
先に結論:自然な腎出血は「まず止血、次に原因探し」。腫瘍を見逃さないために、血が引いた後の再評価が大切
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 外傷がないのに、腎臓の被膜下・腎周囲・傍腎腔に出血する状態(Wunderlich症候群) |
| 主な原因 | 腎の腫瘍(血管筋脂肪腫・淡明細胞型腎細胞癌)が約6〜6.5割、血管の病気が2〜3割(Shah 2023) |
| 症状 | 脇腹・腹部の痛みが中心。痛み・脇腹の腫れ・ショックの3つがそろう(Lenk三徴)のは一部(Shah 2023) |
| 画像 | 造影CT(動脈相を含む)で出血の有無と背景の病変を探す。出血が多いと腫瘍が隠れることがある |
| 原因不明の場合 | 血腫が小さくなってから、造影CTやMRIで再評価する(Shah 2023) |
Wunderlich症候群とは
Wunderlich症候群は、外傷の既往がなく、腎臓の被膜下、腎周囲、傍腎腔に急に出血する状態です。症状は、はっきりしない脇腹や腹部の痛みから、出血性ショックまで幅があります。古典的には、脇腹の痛み・脇腹の腫れ(腫瘤)・低血圧性のショックの3つがそろうLenk(レンク)三徴が知られていますが、実際にそろう人は一部だけです(Shah 2023)。
腎臓の周りは、腎被膜、腎周囲腔、前・後腎傍腔などの構造に分かれています。血腫が溜まる場所によって、広がり方が変わります(腎周囲腔(perirenal space)の解剖とCT)。
原因は何か
総説では、原因は大きく次のように整理されています(Shah 2023)。
| 分類 | 主な疾患 | おおよその割合 |
|---|---|---|
| 腎の腫瘍 | 血管筋脂肪腫、淡明細胞型腎細胞癌 | 約60〜65% |
| 血管の病気 | 動脈瘤・仮性動脈瘤、動静脈奇形・瘻、腎静脈血栓、血管炎 | 約20〜30% |
| まれな原因 | 腎の感染、嚢胞性疾患、結石、腎不全、凝固異常 | 少数 |
画像診断の教科書(2004年)でも、泌尿器の臓器出血の原因は、損傷、腫瘍(副腎腫瘍、腎細胞癌、血管筋脂肪腫など)、血液凝固異常(抗凝固薬、DICなど)、ストレス(手術、敗血症など)にまとめられていました。出血の原因として、腫瘍と凝固異常の2つをいつも頭に置く、という考え方は今も通用します。
実際の症例集積では
韓国の1施設の報告で、最終診断を比べてみます。
| 項目 | Kim 2019(26例・28回の出血) | Jo 2025(38例・46回) |
|---|---|---|
| 脇腹の痛み | 92% | 95.7% |
| CTで腎に病変が見える | 46%(12例) | 54.3%(25回) |
| 血腫のみで病変が見えない | 14例 | 28.3%(13回) |
| 腎細胞癌 | 4 | 8回(6例) |
| 血管筋脂肪腫 | 3 | 11回(6例) |
| 単純性嚢胞・後天性嚢胞腎 | 4・2 | 6回・6回 |
| 肉腫などの悪性腫瘍 | 4 | 肉腫3回、PEComa 1回、リンパ腫1回 |
| 慢性腎盂腎炎 | 4 | 4回 |
| 特発性(原因不明) | 5 | 6回 |
(Kim 2019、Jo 2025。Kimは患者数、Joは出血のイベント数で表示。同じ患者が複数回出血した場合は重複して数えられています)
どちらの報告でも、腎の腫瘤が主な原因で、血腫だけが写り原因病変が見えない例も3〜5割いました。Kimらは、年齢が高いほど腎細胞癌が原因である可能性が高かったと述べています(Kim 2019)。Joらは、腎の良性・悪性の腫瘤が最も多い原因であり、保存的に治療できる例が増えていても腎臓の悪性腫瘍の可能性は常に考える、と結論しています(Jo 2025)。
CTでの見方
| ステップ | 見るところ |
|---|---|
| 1. 単純CT | 腎周囲の血腫(周囲の脂肪より濃く、不均一な液体)。被膜下か、腎周囲腔か、傍腎腔まで広がるか |
| 2. 造影CT(動脈相) | 血管外への造影剤の漏れ(活動性出血)の有無と場所 |
| 3. 背景の病変 | 腎の腫瘤、脂肪を含む成分、動脈瘤、動静脈奇形、腎静脈血栓、結石・水腎症 |
| 4. 血腫の中心 | 出血源に近いほど濃い血のかたまりが見える(sentinel clot sign) |
