
先に結論:メニエール病の造影MRI(内リンパ水腫の画像化)
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何を見る? | 内耳の内リンパ腔のふくらみ(内リンパ水腫) |
| どう撮る? | ガドリニウム造影剤を静脈注射し、約4時間後に3D-FLAIRという撮り方で撮影 |
| 心配か? | 水腫が写っても「すぐ危険」ではない。ほかの耳の病気でも見られる |
| 次にすること | 結果は聴力検査・症状と合わせて耳鼻咽喉科で判断。手足のしびれ・ろれつが回らないめまいは救急へ |

メニエール病とは
メニエール病は、回転性のめまい発作に、耳鳴り・耳がつまった感じ(耳閉感)・聞こえにくさが同じ側の耳でくり返し起こる病気です。国際的な診断基準(バーラニー学会・日本めまい平衡医学会などの共同作成)では、「確実例」とするには次の条件をそろえることになっています(Lopez-Escamez 2015)。
- めまい発作が2回以上あり、1回が20分〜12時間続く
- 発作の前後に、その耳で低い音〜中くらいの音の感音難聴が聴力検査で確かめられる
- その耳の聞こえ・耳鳴り・耳閉感が良くなったり悪くなったりする
- ほかの病気ではうまく説明できない
つまり、メニエール病の診断は症状と聴力検査が基本で、MRIだけで決まるものではありません(Nakashima 2016)。
内リンパ水腫とは
内耳の中には、「外リンパ液」と「内リンパ液」という2種類の液が、膜で仕切られて入っています。メニエール病では内リンパ液が増えて内リンパ腔がふくらむ(内リンパ水腫)ことが特徴的な変化とされています(Nakashima 2016)。以前は亡くなった後の標本でしか確かめられませんでしたが、MRIの工夫で生きている人でも見えるようになりました。
造影MRIでどう見るのか
仕組みはこうです。静脈に入れたガドリニウム造影剤は、時間をかけて外リンパ液にはしみこみますが、内リンパ液にはほとんど入りません。そこで、ごく薄い造影剤でも白く写る3D-FLAIR(液体の信号を抑えるMRIの撮り方)で撮ると、外リンパは白く、内リンパは黒く抜けて見えます。黒い部分が大きければ、内リンパ腔がふくらんでいる、という読み方です。
| 報告 | 方法 | わかったこと |
|---|---|---|
| Nakashima 2010 | 3テスラMRI、ガドリニウム静注の4時間後に3D-FLAIRなどで撮影(3人) | 静注だけでも内リンパ水腫が見えた。ただし外リンパの造影剤濃度は鼓室内投与より低い |
| Naganawa 2010 | 通常量(シングルドーズ)の静注、4時間後に強いT2強調の3D-FLAIR(hT2W-3D-FLAIR) | 3人全員で蝸牛か前庭に水腫が見えた。臨床で使える方法 |
| Naganawa 2012 | 撮影時刻を3.5・4・4.5時間で比較(10人) | 3.5〜4.5時間で評価できる可能性 |
| Naganawa 2013 | 画像どうしを引き算・掛け算する処理(HYDROPS画像など) | 内リンパと外リンパのコントラストを大きく高められる |
この方法は名古屋大学の耳鼻咽喉科(中島ら)と放射線科(長縄ら)のグループが中心となって発展させてきました。造影剤を鼓膜の奥(鼓室)に注入する方法もありますが、静脈注射なら左右の耳を一度に評価できます。
MRIでわかること・限界
| わかること | 限界・注意点 |
|---|---|
| 蝸牛・前庭の内リンパ水腫の有無と程度 | 水腫はメニエール病以外の耳の病気でも見られる(Sone 2022) |
| 左右どちらの耳か、両耳か | 水腫の大きさと症状の強さは必ずしも一致しない(Nakashima 2016) |
| 同じMRIで、聴神経腫瘍などほかの原因の確認にも役立つ | 撮影方法・評価方法は施設ごとに差がある。造影剤が使えない人(腎機能が悪い・造影剤アレルギーなど)は受けられないことがある |
つまり造影MRIは「メニエール病を裏付ける材料のひとつ」であり、最終的な診断は症状の経過と聴力検査を合わせて耳鼻咽喉科医が行います。MRIの注意点は MRIの絶対禁忌・相対禁忌(MRIが受けられない人)まとめ もご覧ください。耳の骨のつくりは 側頭骨CTの正常解剖・画像診断ツール、生まれつきの内耳の形の異常は 内耳の形成不全のCT・MRI画像診断 で解説しています。
めまいで他に考える病気
めまいの原因の多くは耳(内耳)ですが、脳の病気を見逃さないことが何より大切です。
| 病気 | 特徴 | 主な検査 |
|---|---|---|
| メニエール病 | 20分〜12時間の発作をくり返し、耳鳴り・難聴を伴う | 聴力検査、造影MRI(内リンパ水腫) |
| 良性発作性頭位めまい症 | 頭の向きを変えたときの短いめまい。難聴は伴わない | 頭位を変える診察 |
| 前庭神経炎 | 強いめまいが数日続く。難聴は伴わない | 眼振・平衡機能検査 |
