【新腹部救急】症例29
【症例】30歳代男性
【主訴】腹痛、嘔吐
【現病歴】昨日昼頃から腹痛あり。徐々に悪化傾向にある。本日は15回くらい透明色の液を嘔吐し食事も摂れず近医受診。当院へ転送となる。
【既往歴】なし
【生活歴】喫煙:20本/日(20歳〜)、飲酒:ビール2L/日を毎日
【身体所見】BT 36.6℃、BP 101/77mmHg、P 136bpm、SpO2 99%(RA)、上腹部圧痛あり。
【データ】WBC 11500、CRP 43.29、膵型アミラーゼ 490
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膵周囲に広汎に脂肪織濃度上昇及び液貯留を認めており、腎周囲筋膜の肥厚を認めています。
急性膵炎を疑う所見です。
急性膵炎を認めた際には、膵の壊死の有無をチェックします。
今回はこのスライスでは、膵尾部に造影不良を認めています。
また横行結腸間膜根部への炎症波及を認めており、膵頭部にも造影不良を認めています。
両側腎下極以遠にも炎症波及所見を認めています。
また腸管の拡張・液貯留・ニボー像を認めており、麻痺性イレウスを疑う所見です。
今回の症例をCT gradeに当てはめると次のようになります。
膵造影不良域が1/3以上あるかはやや微妙ではありますが、膵頭部、膵尾部に造影不良を認めている点からは1/3以上と取るべきであり、膵外進展度と合わせるとgrade3相当となります。
今回は、腎下極以遠どころか、鼠径部あたりまで炎症波及を認めており、また麻痺性イレウスや腹水貯留も認めています。これらから一見して重症急性膵炎であることがわかります。
診断:急性膵炎 CT grade3相当、麻痺性イレウス
※重症急性膵炎と診断され、動注療法が施行されました。
関連:
その他所見:
- 両側胸水貯留・受動性無気肺あり。
- 腹水貯留あり。
- 麻痺性イレウスあり。
- SMV、脾静脈に低吸収域あり。血栓の疑い。
【新腹部救急】症例29の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
何点かご質問があります。
・ダグラス窩の腹水背側が高吸収に見えますが、血性腹水でしょうか?
・SMV、脾静脈に造影不良域を認めますが、血栓でしょうか?
・肝S4の造影不良域はthird inflowでしょうか?
・胸水は膵炎によるものでしょうか?
お手数ですが、よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>・ダグラス窩の腹水背側が高吸収に見えますが、血性腹水でしょうか?
少し高吸収ですね。少し血性腹水が同部にあるのかもしれませんが、ほとんどの腹水はそうではないですね。
>SMV、脾静脈に造影不良域を認めますが、血栓でしょうか?
確かにありますね!血栓ですね。追記します。
>肝S4の造影不良域はthird inflowでしょうか?
そうですね。やや目立ちますが、局所的な脂肪肝がありますね。
>胸水は膵炎によるものでしょうか?
そうですね。
左に認めることが多いですが、今回は両側に認めていますね。
膵尾部の不染域は膵外か迷いなしにしてしまいました。膵頭部と膵鈎部の判別があやふやでしたので調べたとこといかのようでした。ありがとうございました。
膵頭部pancreas head:膵臓上縁と門脈portal vein左縁との交点と膵臓下縁と上腸間膜静脈supramesenteric veinの左 縁との交点をむすんだ線よりも右側にくる部分。膵頭部より尾側に突起した膵鉤部uncus of pancreasも含まれ る。https://ctr-info.ncc.go.jp/text/?action=common_download_main&upload_id=1869より
アウトプットありがとうございます。
>膵尾部の不染域は膵外か迷いなしにしてしまいました。
ちょっと造影不領域はわかりにくいかもしれませんが、膵内ですね。
血栓に気が付きませんでした。1つ見つけて満足する典型的なミスでした。
う・・・。私もです(^_^;)
鼠径にまで炎症が波及している急性膵炎は初めて見ました.最重症なのでしょうね.
派手な所見がある時ほど細かい所見はいくつか見落としがちです.
アウトプットありがとうございます。
>鼠径にまで炎症が波及している急性膵炎は初めて見ました.最重症なのでしょうね.
そうですね。膵外への炎症波及はかなり強いですね。
麻痺性イレウスもあり、最重症例に近い症例ですね。(麻痺性イレウスを体験できるという意味でも貴重な症例だと思います。)
あと、膵壊死がもっと鮮明で広範ならば本当に最重症ということになりますね。
膵の造影不良に悩みました。
膵臓自体の低吸収なのか、それ以外のものなのか…
条件を変えれる環境なら
ウインドウ幅を狭くするとわかりやすくなりますでしょうか?
また、その他の所見なのですが
胆嚢周囲の低吸収は
胆嚢と液体貯留に挟まれた
内臓脂肪を見ているのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
膵の造影不良は少し難しかったかも知れませんね。
それ以外とすると液貯留ということになるかもしれませんが、その周りがうっすら造影されており、膵実質がありそうだと判断します。
>ウインドウ幅を狭くするとわかりやすくなりますでしょうか?
そうですね。コントラストは少し着くかも知れません。
正常に造影されている膵実質と比較することがポイントとなります。
>胆嚢周囲の低吸収は胆嚢と液体貯留に挟まれた内臓脂肪を見ているのでしょうか?
確かに周りの腹水によって浮き出たあまり見慣れない低吸収の層を認めていますが脂肪と同じ濃度であり、内臓脂肪と判断することができます。