しようとしました。しかし、回盲部の同定に難渋しました。横断像63枚目に、肥厚している回盲部小腸がたしかに写っているのですが、さらに左側の部位にべったりとした高吸収領域が認められたため、膀胱内の濃度と比較して高吸収の血清腹水が腸管周囲にまとわりついているのではないだろうか、と考え、回盲部付近の回腸も血性腹水と捉えてしまったからです。
②①の延長で、小腸がべったりと高吸収に見えているものを、腸管周囲にまとわりついた血清腹水と勘違いしていたため、かなり上部まで血清腹水があるように思われて、出血点はどこかにないだろうか探しはじめました。
③そうすると、スライド18あたりで高吸収の領域のすぐ近くに胃壁を貫通する低吸収域が認められたため、穿孔の可能性を念頭におきました(よくよくみると肝臓まで伸びているので、アーチファクトであると気づくべきでした)。しかし、胃の他部位の壁構造異常はないし、穿孔している割には周囲脂肪織濃度、腹膜の肥厚等の炎症所見が画像上ないので変だなとは思いました。
④穿孔という先入見で観察し続けたところ、36枚目に肝門部に小さな遊離ガスを2つ、33枚目にも遊離ガスがあるように思えました。
⑤右下腹部痛という身体所見とは矛盾しているものの、「胃穿孔+穿孔部位からの出血」と考えて、①〜④を説明するための苦し紛れのストーリーをつくってしまったという感じです。
復習しておきます…
アウトプットありがとうございます。
>回盲部の同定に難渋しました。
痩せた若い方の場合見えにくいですよね。
>さらに左側の部位にべったりとした高吸収領域が認められたため、膀胱内の濃度と比較して高吸収の血清腹水が腸管周囲にまとわりついているのではないだろうか、と考え、回盲部付近の回腸も血性腹水と捉えてしまったからです。
血性腹水とするとここだけでなく他のところにも認めて欲しいところですね。
>そうすると、スライド18あたりで高吸収の領域のすぐ近くに胃壁を貫通する低吸収域が認められたため、穿孔の可能性を念頭におきました
胃穿孔→回盲部にのみ出血 というのはなかなかストーリーに無理がありますね。
穿孔の場合はまずはfree airを認めるのが通常です。
>④穿孔という先入見で観察し続けたところ、36枚目に肝門部に小さな遊離ガスを2つ、33枚目にも遊離ガスがあるように思えました。
このあたりは濃度を変えられないので恐縮ですが、実際の現場では濃度を変えることにより腸管内なのか外なのかを判断してください。
今回の最初の着目点はよかったのですが、そのあと
「この回盲部の高吸収なのはなにだろう?」
→冠状断ではどう見えるのだろうか?
と来れば少し正解に近づけたかも知れませんね。
いつもありがとうございます!
最近一見分からなくても所見を拾い上げていき、そうすると自分なりの答えが出て、間違えかもしれないと思いながら回答すると意外や正解に至っていることが多くなってきました。
恥ずかしながら今までは所見を拾うこともままならないことが多かったので(今もまだまだですが)、ごろー先生の講座で学んできたことが身についてきた気がします!
これからもたとえ分からなくても考える過程を大切にし、恥を捨て、誤答を恐れることなくトレーニングしていきたいと思います。
今後もよろしくお願い致します!
最後に1つ質問させてください!
読影を素早くできるようにするには、どのようなトレーニングをすれば良いでしょうか?
私はとても遅いのです。。。
アドバイスいただけましたら幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>これからもたとえ分からなくても考える過程を大切にし、恥を捨て、誤答を恐れることなくトレーニングしていきたいと思います。
そうですね。自分で考えてわからなければ、知った被らず知っている人に教えてもらうのもよいですね。
私も日々技師さんにいろんなことを聞いて教えてもらっています。
>読影を素早くできるようにするには、どのようなトレーニングをすれば良いでしょうか?私はとても遅いのです。。。
早いに超したことはないですが、それで精度が落ちるならば早ければいいというものでもないですよね(^_^;)
今回は所見がある症例ばかりを集めていますが、実際の現場では腹痛精査でも結局画像では何もないということもしばしばありますよね。
各臓器を自分のルーチンで追って、最低限見落としてはいけない所見を確実に拾い、それでなければ、なし!と潔く終了することですかね。
見落としはゼロにはできないですし、放射線科で日本一有名で優秀な某先生もしょっちゅう見落としているという話を聞いたことがありますし、そういうもんだと割切ることですかね。
見落としを肯定しているわけではないですが。
回腸末端の壁肥厚は認識することができたのですが、三層構造を保ったというよりも粘膜の肥厚に見えてしまいました。
これくらい造影されている部分が広くとも三層構造と取ったほうがよいのでしょうか。
ご教示いただけますと幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>三層構造を保ったというよりも粘膜の肥厚に見えてしまいました。
教科書的には回腸末端炎も3層構造を保った壁肥厚を呈するのですが、おっしゃるように造影効果が強い部分が肥厚しているように見えますね。
ここは3層構造が分かりにくい部位なのかもしれません。
いつも貴重な症例ありがとうございます。
今回の症例は、以前提示していただいた壁肥厚の部位の鑑別疾患の表にて回答出来ました。
1つ質問ですが、右卵巣の壁の少し厚いLDAは黄体嚢胞でしょうか?(冠状断25/49辺り)
ご教示宜しくお願い致します。
アウトプットありがとうございます。
>右卵巣の壁の少し厚いLDAは黄体嚢胞でしょうか?(冠状断25/49辺り)
ご教示宜しくお願い致します。
これを横断像で見ると、72 / 90に相当します。
黄体のう胞の場合もう少し大きいことが多いのでこれを黄体のう胞とは言えないと考えます。
いつもありがとうございます。今回のような症例の場合、経過的には感染性の回腸末端炎を第一に疑うにしても、悪性リンパ腫やクローン病の可能性についてもレポートには記載されますか?
アウトプットありがとうございます。
>経過的には感染性の回腸末端炎を第一に疑うにしても、悪性リンパ腫やクローン病の可能性についてもレポートには記載されますか?
記載してよいと考えます。
特に粘膜の造影効果が目立つ症例であり、経過を見たいところですね。
他の先生も書いていますが、私も血性腹水かと思いました。
回腸末端の壁肥厚はわかりましたが、ベターとしていて、腸管との区別がつかない高吸収が見られる(62-64/90)、これは血性腹水に違いない。若い女性で血性腹水なら、子宮外妊娠や卵巣出血を考えなくては。子宮の右側にも血腫はありそう。卵巣は良さそうだから、子宮外妊娠の破裂か。妄想の世界を漂っていました。
アウトプットありがとうございます。
今回は若い女性で内臓の脂肪が少なく見えにくい症例でしたね。
>妄想の世界を漂っていました。
婦人科疾患のCTでの読影は困難なことが多いため、私もたまに妄想の世界を漂います(^_^;)
今回は両側卵巣は同定でき、腹水も生理的範囲内です。
確かに血性腹水と読んでしまうと、妄想の世界へ突入してしまうかもしれませんが・・・・。