
症例53
【症例】30歳代 女性
【主訴】3日前にしめ鯖を食べた。夜間より腹部不快、軟便あり。 1日前から腹部全体の痛みと膨満。
【身体所見】腹部:軟、下腹物に軽度膨隆、左下腹部に圧痛あり、反跳痛なし、腸蠕動音亢進
【データ】WBC 7600、CRP 1.32
小腸壁の壁肥厚を認めています。
3層構造は保たれており、粘膜下層の肥厚を認めています。
右下腹部から正中部にかけて、壁肥厚を認めていることがわかります。
Douglas窩には生理的範囲内としてはやや多い印象の腹水貯留を認めています。
最も頻度の高いウイルス性の小腸炎ではこのような粘膜下層の肥厚は通常認めません。
このような小腸の壁肥厚を見た場合、
- 腸管虚血
- 血管炎に基づく虚血性腸炎:膠原病(SLE)、血管炎
- 好酸球性腸炎(食餌性アレルギー)
- Henoch-Schonlein紫斑病
- アニサキス腸炎(これもアレルギーですが)
などを考えなくてはいけません。
今回、3日前にしめ鯖を食事しており、この点からも疑うべきは、
アニサキス小腸炎
です。
アニサキスは胃炎の場合は、アニサキス虫体を内視鏡で確認することができますが、小腸炎の場合はカメラが届きませんので、確認することができません。
その代わりにアニサキス抗体価を測定することで診断することができます。
(アニサキスと診断されたところで、治療法は変わらないため実際の臨床の場では測定されないことの方が多いかと思います。サバやイカなどの魚介類の生食が確認されれば、画像と合わせてアニサキス腸炎疑いで加療される事が多いです。)
今回の症例では、アニサキス抗体価が測定されました(測定されている症例を探すのがやや大変でした(^_^;)。
アニサキス抗体価は4.76と高値を認めており、アニサキス小腸炎と診断されました。
診断:アニサキス小腸炎
アニサキス症腸炎の画像所見の特徴として、
- 局所的な腸管の壁肥厚(3層構造は保たれる)
- 腸間膜の浮腫
- 腹水を伴う
といったものがあります。
腹水を伴う腸炎としては、
- O-157腸炎
- 偽膜性腸炎
- 好酸球性腸炎(ここにアニサキス小腸炎を含むこともあり)
- アニサキス小腸炎 ★
- ループス腸炎
が重要とされます。
今回は生理的範囲内か、それより少し多いくらいですので、ちょっと腹水からは判断しにくかったかもしれませんね。
また腸間膜の浮腫性変化は軽度認めています。
その他所見:
- 肝S6に不整なLDAあり。(当初膿瘍ではないかとも考えられましたが、加療によって変化を認めず、最終的に肝生検が行われ、血行障害による良性のsinusoidal dilatationと病理学的に診断されました。)
- 副脾あり。
症例53の動画解説
3層構造を保った壁肥厚と鑑別まとめ
小腸で3層構造を保った壁肥厚を見たときにどのようなことを考えるのかの復習動画です。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今回も今までしっかり意識できていなかった部分を深めることができました。
腸管の浮腫をみたら、層構造が保たれているか、もう少し意識的に見てみるようにします。
鑑別もありがとうございます。小腸の層構造が保たれた壁肥厚をみたら、とりあえずは、ざっくりと好酸球か虚血かを意識してみるようにします。
それにしても、2~3日後に症状がでたんですね。。。腸アニサキスの治療について実は詳しくなかったのですが、対症療法でだめなら外科的になってしまうんですね。。。胃にとどまっているか小腸にいるかでここまで方針が変わるとは。。。生魚を食べたあとの腹痛には(自分でも)気を付けることにします!
アウトプットありがとうございます。
>腸管の浮腫をみたら、層構造が保たれているか、もう少し意識的に見てみるようにします。
そうですね。救急で多いウイルス性の胃腸炎ではこのような壁肥厚は通常来しません。
>腸アニサキスの治療について実は詳しくなかったのですが、対症療法でだめなら外科的になってしまうんですね。。。胃にとどまっているか小腸にいるかでここまで方針が変わるとは。。。生魚を食べたあとの腹痛には(自分でも)気を付けることにします!