| 5. 反対側の腎 | 両側に病変がないか(多嚢胞腎、嚢胞、腫瘍) |
腹痛や脇腹痛を訴える患者では、最初に結石を疑って単純CTを撮ることがよくあります。症例報告でも、結石を疑って撮った単純CTで血腫が見つかり、造影CTで出血が確認されました(Ranson 2025)。造影CTは診断の基本とされています(Giovini 2022、Shah 2023)。
症例 60歳代男性 特発性腎出血(Wunderlich症候群)

引用:Ranson T, et al. Clin Pract Cases Emerg Med 2025(Image 1)。CC BY 4.0 PubMed
左脇腹の痛みで受診した患者の単純CTです。左腎の被膜下から腎周囲に血腫があり(白矢印)、症例報告では最大4.2cmの急性血腫と、周囲の炎症、腹腔内出血、右腎皮質の出血性嚢胞が記載されています。続けて行った造影CTでは活動性出血を伴う血腫が9.4cmと評価されました。抗凝固薬の使用はありませんでした。入院して輸血を受けながら経過をみて、血圧は保たれたまま退院し、4か月後と7か月後のCTで血腫は縮小し、造影される腫瘤は見つからず、特発性の腎出血とされています(Ranson 2025)。
原因別のポイント
血管筋脂肪腫(AML)
AMLは良性の腫瘍ですが、血管成分が多く、破裂して出血することがあります。CTで脂肪を含む腫瘤があればAMLを強く疑います(腎血管筋脂肪腫(AML)とは?エコー・CT・MRI所見)。出血すると血腫が脂肪を覆い隠すことがあり、血が引いてから脂肪を確認します。
出血しやすいAMLの特徴は、研究によって結果が分かれています。破裂の予測に腫瘍内の動脈瘤が役立つとする報告では、塞栓術を受けた27例のうち出血した5例で、腫瘍内動脈瘤が80%、出血していない22例では27%にみられ、腫瘍の大きさに差はありませんでした(McQueen 2023)。一方、塞栓術前のCT・血管造影58例の解析では、動脈瘤は24%にみられたものの出血との関連は示されませんでした。出血したAMLでは、血管・平滑筋成分の割合が高い(23%対8%)ことがわかっています(Swärd 2025)。大きさだけで決められないことがうかがえます。
腎細胞癌(RCC)
淡明細胞型腎細胞癌は出血しやすい腫瘍のひとつです(Shah 2023)。血腫のなかに造影される結節や不整な壁があれば疑います。腎腫瘍全体の鑑別は腎腫瘍の画像診断の進め方を参照してください。出血が多いと見えなくなるため、後日の造影CTやMRIが必要になります(Shah 2023)。
血管の病気
腎動脈瘤・仮性動脈瘤、動静脈奇形・動静脈瘻、腎静脈血栓、血管炎が原因になります(Shah 2023)。動脈相で濃く造影される血管の塊や、早期に太い腎静脈が見えるときは、腎動静脈奇形・腎動静脈瘻を考えます。
抗凝固薬・凝固の異常
心房細動などで抗凝固薬を使っている患者に、Wunderlich症候群が起きた報告があります。この症例では、抗凝固薬を中止して保存的に治療し、回復しました(Giovini 2022)。服用中の薬については、主治医の指示に従ってください。薬を使っていても、背景に腫瘍がないかは別に確認が必要です。
特発性(原因が見つからない)
詳しく調べても原因が見つからない例があり、特発性と呼ばれます。Kimの報告では26例中5例が特発性でした(Kim 2019)。特発性の診断は、血腫が吸収されたあとの再評価で腫瘍が見つからないことを確認して初めて安心できます。出血直後の画像だけで「原因不明」と決めない、という姿勢が大切です(Shah 2023)。
治療と画像の役割
血圧が保たれている場合は保存的に経過を見ます。出血が止まらない、ショックがある、といった場合は、腎動脈塞栓術が低侵襲な選択肢で、緊急の根治手術を避けられる可能性があります(Shah 2023)。腫瘍が原因と判明した場合は、手術を含めて治療を検討します。Joの報告では、手術は13回(28.3%)で、すべて腎摘出術でした。塞栓術は7回(15.2%)でした(Jo 2025)。症状・血圧・画像を総合して、泌尿器科や救急科、放射線科のIVRが相談します。
読影のチェックリスト(研修医向け)
| 確認 | 見るところ |
|---|---|
| 1 | 血腫の場所(被膜下、腎周囲、傍腎腔)と大きさ |
| 2 | 造影剤の血管外漏出(活動性出血) |