| 小脳梗塞・脳幹梗塞 | ふらついて立てない・歩けない、ろれつが回らない、手足のしびれ | MRI(拡散強調像)。発症直後はCTで写りにくい |
| 聴神経腫瘍 | 片側の難聴・耳鳴りがゆっくり進む | 造影MRI |
小脳梗塞は「ただのめまい」に見えて最初のCTで異常が出ないことがあります。詳しくは 小脳梗塞とは?めまい・ふらつきの症状とCTで見えにくくMRIが有用な理由、救急でのめまいの考え方は めまい患者への初期対応と鑑別診断 にまとめています。
よくある疑問(Q&A)
Q. MRIで水腫がなければ、メニエール病ではないのですか?
A. そうとは限りません。メニエール病の診断はあくまで症状と聴力検査が基本で(Lopez-Escamez 2015)、MRIは補助的な材料です。結果の解釈は主治医に確認しましょう。
Q. 水腫があると言われました。悪化するのでしょうか?
A. 水腫の大きさと症状は必ずしも一致しません(Nakashima 2016)。治療方針は発作の頻度や聴力の経過で決まるので、主治医に相談してください。
Q. 造影剤は安全ですか?
A. 多くの人は問題なく使えますが、腎臓の働きが悪い人や、以前に造影剤で副作用が出た人は忘れずに事前に伝えてください。
まとめ
- メニエール病では内耳の内リンパ腔がふくらむ「内リンパ水腫」が特徴
- ガドリニウム静注の約4時間後に3D-FLAIR系のMRIを撮ると、水腫を画像で見られる
- 診断の基本は症状と聴力検査。MRIは裏付けの材料のひとつ
- 手足のしびれ・ろれつが回らない・立てないめまいは、脳の病気を考えてすぐ受診
参考文献
- Lopez-Escamez JA, Carey J, Chung WH, et al. Diagnostic criteria for Menière’s disease. J Vestib Res. 2015;25(1):1-7. PubMed
- Nakashima T, Pyykkö I, Arroll MA, et al. Meniere’s disease. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16028. PubMed
- Nakashima T, Naganawa S, Teranishi M, et al. Endolymphatic hydrops revealed by intravenous gadolinium injection in patients with Ménière’s disease. Acta Otolaryngol. 2010;130(3):338-343. PubMed
- Naganawa S, Yamazaki M, Kawai H, et al. Visualization of endolymphatic hydrops in Ménière’s disease with single-dose intravenous gadolinium-based contrast media using heavily T(2)-weighted 3D-FLAIR. Magn Reson Med Sci. 2010;9(4):237-242. PubMed
- Naganawa S, Yamazaki M, Kawai H, et al. Visualization of endolymphatic hydrops in Ménière’s disease after single-dose intravenous gadolinium-based contrast medium: timing of optimal enhancement. Magn Reson Med Sci. 2012;11(1):43-51. PubMed
- Naganawa S, Yamazaki M, Kawai H, et al. Imaging of Ménière’s disease after intravenous administration of single-dose gadodiamide: utility of multiplication of MR cisternography and HYDROPS image. Magn Reson Med Sci. 2013;12(1):63-68. PubMed
- Sone M, Yoshida T, Sugimoto S, et al. Pathological significance and classification of endolymphatic hydrops in otological disorders. Nagoya J Med Sci. 2022;84(3):497-505. PubMed
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