基本は対症療法ですね。
アニサキスぽい症例がたくさんあるのですが、結局治療法が変わらないのと、抗体測定は自費になるとかで、
アニサキス小腸炎と確定できないものがほとんどです。
一方で、胃の場合は、犯人(アニサキス虫体)がいれば確定ですね。
腸炎の画像は非典型的なものも多く,どちらかというと苦手ですが,腹水などに着目することも一つの方法だということが勉強できて良かったです.
アウトプットありがとうございます。
>腸炎の画像は非典型的なものも多く
ですね。ウイルス性の腸炎は撮影したもののあまり所見がないことが多いですね。
そんな中、このような壁肥厚を見た場合や、今回のように腹水を認めている場合は、注意してみてください。
サバ好きなのでちょっと寂しい気分になります( ̄▽ ̄;)
副初見についてですが、肝S6のLDAは、血管腫疑い、としてしまいましたが、画像上は鑑別に挙がりますか?
アウトプットありがとうございます。
同じくサバ好きです。
>副初見についてですが、肝S6のLDAは、血管腫疑い、としてしまいましたが、画像上は鑑別に挙がりますか?
おっしゃるように血管腫かもしれません。
骨盤内の複数の高吸収域はいったい何なのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
骨盤内の静脈の石灰化(末梢静脈で形成された血栓が石灰化したもの)で静脈石と呼ばれるものです。
高頻度に認められ、尿管結石としてはいけないやつですね。
鑑別は
・comet tail sign(静脈石から尾のように伸びる細長い軟部陰影)が静脈石ではみられる
・石灰化の吸収値の差(尿管結石の方が静脈石よりも吸収値が高く、尿管結石の平均値は305HU、静脈石の平均値は160HUで、かつ静脈石の平均値が278HUを超えることはない)
などと報告されていますが、個人的には場所と、尿管を追うのが最もわかりやすいかと思います。
参考:画像診断に絶対強くなるワンポイントレッスン2 P133
症例ありがとうございます。
回腸終末部の壁肥厚だったので、エルシニア腸炎としてしまいました。診断は、抗体価測定等は通常しなければ、しめ鯖の摂取が決め手だとは思いますが、アニサキス腸炎との画像所見の違い等あれば、ご教示ください。
アウトプットありがとうございます。
>アニサキス腸炎との画像所見の違い等あれば、ご教示ください。
確かに回腸末端なのですが、エルシニア腸炎にしては
・範囲が広すぎる(回腸末端だけでない)
・腹水貯留がある
・回盲部のリンパ節腫大を認めていない
といった点からも、エルシニア腸炎よりはアニサキス小腸炎などを疑う所見といえます。
もちろんおっしゃるようにしめ鯖も非常に重要なエピソードとなります。
ただし3層構造を保った壁肥厚を示すという点は両者に共通しています。
回答ありがとうございます。
エルシニアの場合は、アニサキスに比し、回盲部に限った範囲でより狭く、リンパ節腫脹があり、腹水なし、の三点がポイントですね。
おっしゃるとおりです。その傾向があるということです。
しめ鯖からアニサキスを考えましたが、どこにいるかを同定しないといけない、わからん、で止まってしまいました。今は血液データでわかるのですね。目からうろこでした。
アウトプットありがとうございます。
>今は血液データでわかるのですね。目からうろこでした。
そうなのですが、自費検査のようでその点の了解を取らないといけないようです。
ですので、なかなか検査されていることは少ないかもしれません。
エピソードと画像所見からもアニサキス腸炎疑いでも、実際検査されている症例は少ないです。
上行結腸にも壁肥厚を認める印象なのですがいかがなものでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
回盲部は少し肥厚しているかもしれませんが、上の方は粘膜下層の肥厚ではなく、内腔の液貯留を見ているのだと考えます。
「3日前にしめ鯖を食べた。」ということより、アニサキス症と思いました。胃カメラでアニサキスを摘出した経験があります。
この症例では、胃壁は肥厚していないでしょうか。上行結腸の周囲の脂肪織濃度上昇(局所的な腹膜炎)はありませんか。
アウトプットありがとうございます。
>胃カメラでアニサキスを摘出した経験があります。
アニサキス虫体を確認できるのは胃か十二指腸くらいですかね。
小腸の場合は届かないので、エピソードと画像所見、(時に抗体)から基本的に診断しないといけないですね。
今回は胃壁は肥厚していません。
上行結腸周囲(というより肥厚した小腸周囲)は局所的な腹膜炎があるかもしれません。その可能性については記載しても良いと考えます。