【新腹部救急】症例31
【症例】20歳代 女性
【主訴】倦怠感、頭痛、発熱、腰痛、
【現病歴】4日前より上記出現。3日前に近医受診し、抗生剤処方された。本日、発熱、倦怠感強く再び近医受診。髄膜刺激徴候疑われ、髄膜炎の疑いで当院紹介受診となる。
【既往歴】なし
【身体所見】意識清明、BT 38.7℃、BP 139/81mmHg、P 110bpm、Sp02 100%(RA)、項部硬直なし、jolt accentuation(-)、Kernig徴候(-)、CVA叩打痛 左右とも(-)
【データ】WBC 13000、CRP 16.39
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単純CT、造影CT(平衡相のみ)が撮影されています。
まず単純CTから見ていきましょう。
ちょっと所見として取るのは難しいかもしれませんが、左腎周囲にわずかな脂肪織濃度上昇を認めています。
水腎症を疑うような、腎盂〜腎杯の拡張は認めていませんので、尿管結石による変化ではなく、腎盂腎炎の可能性があることがわかります。
次に造影CTを見てみましょう。
左腎に造影不領域が散見されており、腎盂腎炎を疑う所見です。
厳密には、平衡相での造影不良であり、急性巣状細菌性腎炎(AFBN:acute focal bacterial nephritis)に分類されます。
今回は早期相の撮影はありませんが、平衡相においても巣状の造影低下の残存を認めていますので、上の表に当てはめるとAFBNであることがわかります。
※ただし、腎盂腎炎と、AFBN(急性巣状細菌性腎炎)を区別したところで基本的に治療法に違いはありません。膿瘍の場合は、ドレナージなどが施行されることがあります。AFBNはその膿瘍の一歩手前の状態です。
次に冠状断像を見てみましょう。
左腎はやや腫大し、横断像同様に造影不領域が散見されます。
また左尿管は右と比べるとやや拡張し、壁の造影効果増強を認めていることがわかります。
診断:左腎盂腎炎(正確にはAFBN)の疑い
※入院時尿検査(非提示)では尿路感染を疑う所見は認めませんでしたが、抗生剤が入っていることにより尿検査で異常所見が認めなかったと考えられます。
※保存的に加療されました。
その他所見:とくになし。
【新腹部救急】症例31の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
健常者でも腎臓周囲の濃度上昇を認めることが多いので、過去画像がないと画像だけでは判断に迷うことが多いです。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。両側性の場合は特に過去画像との比較や臨床症状などが重要となりますね。
Corだと濃度低下と腎杯などが区別しやすいなと感じますね。
そうですね。今回は濃度低下部位が内側である点もありますね。
腸に目が行って腎の異変にすぐ気づけなかったです。小腸(空腸)の感染性腸炎か?と最初思いましたが、腎臓に気が付きこっちだと思いました。小腸はこれくらいはWNL内でしょうか?ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
確かに小腸に一部液貯留が目立つ部位もありますが、正常範囲ですかね。
この辺りは正常異常の境界ラインがないですが、今回は正常範囲と考えます。
今日もありがとうございます。
僕の職場ではなかなか腎盂腎炎疑いで造影CTまで撮る機会が少ないですが、もしオーダーが入ったらダイナミックで撮影して造影不良が持続するか確認したいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>僕の職場ではなかなか腎盂腎炎疑いで造影CTまで撮る機会が少ない
それで普通です。
そもそもCTで診断する疾患ではありませんので、あくまでCTは補助ですね。
以前ESPRESSO腹部画像診断の際にシェアしたこちらの記事も参照ください。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/archives/1361
これは単純だけで気付く自信がありません.
造影から見返すと確かにわかりますが.
これを放射線科の先生に指摘されると惚れそうです.
アウトプットありがとうございます。
単純だけだと厳しいこともありますが、
・わずかな腎周囲の脂肪織濃度上昇(毛羽立ち)
・わずかな腎盂、尿管周囲の脂肪織濃度上昇(毛羽立ち)
・わずかな腎腫大
・わずかな腎筋膜肥厚 ←ここまでいくと他の所見も認めていることが多いですが。
に気づけて、さらに左右差があれば、有意かもしれないと考えられます。
両側同じような感じだと厳しいです。
第一段の腹部救急で全くわからなかった疾患が正解できると成長を感じられて嬉しいです。
アウトプットありがとうございます。
それはよかったです。
身体所見や尿所見で診断されることが多く画像診断に回ることはそれほど多くないかもしれませんが、頻度が多い疾患ですので、腎周囲のわずかな所見などを手がかりにしましょう。左右差、過去画像との比較も重要です。
内科をしているものです。初めてのコメントで大変恐縮します。AFBNは文献をみると膿尿や細菌尿の割合は意外と低いようです。先行抗菌薬で尿所見が正常化したのか、あるいはもともと正常だったのかもしれません。
アウトプットありがとうございます。
>AFBNは文献をみると膿尿や細菌尿の割合は意外と低いようです。先行抗菌薬で尿所見が正常化したのか、あるいはもともと正常だったのかもしれません。
そうなのですね。補足いただきありがとうございます。
もともと正常だった可能性もあるわけですね。
脾腫があるかなと思ったのですが、どうでしょうか。
そもそも有意な所見ではなさそうですが、年齢を加味すると正常範囲と捉えても良いでしょうか?