
先に結論:涙嚢炎は「流れの途中の閉塞」と「涙嚢の中身」を見る。充実性の腫瘤なら腫瘍も考える
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 涙の通り道 | 涙点→涙小管→涙嚢→鼻涙管→下鼻道(鼻腔の下の通り道) |
| 閉塞で起こること | 涙嚢が拡張して涙がたまり、感染すると涙嚢炎。急性期は眼窩へ波及することがある |
| CTでの見方 | 涙嚢の拡張、鼻涙管の狭窄・途絶。CT涙道造影で閉塞部位を示せる |
| 注意する所見 | 涙嚢の充実性腫瘤、骨のびらん、周囲への浸潤は腫瘍を考える |
| 併せて見る所 | 鼻腔・副鼻腔(篩骨洞・鼻中隔など)の炎症や形の異常 |
涙の通り道と、詰まりやすい場所
涙は、まぶたの内側にある小さな孔(涙点)から涙小管に入り、涙嚢にたまってから鼻涙管を通って鼻腔の下鼻道に流れ出ます(Sáenz Araya 2025)。涙嚢は眼窩の内側の骨のくぼみ(涙嚢窩)に収まっています(Sáenz Araya 2025)。
| 部位 | 役割・読影のポイント |
|---|---|
| 涙点・涙小管 | 涙を吸い込む入り口。CTでは細く、造影剤を入れないと見えにくい |
| 涙嚢 | 眼窩内側の涙嚢窩にある袋。閉塞で拡張しやすい |
| 鼻涙管 | 骨の管(骨性鼻涙管)の中を下る。下鼻道へ開く |
| 下鼻道 | 鼻涙管の出口。鼻・副鼻腔の病変や形の異常の影響を受ける |
涙道には一方向に流す弁があり、涙の逆流を防いでいます。鼻涙管は女性のほうが細い傾向があり、閉塞の頻度の差と関係しているとされています(Sáenz Araya 2025)。副鼻腔と鼻涙管の位置関係は副鼻腔CTの正常解剖と見方と副鼻腔のドレナージルートも参考になります。
閉塞と涙嚢炎で何が起こるか
鼻涙管が詰まると涙嚢から先に涙が流れず、涙がたまります。たまった涙に細菌が増えると涙嚢炎になり、目頭の赤み・腫れ・痛み、膿のような目やにが出ます。涙の流れの障害は、炎症と線維化によって涙道が少しずつ狭くなる過程が関与するとされています(Sáenz Araya 2025)。
急性涙嚢炎は、涙嚢が眼窩隔膜の前方にあるため、通常は眼瞼前の蜂窩織炎として現れます。治療しないと眼窩蜂窩織炎や膿瘍に進み、視力を失うことがある眼科の緊急疾患です。6例の報告では、膿瘍が眼窩の筋円錐の外にあった4例は視力が保たれ、筋円錐の中にあった2例は初診時に視力低下がありました(Maheshwari 2009)。眼窩へ広がった炎症の見方は副鼻腔炎の合併症(眼窩蜂窩織炎)で解説しています。
CTと涙道造影の使い分け
涙道の評価には、造影剤を涙道に入れて撮るCT涙道造影(CT dacryocystography、CT-DCG)があります。涙道造影のレビューでは、次のように整理されています(Singh 2019)。
| 検査 | わかること・向く場面 |
|---|---|
| 単純CT | 涙嚢の拡張、周囲の炎症、骨の変化、鼻・副鼻腔の状態 |
| CT涙道造影(CT-DCG) | 閉塞部位。眼窩・顔面の外傷や涙道の腫瘍で有用 |
| MR涙道造影 | 3次元で涙道を観察でき、流れの評価もできる。閉塞の検出感度はCT-DCGと同程度 |
| DS-DCG(減算涙道造影) | 狭窄や閉塞の位置を正確に示す |
造影剤は低浸透圧のヨード造影剤が、CT-DCGでよく耐えられるとされています(Singh 2019)。涙小管や鼻涙管の膜性部分は、まだ詳しく見えない部分が残ります(Singh 2019)。造影剤を使う検査の可否や準備は、主治医・検査施設の指示に従ってください。
慢性の流涙で受けたCT-DCG 127例の報告では、鼻涙管の下の部分(遠位)の関与が最も多い所見でした(Makenkyzy 2026)。
症例 慢性流涙に対するCT涙道造影の正常例と閉塞例

引用:Makenkyzy A, et al. Diagnostics (Basel) 2026;16(11):1740(Figure 2)。CC BY 4.0。図は加工していません。PubMed
