
【症例】60歳代 男性
【主訴】顔面打撲
【現病歴】7日前に鉄パイプで右顔面打撲し、近医受診。冷却で経過観察していた。骨折疑いで当院紹介受診となる。
【身体所見】意識清明、複視なし、眼球運動正常、右目充血あり、右頬部皮下出血・腫脹あり、開口障害なし
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軟部条件の横断像から見ていきましょう。
右上顎洞に骨折がありそうですね。
また右の上顎洞には軟部影を認めていますが、中心部には高吸収領域を認めており、血腫が疑われます。
頬部の皮下にも血腫を疑う高吸収を認めており、皮下の腫脹を認めています。左右差を見れば明らかですね。
さらに皮下にはairの迷入を認めています。上顎骨の骨折部から迷入したと推測されます。
次に骨条件の横断像を見てみましょう。
やはり上顎洞の前壁および後外側壁に骨折線を認めています。
また、ちょっと分かりにくいかもしれませんが、右頬骨弓に骨折線を認めています。左右差を見れば骨折線があることがわかります。
また眼窩の外側壁に骨折および骨片を認めています。
- 眼窩の外側壁:頬骨前頭縫合、頬骨蝶形縫合
- 眼窩下縁(上顎洞の前壁〜上壁):頬骨上顎縫合
- 上顎洞の後外側壁:頬骨上顎縫合、頬骨蝶形縫合
に骨折を認めることがわかります。
眼窩底は骨折していますが、眼窩底から眼窩内容物が上顎洞に逸脱していたり、下直筋の落ち込みや腫大は認めていません。
また横断像で見たように、頬骨弓:頬骨側頭縫合にも骨折線を認めています。
つまり、頬骨と接合する4つの縫合線に骨折を認めているということなります。
3D再構成した画像を見てみましょう。
頬骨を中心に頬骨の縫合線に骨折を認めています。
頬骨を中心とした顔面骨折を中心部外側骨折というのでした。
中でも今回は、上のようにあたかも3つの脚が折れているので、三脚骨折といいます。
今回は、深部にある頬骨蝶形縫合にも骨折を認めているため、頬骨上顎複合骨折(zygomaticomaxillary complex:ZMC fracture)と呼びます。
※三脚骨折≒ZMC骨折と考えてよいのですが、厳密にはZMC骨折は三脚ではなく四脚骨折なので分けるべきと書いてある書籍もあります。
ZMC骨折とは?
頬骨とその周囲の骨の4つの縫合線で骨折を認めるものをZMC骨折と言います。
- 前頭頬骨縫合の骨折→眼窩外側壁の骨折
- 頬骨蝶形縫合の骨折→眼窩外側壁〜上顎洞の後外側壁の骨折
- 頬骨側頭縫合の骨折→頬骨弓の骨折
- 頬骨上顎縫合の骨折→眼窩下縁〜上顎洞前壁の骨折
としてそれぞれ画像で認識することができます。
拡大すると上の部分で骨折線を起こすと言うことです。
※ただし頬骨蝶形縫合は3Dでは見えない深部にも存在する。
シェーマにするとこのような感じです。
眼窩を立方体、その直下にある上顎洞を三角錐と便宜上考えると、上のようにそれぞれ骨折を起こしたものがZMC骨折となります。
診断:右頬骨上顎複合骨折(ZMC骨折)+右眼窩底骨折(下直筋腫大・逸脱あり)
※開口障害、複視を認めず、三叉神経のしびれも認めておらずこのケースでは整復や手術は行われずに、保存的加療となりました。
関連:
【顔面】症例6の動画解説
おまけ
ZMC骨折のイラストは完全オリジナルなのですが、このイラストを使わせて欲しいと連絡があり、救急の先生が出版される2021年4月発売の書籍に掲載されることになりました。
もともとのラフ画です。
いかにしてイラストレーターにイラストの依頼をしているか、それはこの講座と同じように動画解説をしています。
このイラストの動画依頼はこちら。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
顔面の骨折をここまで詳細に考えて読影したことがなかったので、大変勉強になります。
アウトプットありがとうございます。
私も誰かに教えてもらったことがある分野ではないので、たくさんの書籍を参考にしながら試行錯誤しながらの作成になります(^_^;)
今後の症例でもここも指摘しないとダメでは!?という点がありましたら、また教えていただけると幸いです。
このような特別な名称がついているので比較的起こりやすい複合骨折なんですかね?全く知らないことで勉強になりました。
3Dは表面の骨折は分かりやすいですが、深部は見えないため頼りすぎると見逃しに繋がりそうですね。IC用に作成すると喜ばれるので作成するようにはしています。
アウトプットありがとうございます。
>このような特別な名称がついているので比較的起こりやすい複合骨折なんですかね?
