胸部レントゲン、胸部X線の正常解剖を基礎から学ぶこのシリーズですが、今回は、気管と気管支について学びましょう。
実際にレントゲン写真を読影するときには、気管については、
- 分岐部の高さ
- 気管の偏位の有無
などをチェックしましょう。
気管と気管支とは?
気管は喉頭の下に位置します。
気管は喉頭の下に連なる10-12cmの管であり、
- 第6頸椎レベルに始まる。
- 第4-6胸椎の高さで左右の気管支に分かれる。
という特徴があります。そして気管分岐部のことをカリーナ(carina)と呼びます。
気管分岐部の高さは?
ただし、どの胸椎レベルで気管が分岐するかというのは、年齢や個人により若干の違いがあります。高齢ほど分岐する胸椎のレベルが下がり、第6胸椎レベルとなります。ちなみに、新生児は第2-3胸椎レベルで気管は分岐します。
こちらの胸部レントゲンの例では、第5-6胸椎の間くらいで気管は分岐していることがわかります。
このレントゲン写真を見ていると、気管及び左右の気管支は左右対称ではないのがわかります。
左右の気管支の特徴は?
胸部レントゲン写真を見ると左に比べて右のほうが急峻であることがわかります。
- 右主気管支は左主気管支よりも太い。
- 右主気管支は左主気管支よりも少なく傾斜する。
という特徴があります。
右主気管支は気管と23-24°の角度をなすのに対して、左主気管支は気管と46-47°の角度をなします。
右主気管支は太くて短いのが特徴です。
また
- 上葉気管支管は右が左よりも約1肋間高い
という特徴があり、こちらも重要です。
また左の上葉気管支は左の肺野をちょうど半分に分けるくらいの位置に存在することも重要です。
胸部レントゲンで見えるB3bとは?
特殊な気管支の枝にB3bがあります。
このBとは気管支(broncus)の略です。肺区域のどこの気管支かで、B1からB10まで分かれます。B3とは前上葉枝の事で、さらにその気管支がどの方向を向いているかで、B3a,B3bと分けられます。B3bとは前方を向いて分岐する気管支です。
つまり正面像の胸部レントゲン写真で見ると、この気管支はタンジェント(tan)の方向であり、ちょうど輪切りにしているように見えるのです。
上の写真のようにA3bは動脈、B3bは気管支です。
CTで見ると、この前後方向を綺麗に走るB3bが明らかになります。
心不全などの広義リンパ路病変と言われる病態では、気管支血管束(BVB)が肥厚しますが、そうなるとこのB3bの壁が厚くなるんですね。そのような病態の一つの目安として、チェックするべきポイントです。
参考)主な広義リンパ路病変
- リンパ増殖性疾患
- 肺水腫
- 癌性リンパ管症
- 珪肺
- サルコイドーシス
- RA、Sjogrenに伴う膠原病肺
- IgG4関連肺疾患
気管、気管支について知っておくべき知識
気管、気管支の壁には
- 気管軟骨が16-20個
- 気管支軟骨が右で6-8個、左で9-12個
存在しており、これらが輪状靭帯を挟んで気管、気管支の走行に沿ってに並んでいます。
これらの軟骨は、気管・気管支の前側2/3を占め、後ろ側1/3は軟骨を欠くことが特徴です。軟骨を欠く後ろ壁は、膜性壁と呼ばれており、平滑筋を含みます。
また気管支は、気管→左右主気管支→葉気管支→区域気管支→亜区域支と分岐を続けていき、この軟骨を欠くようになると細気管支と呼ばれます。そして主気管支から数えてほぼ17分岐に当たる終末細気管支は、純粋に導管としての機能しか有りません。
その後は、呼吸細気管支、肺胞道を経て肺胞へとたどり着きます。終末細気管支や呼吸細気管支といった、細気管支についてはHRCTでは観察することができますが、レントゲンで観察することはできません。
骨と異なり、気管支の場合は、レントゲン画像で見えるのは基本的に肺門部がメインです。