頭部画像診断 TIPS症例17

【頭部】TIPS症例17

【症例】70歳代女性
【主訴】進行性歩行障害、物忘れ
【現病歴】1年程前から歩行障害を自覚。自転車でこけるようになった。友人の歩行について行けずに遅れるようになった。また編み物が趣味であるが、少しおっくうになった。緩徐症状増悪したため、受診となる。

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どんな異常所見がありますか?

まず気付きたい所見は、上の方(高位円蓋部レベル)では脳溝が狭く脳がびっしり詰まっているのに、基底核レベルではSylvius裂や脳溝が開いており、

「なにかアンバランスだな」

と言う点です。

冠状断像で見るとその様子はより明瞭です。

側頭部に本来あるべき脳が上に引っ張られているかのようなアンバランスです。

このような所見を、DESH(デッシュ)といいます。

DESHは、Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalusの略で、くも膜下腔の不均衡な拡大を伴う水頭症で、つまりは、くも膜下腔のアンバランスさのことを指します。

このような所見を認めた場合に考えなければならない疾患が、

特発性正常圧水頭症(iNPH)

です。

DESHを示唆する所見は、大脳が上に引っ張られて、Sylvius裂が広がってしまう所見以外に、

  • 脳室が拡大し、Evans indexと呼ばれる側脳室前角幅/頭蓋内腔幅>0.3となる
  • 脳梁角が90°以下となる

などがあります。

今回はどうでしょうか?

Evan index>0.3となっており、脳室が拡大していることがわかります。

後交連を通るレベルでの冠状断像で脳梁角を測定しますが、この症例ではちょうど90°くらいです。

これらの所見や臨床症状から、特発性正常圧水頭症が疑われました。

 

診断:特発性正常圧水頭症疑い

 

※脳外科入院となり、タップテスト(髄液排除試験)が行われました。検査後には、歩行機能の改善、PT評価の改善、ST評価の改善を認めました。

※その後、腰椎-腹腔シャント(LPシャント術)が施行されました。

術後のCTです。

術後だけみるとしっくりこないかもしれません。

必ず術前との比較が重要です。両側側脳室前角のサイズが術前と比べて明らかに小さくなっていることがわかります。

またこれも術後だけ見てても変化がわかりません。

術前と比較して、高位円蓋部の脳溝の狭さ、Sylvius裂の広がりは軽減していることがわかります。

またこのレベルでの脳梁角はやや広くなっていることもわかります。

※術後経過観察良好で自覚的に歩行機能の改善あり、ST評価でも機能改善を認め経過良好と判断。

 

最終診断:特発性正常圧水頭症

 

関連:正常圧水頭症とは?画像診断(NPH、DESH、Evans index)のポイントは?

【頭部】TIPS症例17の動画解説

 

追記:後交連を通るレベルでの冠状断像で脳梁角を測定しますが、「後交連が分からない」という質問をいただきましたので追記します。

後交連:松果体の前下方(もしくは四丘体上丘の前上方)で左右を結ぶ

と大まかに覚えておきましょう。

みなさんの環境では横断像と冠状断像を同期させて見ることができないので恐縮ですが、松果体および上丘を通る冠状断像は以下の様になります。

ですので、この辺りの冠状断像で脳梁角をチェックすればよいということになります。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

過去のコメント
  1. 「歩行障害」「認知症」(今回の記載にはありませんが)「尿失禁」の主訴 → 脳室拡大 とくれば、iNPHを疑った撮影を行いたいと思います。
    「よくわかる脳MRI 第3版 秀潤社」によると、冠状断の撮影は、「AC-PCラインと直行して、後交連を通る冠状断で脳梁の角度を見ること」と記載されていました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >「歩行障害」「認知症」(今回の記載にはありませんが)「尿失禁」の主訴 → 脳室拡大 とくれば、iNPHを疑った撮影を行いたいと思います。

      そうですね。冠状断像を追加いただけるとありがたいですね。

      >冠状断の撮影は、「AC-PCラインと直行して、後交連を通る冠状断で脳梁の角度を見ること」と記載されていました。

      これで撮影いただければなおありがたいですね。

  2. 水頭症の画像所見についてはESPRESSO頭部救急で何度か取り上げていただいたので分かりました。 正直ESPRESSO参加前は上記の内容も全然知らなかったので、成長していると感じます!