CT涙道造影の例です。A・Bは鼻涙管の通過が保たれている例で、造影剤が鼻腔へ連続して流れています。C・Dは鼻涙管の閉塞例で、造影剤がたまり、先へ流れていません(Makenkyzy 2026の図の説明)。
涙嚢の内容を見る
閉塞で涙嚢が拡張した「後天性涙嚢嚢胞(dacryocystocele)」13例のCTでは、感染のない嚢胞の平均CT値は11.8±7.8HU、感染のある嚢胞の中央値は35.0HUでした(Gökçe 2014)。涙嚢の中身のCT値が水より高くなっていたら、感染(膿)を考えるという見方ができます。ただし例数が少ないため、数字は目安です。
鼻・副鼻腔も見る
後天性鼻涙管閉塞23例と対照100例を冠状断CTで比べた検討では、閉塞のある人の87%(20例)に副鼻腔炎か鼻の異常があり、対照の63%より多くみられました。篩骨洞の混濁、agger nasi cellの混濁、鼻中隔の弯曲が、閉塞のある人に多い所見でした(Kallman 1997)。涙嚢炎の画像を見るときは、鼻の側の原因も一緒に確認します。IgG4関連疾患まとめにあるように、涙腺や涙嚢の腫大が全身疾患の一部のこともあります。
腫瘍との見分け方
流涙と涙嚢の腫れの原因のほとんどは炎症ですが、まれに腫瘍が隠れています。レビューでは、一般的な鼻涙管閉塞の手術標本での悪性の割合は多くても0.73%前後と低い一方、腫瘍の集まった群では、悪性腫瘍のうち扁平上皮癌が約72.8%、リンパ腫が約21.4%と報告されています(Anglitoiu 2026)。
| 所見 | 炎症・閉塞らしい | 腫瘍を考える |
|---|---|---|
| 涙嚢の内部 | 液体〜膿(CT値は低め) | 涙嚢に充実性の腫瘤がある(ある報告では腫瘍の88%) |
| 骨 | 涙嚢窩の骨は保たれる | 骨のびらん(悪性50%、良性11%) |
| 広がり | 涙嚢にとどまる | 浸潤性の広がり(悪性63%、良性0%) |
(数字はAnglitoiu 2026のレビューより。腫瘍の集まった群の報告で、例数は多くありません)
涙嚢リンパ腫5例のMRI・CTの報告では、T1・T2強調像で等信号の均一な腫瘤、軽度〜中等度の造影効果、鼻涙管全体への進展が共通しており、涙道の拡張と周囲の骨の圧排(リモデリング)がありました(Guo 2014)。
CTを読むときの断面と条件
涙嚢と鼻涙管は、眼窩の内側から下鼻道まで斜めに下る細い管です。1枚の横断像だけでは全長を追えないため、冠状断と矢状断(MPR)で涙嚢から下鼻道の出口まで連続して追います。骨条件では涙嚢窩と骨性鼻涙管の骨の形や骨折・びらん、軟部条件では涙嚢の内容と周囲の脂肪織の濃度を見ます。
外傷後の流涙では、骨折や骨片による鼻涙管の変形も確認します(外傷でのCT-DCGの有用性はSingh 2019)。慢性の流涙の127例の検討では、症状の期間が長いことと膿性の目やにがあることが、手術になった人と関連していました(Makenkyzy 2026)。画像だけでなく、症状の長さや目やにの性状も、依頼票や問診で確認すると、レポートの精度が上がります。
急性期に確認する炎症の広がり
急性涙嚢炎で依頼が来たときは、閉塞の部位よりも先に炎症がどこまで広がっているかを見ます。眼瞼前の軟部組織の腫れにとどまるのか、眼窩隔膜を越えて眼窩の脂肪織や筋に及ぶのか、膿瘍(周囲が造影される液体)があるのか、という順です(Maheshwari 2009)。筋円錐の中に膿瘍があった2例では、初診時に視力低下がありました(Maheshwari 2009)。眼窩への広がりがあるときは、依頼医へ口頭で連絡することも考えます。
研修医のための読影チェックリスト
| 順番 | 見ること |
|---|---|
| 1 | 涙嚢は拡張しているか。内部は液体か充実性か |
| 2 | 鼻涙管は途中で細くなる・途絶するか(CT-DCGなら造影剤の通過) |
| 3 | 周囲の脂肪織・眼瞼・眼窩に炎症が広がっていないか(膿瘍の有無) |
| 4 | 涙嚢窩・鼻涙管の骨にびらんや圧排はないか |
| 5 | 篩骨洞・鼻中隔・下鼻道など、鼻側の原因はないか |
| 6 | 左右差と、反対側の鼻涙管の状態 |
よくある疑問(Q&A)