| 3 | 腎に腫瘤があるか。脂肪成分、造影される結節 |
| 4 | 動脈瘤、動静脈奇形、腎静脈血栓 |
| 5 | 腹腔内出血、対側の腎、ほかの出血 |
| 6 | 抗凝固薬・抗血小板薬、凝固異常、透析などの背景 |
| 7 | 原因が不明なら、再評価(造影CT・MRI)の時期を提案する |
レポートには、「腎周囲の血腫、最大径○cm、造影剤の漏出の有無、腫瘤の有無(出血のため評価困難)」と書き、血腫の吸収後に造影CTまたはMRIでの再評価を勧めると一文あると、臨床医が忘れずに次の検査を組めます。
よくある疑問(Q&A)
Q. 転んでいないのに腎臓から出血することがあるのですか?
A. あります。腎臓の腫瘍や血管の病気が背景にあることが多く、Wunderlich症候群と呼ばれます(Shah 2023)。
Q. 原因が見つからなければ、もう心配ありませんか?
A. 出血が多いと腫瘍が隠れていることがあるため、血腫が小さくなったあとの再検査が勧められます(Shah 2023)。症例報告でも、4か月後・7か月後のCTで腫瘤がないことを確かめています(Ranson 2025)。
Q. 手術が必要ですか?
A. 状態によって異なります。血圧が保たれていれば保存的に経過を見ることがあります。ショックなど不安定な場合や腫瘍が原因の場合は、塞栓術や手術を検討します(Giovini 2022、Shah 2023)。
Q. 気になるときは何科に行けばよいですか?
A. 突然の強い脇腹・腹部の痛み、ふらつき、冷や汗があるときは、救急外来を受診してください。血尿や脇腹の痛みが続くときは、泌尿器科や内科で相談してください。
参考文献
- Shah JN, Gandhi D, Prasad SR, et al. Wunderlich Syndrome: Comprehensive Review of Diagnosis and Management. Radiographics. 2023;43(6):e220172. PubMed
- Kim JW, Kim JY, Ahn ST, et al. Spontaneous perirenal hemorrhage (Wunderlich syndrome): An analysis of 28 cases. Am J Emerg Med. 2019;37(1):45-47. PubMed
- Jo SB, Ahn ST, Oh MM, et al. Analysis of 46 Cases of Spontaneous Perirenal Hemorrhage: A Retrospective Observational Study. J Clin Med. 2025;14(9):2986. PubMed
- Giovini M, Poggiali E, Zocchi P, et al. A Case of Spontaneous Renal Haemorrhage (Wunderlich Syndrome) in an Anticoagulated Patient. Eur J Case Rep Intern Med. 2022;9(4):003269. PubMed
- McQueen S, Combes A, Benz D. Renal angiomyolipoma: Beyond size criteria for predicting rupture. J Med Imaging Radiat Oncol. 2023;67(6):619-624. PubMed
- Swärd J, Bohlin K, Henrikson O, et al. Renal angiomyolipoma-investigating radiological signs indicative of risk for bleeding. Insights Imaging. 2025;16(1):83. PubMed
- Ranson T, Ruddy G, Ostapowicz Z, et al. Idiopathic Atraumatic Renal Hemorrhage: Case Report. Clin Pract Cases Emerg Med. 2025;9(4):376-379. PubMed
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