急性散在性脳脊髄炎(acute demyelinating encephalomyelitits;ADEM)とは
- しばしば感染(発疹性ウイルス感染症(麻疹、水痘や風疹など))や予防接種に続いて起こる、激しい炎症性脱髄疾患。ただし特発性の場合もある。
- 小児(5-10歳前後)および若年成人が罹患する。
- 小児では性差なし。思春期〜若年成人では男女比1:2-3。
- 自己免疫が関与している。
- 大部分は脳症症状(行動の変化または意識の変容)を含む。片麻痺や脳神経麻痺が多い。脊髄症状は少ない。
- 発熱、悪寒、筋肉痛といった前兆症状を認めることが多いがない場合もある。
- 通常はウイルス感染後3週間以内に発症する。
- ウイルス感染、ワクチン接種が原因となるが、特発性のこともあり。
- 通常は単相性であるが稀に再発することあり(10%前後)。
- 再発症例(multiphasic disseminated encephalomyelitits;MDEM)やMSに移行する症例あり。
- 治療はステロイドパルスや免疫グロブリン大量療法。
- 死亡率は10-30%。神経学的後遺症を残す確率は20-30%。完全回復は50-60%。
- 再燃、再発は稀。
- MSとどう違うのか?診断基準は存在するのか?初回のattackでMSと鑑別可能か?MSとの鑑別は常に問題となる。
MSとADEMの違い(15歳以上) de Sezeら
以下の3項目のうち2つ以上陽性ならADEM
- MSとしては非典型的な症状(意識障害、睡眠過剰、てんかん、認知障害、麻痺、失語など)
- オリゴクローナルバンド陰性
- MRIで灰白質病変
※(なんと)先行感染、予防接種の有無は両者に有意差なし。
MSとADEMの違い(18歳未満)Callenら
以下の3項目のうち2つ以上陽性ならMS
- びまん性両側性病変が認められない。
- T1 black holeがある。
- 2個以上の脳室周囲病変
※感度81%、特異度95%
※ADEMと診断した場合、少なくとも3年間(10歳以下は6年間)は経過観察した方がよい。
2つの報告を要約すると、
- 深部灰白質病変を認める場合はADEM
- 脳室周囲白質病変が主体である場合はMS/CIS
を疑う。
ADEMの画像所見
- 画像所見は臨床症状の出現や消退よりも遅れる傾向にあり。臨床所見と画像所見との間にしばしば乖離あり。
- 白質主体に分布するT2WIやFLAIRにて高信号を呈する多発性・両側非対称性病変。Mass effectは乏しい。多発性硬化症と比較して、より広範囲に認めることが多い。
- 小脳、脳幹の病変は50%。脊髄では胸髄が多い。
- 側脳室周囲の病変は30〜60%とMSと比較してやや頻度が低い。脳梁病変がまれなのもMSとの鑑別に有効。
- 造影では付随する炎症反応に伴ってみられ、斑状からリング状の増強効果を示す。Open-ringのこともある。
- 急性期病変は拡散制限を示すことがあるが、通常亢進する。
- 画像所見は臨床経過に遅れることが多く(1ヶ月かかることもあり)、発症直後は画像所見に異常を認めないことがある。初回MRで異常がなくてもADEMを否定する根拠にはならない。
AHLE(急性出血性白質脳症)
- ADEMの劇症型であり、病巣内に出血を伴う。
- ADEMの約2%に起こる。
- 進行が速く、主に痙攣や意識障害、呼吸障害などより重篤な症状が出現。
- 多くの症例ではステロイドパルスのみでは無効。
ADEMの脊髄病変
- 自己免疫性脊髄炎と考えられている。
- 多くは大脳に病変の首座を置き、脊髄病変を含むものは多くないが、脊髄型のADEMは罹患部位の脊髄横断症状を呈する。
- 通常はウイルス感染後3週以内に発症する。
ADEMの脊髄病変の画像所見
- 画像所見は罹患レベルで脊髄は腫大または正常大。
- 腫大している場合は病変はT1WIで低信号を呈する。T2WIではいずれにしろ高信号。
- 上下に長い病変を示すことが多い。スキップ状の多発性病変となることもある。
- 造影効果はさまざま。前根や後根に造影効果を認めることもある。
- 白質よりも灰白質がより高信号を呈し、白質と灰白質の区別を保っていることが多い。
- ほぼすべてに脳内病変を伴う。