Q. 涙嚢炎では、いつもCTが必要ですか?
A. 典型的な場合は診察で診断できます。CTは、眼窩への広がりが疑われるとき、外傷後、腫瘍が疑われるとき、手術の計画を立てるときなどに使われます(Singh 2019)。
Q. 鼻涙管閉塞は、副鼻腔の病気と関係がありますか?
A. 閉塞のある人で副鼻腔炎や鼻中隔弯曲などが多かったという報告があります(Kallman 1997)。ただし、関連の強さや原因かどうかは、報告により意見が分かれています。
Q. CT涙道造影は、どんなときに追加しますか?
A. 涙道造影は、涙道の形と流れの両方を示せる検査です。外傷後の流涙、一部だけ詰まっている鼻涙管閉塞、涙嚢の憩室が疑われるとき、涙道の腫瘍が疑われるときに追加情報が得られるとされています(Singh 2019)。造影剤を使うため、検査の可否は検査施設の指示に従ってください。
Q. 涙嚢の腫瘍はどれくらいありますか?
A. 一般的な鼻涙管閉塞の手術標本で悪性が見つかる割合は低く、多くても0.73%前後でした(Anglitoiu 2026)。画像で充実性の腫瘤や骨のびらんがあるときに、生検を含めて考えます。
Q. 目頭が赤く腫れて痛いときはどうすればよいですか?
A. 急性涙嚢炎は、眼窩へ広がることがあります(Maheshwari 2009)。目頭の腫れ、発熱、目の動かしにくさ、見えにくさがあるときは、早めに眼科を受診してください。
参考文献
- Sáenz Araya D, Lizano Guevara F, Sevilla Torres E, et al. Anatomical and Functional Alterations in Nasolacrimal Duct Obstruction: A Comprehensive Review. Cureus. 2025;17(8):e90754. PubMed
- Singh S, Ali MJ, Paulsen F. Dacryocystography: From theory to current practice. Ann Anat. 2019;224:33-40. PubMed
- Gökçe E, Beyhan M, Acu B, et al. Computed tomography and magnetic resonance imaging findings of acquired dacryocystoceles. Clin Imaging. 2014;38(3):241-5. PubMed
- Kallman JE, Foster JA, Wulc AE, et al. Computed tomography in lacrimal outflow obstruction. Ophthalmology. 1997;104(4):676-82. PubMed
- Maheshwari R, Maheshwari S, Shah T. Acute dacryocystitis causing orbital cellulitis and abscess. Orbit. 2009;28(2-3):196-9. PubMed
- Guo P, Yan F, Tian C, et al. Imaging and histopathological findings of lacrimal sac lymphoma. Chin Med J (Engl). 2014;127(1):120-4. PubMed
- Anglitoiu AE, Marin KC, Bratosin F, et al. Lacrimal Sac and Nasolacrimal Duct Tumors Mimicking Chronic Inflammation: A Systematic Review. Medicina (Kaunas). 2026;62(1). PubMed
- Makenkyzy A, Abdrakhmanova Z, Rakhimzhanova R, et al. Clinical Predictors of Surgical Management in Patients with Chronic Epiphora: A CT-DCG-Supported Analysis. Diagnostics (Basel). 2026;16(11). PubMed
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