    1. アウトプットありがとうございます。

      >水頭症の画像所見についてはESPRESSO頭部救急で何度か取り上げていただいたので分かりました。

      良かったです。
      こちらも日常臨床で決して頻度が低い疾患ではありませんので、是非積極的に引っかけてほしいと思います。

  3. 水頭症のほかに脳幹・小脳の濃度が低いと感じ、何かあるのではと思ってしまいました。というのも水頭症のみでどれくらいの水頭症から臨床症状をきたすのか自信がなかったからだと思います。しっかり覚えておきたいものです。ありがとうございました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      水頭症の原因を探されたということですね。
      閉塞機転があるのではないかと確認することは重要ですね。

  4. ESPRESSOで水頭症を何度か目にしていたので以上所見を拾う事は出来ましたが、水頭症に関する知識が乏しかったのでこれを期に復習しようと思います。

    1. アウトプットありがとうございます。

      頻度の多い疾患ですので、今後も日常臨床でしばしば遭遇すると思います。ぜひ復習しておいてください。

  5. 最近同様の症例を経験した時に勉強していたので、良い復習になりました!
    治せる症状なのでしっかり引っ掛けてあげる必要がありますね!

    1. アウトプットありがとうございます。

      >治せる症状

      国家試験的にも確か重要でしたね。

  6. こんにちは、毎日お世話になっております!

    今回はペーパーテスト的にも遭遇頻度が高い疾患だったので回答できました!

    iNPHは
    円蓋部の狭小化→脳室の拡大→有症状と進行し、
    かつ治療可能な認知症(potentially reversible dementia)
    なので、しっかり早期に診断してフォローできるようになっておかなければと思いました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >今回はペーパーテスト的にも遭遇頻度が高い疾患だった

      ですね。国家試験でも出題されるかもしれませんね。
      治療可能な認知症だと、私も三苫先生(TECOM)に教えてもらったような気がします。
      今はmedu4とかですかね(^_^;)

      >しっかり早期に診断してフォローできるようになっておかなければと思いました。

      そうですね。
      日常臨床で頭部外傷などでもたまたま見つかって、引っかけることが重要な所見ですね。

  7. 昨年、一例だけ脳外科に紹介したのですが、勘のレベルでした。
    DESH陽性なんて用語も知りませんでした。
    今回もとても勉強になりました!

    1. アウトプットありがとうございます。

      >一例だけ脳外科に紹介したのですが、勘のレベルでした。DESH陽性なんて用語も知りませんでした。

      割と日常臨床でも見られる所見です。
      正常変異ではないので、症状がなくても記載するようにしています。
      是非この機会に意識してみるようにしてください(^^)

  8. 今日もありがとうございます。
    水頭症(疑い)は非常によく見て紹介としているのですが、いつも分からないままにしてしまっていることが2つあります。

    1. 前交連、後交連がどこだか分からない。
    解剖のシェーマではどこだか一応知っていますが、CTで同定できません。
    冠状断で、「後交連を通る断面」が分からず、なんとなくシルビウス裂がT字で見えるあたりを眺めていました。

    2.Evans INDEXは側脳室前角が最大幅になるところで測る‥はず‥?
    前角が最大幅になる水平断スライスで、頭蓋内腔幅を測ればいいと、どこかに書いてあったはずなんですが、見つけられません。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >前交連、後交連がどこだか分からない。解剖のシェーマではどこだか一応知っていますが、CTで同定できません。
      冠状断で、「後交連を通る断面」が分からず

      CTでは同定するのは難しいですね。
      MRIでは可能です。

      前交連:左右の嗅脳および新皮質部分を結ぶ。前部後部に区別され、全部は発達が悪いが、後部は主に新皮質性で発達が良く、レンズ核底を通って側頭葉の前1/3を連絡する。T1WIで高信号、T2WIで低信号を呈するので識別できる。横断像、冠状断像で自転車のハンドルのような形をしている。

      後交連:第3脳室後壁にあり、松果体の前下方かつ四丘体上丘の前上方を横走して、左右の上丘、視蓋前部を結ぶ。
      T2WIでしばしば、第3脳室後下部に横走する低信号帯状構造として認められる。
      (脳MRI 1.正常解剖 P52-53)

      とあります。

      頭部MRIの正常解剖ツールでも両者は同定できます。
      http://medicalimagecafe.com/tool/head/01.html
      https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/wp-content/uploads/2020/10/anterior-and-posterior-commissure.png

      大まかな目安として、
      前交連:横断像で視床の見えるレベルで視床の前で左右を結ぶ
      後交連:松果体の前下方(もしくは四丘体上丘の前上方)で左右を結ぶ

      と覚えておけば良いのではないでしょうか。

      今回の後交連あたりに相当する冠状断像を追記しますね。

      >2.Evans INDEXは側脳室前角が最大幅になるところで測る‥はず‥?

      おっしゃるとおりです。最大幅になるところで測定します。
      今回は側脳室前角が見えるレベルではどこも同じような幅ですね。