そうですね。頻度は割と高いですね。教科書にも掲載されています。
>3Dは表面の骨折は分かりやすいですが、深部は見えないため頼りすぎると見逃しに繋がりそうですね。
おっしゃるとおりですね。3Dだけを見て診断してはいけませんね。
>IC用に作成すると喜ばれるので作成するようにはしています。
なるほどです。読影する側も2Dだけではなかなか想像がつかない表面の骨の骨折の様子が一目瞭然となるので喜びますよ。
今日もありがとうございます。
骨折線を一つ一つ挙げる事が出来てもそれを言葉で上手く表現する事が出来なかったのでとても勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>骨折線を一つ一つ挙げる事が出来てもそれを言葉で上手く表現する事が出来なかった
よくわかります・・・。
以前の私を含め、顔面多発骨折とくらいしか書けない人も多いところだと思います。
ZMC骨折の場合は頬骨とその周りの縫合が中心に離開したり骨折していると考えると表現しやすくなりますね。
LeFort骨折2型かと思いましたが、それは顔面中央部の骨折で、ZMC骨折は顔面外側の骨折なのでそもそもジャンルが違いました。
毎回骨折の分類の表が提示されるので、頭が整理しやすいです。
イラストの制作って大変なんだなと思いましたm(_ _)m
アウトプットありがとうございます。
>LeFort骨折2型かと思いましたが、それは顔面中央部の骨折で、ZMC骨折は顔面外側の骨折なのでそもそもジャンルが違いました。
部位は異なりますが、両者はしばしば合併しますので、3Dを必ず作ってもらい確認するようにしましょう。
>イラストの制作って大変なんだなと思いましたm(_ _)m
ありがとうございます(^^)
イラストレーターにいかに伝えるかが難しいかと思いますが、動画でお願いするスタイルを以前から取っています。
〉イラストレーターにいかに伝えるかが難しい
ほんとに、どうやって伝えるんだろう、、。と思っていたのですが、まさかここでも動画を使われるとは思いませんでした笑
下直筋が、左に比べて下に伸びるような形になっていて、元の眼窩下壁のラインより下にはみ出ているように見えます。冠状断32/73あたり。
これが逸脱なしとすると、症例5が逸脱ありなのがわかりません。
見分けるポイントをもう少し教えていただけたらありがたいです。
ご指摘いただき、ありがとうございます。
おっしゃるように、右下直筋の腫大および逸脱がありますね。
訂正させていただきます。
いつもお世話になっております。顔面骨折は診察する機会があまり無く、非常に新鮮で勉強になります。
一つ質問させて頂きたいのですが、sagittal92/130に何となく下顎骨に骨折線?があるように見えるのですが
これは、どっかの骨縫合の離開等<3Dではそのような線はないので>なのでしょうか?
お忙しい中お手数ですが、御教授下さい。
アウトプットありがとうございます。
>顔面骨折は診察する機会があまり無く、非常に新鮮で勉強になります。
よかったです(^^)
>sagittal92/130に何となく下顎骨に骨折線?があるように見えるのですが
これは、どっかの骨縫合の離開等<3Dではそのような線はないので>なのでしょうか?
オトガイ孔ですね。横断像でも88/154あたりで左右に認めています。
三叉神経第三枝である下顎神経の枝である下歯槽神経が走行しています。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/wp-content/uploads/2020/11/13102293638372.jpg
この穴です。
お世話になっております。
冠状断28-29/73で見える右篩骨洞の眼窩側の壁に見える高吸収の円状のものは何ですか。左右差があって気になります。
アウトプットありがとうございます。
小さな骨腫があるのかもしれませんが、内部に透亮像が見えるので、発生の過程でここだけ腔の小さな篩骨洞ができているのかもしれません。
横断像でも136/154で見えますね。有意ではありませんので、気にされなくて良いと考えます。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/31139
もう一つすみません。
「眼窩下管にかかる骨折」というのが、難しいです。症例4は「なし」症例5は「あり」でしたが間違えました。
症例6は本題と外れてしまうため言及されていませんが「あり」でよいでしょうか。
眼窩下孔のあたりと、眼窩内の真ん中あたりで割れているように見えます。
冠状断、矢状断で管の外周の骨に連続性があるかどうか、気にすれば良いですか?
元の位置から管全体がずれていそうかは気にした方がよいでしょうか(気にして間違えましたが)
>症例6は本題と外れてしまうため言及されていませんが「あり」でよいでしょうか。
眼窩下孔のあたりと、眼窩内の真ん中あたりで割れているように見えます。
ですね。途中で骨折を認めています。神経障害を生じているかは症状で判断する必要がありますが。
>冠状断、矢状断で管の外周の骨に連続性があるかどうか、気にすれば良いですか?
そうですね。骨の連続性が重要ですね。管全体がずれている場合は眼窩下管に必ずしも骨折があるわけではないですね。